まさに“ミラクル”サヨナラ劇!上昇気流に乗ってきた福井ミラクルエレファンツ
■ミラクルサヨナラ勝利
「ミラクルや…」。
勝利のハイタッチを終え、ベンチ前で白い歯をこぼしたのは福井ミラクルエレファンツの田中雅彦監督だ。
5月11日、丹南総合公園野球場で行われた対信濃グランセローズ4回戦。5-8で迎えた九回裏に一挙4点を取ってサヨナラ勝ちを収めた。
「こんなん今季初。やっとね…」。安堵の笑みをもらす田中監督。そう、“やっと”だ。
昨年は西地区(ADVANCE―West)王者に輝いたチームが、今季は開幕から低迷していた。首位に最大7ゲーム離されたこともある。
しかしここへきて、昨年の好調時の雰囲気が出てきたのだ。
そこには田中監督の“ある考え”があった。
■サヨナラのヒーローは地元・福井市出身の坂本竜三郎選手
サヨナラのヒーローになったのは、球場からほど近い鯖江高校を卒業したばかりの坂本竜三郎選手だ。3点を返して同点に追いついた一死一、三塁で打席に入った。
「打ったのはスライダーです!」と初球の変化球をレフト前に運んで、チームにサヨナラ勝ちをもたらした。「待ち球とか決めてなかった。反応で打ちました」と声を弾ませる。
ヒーローインタビューでは、「消極的にいってミスするなら、積極的に打ちにいったほうがいいと思って、ガッツリいきました!最高の結果になって満足しています」と、地元の応援に笑顔で手を振って応えた。
「緊張して足が震えてました」とも話したが、とてもそうは見えなかった。妙に落ち着いている。泰然自若としているのか、はたまた天真爛漫なだけなのか。
そしてこんなことを言う。「九回になったとき、なんとなく回ってくる気がして…勘なんですけど」。打順は3番からだった。坂本選手の打順は9番だ。
「だから、ピッチャーのタイミングに合わせたり素振りしたり、すごく準備してました。6、7、8番の人より準備してました」。得意げに胸を張る。
田中監督も「うんうん。たしかに振ってたのは振ってた。それは高校生にありがちな『諦めないぞ』っていう姿勢なのかなと思って」と振り返る。
坂本選手本人はただ「『準備が大事』って、監督によく言われている。だからどんな局面でも打てるよう、起用に応えようと思って準備していました」と、日頃の教えに素直に従ったのだった。
■正捕手を目指して勉強中
「起用に応える」という意味では、その前の九回表からマスクをかぶった。勝負をかけた八回裏、先発捕手の中村辰哉選手に代打が送られたので、守備から出番が訪れたのだ。
「初めてじゃないかな、途中から出したの。でも意外にあっけらかんとしてるというか、あの場面で、この大事なときに緊張とかないんかなと見ていたけど、普通に守っていた」。
八回裏に1点取って、その差を3点に縮めた中での守りだ。その度胸に田中監督も舌を巻く。
やはり肝が据わっているようだ。日々成長する将来の正捕手に、「楽しみですよ」と田中監督の期待も膨らむ。
まだまだ初々しい19歳は「いまだに緊張して慣れないので、1試合でも早く落ち着いて、もっとチームの勝利に貢献したい」と、瞳をキラキラ輝かせる。
前途洋々な若き司令塔がチームを引っ張る日も、そう遠くないかもしれない。
■兼任コーチ・清田亮一選手、さすがの一発
九回裏、1点差に追い上げたのは清田亮一選手(兼任コーチ)の1号2ランだった。
先頭の須藤優太選手が四球で歩き、清田選手のカウントも3ボールとなった。ここでベンチは指示は「打て」だ。
清田選手は「5-8で点差があったんで、ランナーをためていくしかないというのがあった。打席に入るまでは繋いでいこうという意識で、甘い球だけ振っていこう」と考えていたという。
ボール球を3球見送ったあとの4球目、低めのまっすぐをとらえると、打球は一直線にセンターへ飛んでいき、122m先のフェンスをまたいだ。
「人生初のバックスクリーン!」と打った本人も目を丸くする。
「去年とはバッティングフォームを変えてて。とにかくボールの内側を打って、右中間にヘッドを出していく感じ」。
懐までボールを呼び込み、センターから逆方向を意識して打っているという。
この2ランで1点差まで追い上げ、ベンチのムードは一気に押せ押せになった。
