“石川のシュワちゃん”・永水 豪が無尽蔵のスタミナでBCリーグ無双中《2019 ドラフト候補》
■驚きの成績
無尽蔵―。
「いくら取っても尽きない、なくならない。無限にあるもの」。
石川ミリオンスターズのエース・永水豪(ながみず ごう)はまさにそんな、スタミナの塊のような選手だ。
その風貌は、どことなくアーノルド・シュワルツェネッガーの若かりしころに似ている。まるでターミネーターのような“不死身な様”を醸し出しているのだ。
本家に劣らずでかいガタイ。中でも高い位置にある大きなお尻は、本人も自慢の部位である。
とにかく今季の成績には驚かされる。
12試合に投げて7勝1敗、防御率1.51(リーグ2位)。
この数字だけでも立派なものだが、恐れ入るのは、その内容だ。
4試合連続を含む6試合に完投勝利。延長十回まで戦った6月23日のゲームでも九回まで投げている。実質7完投といってもいいだろう。
さらにはその中で3試合連続を含む4完封勝利も成し遂げている。
「なかなかできない。どこ(のステージ)でもできることじゃない」。武田勝監督も手放しで讃える。
特筆すべきは、九回になってもまったく球の威力が落ちないことだ。スピード、キレ、コントロールともに序盤と変わらない。いや、むしろギアを上げることもある。
先発ローテーションの柱として、きっちり中5~6日で回りながら、だ。
なぜ彼は、これほどまでのスタミナを手に入れることができたのか。
■自分の体の声を聞く
永水投手はこう自己分析する。
「今年は自分の中で、こういう状態だったらいいというのがわかるようになって、その状態に近づけられるような毎日が送れている。片田(敬太郎 フィジカルパフォーマンスコーチ)さんに指摘される前に自分でここが悪いっていうのに気づけるようになったことが大きい」。
自分が気づいた感覚にプラスして、片田コーチに指導を仰ぐ。だからその内容も深く理解できるという。
それはたとえば肩周りの柔らかさ。どのくらい柔らかければ、どういう投球ができるかといった“程度”をしっかり把握できている。
投げる度に硬くなる肩周りをストレッチなどでしっかり戻し、次の登板時にはリセットできている。
長い回を投げるために、またピンチのときに力を出しきるために、どこが機能しているべきかがわかるようになり、その力の入れ具合を調整できるようになったとも胸を張る。
「自分の体を知る」―。それはトレーニングにおいても生かされている。
先発ならば、登板日に合わせて日々のメニューは作られている。基本はそれを消化するのだが、永水投手は「割り切っている」と話す。
「たとえば今日はバテてるな、体が動いてないなと思ったら、ちょっと本数を減らそうとか。与えられたものをただやるだけじゃない」。
決められたメニューであっても、自分の体と相談してその量を加減する。与えられたメニューをすべて消化しないと不安になる選手もいるが、永水投手はそうではない。その日の自分に何がどれくらい必要で、また不必要であるかがわかっているのだ。
これを片田コーチは「自分の体の声をちゃんと聞けるようになった」と表現する。
「どこの調子が悪かったらこういう傾向が出る、ここの調子がよかったらこうなるというのをわかっている。伝えたことの1か2わかればいいと思っているけど、永水は8も9も理解して吸収している」と絶賛だ。
「肩の状態も昨年と全然違うのは、セルフケアがしっかりできているから。チェックポイントを伝えれば自分でできる」。
自覚や責任感が結果につながり、さらなる向上心やモチベーションが上がっているのだと、片田コーチは証言する。
■永水投手の今年のピッチング
昨年は完投がわずかに1。完封はない。
「去年はだいたい六~七回になったら代えどきみたいな感じになっていた。今年は要所要所を抑えられているのもあって、任せてもらえている」。
今年のピッチングについて、永水投手自身も明らかな違いと手応えを感じている。
昨年は六~七回ごろにスピードが落ちてきていた。それが今年はどうだ。九回になってもまったく落ちない。それも最後まで任せてもらえる要因だろう。
球速自体も昨年より約3キロ上がり、今年の最速は148キロ。アベレージも145~6キロは出ているし、まだまだアップしそうな手応えがある。
