今年こそ「ハマの便利屋」に!寺田光輝(横浜DeNA)、2年目の覚醒
■今年の寺田光輝は違う
プロ2年目。春季キャンプでの横浜DeNAベイスターズ・寺田光輝投手は、昨年の姿とは違って見えた。ややゴツくなった体だけではない。内側からにじみ出てくる“なにか”が彼を堂々と、そして明るく輝かせていた。
今年の寺田光輝はひと味もふた味も違うぞ―。全身からそう訴えかけていた。
■プロのレベルの高さを痛感した1年目
「『ハマの便利屋』になる!」。ドラフト指名直後の秋、寺田投手はこう宣言した。
「ハマの◯◯」は、ベイスターズの選手によく使われる呼称だ。「ハマの大魔神」「ハマの番長」「ハマの司令塔」「ハマのおじさん」「ハマの牛若丸」など、さまざまある。
「ハマの便利屋」―。勝っていても負けていても、どんなシチュエーションでも投げてチームに貢献する。このネーミングには寺田投手のそんな思いが込められていた。
しかし”便利屋”として使われるどころか、ファームでもなかなか安定した結果が出せず、6月には腰を痛めた。痺れが引かないことから、8月にはヘルニアの手術を受けた。
「焦る気持ちしかなかった」。術後をそう振り返る。「気持ちは焦っているのに、できることは限られている。飛ばしたところで意味ないけど、なるべく早く早くと考えていた」という。
「なんとか(10月の)フェニックス・リーグには復帰したい」と懸命のリハビリに励んだが、それも叶わなかった。
けれど手術をさせてくれたということは、球団にとって必要な戦力だということだ。来季以降、期待してくれていると理解できる。寺田投手はそう切り替え、2年目に目を向けた。
ルーキーイヤーは、プロのレベルの高さを痛感した1年だったという。「何をするにしても、ランニングひとつとってもそうだし、トレーニングの精度も高くて、ついていくのが精一杯だった。試合になったらバッターのレベルも高いし、周りのピッチャーのレベルも高いので、出番も少なくなっていった…」。
しかしそんな中、「自分の足りない部分が明確になった。今までは漠然と勢いだけでやってたけど、細かい技術とか打者との駆け引き、そういうのを全部使っていかないと抑えられない。自分の立ち位置もつかめて、何をすべきかわかった。どういうところで必要とされる可能性があるのか、ちょっと見えてきた」と、経験したからこその収穫も少なくなかった。
■“師匠”・加賀繁氏との濃密な時間
その指針を与えてくれたのが、昨年引退した加賀繁氏(現在は球団職員として野球振興部の講師)だ。加賀氏のことをずっとお手本にし、目指してやってきた。シーズン中も度々話をし、なにかと気にかけてくれた尊敬する先輩だ。
昨年の納会のあとだ。ずっとずっとふたりきりで話し込んだ。いろんな話をした。「バッターをどうやって抑えたらいいのか」をテーマに、技術、腕の振り、変化球の使い方、それぞれの変化球の投げる意味…あらゆることを加賀氏は話してくれた。
また、練習をどうやって試合に繋げるのか、どういう意識でブルペンに入るのか、などコンディショニングやメンタルについてもじっくりと考えを聞かせてくれた。「めっちゃ優しくて、なんでも答えてくれた」と喜ぶ。多くの実りを得た、ふたりだけの濃密な時間だった。
「お前が1軍で投げるときは必ず見にいく。たぶん泣いちゃう(笑)」。冗談めかして言った加賀氏の言葉は、“愛弟子”ともいえる寺田投手への愛にあふれている。「一番期待している」とも励ましてくれた。
そんな“師匠”の気持ちに応えたい。今季に懸ける寺田投手の思いはひとしおだ。
まず、近い目標を定めた。「2月1日、紅白戦で投げられる状態に仕上げてキャンプインしよう!」と。実際、2月1日に紅白戦があるかどうかはわからない。
「落合監督がしたことあったでしょ」。中日ドラゴンズが常勝チームだったころ、キャンプイン初日に紅白戦を行った。その情報が記憶の片隅にあった寺田投手は、自身がチームの戦力になるためにはそうすることが必要だと考えたのだ。
■「田原組」での自主トレでつかんだもの
そこで1月に赴いたのが、読売ジャイアンツ・田原誠次投手が主催する「田原組」、別名“チーム・サイドスロー”の自主トレだ。長谷川潤投手(BC・石川ミリオンスターズ―読売ジャイアンツ)の紹介で訪れた2017年に続いて、2年ぶり2回目の参加だ。
ここで「課題としていたことの答えが見つかった」と目を輝かせる。トレーニング、体の使い方、ボールを投げるためのアップの基礎…これまで漠然とやっていたものを、きちんと一から教わったという。
