BCリーグ開幕戦―新監督対決を制した二岡智宏監督(富山GRNサンダーバーズ)
■初陣は富山・二岡智宏監督がサヨナラ勝ち
劇的な初勝利だった。2019年、ルートインBCリーグ開幕戦。富山GRNサンダーバーズは信濃グランセローズを相手にサヨナラ勝利を収めた。“新人監督対決”は二岡智宏監督が制した格好だ。
初回に先制した富山は3―1で迎えた九回表、同点に追いつかれた。が、延長十回、一死満塁。この日の先制点も叩き出している東良暁選手が、「信じていた。打ってくれると思っていた」という二岡監督の期待に応えた。
打球がレフトの芝で弾んだ次の瞬間、ダイヤモンドには三塁ベンチから飛び出したナインによって大きな歓喜の輪ができた。手を叩きながらニコニコとその様子を見守った二岡監督は、初采配に「疲れました」と正直な感想を洩らした。
「引き分けじゃなくて、勝てたっていうのが大きい。お客さんもたくさん入ってくれて、必死になって応援していただいたので、こういう結果になってよかったと思います」。クールで淡々とした語り口だが、その喜びはひしひしと伝わってきた。
■共通項の多い両先発に注目が集まる
注目の対決だった。両先発が富山・乾真大投手と信濃・福地元春投手。どちらも元NPB左腕、そして投手コーチ兼任なのだ。さらに両投手ともNPBではリリーフのみで、先発は一度もしていない。
乾投手は昨年、伊藤智仁 前監督(現 東北楽天ゴールデンイーグルス・投手コーチ)の意向で先発に転向し、ローテーションの柱として21試合に登板。14勝4敗でチームの勝ち頭となって富山の後期優勝に大きく貢献した。
福地投手は社会人時代以来5年ぶりの先発だ。NPB復帰を目指して「違う姿」をアピールするための挑戦となる。
先に点を許したのは福地投手だった。初回、二死から四球のあと、味方の失策も絡んで一、二塁としたところで東選手に長打で返された。ただ、野手の好返球で1点には留めた。三回も二死からだった。3番、4番の連打で1点を失った。
一方、乾投手は初回から少し様子がおかしかった。しきりに足元を気にし、何度も掘ったりしながら足場を固めていた。そのせいかフォームもしっくりいっていないようだった。
しかしボールが先行しながらも要所を抑えるピッチングはさすがで、三回まで0を並べた。
四回の失点は味方のエラーだった。けれどここで“降りて”きた。何かを掴んだ乾投手は後続を連続空振り三振に斬り、六回までを1失点でまとめた(5安打、6三振、2四球、自責0)。
■乾真大(北海道日本ハムファイターズ―読売ジャイアンツ)
「マウンドのせいにしたくはないんだけど…」と乾投手。メインで使う球場だけに、それをいい訳にはしたくないようだが、やはりうまく噛み合わなかったようだ。
強く投げるとゾーンにいかないと気づき、慎重に投げた序盤はなかなか球速が上がってこなかった。「最初はほんとひどかった。スライダーはバラバラやし、唯一、落ち球だけよかったんで、そこをなんとか使いながらごまかしながら」。これまでの“経験”だけが頼りだった。
「僕、初見はあまり得意じゃないんで(笑)」と初顔合わせが大半を占めた相手打者に対し、探り探りでもあった。「探りながら、自分のフォームと戦いながら、よう1点で済んだな、と」。そう笑いながら振り返る。
戦っていたのは相手とだけではなかった。自分のフォームを取り戻そうと、イニング間も必死に自分と格闘していた。これまで培ってきた引き出しを駆使し、考え、後輩にも助言を求め、ベンチ前でのキャッチボールでも試行錯誤した。
すると、失点直後の打者と対峙したときだ。「スイッチが入った。ファウルを取ったんだけど、そこで『あっ!きた!』と思って」。ファウルを取った上原遼選手への2球目まっすぐは、この日の乾投手の69球目だった。「そこからは配球できるようになった、やっと。自分で操作できるようになった」。
“スイッチ”とは、「グローブの使い方」だったという。「前に突っ込んでたのもあるけど、ふわ〜んと流れてたんで、グローブをちゃんと止めるというか。左腕と右腕が一緒にいく感じがあったので止めて、そしたらグルッと回れるようになったんで、『あ、きたきた』と。そのあとは大丈夫だった」。さすが百戦錬磨だ。試合中に気づき、修正できるのだ。
