チャンスは逃さない!全員一丸で戦う石川ミリオンスターズが快勝!(BCリーグ)
■起用に応えた選手たち
開幕から安定した戦いを続けている石川ミリオンスターズ。5勝4敗で4月を終えると、5月に入っても17日現在、5勝5敗と5割で推移している。武田勝監督の計算どおりだ。
西地区(ADVANCE―West)での順位も、首位・富山GRNサンダーバーズに0.5ゲーム差と肉薄する2位だ。
その要因は、的確な選手の状態の把握にある。もちろん固定して使う選手もいるが、選手の状態を見極めた上での起用が光っている。
5月15日の対オセアン滋賀ユナイテッド戦も9-5と快勝した。このところ調子のいい入谷直登選手を3番に、7番には中山貴志選手と入れ替えて臨んだが、これがみごとにハマったのだ。
好調・入谷選手は3安打して2度ホームに還り、中山選手は2安打1本塁打で2打点と気を吐いた。
また、主戦捕手の喜多亮太選手に代わって先発マスクをかぶった岡本仁選手が、BCでの初ホームランを放つなど起用に応えた。
「野手に関しては山出(芳敬)コーチがすべて、サインもそう。そういう意味では普段からコミュニケーションがとれてる証拠だと思うので。選手たちもそれを理解しながら、打順関係なく状況に応じたバッティングしてくれている」。
試合後の武田監督は、山出コーチの眼力や指導力、またそれに応えた選手たちを讃えていた。
■中山貴志選手
決勝打は中山選手のバットだった。4―4と膠着していた五回裏、二死一、三塁。
初回、2点先制してなおも一、三塁というチャンスで内野ゴロに倒れていただけに、なんとしてもランナーを還そうと集中していた。
6球粘った末の7球目をとらえてセンター方向に打ち返した中山選手は、勝ち越しのランナーを迎え入れた。
これで終わらない。3点差に詰め寄られた八回、代わったばかりのタバーレス投手から1号ソロを叩き込んだ。
「軽く打った感じだった。あまり振らなくてもホームランになるとわかった」。
その“序章”が前の打席にあったという。「ホームランにできるボールを3つくらいファウルしてしまっていた」。打ち損じを悔いたが、そうしている間に徐々に形になってきたという。
ここ最近、バットが出てこないことに苦悩していた。「どうしても体がボールを迎えにいって、バットを振りすぎている。体が開いて、バットが遠回りしてしまって…」。
試合を重ねる中で、自分でも気づかないうちに崩れていっていたという。
「振りすぎず、力を抜いてヘッドを先に返すイメージで」と、自分に言い聞かせている。それが結果として顕れた打席だった。
長打を打てるパンチ力がウリだ。「甘い球がきたら仕留められるよう、集中していきたい」。打順は関係なく、持ち味を発揮していく。
■入谷直登選手
3番で3安打した入谷選手は、試合直前に打順を告げられた。「コーチから『神谷が出たら進められるように、送りバントの準備をしておけ』と言われていた」。しかし犠打の場面は訪れず、積極的に打っていった。
武田監督も「ここ何試合か、入谷のところでチャンスが多かったので、山出コーチが抜擢して本人が応えてくれたっていうのが、チームが勢いに乗ったきっかけだったと思う。まぁキャプテンだし、入谷が打ってくれるとチームが盛り上がるという面では、ほんとにいい仕事をしてくれた」と手放しで讃える。
「最近取り組んできたことが、できてきたかな」と声を弾ませる入谷選手。右肩が上がってしまうクセを、「平行に平行に」と練習から意識して修正してきたという。
構えた時点からすでに右肩が上がっていることを、山出コーチに指摘された。「強い打球を打とうとして左手で押してたことが、右肩が上がることにつながっていた」と自己分析する。
しかしレベルスイングを徹底したことで、内野ゴロや三振が減った。さらに「ボールもよく見えるようになった」ことで、確率も上がってきた。
打つだけではない。入谷選手は守備での貢献度も非常に高い。常に声を出して投手を、そしてチームを盛り立てている。
「内野年数が長いので、僕の役割かなと思って」と、“声出し役”を引き受ける。
両隣を見ると、ファーストは新人の今村春輝選手、ショートは外野から再転向の神谷塁選手だ。
神谷選手のことを「シーンとしてるから。ゴロが飛んできたらって緊張してるから(笑)」と言い、すました顔で「ほんとは僕、静かにやりたいんだけど」と笑わせる。
頼りになるキャプテンのおかげで、守りが締まっているのは間違いない。
■岡本仁選手
待ちに待ったスタメンマスクだった。出番を求めて石川にやってきたが、チャンスを得るのはなかなか難しいと気づかされた。それだけに巡ってきたチャンスはなんとしてもモノにしたい。
試合直前に言われたという岡本選手は「D(指名打者)かと思ってたけど、常に準備はしてるから」と防具をまとった。
組んだピッチャーは、これまた中継ぎで結果を積み重ね、今季2度目の先発のチャンスをもらった飯野元汰投手だった。しかし二回に4点を集中されてしまった。
