長谷川潤(元読売ジャイアンツ)の復調とクローザー・矢鋪翼の満塁斬り(石川ミリオンスターズ)
BCリーグの後期が始まっている。西地区(ADVANCE―West)では石川ミリオンスターズが好スタートを切った。6試合戦って5勝1分けで負け知らずだ。
では6月25、26日の対福井ミラクルエレファンツ2連戦を振り返ろう。まず今回は25日のゲームだ。
■長谷川潤投手らしいピッチングが戻った
先発は石川ミリオンスターズからNPB(読売ジャイアンツ)に巣立ち、再び帰ってきた長谷川潤投手だ。(詳細は⇒開幕戦勝利)
低めを丁寧につき、7回を2失点にまとめた。三振も7つ奪い、要所は併殺で仕留めるなど、相手を翻弄する“らしい”ピッチングを見せ、3勝目を挙げた。
「今まで、どうしても低めに投げようと思っても投げきれていなかった。下半身をしっかり意識して重心を低くして…そういった練習中から取り組んできたことが、今日の試合の結果で出たのでよかった」。そう言って汗をぬぐった長谷川投手。
実はジャイアンツ時代から抱えていた肩の不具合とも格闘しながらのシーズンインだった。
「元々の肩の状態の悪さから、結果的に肘に症状が出た」と、1月末に肘の手術を行っている。
「肩の状態を上げていくというのがずっと課題で、シーズンが始まってもずっとそうだった。肩の状態が上がれば、肘もよくなる、と」。
それは「痛み」ではないという。「動きが悪い。1年半くらい(実戦で)投げてなかったので、いきなり試合レベルまで上がってくると負担がくる。肩の筋肉も落ちていたし」。
ジャイアンツでは打撃投手も務めたが、実戦でのピッチングとはまったく違うものである。
「肩の状態を上げるのとフォーム固めを同時進行していたけど、まずは試合で投げることを最優先していたから、なかなかしたいことができなかった」。
それでも徐々に状態は上がり、動きがよくなってきていた。だが、そこに落とし穴があった。
5月30日の対信濃グランセローズ戦で初回に8安打を集められて大量7失点(自責は6)してしまい、わずか1イニングでマウンドを降りた。
「体が動く分、力が入ったりしてフォームが安定していなかった…」。
そこから次の対富山GRNサンダーバーズ戦まで2週間空いた。この間、さまざまなことに取り組んだ。
「過去の映像を見たりもして、こういう動きをしたらいいのかなと掴めだした。シャドーピッチングとかキャッチボールとかで、したい動きと体が一致し始めた」。
そうして迎えた6月14日の富山戦では、3者連続三振で立ち上がるなど7つの三振を奪って、6回を3失点(自責は2)とゲームを作ることができた。
■持ち味を発揮
それ以来の登板となったが、「試合を追うごとによくなってきていて、フォームも安定してきた」と充実感を漂わせる。
これまで使えなかった下半身もしっかり使えている。
「片田(敬太郎 フィジカルパフォーマンスコーチ)さんの話では、肩の状態がよくなってきて胸が張れるようになったから、しっかり下半身も使えるようになってきた、と。左足が着いてからの間も作れるようになった」。
体はすべて連動している。肩や肘の状態が万全でないと、使いたくても下半身が使えない。無理に使おうとするとまた、肩や肘に負担がかかる。肩の状態がよくなってきたことで、しっかりやってきた下半身のトレーニングの成果も顕れるようになったようだ。
「自分のやりたい動きが自然にできるようになってきた」と、端正なマスクをほころばせる。
だからこそ、この日は喜多亮太捕手ともプランを練って思いどおりの攻めができた。
「ここ何試合かのよかったときと、打たれてるときの内容を振り返りながら。どうしても左バッターのインコースが甘くなって、踏み込まれて外の球を打たれたりしてたんで。インサイドに変化球でファウルを打たせて、強引にバッティングさせるとか。そういうのが今日はできた」。