なにより打者が、ガン表示より速く感じているような反応を見せてくれることにニンマリだ。
さらに、こうも続ける。
「1球1球考えて、変えて投げている。サインを出されて、構えているところを目がけてパンと投げるんじゃなくて、キャッチャーが出すサインを理解した上で投げている」と明かす。
ただ的に投げることだけはしない。キャッチャーの意図を考え、そこに思いを込めて投げる。あえてワンバウンドにしたり、思いきってゾーンで勝負したりと、状況に合わせてだ。
喜多亮太捕手との意思疎通もバッチリだ。出されたサインの意図に対して、明確に「なるほど」とうなずける。投げミスをしたときも、喜多選手から指摘される前に自ら気づく。
「ピッチング練習でも喜多が悪いところを言ってくれるけど、『えっ!そうやったんや』じゃなくて、『やっぱりね』ってなる」。
今年から組んだバッテリーだが、お互いの意識の高さが相互理解を深めている。
己の体を知り、しっかり管理できていること、配球の意図を理解して投げていること、自身の投球を俯瞰で見られることなど、それらは自ら気づいて取り組んだことだ。
それによって球速、球の質、そしてスタミナ…すべての面で格段にレベルアップした。
■“難題”を解消
順調なように見える永水投手だが、実は今季途中まで、ある“難題”に悩まされていた。
試合途中、足がつるのだ。高校、大学時代にはなかったことだ。
昨年もまったくなかったわけではなかったが、本人いわく「去年はこの体の割に使えてなくて、体に負担がかかってないから、そこまでつることがなかった。今年は体が使えるようになったんで、その分の反動でつることが多くて。シーズンが始まって毎試合つっていた」とのことだ。
もちろん水分やミネラル類を補給するなどは徹底している。それでも改善しない。
「原因は絶対にある」と武田監督は自身の経験から思考を巡らせた。そしてふと、ふくらはぎに目をやった。
「これじゃないか」。ひらめいたのはユニフォームのパンツだ。
石川では「ロングのパンツはNPBに入ってから」と、全員がストッキングを見せるクラシックスタイルを貫いている。「突っ張るんでつりやすい。圧迫されるから」と気づいた武田監督から球団にお願いして、永水投手だけロングパンツが許可された。
5月18日の富山戦から試したところ、「めちゃくちゃ変わった」と、つらなかったことに驚く。「今から思えば、けっこう締めつけられてたのかなと思う」。解放されてはじめて、その心地よさに気づいたようだ。
そして、その次のゲームから連続完投が始まった。もちろん、今もつることはなく“ロンパン効果”は継続中だ。
「ちょっとしたことだけど、それがハマってよかった」。武田監督も頬を緩める。
そこから怒濤の快進撃を続ける永水投手の活躍を見ると、「ちょっとしたこと」どころでない。武田監督の豊富な経験があったればこそといえる。
■武田監督の永水評価とは
そんな武田監督が舌を巻くのが、永水投手の体力と回復力だ。NPBでもここまでの選手はどれほどいるだろうか。
「その両方がズバ抜けている。それとピッチャーとしての立ち居振る舞い、ゲームの中での駆け引き、そういうのができるようになったのが大きい」。
加えて、自分で考える能力が備わっていることも讃える。
「言葉があんまりいらない。ちょっとだけでいい。こうしてああしてっていうのを言わなくても、勝手に体とか頭とかで考えながら対応してくれるので、それはNPBに向いてると思う」。
昨年からの変化を尋ねると、「去年は経験の時期だったので、『まさか僕なんかプロには…』みたいな、そんな半信半疑でやっていた」と振り返る。
「自分が完投して当たり前っていうふうになってくれたっていうのが大きい。ピッチャー陣を引っ張るとか、しっかり結果を残してNPBに行きたいとか、そういう上の段階の欲が出てきたというのが一番大事なこと。やっとそっちに目がいった」と、心持ちが変わったことを明かす。
■昨年とは自信が違う
本人も、昨年はNPBという意識はなかったという。
昨年は中継ぎでシーズンインしたが、故障者が出たこともあって5月に入って先発に抜擢され、めきめきと頭角を現した。
22試合に投げて9勝5敗、防御率は3.80だった。10勝目前で中継ぎが打たれた試合もあり、惜しくも2ケタには届かなかった。
悪くない数字だ。
