ラストイヤーに懸ける選手たちが投打で牽引―石川ミリオンスターズが福井ミラクルエレファンツに快勝
奇跡的に開催できたゲームだった。4月24日の金沢市民球場。ホームチームである石川ミリオンスターズの選手が試合前練習を始めてほどなくすると、真っ黒な空からポツポツと雨粒が落ちてきた。球場の担当者は「このあと大きい雲が来るけど、それが抜ければ大丈夫だから」と言ったが、雨足はだんだん強くなる一方だった。
それでも水はけのいいグラウンドに期待し、少し雨が弱まるのを待って15分遅れでプレイボールがかかった。
■先発は内田幸秀投手
今季2試合目(登板は3試合)の先発となった内田幸秀投手は足場の悪い中、立ち上がりから低めに集めて打たせ、確実にアウトを重ねていく。福井ミラクルエレファンツ打線を翻弄し、ランナーが出ても併殺網に掛け、四回まで二塁も踏ませないピッチングを披露した。
唯一のピンチは五回だった。先頭にこの日はじめての長打を許し、死球も絡んで一死満塁となった。しかし、ここで3つ目の併殺に打ち取り、みごとに切り抜けた。6回まで投げて3安打、無失点と上々の内容で今季2勝目を挙げた。
「雨はあんまり気にならなかった。今日は状態もよかったので、押せ押せな感じで気持ちでいった」。そう満足げに話す内田投手。まっすぐの質、フォームのバランスがよかったと自己分析する。やや力んだときに抜け球や逆球があったことを、今後に向けての反省点とした。
受けた喜多亮太捕手の言葉も、この日の内田投手の好調さを裏付ける。
「今日はブルペンからまっすぐが走ってて、表示される数字以上にバッターは速く感じてたと思う。フォークはちょっと浮いてたけど、そのかわりチェンジアップ、スライダー…いろんな球種でストライクがとれた。僕からしたら、変化球のどの球種でもストライクが取れるってめちゃくちゃ楽なんで。だから散らして散らして的を絞らせないような配球ができた。しっかり低めに投げてくれたし、ゴロ打たせたいときに打たせることができた」。
キャッチャーとしても、してやったりという攻めができたことに笑みがこぼれる。
■ラストイヤーに懸ける
内田投手の今季のピッチングには悔しさが詰まっている。昨年は2月の足首のケガで開幕に出遅れ、5月に復帰はしたもののなかなか結果が出せなかった。
最後の挑戦と今年も石川でプレーすることを望み、練習生としてスタート。いよいよ4月1日に登録されると、開幕からアピールした。開幕戦では“第2先発”の役割で3回と2/3を投げ、無失点で今季初白星を手にしている。
京都翔英高から京都学園大に進んだあと、クラブチームに入った。そのために土日に休める会社に就職し、サラリーマンとして働きながら野球を続けた。しかしレベルの高いチームではなく、次第に物足りなさを感じていった。
そこで「このまま野球終わったら中半端やなと思ったんで、最後もう振り切って全力でできるとこに行こうと思って、会社辞めてこっちに来た」と石川でNPBを目指す決意をした。ただし自ら期限を設けている。「自分の中で26までって思っている。会社を辞めるときに2年だけ頑張るって」。
7月に26歳を迎える今年、「自分の野球人生にけじめをつける。ここでプロに行けなかったら、もう諦めつくんで」とラストチャンスに懸けている。
そしてもちろん、チームとしては優勝を目指す。それに貢献するために今後、「コントロールをもっと安定させて、もう少し長く7イニング8イニング、できたら完投したい。できるだけ長いイニング投げて、勝てる投手になりたい」と意気込む。
そんな内田投手に対する武田勝監督の期待は大きい。
「去年、練習生っていう悔しい思いもした中で、今、先発の柱として頑張ってくれている。バッターひとりずつに対しての気持ちの入れ方だとか、意識が変わったというのが大きい。悪いときってキャッチャーのサインになんでもうなずいて、ただスーッと投げてるっていう状態もあった。今年に関しては1球1球、丁寧に集中して投げてる結果が、うまくはまっている」。
頼りになるローテーションの柱である。
■各選手が考えながら打席に立つ
この日のミリオン打線は不安定な相手投手を攻めたて、二回に集中打で一挙7点を獲得した。4連打を2度含む8安打、1四球に2連続盗塁も絡めた。
「打撃は好調で、打席の中で考えてやってくれているのが大きい。ただ振るんじゃなくて、バッターとピッチャーの駆け引きを楽しみながら打席に入っていると感じる」と武田監督。
