“勝イズム”が浸透。2年目を迎えた武田勝監督の手応え(BC・石川ミリオンスターズ)
■4月9試合を終えて5勝4敗の石川ミリオンスターズ
ルートインBCリーグの石川ミリオンスターズがノッてきた。4月を5勝4敗で勝ち越し、西地区(ADVANCE―West)の2位につけている。
「4月は5割をキープすることを目標にやっているので、連敗しないことが大事」と語っていたのは、指揮を執って2年目となる武田勝監督だ。
「まずは5割をキープして、5月6月に厳しい戦いが待ってるので、それに合わせていくっていうのが、今はできている状態」。徐々に手応えを感じはじめているという。そんな武田監督に今季の石川の展望を聞いた。
■新加入の捕手がもたらす好影響
武田監督の手応えの根拠は、まず新加入の捕手にある。今季、主戦でマスクをかぶっているのは喜多亮太選手だ。
「守備の面でしっかり失点を少なく、失点したとしてもバッティングでカバーしてくれたりとか、いろんな意味でミリオンスターズにはなかった野球観というのを取り入れてくれている」とうなずく。
「喜多は経験豊富。1年目だけど、そういうの関係なく、勝ったときも負けたときもチームの要として締めてくれている。本人も1年でプロに行きたいという気持ちが出てるので、そこがうまく絡み合っている」。入団したばかりだが、武田監督の信頼が非常に篤い。
敦賀気比高から社会人野球のセガサミーで明日なき戦いを経験してきた喜多選手は、昨年の「第2回WBSC Uー23ワールドカップ」にも選出され、準優勝に輝いている。
武田監督は喜多選手を「ピッチャーに言葉にして伝えられる。ほんとにキャッチャーらしいキャッチャー。ウチにはいなかったタイプ」と評する。
「小林(恵大)にしても(安藤)ケビンにしてもおとなしさがあった。喜多はまた違ったキャッチャーという一面を見せてくれている。彼らもそれを見ながら、キャッチャーというのはピッチャーとのコミュニケーションが大事だっていうことをあらためて感じてると思う。目に見えないけど一番大事なところ。これは経験しないとできないことで、いろんなピッチャーを受けてきたから。ひとりひとりに丁寧に言葉をかけられるというのは、一番の武器」。
さらに「喜多の場合は強気のリードというか、どんなピッチャーでも引っ張れる」と付け加える。
そしてもうひとり、「ピッチャーのその日の一番いい球を選択していけるタイプ」という岡本仁選手も今季加入した。
岡本選手はPL学園高から立正大を経て、愛媛マンダリンパイレーツ(四国アイランドリーグ)でマスクをかぶってきた。新天地での活躍を誓っての入団だ。
捕手を2人も獲得したのには、こういうわけがある。「いて困らない、キャッチャーって。いろんなタイプのキャッチャーがいてもいい。ここ2年、ミリオンスターズはキャッチャーで苦しんでいたのが現状だったので」。ウィークポイントの補強に成功したのだ。
「もちろん小林もいいけど、どうしても盗塁されるケースが多かった。ピッチャーも負担になっているということもあったので、そこでどっしりしている岡本と喜多がいてくれると、やっぱりピッチャーも思いきって変化球で攻められる。まっすぐでいかなきゃいけなくなってエンドランをかけられてしまって、それがピンチになっちゃう状況もあったので、それをカバーしてくれているのは大きい」。
喜多選手、岡本選手ともに「肩が強い。それに2人ともバッティングもいい」と、強力な捕手2人の加入は、指揮官としても大助かりのようだ。「違ったキャッチャーがその日によってゲームをメイクしてくれるというのは心強い」と頬を緩める。
主戦は喜多選手だが、ほかの捕手陣も「調子を維持し続けるのに、ファーストでも併用しながら。その次に誰でもマスクをかぶれる状態にもあるということは、安定感というか、守備に対しての安心感があるので、ピッチャーも思いきっていいピッチングができる」と、ゲーム勘が保てるよう考えて起用しているという。
捕手陣がお互いに刺激となり切磋琢磨しているのが、石川が好スタートを切った大きな要因であるようだ。
■安定している先発ローテーション
そんな捕手たちが引っ張る投手陣も整備が進んでいる。4月のチーム防御率は2.72。2点台は石川だけで、リーグトップの成績を誇る。
先発は帰ってきた長谷川潤投手を筆頭に、今年覚醒した内田幸秀投手、昨季チームトップの9勝を挙げた永水豪投手が盤石でローテーションを守る。
「基本となって回ってくれているし、まずはしっかり5回を投げきるというピッチャーの役割を果たしてくれているので、今後1イニングでも長くということをテーマにやってほしい」と武田監督。
そして「これから連戦が始まってくるので、そこでまた近藤(俊太郎)とか練習生もいろいろ控えている。今のうち…4月5月の間に、先発陣は形として作っておきたいというのは本音」と続ける。
「形として作っておく」ために、たとえばこんなことがあった。4月19日に先発して2回4失点で負け投手になった飯野元汰投手を同24日、7―1とリードした最終回に使った。
「短いイニングからもう一度、1つのアウトの大事さというのを感じてもらいたい」との意図での起用に、飯野投手は1回を三者凡退で応えた。
「ここからまた積み上げていけば自ずとイニングも増えてくるし、困ったときにまた先発に戻ってもらう。ゲームで失敗したものはゲームで取り返してもらいたい。また、勝ちゲームにも投げさせないと本人の自信にもならないので。いいピッチングをしてくれたので、それが2イニング3イニングになって積み重ねていくことが大事」と、武田監督も今後の投球に期待を寄せる。失敗してもすぐに取り返せるようチャンスを与え、戦力として整えていく。
