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相次ぐ危険運転への訴因変更… 交通事故遺族らの切実な訴えに揺らぐ司法判断 #専門家のまとめ

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
危険運転致死傷罪への訴因変更を求めて署名活動を行う遺族と支援者たち(遺族提供)

ここ最近、「過失」から「危険運転致死罪」への訴因変更が相次いで報じられている。いずれも、検察の当初の判断がくつがえったわけだが、そこに至るまでには、遺族らによる署名活動や上申書提出など、筆舌に尽くしがたい苦労があった。これから裁判所の判断が下される死亡事案をまとめた。

ココがポイント

大分地検は22年7月、いったん過失致死罪で在宅起訴。(中略)危険運転罪適用を求める署名提出を遺族から受けた後、地裁に訴因変更を請求し認められた。
出典:共同通信 11/1(金)

おそらく、多恵子さんが行動を起こさなければ、すでに刑事裁判は「過失」で判決が下され、終わっていたでしょう。
出典:JBpress 2024/10/17(木)

家族3人が死亡した事故で、前橋地裁は15日、過失運転致死傷で起訴された被告について、法定刑の重い危険運転致死傷への訴因変更を許可した。
出典:読売新聞 2024/10/16(水)

エキスパートの補足・見解

 ここで取り上げた3つの死亡事案は、いずれも加害者が道路交通法を守らず、飲酒運転や大幅なスピードオーバーなど、ルールを無視したうえで引き起こした悪質なものばかりです。

 大分では、加害者が一般道で法定速度の3倍を上回る時速194キロを出して対向右折車と衝突し、被害者が死亡しました。被害者はシートベルトがちぎれるほどの衝撃を受け、車外放出されています。

 宇都宮の事案も同じく、一般道で時速162キロという超高速で走行中の車が前方のバイクに追突し、被害者は亡くなっています。

 伊勢崎では中央分離帯に激突して対向車線に飛び出したトラックに衝突され、自車線を走行中の乗用車に乗っていた家族3人が死亡。加害者は乗務前のアルコール検査を終えてから、飲酒していたことがわかっています。

 このような悪質な行為が「過失」と判断されたことを受け入れられなかった遺族らは、署名活動を展開するなどして懸命に訴えてきました。特に大分と宇都宮のケースでは、一連のアクションがなければ、それぞれの裁判は当初の罪名のまま進んでいたかもしれないのです。

 悲嘆の中にいる遺族が、なぜここまで動かなければならないのでしょうか。司法の判断は被害者遺族の訴えに左右されてよいのでしょうか。

 そもそも、捜査とは何のためにあるのでしょうか……。取材を続けながら大きな疑問を感じています。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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