この日も「ボール球が多いということで、まっすぐ系統をしっかりとミートしていたということは、変化球が決まってないっていう証拠。そういうのを考えながら打席に立ってくれてるんだと思う」と、ナインの成長に目を細めていた。
■内野で再挑戦する神谷塁選手
そんな打線の中で、この日3安打と1四球で4度出塁したのが神谷塁選手だ。
武田監督いわく「去年プロに行けず、特に今年に懸ける意気込みが結果として出ている」。その姿勢がチームを引っ張り、チームにも本人にもプラスに作用しているという。
昨年はNPBの球団個別のテストを受け、その球団から合格の知らせをもらっていた。つまりドラフト会議のテーブルに名前は挙がっていたのだ。しかし指名はなく、涙を飲んだ。
年を重ねるごとにNPBへの門は狭くなる。これまで以上のものを見せなければならないことは、本人も重々承知だ。そこで神谷選手が選択したのが「内野への再コンバート」だ。
「1年目はずっとショートで出て、去年は少し気分転換というか『おまえの肩を生かす』という意味で外野も挑戦して、外野で行けなかったのなら内野で挑戦しようと」。
内野をしていても外野はいつでもできるという自信もある。内外野どちらも守れるというアドバンテージも得られる。
神谷選手のウリは、俊足を活かした守備範囲の広さと1歩目の速さだ。投手が抜けたと思った打球をもしっかり捕れるような守備を目指している。もちろん「普通のゴロを普通に捕れる堅実なプレーも」というのも忘れない。
ポジショニングに関しては「嗅覚ですね、野球の」とニヤリと笑う。「こっちに来るんじゃないかなみたいな。ピッチャーのこの変化だったら、このバッターのスイングだったら、ここに来るんじゃないかなっていう、そういう嗅覚みたいなのを研ぎ澄ませて、そしたらもっとヒット性の当たりも捕れてくると思う」。
試合を積み重ね、相手のクセを観察し、磨き続けている嗅覚。そうして得たものは、神谷選手ならではのデータとして頭の中に刻んでいる。
■盗塁も走塁も、誰にも負けない
そして、昨年35盗塁でリーグトップタイに輝いた足はもちろん一番の武器だ。昨年を確実に超えたい。「次のバッターのこともあるんで、できれば早いカウントで初球から走るっていうのを意識してやっている」。数字はもちろんのこと、内容も昨年超えを目指す。
盗塁だけではない。走塁も誰にも負けない。
「スタートの判断、守備と一緒で次のバッターのクセとかピッチャーの配球とか、アウトカウントとか、全部頭に入れて、『これは還れないな』っていうやつも回ってこれたらチームは助かるし、バッターの打点も入る。そういうひとつの走塁でも気を抜かない。絶対にホームに還るという気持ちでやっている」。
自身の足でチームに貢献することを常に考えているのだ。走行守すべてのプレーでレベルアップし、今年こそ夢を叶える。
■逆襲を誓う福井ミラクルエレファンツ
この試合で石川は4勝3敗と、1つ勝ち越した。
一方、敗れた福井は苦しい滑り出しの今シーズンだ。昨年、NPBに3選手を送り出し、メンバーが大幅に替わった。田中雅彦監督は若手育成を掲げ、新入団選手を積極的に起用している。
この日の先発は沖縄県出身の19歳、仲里翔貴投手だった。浦和学院高を卒業し、四国学院大を中退してBCリーグに飛び込んできた。
「トライアウトで獲った1年目の子。頑張ってほしいという期待を込めての先発」という田中監督の思いを背負っての登板だったが、不安定な内容で7失点し、2回途中でマウンドを降りた。
「前回(4月17日の石川戦)も五回に大乱調だった。コントロール、球の1球1球のキレもまだまだ。でも育てていこうと」。田中監督は言葉を絞り出す。「考えられないような守りのミスもいっぱいある。そういうところからピッチャーも乗りきれないのもあるけど、単純に力がない」。
そのあとを繋いだ投手陣が石川打線を0に抑えてゲームを立て直したが、打線は1点を返すのがやっと。7-1で対石川は2連敗となった。
とはいえ嘆いてばかりもいられない。この試合が終わって1勝8敗という現実に「いくら使って育てるといっても、ピッチャーたちの生活もある。考えないと。育成だから負けても…じゃ、選手は育たない」と、田中監督は立て直しを誓っている。
育てながら勝つ、勝ちながら育てるというのは、至難であることは間違いない。しかし若き指揮官はめげない。ここから必ず巻き返していくだろう。
(撮影はすべて筆者)
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