Yahoo!ニュース

中年の男女が定食1品を注文し、おかわり自由のご飯を2人でシェア 従業員が「お里が知れる」と嘆いて物議

東龍グルメジャーナリスト
(写真:イメージマート)

飲食店でのシェア

飲食店で1つの料理を2人でシェアしたことがありますか。

Threadsで、ある飲食店勤務の女性による投稿が話題となりました。

ランチタイムに男女2人が来店し、定食1つとビール1杯だけを注文。その時点で不安を感じましたが、嫌な予感は的中します。ランチタイムには定食のご飯とスープがおかわり自由になっていますが、男性がオーダーした定食のご飯とおかずを女性に取り分けた後に、ご飯を大盛りでおかわり。投稿者は、子連れなら理解できて実際に多いと述べた後に、今回の事案について「こんなセコイ人間にはなりたくない」「お店に失礼」「お里が知れる」と嘆いていました。

この投稿への返信という形で、客は40代くらいの男女であること、投稿者の勤務先は居酒屋のチェーン店であること、これらはあくまでも自身の意見であり、会社の見解ではないことが述べられています。

他の人からの返信を見てみると、同情を寄せる意見が大半です。同じく飲食店関係者からは、自身が遭遇した事案を紹介する人もいました。

この事案を、おかわり自由や1品のシェアについて考えていきましょう。

おかわりについて

飲食店では、おかわり自由のサービスが行われていることがあります。

ご飯や味噌汁、キャベツなどの付け合わせが対象になることが多いです。ブッフェ形式になっているサラダバーやドリンクバーなども、おかわり自由のサービスに分類することができます。

いずれにせよ、おかわりできる権利を有しているのは、あくまでもオーダーした本人のみです。もしも、オーダーした本人以外でも利用できるとすれば、それはおかわり自由ではなく、単に無料で食べているだけになります。無料でおかわり自由になれば、飲食店が潰れてしまうのは自明の理。

当事案では、定食を注文した男性だけが、ご飯をおかわりできます。おかわりをスタッフに告げたのが男性であったとしても、食べるのが女性であれば、女性が無料で食べていることに相違はありません。

客単価と売上機会の損失

飲食店営業は慈善事業ではありません。客が店内で食べることを前提として、利益がでるように設計して経営しています。

経営プランを立てる時に用いられるのは、売上から、原価、人件費、賃料といったコストを差し引くこと。売上は、客単価に客席数と回転率を掛け合わせて算出されます。

2人のうちオーダーしなかった客は売上に全く寄与しないので、飲食店にとっては実質的に客ではありません。1人分の席が客単価0円になるので、飲食店にとっては非常に困ります。

注文しない人が席を占有することによって、注文する他の客が入店できません。飲食店は売上機会を逸してしまいます。

他の客への迷惑

本来は利用できたであろう人が利用できなくなってしまうので、飲食店だけではなく、利用者も損害を被ってしまいます。

注文しない人を許容すれば、客単価が下がってしまいます。減った客単価を上げるためには、価格を引き上げなければなりません。注文しない=無銭滞在する人のコストが、他の客に転嫁されるのです。

注文しない人が席を専有することによって、飲食店と利用者の双方に迷惑がかかるのです。

空間にはコストがかかっている

飲食店の空間を維持するには、イスやテーブルを用意したり、調度品を飾ったり、灯りを点けたり、空調を整えたり、店内を清掃したりと、快適な空間を実現するのに費用がかかります。つまり、飲食店では、客が席につき、店内の空間を専有しているだけでコストが発生しているのです。

特にファインダイニングであれば、1坪に1席しか設けず、贅沢に空間をデザインしています。ロケーションと建物にこだわりがあり、賃貸料金も高いです。テーブルやイス、インテリアやランチョンマット、カトラリーやプレート、グラスなどのテーブルウェアなどにも、お金がかけられています。カジュアルな業態であったとしても同様です。

快適な空間は無償で提供されているものではなく、注文なしで利用することはできないと認識する必要があります。

コストパフォーマンス重視の弊害

飲食店におけるコスパ至上主義が、シェアするなどして何も注文しない人を生み出しているのではないかと危惧しています。

多くのメディアでは、飲食店を紹介する際に、コストパフォーマンスを軸とした企画にしたり、値段が安いことをことさら称賛したりすることがあります。その影響で、飲食店でできる限り得をしようと思ってしまう人が増えているように思えてなりません。

グルメインフルエンサーが、YouTubeやSNSなどで、飲食店を紹介する際に、コスパばかりを連呼するのも、よい影響を与えていないように感じます。

ルールの設定と明示

ノーショー(無断キャンセル)やドタキャン(直前キャンセル)の問題と同じように、明確なルールを設けることによって、損害を低減させることができます。

少なくとも、カフェであれば1人1ドリンク、ラーメン店やファミリーレストランであれば1人1品、ファインダイニングであれば1人1コースのオーダーを必須とするべきです。居酒屋であれば、夜は1人1品もしくは1ドリンク、ランチであれば1人1品が妥当。おかわりにしても、オーダーした本人だけが利用できるとしておくべきでしょう。

モラルのない客はスタッフの士気を下げるため、飲食店はルールやポリシーをしっかりと定めて明示し、毅然とした態度で客に対応することが重要です。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍の最近の記事