本来のテンポのよさも健在で、スイスイと投げていた。
「(状態の悪いときは)自分でテンポを上げたくても、なかなか上げられなかった。まっすぐでファウルが取れないから連打を食らうし、いいとこをついても打たれるし。今はまっすぐでファウルが取れるから、カウントが取りやすくなってきた。そこは大きいかなと思う」。
ただ、これで満足はしていない。「長打も何本か打たれたし、まだまだ甘い部分もある。半分半分くらい」と、さらなる高みを目指していくつもりだ。
■投手陣のリーダーとして、経験と引き出しを伝えていく
長谷川投手がほかの選手へ与える影響力について、武田勝監督はこう語る。
「NPBの経験もそうだし、今まで自分がやってきた練習法だとかダメなときの対処法とか、引き出しをいっぱい持っている選手。ネガティブになったときにポジティブに変えてくれるような選手ではあると思うので、非常に助かっている」。
経験や引き出しというならば、武田監督自身こそ豊富なのだが、「僕らが言ってもね、もう選手じゃないので。経験はしているだけで、今は時代も違う。今の時代を経験している選手のほうがやっぱり直に響くと思う、言葉がね。僕らは過去の話になっちゃうんで」と、決して押しつけることはしない。
それよりも、現役である長谷川投手に任せられるところは任せているのだ。
長谷川投手も自身の“使命”は理解している。
「カバーリングとかサインプレーとか、球を投げること以外は見本にならないといけないと思っている。そういうところは意識して…かなり意識してやっています」。
“かなり”を強調して付け加え、ニヤリと笑った。
実際、この試合でも一死二塁からのピッチャー返しに素早く反応し、三塁で刺した。プレーでしっかりと見せている。
後期最初の登板で勝利した。
「いい形でスタートが切れたので、この調子で体もしっかりケアしながら状態を上げていければ、自然と今日みたいに結果が出てくるかなと思う。それがチームのためになる」。
投手陣のリーダーとして、今後もチームを牽引していく。
■守護神・矢鋪翼投手、満塁で大松斬り
この日の勝利はクローザー・矢鋪翼投手の奮闘も抜きには語れない。
七回まで投げた長谷川投手からバトンを受けた有吉弘毅投手は、難なく先頭を取ったものの3連続四球で一気に満塁のピンチを招いてしまった。
そこでマウンドに上がったのが矢鋪投手だ。なんと今季3度目の満塁での登板だ。
「いく準備も気持ちも全部整ってて。まぁ満塁ってのはわかってたけど、ほんとに満塁なんかなと思って一回グラウンド見たら、ほんとに塁が埋まってて(笑)。まじか~、また満塁か~って思いながらマウンドに上がって、そしたら武田監督が『すまん』と(笑)」。
絶体絶命のピンチを、こんなふうに楽しげに振り返る。恐るべき強心臓だ。
さらに、このとき打席に迎えたのは大松尚逸選手(千葉ロッテマリーンズ―東京ヤクルトスワローズ)だ。ケガからの復帰明けとはいえ、NPBでは強打で鳴らした選手だ。
「名前を聞いただけでも『やばい』と思うくらいすごい選手なんで」と、いきなり3ボールになった。
しかしそれでも矢鋪投手は落ち着いていた。このボール3つも、初球はきわどいところから入るなど自らが意図したところにしっかり投げ、冷静に判定を受け止められた結果だったからだ。
そこで「一回吹っ切ろうと思って。別にこのランナーを還しても、自分の自責じゃないしって思って(笑)」。
そしてストライクを2つ取ったあと、スライダーでみごと空振り三振に斬った。
「腕振って、ボールでもいいからきわどいところに投げよう、高さを間違わずに膝元を狙って投げようと思って」。
■多田野数人氏から教わったこと
この日の状態も、自らに自信を持たせてくれた。
