滋賀ユナイテッドに救世主あらわる!? 18歳のラッキーボーイの活躍で、初のサヨナラ勝利
■球団初のサヨナラ勝利
歓喜の瞬間は思わぬ形で訪れた。大型連休最終日の5月7日。ルートインBCリーグの滋賀ユナイテッドBCは、本拠地のひとつである湖東スタジアムに石川ミリオンスターズを迎え、4回戦を行った。
場面は7―7で迎えた九回裏、二死三塁。2ボールから投じられた球はワンバウンドしてキャッチャーの後ろに転がった。その瞬間、三塁ランナーはベースを蹴ってホームを駆け抜けた。
滋賀ユナイテッド、初のサヨナラ勝ちだ。
■序盤の大量失点。終盤の2ホーマーで追いつく
波乱の幕開けから、もつれにもつれたゲームだった。初回、先発の鈴木志廣投手は1失点したあと、なおも二死二、三塁からこの日2つ目となる死球を与え、しかもそれが危険球で退場となった。
しかし急遽登板した中瀬祐投手が流れを断ち、裏の攻撃で相手のミスから即座に逆転し、3-1とした。
ところが中瀬投手もピリッとしない。二回、アセンシオ選手にグランドスラムを献上し、3-6とあっという間にひっくり返されてしまった。
そこからは両チームとも投手が踏ん張り、お互い決定打が出ない。特に滋賀は三回、四回とランナーすら出せない。
再びゲームが動いたのは五回だ。1、2番が作ったチャンスで4番のケビン・モスキート選手がタイムリーを放ち、1点返した。
さらに七回表に1失点した直後の攻撃で山本祐大選手のソロ、杉本拓哉選手の2ランと2本の本塁打で追いついた。
そうなるとホームゲームである滋賀は、同点でも九回はクローザー・平尾彰悟投手を投入だ。二死から死球で出したランナーを山本捕手が刺し、裏の攻撃を迎えた。
2連打で作った無死一、二塁のチャンスに、上園啓史監督がとった作戦は送りバントではなく強攻だった。「正直迷ったけど、思いきって打たせようと。(打球が)ちょっとでもズレたら…」と、この日2ランを含む3安打している杉本選手の打撃に賭けた。
残念ながら併殺打となったが、それでもランナーは三塁に進み、前本飛翔選手への3球目のボールで勝負は決した。
■新加入の強肩捕手・山本祐大がラッキーボーイに
ポイントとなったのは山本捕手の存在だ。今月入団したばかりの18歳だが、「合流してまだ1週間だけど、いいものがある」という上園監督の期待を背負って、3日から4戦連続スタメンマスクを任されている。
この日も自慢の鬼肩を発動し、盗塁を3つ刺した。すべてセカンドベース右側へのストライク送球だった。
打っても1本塁打を含む3安打。3本目は九回裏、先頭の打席で放ったもので、そのままサヨナラのホームを踏んだ。まさにラッキーボーイだ。
上園監督も「あの肩は間違いない。これで相手も走るのは簡単じゃないと思っただろう」とうなずき、バッティングに関しても「まだまだだけど、バットに当たらないわけじゃない。タイミングさえ合えば、今日のようなこともある」と伸び代に期待している。
「プロに行きたいって大学を蹴ってきたんだ。なんとかいい形で成長してくれたら」。バックアップは惜しまないつもりだ。
山本選手は言う。「大学の練習、3日間は行ったんですよ。でも…」。
求めていたのはより厳しい野球、そしてプロを目指せる環境だ。しかし入学した大学の野球部は、自分が考えていたものとはあまりにもギャップが大きすぎた。
それに気づくと即、動いた。目標が明確な選手は行動が早い。5月3日には滋賀ユナイテッドの選手としてスタメンマスクをかぶっていた。
京都翔英高校を3月に卒業したばかりの18歳だ。これまでバッテリーを組んできたのは、年上といっても最大2歳差まで。滋賀には一回り年上の西村憲というNPBで活躍した投手もいるが、常に「ピッチャーのことを考えてゲームに入っている」と言い、年上にも物怖じせず「もっともっとピッチャーの良さを引き出したい」と鼻息も荒い。