■田中監督の采配がズバリ決まった
「あれでガラッと変わった」とうなずきながらも田中監督は、「その前の回の1点が序章になって効いていた」と振り返る。
八回裏に入るときのスコアは4-8だった。
一死から敵失で出塁した上下大地選手が盗塁で二進、代打・寺田祐貴選手の一ゴロで三進して二死三塁となったところで、澤端侑選手がセンター前へ弾き返して3点差に詰め寄った。
「4点と3点は全然違う」。田中監督は強調する。
「1点取った時点でやっぱり流れが…。ここで0点だったら完全に流れが相手にいってるんで、ピッチャーもプレッシャーなく投げられる。でも3点ってワンチャンある。ランナーを1人2人出しちゃうと、ピッチャーは『ヤバイ。もし一発いかれたら同点や』っていう心理になる。だからこの1点はむちゃくちゃ大きい」。
結果、そのとおりになった。
田中監督の采配がピタリとハマッた試合でもあった。
故障者の事情や控えメンバーのポジションなどを考慮し、さらに九回裏に再び勝負どころが来ると踏んで、八回裏からの代打策を練った。
結果、八回は中村選手だけに代打を出し、坂本選手にマスクをかぶらせ、山根弘太郎選手を温存して九回に使った。
それらすべてが機能してのサヨナラ勝ちだった。
思い描いたとおりの運びでの快勝に、田中監督も次戦へ向けての手応えを深めていた。
■先発はローテの柱・濱田俊之投手
投手にも触れておこう。
先発は濱田俊之投手だった。昨年は11勝を挙げ、西地区優勝にも大きく貢献した押しも押されもせぬ福井のエースだ。今季も開幕からローテーションの軸として奮闘している。
「なかなか勝ちをつけてあげられないけど、ずっと安定していいピッチングしてくれている。ほんと計算できるというか、間違いないピッチングをしてくれる。見ていて安心できる」。
打線の援護に恵まれなかったり、バックの守りに足を引っ張られたりなど、好投しても勝ちに結びつかない濱田投手を、田中監督も思いやる。
さらに、昨年の正捕手だった片山雄哉選手(現 阪神タイガース)が抜けたことにより、若い2選手がマスクをかぶっている。
田中監督からも「間違いなく頼りない部分があるから、ハマちゃんから教えてやってほしい。いいピッチャーを受けないといいキャッチャーは育たないから。そういう目線でも、いろいろ教えたってほしいんや」と、濱田投手にお願いもしているという。
「濱田は『はい。大丈夫です』って言って、エラーされてもなんとか踏ん張ってくれたりとか、むちゃくちゃ感謝している」。田中監督からの信頼は絶大だ。
この日も立ち上がりは上々で、力強いまっすぐを主体に信濃打線を押していた。しかし味方の拙守もあり、先制点を献上。その後も加点されて7回を4失点でマウンドを降りた。
「野手が点を取ってくれそうな雰囲気があったので、粘って投げていた。でも長打を打たれたらいけない場面で打たれたのは悔しい」。
一時は逆転もしただけに、同点に追いつかれた七回のロドリゲス選手の本塁打を悔やむ。
初対戦となった佐野悠太選手に対しても「初球から積極的にまっすぐを振ってきている中で、簡単にまっすぐから入りすぎた」と入り球など反省点を挙げ、次戦でのリベンジを誓っている。
ただ、まっすぐの手応えは非常にいい。「ゆるい変化球を使いながら、バッターに的を絞らせないようにしたい」。今後、見せ球にも決め球にも自在に使えるよう、バッテリーで再考していく。
打線の状態も上がってきたので、ここからまた勝ち星を積み重ねるつもりだ。
■福井ミラクルエレファンツが復調したわけは・・・
4月は9試合を戦って1勝8敗だった。最大7連敗も経験したが、5月に入ってここまでは8試合を4勝3敗1分けと健闘している。僅差をモノにし、「負けていても、いい試合ができている」と田中監督も納得の表情だ。
戦い方が明らかに変わってきた。ゲームが締まってきた。この日の試合に象徴されるように粘り強く、諦めない姿勢を見せている。
実は、そこにはわけがある。2年目の指揮を執る田中監督が何に気づき、どのような“手当て”をしたのか。次号で紹介する。
(撮影はすべて筆者)
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