「簡単な配球で、ポンポンといけるようにしてあげたかった。久しぶりに組んだんで、キャッチャーとして引っ張れなかったのは反省」と肩を落とす。
けれど、そのあとの伊藤塁投手はしっかりとリードできた。「投げたい球と僕の配球がマッチした」。生命線であるシンカーを有効に使い、「左バッターが初球から当てにくるケースがあって助かった」と、してやったりと微笑む。
ウリである打でも魅せた。中山選手のタイムリーで1点勝ち越したあとの勝負を決定づける特大3ランは、なんと場外に消えていった。
伏線は前の打席だ。絞りきれず、迷いながら手を出した初球で遊ゴロに打たされた。「少ないチャンスやから打たなあかんと、頭が縮こまってた」。
だから開き直った。「三振してもいい」とフルカウントからの9球目を迷わず振り抜いた。狙っていたスライダーだった。
「カンペキ!風にも乗ったけど、ドンピシャ当たった!」
どデカイ一発に興奮が隠しきれない様子で、その手に残った感触をしみじみと味わう。
「チャンスが少ない分、1こ1こが勝負。少ない試合数の中でピッチャーの信頼を得られるように。肩にも自信があるし、打てるキャッチャーを目指して頑張っていきたい」。
鼻息荒く話す岡本選手に「キャッチャーでもバッティングに力を入れてほしいという意味では、今日がひとつのきっかけになってくれたと思う。喜多を煽るような選手になってくれると、もっとレベルが上がる」と、武田監督もチーム内競争でのレベルアップを期待している。
その思いに応え、自らの手で出番を勝ち取っていくつもりだ。
■伊藤塁投手
勝ち投手になったのは2回2安打無失点の伊藤塁投手だ。今季初勝利だが、勝ち星よりも「守備からリズムを作って攻撃にというのがウチのチームのテーマ。僕も野手にリズムをもってこれたのかな」と、攻めのピッチングでリズムが作れたことに胸を張る。
「変則的なフォームなので、コースは気にせずゾーンで勝負することを考えている。ゾーンで空振りを取ったり打たせたり」と好投の要因を明かす。
高校2年の夏からサイドスローに転向した。2番手、3番手からエースにのし上がるためで、体が小さいからとほかの選手とは違う特色を求めたのだ。
当時の監督にアドバイスされたのは「ボウリングの投げ方」だった。「体の使い方が似てるから。最後も右足が左足の後ろにくるし」。3キロのメディシンボールを使い、体にフォームを染み込ませた。努力の甲斐があって、高校最後の夏はエースナンバーを手に入れた。
今後も打者との駆け引きで、クレバーな投球を見せていく。
武田監督も「投げるチャンスがなくて、彼も悩んでた時期もあると思うけど、チャンスなんていつ来るかわからない。そんなときに結果を残してくれたというのが、本人もだけどチームも助かる。今日の1勝は自信を持ってほしい」と喜ぶ。
そして「自分の役割は何かっていうのを、やっと気づきはじめている。それが大事なこと」と、先発陣が安心して投げられるような投球を今後も期待している。
■既存の選手たちの成長が好ゲームを生み出す
試合後、「序盤、なんとか選手たちが我慢してくれたので、あのホームランにつながった。ほんとに我慢強く、味方の援護を待ってくれていた。最後は点差が離れても矢鋪(翼)っていうのは決めてたので、そこだけはしっかり形にはまってくれた」と振り返った武田監督。
「矢鋪も自信もって投げてくれてるし、そこにつなぐまでのピッチャーたちも役割をわかってマウンド立ってくれてるので、すごく心強い存在」。粘りの投手陣に拍手を送っていた。
「ほんとに今日の試合はいいところが凝縮したというか、なかなか出られなくても、出たときに頑張ってくれた」。起用に応えて活躍した選手たちに目を細める。
さらに、ナインの戦う姿勢も賞賛する。
「去年の反省というか、一方的に負けはじめると声も出なくなってるっていうのに選手が気づいた。今年はどんなに負けていても勝っていても、維持しながら継続しながら試合に入っていくということだけはできている。僕が言わなくても、自分たちで」。
試合中の声の出し方ひとつとっても、昨年とは違う。「やっぱり一丸となってっていう意味では、そこは去年とはまた違うところが見せられている」。選手たちの意識の高さを喜ぶ。
「このところ、負けても1点差負けが多い。つまり負け方もよくなってきてる。ということは、紙一重な勝負の中でプレーしてるということで、自信もついてきてると思う。特に既存の選手たちが成長を見せてくれている」。武田監督は大きくうなずく。
既存の選手たちが成長し、新加入の選手たちを引っ張る。よりよい形で融合し、チーム作りがなされている今年の石川は、ますます乗っていきそうだ。
(撮影はすべて筆者)
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