「絶対プロにいく!」―生まれ変わった片山雄哉捕手(BC・福井)の執念《2018 ドラフト候補》
■絶対プロにいく!
「絶対にプロ(NPB)にいきたいんです!」―。こんなにも熱く、素直に自分の思いを吐露できる選手がいるだろうか。ルートインBCリーグ・福井ミラクルエレファンツの片山雄哉捕手だ。
7月14日、ホームでの信濃グランセローズ戦で「3番・キャッチャー」として出場した片山選手は絶好調だった。第1打席で中越二塁打を放つと次の打席ではレフトポール際にソロ本塁打、続いて単打。三塁打が出ればサイクル打というところで2打席凡退したが、この日は試合がもつれて6打席目が回ってきた。
そこでなんとこの男はバックスクリーンにぶち込んだのだ。“サイクル超え”の3ランだった。全身からほとばしる「プロにいくんだ!」という熱い思いを乗せた白球は、スタンドのファンの度肝を抜いた。
「プロ野球選手になりたい」「NPBでプレーしたい」…あちこちで耳にする。しかしその熱量は「いけたらいいな」から「なにがなんでも」まで振り幅が大きい。そんな中で今年の片山選手の“本気度”は図抜けている。「今年に懸けてるんです。絶対に後悔したくないんで」。その思いはそのまま彼のプレー、行動、すべてに顕れている。
まず今季はじめに片山選手を見たとき、「別人か?」と目をこすりたくなるような感覚にとらわれた。別人、もしくは生まれ変わったかのようだった。昨年までは、どちらかというとおちゃらけキャラで、田中雅彦監督も「帽子を後ろにかぶるとか、練習のとき奇抜な格好をするとか髪型も奇抜だったりして、それがカッコイイと思っていた」と供述するような選手だった。
しかし今年はまったく違う。声の大きさや元気さは変わらないが、その出で立ちがまるで違う。グラウンドに一歩踏み入れば、その声でそのプレーでその姿勢でチームを引っ張り鼓舞する。もちろん奇抜な格好などいっさいしない。それはグラウンド内だけではない。私生活からすべて、24時間変貌を遂げたのだ。人ってここまで変われるんだ…と驚愕するほどだ。
「ゲームの中での顔つきも変わってきた。試合中の声の出し方も一番気合いが入っている。集中できている」と田中監督も納得顔だ。
片山選手はこう語る。「なかなか人間って変われないって言うけど、もちろん全部が全部、きれいには変われてないけど、私生活のことだったり、ひとつの立ち居振る舞いとか服装だったり発言だったり、自分の野球人生の中で一番、今が変われているときなんじゃないかなっていうのは自負しています」。
いったい何がここまで彼を動かしたのか。「それはもう『プロにいきたい』という思いだけです」。まっすぐ前を見て片山選手は答える。
■悔しかった昨秋のBC選抜
その思いをたぎらせる大きなきっかけがあったという。昨秋行われたBCリーグ選抜チームとNPBファームとの試合だ(注1)。そこで見たもの、味わった思い、舐めた辛酸が、片山選手を生まれ変わらせたのだ。
「去年BC選抜の中からプロにいった人らを見てきて、すごくいい刺激になったし、やっぱ自分がそんなに注目して見てもらえてないなっていうのがすごく悔しかった。若い子たちがプロにいきそう、スカウトが見にくる、取材を受けてるっていう姿を見ている中で、ボクはあまり使ってもらえず、自分のレベルも肌で感じたし、色々と明確になった」。
それまでプロにいく選手というのを目の当たりにしたことがなかったが、初めてその姿、その過程をまざまざと見せつけられ、悔しくてしかたなかった。そしてプロにいけなかった自分がいくためにはどうすればいいのか、何が足りないのかを考えた。
「まずは人間性ですかね。最初はぼんやりだったけど、やってくうちにこういうふうに変わっていかなきゃいけないなと考えた」と、こんな例を挙げた。
「たとえば移動中、スリッパを履いていて、それをスカウトの人が見たとき評価がどうなるか。靴を履いてて当たり前のところでスリッパを履いていたら、間違いなくいい評価はしてもらえない。そういう些細なことでも、いつどこで自分が見られているかわからないと思って、そういうことに気をつけるようにしましたね」。
そこには「後悔したくない」という強い思いがある。「この一年に懸ける思いがすごいんで。『あの子、ああいうところを変えとけばプロにいけたのにね』って、一番悔しいじゃないですか。悪いところや変えられるところは変えて、それで勝負した結果がいい結果じゃなくても自分で納得がいくと思うんで。そういった意味でも自分に厳しくやっている」と、いっさいの隙をなくした。
■オフから取り組んできた体づくり
もちろん野球においても多大な刺激を受けた。「BC選抜ですごく感じたのは力の差。シーズン中に巨人3軍とも試合させてもらったけど、3軍とはいえすごい練習してるし、身体もひと回り大きい。パワーで勝負しようとすると力負けしてるなというのは思った」。