「ブルペンでもマウンドでも、まっすぐが走っているなって僕自身も手応えがあって、腕振ったらなかなかヒット打たれないんじゃないかなっていうのはあった。喜多さんにもいつも『腕振ってこいよ。信頼してるからな』って言われてるんで」。
しかしそれでも、腕を振りたくても縮こまってしまっても無理はない場面だ。何がここまで矢鋪投手の精神を安定させているのか。
「スタンドを見たり空を見たりして、落ち着こうとしている。大松さんから三振取ったあとも、一回どこか見て切り替えた」。
この“精神安定法”を始めたのは、昨年からだという。教えてくれたのは、2017年まで石川で投手兼任コーチを務めていた多田野数人氏(現北海道日本ハムファイターズ・プロスカウト)だ。
「僕、2アウトからけっこう打たれて自滅することが多くて、『2アウトからしっかり気を引き締めよう』っていうこともあって、多田野さんから『どこかを見ろ』って言われていた。それが去年くらいからできるようになった」。
周りを見ることで気持ちの余裕が生まれ、また、気持ちの余裕があるからこそ周りを見ることもできる。
さらに「喜多さんも内野手もみんな声かけてくれるんで」と、仲間の励ましにも支えられている。
満塁で大松選手から空振りを奪ったあと、次打者の清田亮一選手を1球でセカンドゴロに仕留めて、堂々とベンチに帰った。
「ほんとはそんな余裕はなかったけど(笑)。でも今年3回目の満塁だったので落ち着いていけた」。
もうすっかり“満塁キラー”を襲名したといえる。
そしてイニングをまたいで次の九回も3人で締め、6セーブ目を手にした。さらに翌日もセーブシチュエーションで連投し、リーグトップタイとなる7セーブ目をマークした。
■武田勝監督も舌を巻く
そんな守護神を武田監督は手放しで讃える。
満塁の場面を振り返り、「こっちは1点オッケー。四球でもいい。次のバッターから切り替えて、併殺や三振を取ってくれたら…と思っていたけど、その上をいく、あいつは(笑)。困ったときに変化球でストライク取れる技術がズバ抜けている」と、期待を上回る結果を見せてくれる愛弟子に目を細める。
さらに矢鋪投手自身のボールの意図を聞き、「そういう言葉が出る時点で成長している。『きわどいところ攻めよう』みたいな言葉を発するやつじゃなかったのに。ナヨナヨしてるやつだったのに(笑)。そこがもう自信を持ってる証拠」と、その実力はもちろんのこと、精神的な成長を心から喜ぶ。
満塁を任せること、実に3度目だ。自身も投手であるゆえに、その過酷さは武田監督が一番よく理解している。
それだけに「困ったときはあいつしか頼めない。僕らでもできない。絶対に出されたくない。前のピッチャーの結果が出たあと、楽なところに出してほしいのが心理。それを嫌がらずに、仕事だし、楽しみだし、投げたいしっていうのが上回っている」と、コールするときは最敬礼なのだ。
「だからチームが勝つ。矢鋪はそれくらいの選手になっちゃった」。
指揮官からの、そしてチームメイトからの全幅の信頼を全身で受け止めて、矢鋪投手はこれからも腕を振り続ける。
この試合では、若き主砲のバットもおおいに勝利に貢献した。
次回は開幕から不動の4番に座る今村春輝選手の活躍を紹介する。
【長谷川潤*今季成績】
8試合 3勝2敗 43回 被安打53 被本塁打3 奪三振28 与四球14 与死球5 失点27 自責20 暴投1 ボーク0 失策0 防御率4.19
【矢鋪翼*今季成績】
21試合 2勝1敗7S 24・1/3回 被安打19 被本塁打0 奪三振22 与四球5 与死球1 失点5 自責3 暴投0 ボーク0 失策0 防御率1.11
(数字は7月1日現在)
(撮影はすべて筆者)
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