BCリーグ新監督に聞く vol.1―石川ミリオンスターズ・武田勝監督(日本ハム)
■石川ミリオンスターズ・武田勝監督
4月7日に開幕した独立リーグ・ルートインBCリーグでは、期待の新星たちが明日のNPB(日本プロ野球機構)入りを目指し、各地で汗を流している。
今季は東西10チーム中、東の1チーム、西の4チームで監督が交代した。トップが代わると指導法や戦い方、選手との関わり方など自ずと変わってくる。新しい指揮官のもと、生まれ変わったチームにスポットを当てる。
「新監督に聞く」シリーズ第1弾は石川ミリオンスターズの武田勝監督だ。
■一歩ずつ前へ
2連勝で幸先よくスタートしたものの5月19日現在、6勝10敗1分け、ADVANCE-West4位という成績で苦戦している石川。先発の柱と期待した投手が故障離脱したことも要因のひとつだろう。
負けが込んでくると、どうしても選手は固くなりがちだ。少しでもほぐそうと監督が率先してふざけ、柔らかい空気を醸し出す。だが、なかなか選手に浸透していないのが現状だ。
「ピッチャーもランナーがいないときはいいピッチングができる。でも危険察知能力がない。結果を欲しがるあまりに冷静になれない。そこをわからないと同じことを繰り返してしまう」と武田監督が指摘するように、課題は山積しているようだ。
「今は我慢の時期。これを乗り越えないと。ただで勝てるほど甘くない。現状を受け入れて、一歩ずつ前へ進みたい」。
武田監督はそう力強く語る。
■監督は“決断の仕事”
2016年に現役を引退し、北海道日本ハムファイターズに籍を置いたまま、昨年は出向という形で石川にてヴァイスプレジデントと総合コーチを兼務。今年も同形態のまま監督に就任した。
「去年は指導者1年目で、自分自身もっと指導者としてのスキルを高めたかった。今までにない経験をしてみたかった。これまでプレーヤーとしての経験しかなかったので、いずれファイターズに帰ったときに何か恩返しできるように、何か持って帰れるようにしたい。もちろんミリオンスターズへも還元していきたい」。そんな思いで引き受けた。
「監督となると勝たせなければならない。見てる人に喜んでもらえるような、たとえ負けても応援してもらえるようなチーム作りをしないと。そういったことも一から勉強したいと思った」。
コーチとは違った立場で指導者としての歩を進めた。何でも経験、勉強だと、地元のテレビやラジオの出演も進んで引き受けるし、地域貢献のボランティア活動でも陣頭に立つ。
昨年は「どうしてもまだ選手よりの考えだった」と振り返る。しかし監督は“決断の仕事”だという。「投手交代とかゲーム中はもちろんだけど、たとえば支配下から練習生にしなくちゃいけないとか、言葉は悪いけど“人をさばく”ということをしなければならない。これまでは選手を応援、サポートするだけだったけど、“人事”という仕事が入ってくる」。
結果の世界だ。人事においてはときに非情にならなければならないこともある。そんなとき、かける言葉には腐心している。「どんな言葉でどうやって伝えるのか。そこは難しい」と心を痛める。
「野球はいいことばかりじゃない。でも今後の人生のために前向きな言葉を探すようにしている。こちらも先にオブラートに包む言葉を持っておかないと。ひとりひとり理解力も言葉のとらえ方も違う。そこも見ながらね」。“今の子”、“今の時代”というのも十分に考慮している。そこには「野球を嫌いにはなってほしくない」という思いがあるという。
■根底にある野村克也監督の教え
それは技術指導においても同じだ。「自分がやってきたことをそのまま伝えるんじゃなく、その子にとってどうかとか、自分がその子の立場になって考えるようにしている。押さえつけるんじゃなく、アドバイスやヒントを与えてサポートするように。技術は本人が気づいて作り上げていくもので、自分でモノにするしかない。やらされてできるものじゃない」。自分ができたことを選手も同じようにできるわけではないと理解した上で指導する。
武田監督のこういった考えのベースになっているのは社会人時代(シダックス)の野村克也監督の教えだ。「野村監督は『根拠、裏付けがないと叱れない』とよくおっしゃっていた。結果論で言ってもなんの解決にもならない。それと“1”からすべて説明するのではなく、“1”言って“9”気づかせるように育てたい」。
野村監督との間には言葉だけではない信頼関係が生まれていたという。だからこそ受けた薫陶は今、指導者となった自身の礎になっている。