そこで「まずは体づくりから真剣に見つめ直して、食事やサプリメント、プロテインの摂り方とかもしっかり考えるようになった。いろんな人に聞きながら自分でも調べながら、体によさそうなことはどんどん試した」とオフから取り組みを変えた。
「昨年よりはいい状態では入ってこれてるかな、今んところは。そのためにコンディションを整えてきたんで、いい方向ではあると思います」。昨年とは違う自分に自信を覗かせる。
福井の吉田晋也トレーナーによると「シーズン後、『来年が最後だから、しっかりトレーニングしたい』って言ってきた。去年まではコンディショニングが確立できてなく夏場に体重がキープできないことがあったけど、今年はもうひと回り大きい体づくりをしてシーズンインできた。意識が高く、気になることがあれば夜でも休みでも電話してくる(笑)。積極性があるし、自分で自分を管理できる選手」とフィジカル面でも大きく変わったようだ。
■キャリアハイの数字
オフからの取り組みが奏功していることは、今季の成績に如実に顕れている。7月19日現在、40試合(チーム試合数43)に出場して打率.303、本塁打12本(リーグ4位タイ)、打点39というBC4年間で自己最高の数字をマークしている。(注2)
「意識の問題じゃないですか。もちろんピッチャーと勝負してるけど、自分もキャッチャーなんで次に何を投げてくるかなとか、どういう配球してくるかなとか、心理戦じゃないけど、自分なりに根拠をもって打席に入るようにしてるんで」。
ゲームに出続けていることも大きいという。「ずっと使ってもらえてるからこそ見えてくるものがある。相手もずっと対戦する中でクセだとか、こういうボールを多く使ってくるんじゃないかっていう、自分なりに傾向をはかって、その日の調子とピッチャーとの兼ね合いだけど、狙い球を絞るのかコースを絞るのか、そういうことをより細かく考えるようになった」。
本塁打数も格段に増えた。「もちろん力がついたのもあると思う。でも最終的にはビビらないことじゃないですかね。大振りしたらどうしよう、空振りしたらどうしようって思うと、絶対にバットが振れなくなるんで。ピッチャーも思いきってくるわけだから、そのボールに対して自分も100%で向かわないと打てない。8割とかで120%の打球は打てないんで。フルスイングすることによって、自分らしい打球が飛んでいくし自分らしいヒットが打てる。フルスイングできているというのは、勝負できている証拠じゃないかな」。しっかり自分のスイングができているという。
アッパー気味にも見える豪快なスイングだが、「これ、説明は難しいけど、打ってるときはフラットなんですよ。バットはほぼ平行に出てる。あれだけ大きく振ってるんでアッパーに見えると思うけど、実際はレベルっていうか平行くらいで振ってるんで。じゃなかったらボール当たらないです」と、スロー映像で見るとレベルに振っているのがよくわかる。
近頃よく話題に上る「フライボール革命」についても「ボクはずっとやってきたことだったんで。小学校からあんな打ち方。遠くに飛ばしたい、ホームラン打ちたい、強い打球を打ちたいってやったのが自然にああなっただけ。ボールのやや下を上に上げる感じ」と、己のスタイルをブレることなく貫き通してきたことに胸を張る。
■1打席、1球たりとも無駄にしない姿勢
36コというリーグ3位の四球数からも片山選手の成長が見て取れる。「相手が勝手に警戒してくれているんじゃないですかね」と遠慮気味に話したあと、「もちろん狙った四球もあるけど、どこにヒットを打ちたいとかどういう粘り方するとか、打席の中でいろいろ変化していく中で対応できているから数字も伸びている。そこも自分なりに変われてるんじゃないかな」との手応えも明かす。
しかしそうなると相手の攻めも変わってくる。「(攻め方の変化を)感じますね。しきりにインコース攻められたり、ああいうスイングなんで高めをうまく使われたり、変化球を狙ってるところでまっすぐの強いボールを投げられたり。だいぶデータで出されてるのかわかんないけど、裏をつかれてるというか、前の対戦と同じようにはいかないっていうのは感じます」。次はまた片山選手も考えて対応する。
田中監督も「他球団からマーク、警戒された中での3割は素晴らしい。四球の数もそうだし、出塁率も高い(.450)。明らかに相手バッテリーが嫌がっているのを感じる。相手が認めるくらいのバッターになった」と頷く。
「凡退してベンチに帰ってくると反省している。1打席、1球たりとも無駄にしない姿勢、それがずっと続いている。無理やり当てにいかない。四球が取れるところは取ってと、打席の中での内容がすごくいい」。田中監督も手放しで讃える。
■キャッチャーとしてのスキルアップ
また守備においても片山選手は「まず捕ること、止めること、投げること。当たり前のことをきちんと。イニング間のスローイングもワンバンのストップもキャッチングも。見てわかることを当たり前にやれて、その中でもよく見せなきゃいけないことってあると思うんで。そこを一番意識して、大事にしてますね」と、キャッチャーとしてのスキルアップを誓っている。
