初の関西凱旋!ハマの正捕手を目指す山本祐大(横浜DeNA)、いま試練のとき
■プロ入り初の関西凱旋
関西凱旋は、プロ入りしたときから楽しみにしていたことのひとつだ。
ましてや子どものころ、お父さんによく連れてきてもらっていた甲子園球場で、大ファンだった阪神タイガース戦だ。さらに高校時代に憧れて出場した“聖地”でもあった。
ルーキーイヤーの昨年も2度、1軍に昇格したが、いずれも神宮球場と横浜スタジアムだった。
初めての地元凱旋となった5月3日、球場入りした横浜DeNAベイスターズ・山本祐大選手は興奮が隠しきれないようすだった。
■着実に歩んできた
入団直後の春季キャンプから、その元気さと鬼肩でアピールしてきた。ファームでは節目節目の“開幕マスク”を任され、昨年はイースタン・リーグで捕手としてチームトップとなる61試合に出場した。
5月にはじめて1軍に呼ばれたときは、プロ初マスクで1回を0封リードしてウィニングボールをもらった。
8月に再び昇格したときは、代打で初打席が巡ってきた。そこでなんと初本塁打をかっ飛ばした。
秋季キャンプでは人並以上の体の強さ、食らいつく根性で「あいつ、全然へたらへん。たいしたもんや」と新任の鶴岡一成バッテリーコーチの目を丸くさせた。「あの肩は1軍で十分に通用する」とのお墨付きももらった。
1年でめざましい成長を遂げた若き司令塔を、アレックス・ラミレス監督は1軍キャンプのメンバーに入れるか、最後の最後まで悩んだという。最終的に山本選手は宜野湾キャンプには呼ばれなかったが、休みの度に嘉手納キャンプを訪れたラミレス監督は、その溌剌とした姿に目を細めていた。
3月のオープン戦で1軍に呼ばれ、初のスタメンマスクを与えられた山本選手はエディソン・バリオス投手を堂々とリードし、打っては3打数3安打1打点と結果を残した。その日も相手はタイガースだった。
「上がったからには、なんらかの爪痕を残す」。昇格のときに毎度、山本選手が口にしていることだ。
今回ももちろん、そのつもりで1軍に馳せ参じた。
ラミレス監督によると、「キャッチャーを3人にしたいというのがあった。タイミング的にもいいと思ったので、山本を呼んだ。体も強くなっているし、バッティングやキャッチング、スローイングなどの技術面も成長している。配球もよくなっている」との理由での招集だという。
「もちろん足りないところもあるが、全体的に本当によくなっている」と、指揮官はうなずく。
■子どものころはタイガースファン
練習から、山本選手の張りきりようは目を惹いた。裏返るくらいの大きな声を出してキビキビ動く。いや、それはいつものことか。それでもその表情から、胸の高鳴りが伝わってくるようだった。
「やっぱ楽しみでした」。いつものあどけない笑顔を見せ、「甲子園は高校以来なんで」と、声を弾ませる。
子どものころはタイガースファンだったという。「親にもけっこう連れてきてもらいました。あっち側(一塁、右翼側)で応援していたんで。今は敵ですけど(笑)。また違う見え方していた」。しみじみと語る。
「やっぱ今はアウェイじゃないですか。ホーム球場じゃないし。阪神ファン、なんかすごいですね。一体感あるっていうか」。
かつてはその中にいた少年は、今や相手チームの選手になったのだ。
「阪神の選手、みんな好きでしたね。でも特に金本(知憲)さんじゃないですかね」と懐かしそうに振り返る。「強いときの阪神とか弱いときの阪神とかじゃなくて、ただ阪神が好きでした」。
思い出は思い出として大切にしまい、ゲームに臨んだ。
■甲子園ではじめてマスクをかぶる
出番はカード2戦目に訪れた。5-0の劣勢から1点を返して4点ビハインドとなった八回裏、藤岡好明投手とバッテリーを組んだ。
高校時代に甲子園に出場したといっても、当時は正捕手ではなかったため就いたのはセンターだった。ゲームで甲子園のキャッチャーのポジションに座るのははじめてということになる。
まずは糸井嘉男選手を空振り三振に仕留めた。大山悠輔選手には中越えの二塁打、江越大賀選手には四球を許したが、梅野隆太郎選手を併殺に斬って無失点で役目を全うした。
「4点差で、次にこっちが1点取れたら向こうも守護神が出てくるってこともあったので、そこを0で帰ってこれたのはよかったなと思います」。ホッとひと息ついて、汗を拭う。
地元関西で、そして甲子園での初出場については「点差が開いての出場だったんで…」と複雑な表情をしたあと、「次は始めから緊迫した場面で出られたら、もっと味わえるかなと思いますね」とまた次回、存分に満喫したいと願う。
2年目を迎え、周りとのコミュニケーションも深まった。投手陣のことも昨年よりわかるようになってきた。
「去年とは違うっていうところを出していきたい」と、今後もより上積みの増した姿をアピールしていく。
■プロ入り初のスタメンマスク
残念ながら甲子園では1イニングの出場のみに終わった。ところがホームに帰った同6日の読売ジャイアンツ戦で、プロ入り初のスタメンマスクを任された。
ファームでコンビを組んで好成績を収めた東克樹投手の今季初登板をリードすることになったのだ。
しかし野球の神様は微笑んではくれなかった。制球の定まらない東投手を助けることができず、四回にバッテリーともに交代した。己の力不足を痛感させられた。
翌日には登録抹消されたが、けれど悲観する必要はない。まだまだ成長途上なのだから。
「彼にとってはいい経験になったと思う。彼はこのチームの将来を背負っている。将来、このチームのレギュラー捕手になる能力がある」。ラミレス監督は変わらぬ期待を口にした。
■めげず、へこたれず、正捕手を目指す
甲子園でも「出られたら、しっかりチャンスを生かせるように。チームに貢献したい」と鼻息荒く語っていただけに、その悔しさは計り知れない。
だが、それでもくよくよせず、すぐに前を向けるのが山本選手の長所だ。
降格して即、同7日のイースタン・東北楽天ゴールデンイーグルス戦でスタメンマスクからフル出場し、同期の中川虎大投手ほか、スペンサー・パットン投手、砂田毅樹投手を無失点リード。盗塁もきっちり刺した。
さらに、打ってもチーム初ヒットを含む2安打に犠打も決め、好調を維持。打率も3割に乗せた。(.304)
翌々日の同戦でもケガ明けの濱口遥大投手を好リード。3回パーフェクトピッチをアシストしたのをはじめ、延長十一回まで合計7投手をコンビネーションよく引っ張った。
打席では、快音を響かせることはできず3割は切ったものの、3つの四球を選ぶなど4度出塁した。(.293)
「また次のチャンスでやり返せるように頑張ります!!」―。そう力をこめる。
山本祐大、プロ入り2年目。弱冠はたちの若武者は、正捕手への道を自らの手で切り拓いていく。
(表記のない写真の撮影はすべて筆者)
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