「今までは体の外側を使いがちだった。足を上げたとき、足の裏の小指側に体重が乗って外に流れていた。トレーニングしても安定しなかった」のが、「ハマってきて。内側が使えるようになった感覚がある。内サイドに乗って、その力を使って重心移動ができるようになった」。
そして、それによって「上半身は力まずリラックスして投げられる。ボールにも違いを感じる」との手応えが得られるようになった。キャッチボール相手の尾仲祐哉投手(阪神タイガース)が高めの球を弾くという場面もあった。
また、フィジカルだけではない。脳にも働きかけた。自主トレ先でのご縁から、「アクシスメソッド」という脳の神経を改善するプログラムを受けた。「脳の神経のブロックを外してニュートラルにする。本来使えるはずの神経を呼び覚まして、使いたい筋肉を使えるようにするトレーニング。フォームづくりを円滑にする」と、寺田投手は説明する。
これを受けたことによって「体の軸が通っているのがわかる」と実感している。「即時的な効果が自分の中で認められたし、チェックポイントもわかるようになった」。トレーニングと並行してやったことで、その相乗効果でより実を結んだと解釈している。
■初実戦でアピール
「立場的に調整とか言ってられなくて、しっかり2月1日に仕上げられるか焦りはあったけど、いい流れできている」。
まさにキャンプ初日から実戦で投げられる体には仕上げてきた。そこで気持ちの余裕が生まれた。ずっと緊張していた昨年とはまったく違う。
「周りでも『去年より球がよくなっている』と言ってくれる人が多い。それを盲信はしてないけど、変な焦りはなくなった」。それがまた、いいボールを生む。好循環だ。
チーム初実戦となった11日の紅白戦で登板機会がやってきた。いきなり神里和毅選手に真っすぐをとらえられ今季の“チーム第1号”を献上したが、後続3人を斬った。宮本秀明選手と柴田竜拓選手はシンカーでそれぞれ左飛、一ゴロに、そして新加入の中井大介選手は真っすぐで三ゴロに仕留めた。
「ホームランは完全に力みだった。先頭にホームランは絶対にやっちゃいけないこと」と反省するが、力むのも無理はない。なんといっても8ヶ月ぶりの実戦登板なのだから。
しかし、その後を3人で抑えたことはプラス材料だ。特に絶好調の中井選手に対して、真っすぐを待っているであろうと感じた中で、真っすぐ勝負で打ち取れたことは自信にできる。
「よかった球、悪かった球を1軍の選手から色々言ってもらえたのはよかった」。次に繋がるピッチングができた。腰の不安もなく投げられたことも、寺田投手を安堵させた。
■今年は考えすぎない、ヘコまない
「今年は僕、ふざけてるって思われるかも」。ニコニコ笑いながら言う。「今年はヘコまない。常に明るく笑ってるから。まぁ、顔は作るようにするけど(笑)」。
昨年はあれこれ考えすぎた。「打たれては考え、また打たれては考えで、深みにハマっていった。悪循環だった」。常に緊張もしていた。「失敗したらどうしよう」と、投内連係の練習ですら緊張感はハンパなかったという。
しかし考え方を変えた。「練習で失敗しても、ゲームで抑えればいい」と。そんな当たり前のことにも昨年は気づけなかった。余裕がまったくなかったのだ。1年の経験は大きい。
そう決意したところに、今キャンプで井納翔一投手にも言われた。「オマエは考えすぎなんだよぉ〜。もっとシンプルにいけば〜?難しく考えずにしたら〜?」と。ちなみにこの助言、井納投手のモノマネで披露してくれた。普段から可愛がってくれている井納投手のことが、寺田投手も大好きなのだ。
その井納投手からの言葉だけに、やはりそう見られていたんだと気づかされると同時に、的確なアドバイスに感謝した。「ヘラヘラしてると思われるかもしれないけど、今年はヘコまず、とにかく明るく笑ってやります!」。
たとえ打たれても、こうした気持ちのゆとりがきっと、次の好投を呼び込むはずだ。
■今年こそは「ハマの便利屋」に
「ハマの便利屋」すら、なれなかった。使いものにならなかった。足手まといだった―。
寺田投手はそう悔やむが、それはもう過去の話だ。今年は違う。「どうしようかなっていうときに『寺田!』となるように…」。
勝っていても負けていても、いつでも頼りにされる存在に。今年こそは「ハマの便利屋」の看板を掲げてみせる。
(写真はすべて筆者)
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