ときには相手にビッグイニングを作られてしまうこともある。そんなときも投手への気遣いを忘れない。
「正直、人と人なんで。なかなかピッチャーがイライラしたら、収まるのって時間がかかるじゃないですか。言葉をかけて収められるのには限度があると思うんで。そんなとき、どういう間で投げさせるかっていうのは意識する。返球も緩〜く返したりとか逆にピッと返したりとか、サインを出すタイミングをちょっと遅くしたり、わざとバッターボックスを足で整備したりとか、なにかしらそういう、同じテンポで入らないように間を変えるというか、そういう思いではやっている」。そして常に声をかけ、けっして投手を孤立させない。
■すべてに「根拠」をもつ
片山選手の会話の中によく出てくるのが「根拠」という言葉だ。打撃もそうだが、キャッチャーとしても「根拠」を大切にしている。
「まず、データを頭に入れておく。そしてマスクをかぶったときに、その日のピッチャーの調子、ピッチャーに対するバッターの反応、ボールの見逃し方、すべて総合的な現場での判断をした上で、『あ、こういうボールが通る』、『こういうタイミングのボールの見方だからこのボールを振る』という確信というか自信をもってサインを出す。常に根拠をもってやっている」。
もちろん相手のあることだからすべて正解とはならないが、「根拠」をもつことが次戦に繋がっている。
そして試合後は必ず捕手陣で情報交換をする。ときにはDHとしてベンチから守りを見ることもあるが、見て気づいたことは年上の捕手にもハッキリと伝える。
「(ベンチから見ると)細かい点…表情だとか立ち居振る舞いとか、っていったところも見れるんで。ピッチャーの様子とかもそうだし、こういうところでこういうボールを投げたいんだなと参考になる。一番は相手バッターのタイミングのとり方、見逃し方、攻撃の仕方、そういう具体的な戦略とかが見える」。これがまた、マスクをかぶったとき活きてくる。
そんなキャッチャーとしての片山選手を田中監督は「技術的には確実に上がっている。ブロッキングもだし、送球も安定している。リードに関しても『え?』というのがない。駆け引きもできるし、高いパフォーマンスを出せている。こちらが去年から言ってることは変わらないけど、自分のものにしている。アレンジしながらね」と賛辞を惜しまない。
そして「今、BCでナンバー1のスキルを持っているんじゃないかな」とまで言い切る。盗塁阻止率も前期は.455と高い数字をたたき出した。
■最後まで抜かずに突っ走る
今年に懸ける思いが全身から溢れ出ている。死球を受けて一塁まで全力疾走する選手も珍しい。「ダラダラいくよりいいすよね」と笑うが、もちろん意識してやっていることだ。
「チームの方針としてもやってるし、個人的にもそういうところでダラッとしないというか。攻守交替もそうだし、ゴロでもフライでも全力疾走します」。言葉で言うのは簡単だが、これを毎試合、毎打席やり通している。
「ドラフトにかかるような選手たちはもっと厳しい環境でやってるだろうし、もっとすごい選手たちと競わなきゃいけない。こんなぬるいことやってていいのかっていうのを常に自分に言い聞かせて、戒めながらやってるんで」と、けっして己に対して妥協していない自信はある。
運命のドラフト会議まで3ヶ月だ。
「まずはケガしない。パフォーマンスを落とさない。今までやってきたことを信じてやるしかないと思っている」と意気込みを語る。「全力疾走だとか全力プレー、自分らしく溌溂としたプレーを、勝ってる負けてる関係なく最後まで抜かずにやり通すことがプロへの近道というか、自分らしさをアピールする上で一番の方法かなと思う」。
そしてこう付け加えた。「謙虚にね。一番大事なこと。足元すくわれますからね」。そう言ってニヤッと笑った。
あと3ヶ月、「打てるキャッチャー」片山雄哉選手は自分の信じた道を突き進む。
(表記のない写真撮影は筆者)
(注1)昨年、BCリーグ10球団から選抜されたドラフト候補選手でチームを結成し、NPB4球団(DeNA、ロッテ、巨人、オリックス)と6試合を戦った。
(注2)片山雄哉の年度別成績
2015年 39試合 .164 0HR 2打点 16三振 8四球 7盗塁
2016年 58試合 .271 2HR 26打点 37三振 22四球 8盗塁
2017年 49試合 .285 5HR 35打点 37三振 28四球 2盗塁
2018年 40試合 .303 12HR 39打点 32三振 36四球 12盗塁 (43試合 消化時点)
【片山 雄哉(かたやま ゆうや)】
刈谷工業高⇒至学館大短大
1994年6月18日(24歳)/愛知県
177cm 83kg/右投左打/B型
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