五回で92球に達していた。監督から「どうする?もう1回いくか?」と訊かれ、「六回、もう1回いきます」と答えた。「まぁ六回まで投げないと後ろの子たちに託せないと思って、意地です(笑)。ほんとなら五回で代わっている。開幕やし、100球近くいってたんで。意地でいきました」。六回は10球、三者凡退で締めた。
■富山の「新 勝利の方程式」はフレキシブル
七回からは継投だ。今季の富山の勝ちパターンは確立されている。前中日ドラゴンズ・山本雅士、新外国人・ジャレット ブラウン、昨季のクローザー・菅谷潤哉。この3投手が七〜九回を担う。
ただし順番、回、回数はその日によってシャッフルする。イニング途中やイニングまたぎ、ランナーの有無など様々なシチュエーションを経験させるために、あえて固定しないという。すべてはNPBへ向けてのアピールのためだ。
この日はまず山本投手から登板した。「開幕戦という特別な意識があって、上ずってしまった」と先頭に四球を与えながらも、林崎龍也捕手が刺してくれたことで「そのアウトで落ち着いた」と、後続は難なく断った。
「責任あるところを任されているという自覚を持って投げたい。どんな状況も対応できるように」と意気込む。もちろんNPB復帰を望んでのBC入りだ。
「今までの自分以上のものを見せられるように。そのために特に重点を置いているのはストレートの質、精度。いいときと悪いときの波を小さくしたい」。進化した姿を見せていくつもりだ。
続いては菅谷投手がマウンドに上がった。「先頭はちょっと浮き足立った」とは言うものの、オープン戦からの好調を維持し、簡単に3人で終えた。
縦振りのフォームに変えたことでコントロールに苦しむこともなくなり、力感なく投げられている。さらには新球フォークが武器として使えるようになったことで、気持ちの余裕も生まれた。
この日も4番・ネルソン ペレス選手の初球に最速149キロを投じ、追い込んでからはフォークで空振り三振に仕留めた。「左バッターに使えたのでよかった」と満足そうに汗を拭う。
二岡監督も「今年入った選手っていうのは、グラウンドの状態とかマウンドの柔らかさとか気になるところもあるかもしれないけど、菅谷に関しては心配もない」と全幅の信頼を寄せる。
昨年はNPBの複数球団から調査書が届いたものの、指名漏れを経験した。昨年より上積みがないと指名は望めない。それを肝に銘じて、今季に取り組んでいる。
最終回はブラウン投手だ。いずれも簡単に追い込みながら連打を許し、四球で満塁とするとタイムリーと犠飛で同点に追いつかれた。「ボール自体はいいボールがいっていたと思う。ストライクと思ったのがボールになったところくらいから、ちょっとストライクを取りにいったところがあったのかな」と二岡監督。
ブラウン投手のボールのキレを信じたことと2連戦のあとが空くことで、延長に入っても続投させた。2イニング目は先頭に四球を与えはしたが、ペレス選手を注文どおり併殺に打ち取り、5番・佐野悠太選手も内野ゴロに仕留めて攻撃を待った。
■東良暁(東海大高輪台高―日本大学国際関係学部)
延長十回裏、先頭の河本光平選手がヒットで出塁した。暴投と犠打で三進すると、なんとここで信濃の柳澤裕一監督は2者連続の申告敬遠を選択した。燃えたのは打席に入った東選手だ。
「申告敬遠なんてはじめて。しかも2人!悔しかった。あるなとは思ってたけど、いざ目の前でやられたらね」。ハートに着火した。しかし頭の中は冷静だった。状況判断をして、打席に集中した。
「まず外野フライを打とうと考えた。外野フライを打てる球を待とうと思って打席に入った」。3ボールから2球、ストライクを見送った。一度もバットを振らずフルカウントになったところで、まっすぐに絞った。
そして6球目。「なんも考えずにスムーズにバットが出た」と、狙いどおりまっすぐを打ち返した。その瞬間、勝利を確信した。
しかしその一方で、東選手には悔やまれるプレーがあった。四回の失点につながったエラーだ。開幕戦の緊張感からか、体が硬くなっていた。
本来、守備がウリの選手だ。「やっぱ守備でまず活躍するのが絶対だなと思ってるんで、そこから足も活かして、プラスアルファでバッティングもっていう感じ」と語る。