■多彩なブルペン陣
クローザーは「あえて置かない」という。「矢鋪(翼)は一番コントロールがよくてバッターとの駆け引きができるということで、後ろに置いておきたい」と現在のところ、矢鋪投手が後ろを担うことが多いが、武田監督の考えはこうだ。
「随時、調子のいいというか、誰がいってもおかしくないという状況を作ることによって、常に緊張感の中でピッチングができる。いろいろ経験させておくと夏場以降、チーム自体が助かるので、今はいろんなピッチャーがどんな場面でも、ワンポイントでもという考えで、抑えをおかないという設定はしている」。
“予定していた助っ人”がまだ合流していないが、むしろアテにしなくていいよう各自にスキルアップを課す。
左の有吉弘毅投手が計算できるようになったことも、今季の好材料だ。
「ひとつひとつ段階を踏んで成長してくれたので。あとはもっともっと自信をもって投げていくべき。今のところはやってもらわなきゃ困るという立場で使っているので、堂々と安心して送り出せるようなピッチャーになってもらいたい」。
求めるものは、これまでとは格段に上がった。
「成長度合いはほかの選手に比べたらゆっくりだけど、逆にゆっくりが彼の財産になるということを伝えている。やっと3年目でよくなってきているというのは実感していると思うので、そこは継続してほしい」。
天塩にかけて育ててきた愛弟子の成長に、目を細める。
■チームを、そして打線をも牽引する神谷塁選手
一方、チーム打率.273とリーグ4位の打線については「最近、打撃は好調。打席の中で自分たちで考えてやってくれているのが大きい。ただ振るんじゃなく、バッターとピッチャーの駆け引きを楽しみながら打席に入ってくれてると感じる」と、選手の自覚を頼もしく見ている。
「去年プロに行けなかった神谷(塁)とかが、チームを引っ張ってくれている。今年に懸ける意気込みとか、そういうのを結果として出してくれてるというのが、チームにとっても本人にとってもプラスになっている」。
チームを牽引する神谷選手を1番ないし2番に据えることで、その足も活かした多彩な攻撃が可能となっている。神谷選手は4月の9試合を消化して、打率はリーグ4位の.429、盗塁はダントツの11だ。
■新4番・今村春輝選手に“4番道”を叩き込む
打線の核である4番に座るのは新人の今村春輝選手だ。星稜高から金沢星稜大を経て入団した、バリバリの地元っ子だ。
「今村には1年で結果を出してプロに行ってもらうよりは、しっかり4番として大成してほしい。まずはBCリーグがどういうものかっていうのを感じてもらう時期」と、長い目で見ての起用だと明かす。
周りの選手がしっかりしているからできるということもあるが、当初の“アテ”が外れたことによる策でもある。
「彼の中でもそれがチャンス。ずっと4番で居続けることによって今後の野球人生が変わる。大学では苦しんだようだけど、環境を変えてまた自分のスタイルというものをもう一度取り戻してほしい。そういう意味ではたぶん、ずっと使い続けると思う。つらいときも4番として経験してほしい」。
チームの勝敗をも背負えるような“4番道”をしっかりと叩き込む。しかしまずは「野球を覚える」というところからだという。
「状況によって、チームバッティングなのか狙っていくところなのか、まずは『考え』を覚えるということ。4番というのはそういう仕事もある。ただ長打を打つだけが4番じゃない。右打ちも新塁打も覚えなきゃいけない。いろんな役割がある4番として成長してほしい」。
野球人として大きくスキルアップするよう、4番に置いて勉強させていく。それは逆にいうと、それだけの逸材であるということだ。今村選手の成長曲線もまた、今季の楽しみのひとつだ。
■「勇気」を掲げて突き進む
石川にきて3年目、監督2年目の今季、武田監督は「既存の選手たちがそれぞれに成長してくれてるおかげで、今こうやってほんとにいいチームになってきた」と目尻を下げる。
「去年の悔しい結果っていうのを今年に懸けて、彼ら自身がうまくなりたいとか強くなりたいとか、そういう気持ちが試合に顕れている」。
昨年の前期3位、後期4位という成績からの巻き返しを誓う選手たちを頼もしく感じているという。
さらには「新しく入った選手と既存の選手がうまく融合してくれている。非常に助かってるというか、別に何も采配することはない」と、自主性が生まれてきた選手たちを尊重した試合運びができていることを喜ぶ。
なにより「みんなに余裕がある。自ずとエラーも少ないし、そういう意味ではうまく回っていると思う。守備から攻撃に転じてほしいと常々言っている。守備からリズムが作れているのが、得点にも繋げられている」と、掲げた指針を愛弟子たちがしっかり遂行していることに手応えを深める。ちなみに失策数10は、リーグで4番目に少ない。
そして、今後に向けて武田監督はこのように語る。
「試合は生きもの。調子の良し悪しもあるし、天候の悪いときもある。いろんなことが噛み合った中で、冷静に自分たちの野球をしていくというのが今年のテーマ。それがここまではできている。ただ、維持するというのが一番難しい。なるべくケガ人が出ないような環境づくりというのが、これからは大事になってくる」。
さらなる高みへ向かって―。“勝イズム”が浸透してきた石川ミリオンスターズは、「勇気」を掲げて突き進んでいく。
(表記のない写真の撮影はすべて筆者)
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