それでも「大学のときもプロなんて思いもつかないレベルだったし、去年もここで巨人の3軍の選手を見ても近いものは感じなかった。指名されないとか、調査書こないって聞いても、あぁそうだろなって感じだった。これじゃプロは無理だろうなって、はっきり思ってたんで」と、低い自己評価しかなかった。
実はこれも永水投手の優れたところでもある。
独立リーグにいると、しばしば勘違いをしてしまいがちだ。NPBの選手との力の差を感じないとか、簡単にNPBに行けるんじゃないかとか。しかし永水投手は常に冷静に、自分を過大評価することなく客観視できるのだ。
それが今年、変わった。
「投げてて(NPBの選手に)負けてないなとか、けっこうそういうことを思うようになった」。
その上で、NPBの選手を観察するようになったという。
「プロではどういうピッチャーだったら通用するのかっていうのを、今年になって見るようになった。テレビの中継とかYouTubeとか」。
おもしろいのは1軍より2軍の試合をよく見るという。
「2軍が目標じゃないけど、まずはそこだから」。
目指すのは当然1軍の舞台ではあるが、2軍の選手を上回らないと話にならない。“レベル”を正確に把握するためにも、2軍で抑えている投手のピッチングを注視しているという。
地に足が着いた永水投手らしい発想である。
■ウリはコントロール・・・とスタミナ
では永水投手が考える「プロで通用するピッチャー」とは、どういう投手なのか。
「一流のピッチャーってスピードもコントロールもキレもある。変化球のキレも。そういう次元の前に、何かが突出している」。
すべてが一定レベル以上にありながら、さらに飛び抜けたものが必要ということか。
永水投手の場合、その3つの中で一番のウリだと自覚しているのがコントロールだ。
「一流のピッチャーでも、悪い試合はコントロールが荒れている。そこでしっかり投げられる人って信頼あると思う。そういうところで(自分に)目をつけてもらえたらいいなって思う」。
6試合連続で9イニングスを投げている。そのうち2試合連続で無四球の試合があった。
「完封とか完投した中で、一番嬉しかったのが無四球。完封より無四球」と言いきる。「やっぱりウリはコントロールかなって自分の中では思っている」。
意図したところに投げられる制球力はもっとも誇れるものだという。そしてなんといっても、永水投手には無尽蔵のスタミナがある。
■無欲な男が貪欲に突き進む
永水投手の適性を、武田監督はこのように示す。
「NPBで先発完投っていうところを目指さなくてもいいと思う。中継ぎロングで3イニングぴしゃりとか。それを1年間続けようと思ったら、半端ない体力が要る。だから誰もができるポジジョンじゃない」。
さらにスカウティングにも話は及び、「先発完投型だけじゃなくて、ハナから中継ぎロングを獲りにいくとか。そういった考えも出てくると今後、BCリーグでそこを目指す選手も現れたりするから、価値観も変わってくると思う。先発完投型は高校生でいいと思う。即戦力の社会人とか。逆にBCは中継ぎができる選手の対象にしてもらえると、ほんとはもっと(ドラフト候補になりうる)いいピッチャーがめちゃくちゃいる、どこの球団にも」と熱く提案する。
そういった意味では、永水投手はもっともうってつけな人材である。
今年は絶対に優勝する。
自身のキャリアハイも叶える。
そしてNPBに行く。
これまで無欲だった男が、そのすべてを手に入れたいと貪欲になった。
“石川のシュワちゃん”は、その無尽蔵なスタミナで新たな世界を切り拓く。
【永水 豪(ながみず ごう)*プロフィール】
1995年12月16日生(23歳)/福岡県出身
180cm・86kg/右投右打/O型
嘉穂東高校→明星大学→石川ミリオンスターズ(2018~)
《球種》ストレート、スライダー、カーブ、フォーク、チェンジアップ、シュート
《最速》148キロ 《アベレージ》145~6キロ
【永水 豪*今季成績】
12試合 7勝1敗 完投6 完封4 95・1/3回 被安打90 被本塁打5 奪三振72 与四球23 与死球2 失点18 自責16 暴投2 ボーク0 失策1 防御率1.51
(数字は7月4日現在)
(表記のない写真の撮影は筆者)
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