大事なのは「自分に興味を持つこと、己を知ること」だという。そのために指導の中でも工夫を凝らす。「その子の趣味に絡めて話す。たとえば釣りが好きなら、潮の流れとか時間帯とか釣りで頭や時間を使うことを例に出して、満塁での駆け引きや限られた時間の中でどう頭を整理して結果に結びつけるか、野球に置き換えて話すようにしている」。ヒントを与え、自分で考える力を養うよう導くのだ。
■対話を重視
また「失敗すること。ボクもたくさんしてきた」と失敗の中に成長の鍵があると説く。「技術のミスは怒らない。それより考え方を教えてあげたい。考え方が変わると行動が変わる。行動が変わると習慣が変わる。習慣が変わると結果も変わってくる。まずその考え方の部分が大事になる」。
そのためにも「対話」を重要視する。「選手が何を考えているのかわからないと。ただ『いつでも言ってきて』とは言っても、その聞き方すらわからないのが今の子で、監督にはちゃんとした考えを言わなきゃいけないって思う真面目な子が多い。よく“指示待ち”とか言われるけど、そうじゃない。言えない雰囲気、指示を待つ空気になってしまっている。そういうのを変えていきたい。まずはグチでも言い訳でもなんでも言いやすい環境を作りたい」。
そこで監督自らふざけてみる。「ふざけた話のほうがヒントがあるからね」と、柔らかい空気を作り出すことで本音を引き出し、コミュニケーションを深めていこうとしている。
そして勝っているときも負けているときも変わらぬ空気を作るようにする。「今、ベンチではリードしてても負けてるような、追い詰められてる感じになっている。その空気も気持ちも変えていきたい。そのための言葉や雰囲気作りは、ボクも勉強中ですね」。
個々の潜在能力が最大限に発揮できる環境作りを模索している。
■ブルペンの大切さ
勝利もだが、なにより「ひとりでも多くNPBに送り出したい」というのも監督としての指針だ。「選手のレベルを把握して、スカウトにしっかり話せるように。結果じゃなく、将来性をうまく説明したい」。
そのために“プロとして使える選手”を育成することも重要な任務だ。「150キロ出てもプロで通用するかっていうと、また違う。フィールディング、牽制、それにピンチになったときの駆け引きとか、目に見えない力を育てないと。メンタル面も」。NPBで活躍するために必要なことを叩き込んでいくつもりだ。
そこで投手陣にはブルペンの大切さを今一度、伝えているという。「ブルペンは限られた空間でピッチャーの聖域。何球投げたっていい。一番集中できて、一番伸びる。自分の資質を上げられる場所」。よりマウンドに近く、あらゆるシチュエーションを予行演習できる場であることを再認識させている。
「たとえばいきなり(ボールカウント)3ボールから投げ始めたっていいし、ノーアウト満塁の練習をしてもいい。マウンドでは自分のメンタルと戦わなきゃいけない。その準備をするんだから、ブルペンでも相当神経をすり減らすくらいでないと。意味のない100球より意味のある20球」。自分次第でいくらでもシミュレーションはできる。
自身のその日の状態を教えてくれるのもブルペンだ。「変化球、まっすぐの良し悪し。調子いい日も悪い日もある。たとえ調子悪くても嘘つくのも仕事のうち。つまり、いかに悪い球をいい球に見せるかってこと。そのための引き出しを作るのもブルペンだから」。ブルペンでどう過ごすかは、成功するかどうかの鍵なのだ。
武田監督自身、投げることが好きだったという。「好きじゃないとうまくはなれない。朝起きたときから、いや、前の日から投げることを考えていた」。まさに『好きこそものの上手なれ』の諺を地でいっていたのだ。
「背もない、スピードもない、体力もないボクがプロでどう抑えるか。奥行き、タイミング、真ん中に投げる勇気…いろいろ考えてたらピッチングが楽しくなる。負けても反省材料ができたって思うし。とにかく頭を使わないと」。
キャッチャーが出すサインについても考える。「出されたサインの意味を考える余裕を持たないと。意図のある球はバッターにとって嫌な球だから。たとえそれがボールになっても次に生きる。どこに何を投げるか。それを今、選手たちには勉強してもらいたい」。求めるものはすべて、NPBで活躍するための術だ。
■期待される新しい監督像
これまで高校、大学、社会人、プロ…あらゆるカテゴリーの野球を経験してきた。それを生かして後世に遺していく。
「『財を遺すは下、仕事を遺すは中、人を遺すは上なり』って言うでしょ。ボクはこれまでいろんな人に恵まれてきた。これからは人を遺せるように、そして野球界に恩返しをしていきたい」。
船出したばかりの“武田丸”。きっと今までにない新しい監督像を見せてくれるに違いない。
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