実際、5日の富山戦で初めて西村投手とバッテリーを組んだ。「『好きにやっていいよ』って任せてもらって、憲さんの良さを引き出すようにやったんですけど…」。自身が思うような結果が出ず、悔しそうに唇を噛む。
しかし西村投手は「肩も強いし、抑えるためになんとかしようと頑張ってくれた」と、その姿勢を評価している。
「いいピッチャーばかりなんで、もっとしっかりできるように」。毎日ノートにピッチャーの特徴や感じたことを書き込むなど、努力する日々だ。
打つ方ではBCリーグ初打席で安打を記録した。そのあと8打席は快音が聞かれなかったが、7日は1打席目の中前打と追い上げの狼煙となるホームラン、そしてサヨナラのランナーとなった最終打席のショート内野安打など、数字以上に鮮烈な印象を残す。
初ホームランは「ネクストの泉さんが『初球から思いきっていけよ』って言ってくれて、気持ちが楽になって打てました」と、先輩のアドバイスを守ってしっかり初球を叩いたという。
「上(NPB)を目指しているんで」。人の目をまっすぐ見て答える。今後の飛躍が大いに楽しみな選手だ。
■再び上昇気流に乗った韋駄天・泉祐介
泉祐介選手も、再び好調の波に乗ってきた。この日も3安打4出塁し、3度ホームベースを踏んで、トップバッターとしての役割を十二分に果たしている。
最終回も山本選手が出塁したあと、きっちりヒットで繋いだ。
これで打率を4割に乗せ、堂々のリーグトップである。
開幕戦こそ無安打だったが、その後はコンスタントに安打を重ね、4月は10試合中7試合(そのうち6試合はマルチ)でヒットを記録してきた。
しかし同29日から3試合連続で無安打が続いた。
そこで何度も見返したのが自身のバッティング動画だ。良かったころと悪くなってきてからの打撃の違い。コマ送りにしたり止めたりしながら、自分の姿に見入った。
気づいたのは、構えたときの重心の位置だ。「軸に乗る意識が強すぎて、外に力がかかり過ぎていた。後ろに体重を残しすぎてヘッドが出てこなかった」という。左足に残り過ぎることでやや左肩が下がり、煽り気味になっていたのだ。
「重心が5対5になるようにステップを入れることで、軸足には軽く乗せられるようになったんです」と、再び取り戻した打撃について明かす。
トップバッターとして「後ろにいいバッターがいるんで、塁に出れば還してくれる」と、まず出塁することを考えている。
さらに「状況を見ながらだけど、展開によってはもっと走っていきたい」。与えられている特権“グリーンライト”をより効果的に使っていくことを誓う。
もちろん目指すはNPBだ。「もっともっと力強いスイングをしないと通用しないし、走塁も速さだけでなくうまさも必要だと思う。ベース周りにしても、もっとベーランの練習をしっかりしていきたい。ワンプレー、ワンプレーの向上をしないと」。意識を高く持ち、日々切り換えて取り組んでいる。
■すべてを糧に・・・
4連敗のあとの2連勝。しかも初のサヨナラ勝ちに、上園監督の頬も少し緩んだ。
「ウチはここまで完封負けはない。なんとか対応してくれている」と野手には一定の評価を与えるが、今後の連戦における先発投手の人選や「酷使している」という中継ぎ陣のやり繰りには頭を悩ませる。
「言ってる間にすぐ前期も終了する。ちょっと考えないと」。勝った喜びも束の間、その目は既に来週の4連戦に向けられていた。
とはいえ、「いやぁ~、勉強になるわ~」と、どこか楽しげでもある。勝負手がハマるときもあれば、この日の最終回のように裏目に出ることもある。
それらすべてを糧にして、上園監督は一試合ごとに経験値を上げていく。
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