ずっとセカンドをメインに守ってきた。ポジショニングに自信を持ち、この日も五回、ペレス選手のライト前に抜けそうな当たりを好捕している。それだけに、自らの失策でチームの足を引っ張ってしまったことが許せなかった。取り返したい気持ちがバットに乗り移ったのかもしれない。
相手のデータもまだ少ない中だが、「打席に立ってる感じとピッチャーとのタイミングの取り方とか球種とか見て」位置どりを決めるという。「(相手打者のことを)知ってるのがベストだけど、知らなくてもだいたい打席の雰囲気で。バッターのタイプもあるけど、1球1球で変えてきたりするんで、データとかより自分の感覚(が大事)」と胸を張る。
「守れる選手は需要があると思うんで」。まずは“プラスアルファ”のバッティングで名を挙げたが、守備でスカウトの目に留まるよう、アピールを続ける。
■信濃・柳澤裕一監督
敗れた信濃の柳澤監督は「負けたら悔しい。一つのミスが勝敗を左右する」と唇を噛んだ。
初回から手堅い攻撃を仕掛けた。先頭が四球で出塁するや即、バントで送った。「いいピッチャーなんで、初回から仕掛けていかないと。得点圏にいったら、たとえNPB経験者であっても浮き足立つと思ったので。ペレスに期待した」。
戦前からロースコアを予想し、老獪に作戦を練った。しかし4番のペレス選手ははやる気持ちが空回りし、結果は出せなかった。
それでも柳澤監督は「生身の人間がやることだから。選手に普段どおりの力を出してあげさせられなかったのは監督の責任」と、かばった。
そんな中、先発の福地投手に光明を見出した。「最初は抜け球が多くて、ちょっと気負ってるところがあったけど、ただ、計算は立つ。十分信頼している。そのために開幕投手を任せたんで。もう1イニングで100球に収まるくらいなら」とさらなる上積みを期待している。
「今日は僕のミス。負けたら監督が悪い。選手は一生懸命やっている。最後なんか粘った姿を見せてくれた」とナインの健闘を讃えつつ、ひとつひとつのプレーを振り返り、今後に向けて風や守備位置などの観察力や洞察力を向上させることを課した。
そして「やっぱり勝つことの難しさってのは、これは僕もコーチしてるときにも現役やってるときにも思ってたけど、こうして監督という現場の責任者になってさらに感じた」と、うなずいていた。
■福地元春(横浜DeNAベイスターズ)
乾投手とともに注目された福地投手の先発でのピッチングは、6回を102球、4安打、5三振、2四球、2失点(自責は1)だった。
「NPBでも先発してなかったので、思いっきり不安だった。やるからには試合を作らないといけないし、初回はどうなるかと思ったけど、それ以降はうまくまとめられた。三振もイニングごとに増えていったので」。まずまずの手応えを得た。
もっとも大きかったのは、試合中に修正できたことだ。頭が突っ込んでしまうクセを松井聖捕手に指摘され、そこを意識したことで尻上がりによくなった。
「今までは自分のピッチング以上に結果ばかりを求めてしまっていた。今はそういう意識は変えていこうとやっている」。中継ぎの1イニングではなく、長いイニングを投げるメリットを見つけた。
スタミナに関しても「正直、不安だったけど、6イニング投げられたし、次につながる」と、不安もぬぐい去れた。ラストの1イニングはさらにギアを上げ、中軸を3人で斬った。「自分の中ではとてもよかった。ああいうことをしていけたらいいかなと思う」と納得してマウンドを降りた。
「球は速いけど安定感がないっていうイメージが自分にはあると思うので、そういうのを払拭したい。でも安定感の中にもボールやフォームの力強さがないとダメだと思うので、それは忘れずに。ただ力を抜くんじゃなくて、スピードもある中で先発もできるというのを見せていきたい。そこはこれからやっていく課題だけど、今日、少し兆しがあったので」。
NPBに復帰するためにと発見した、自分さえも知らなかった新しいスタイル。これをさらに昇華させて、必ず戻ってみせる。
富山対信濃の開幕戦は4―3で富山がサヨナラ勝ちしたが、今後11球団がどんな戦いを繰り広げるのか、楽しみにしたい。
(撮影はすべて筆者)
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