「飢え死に寸前の殺人犯」金正恩の聖地で即時銃殺
中国との国境に接する北朝鮮の三池淵(サムジヨン)は、朝鮮民族の聖なる山である白頭山(ペクトゥサン)を擁し、故金日成主席が抗日パルチザン活動の拠点とした(とされる)地域で、北朝鮮の正史では故金正日総書記の生誕の地とされるなど、聖地中の聖地と言うべきところだ。
近年は、金正恩総書記が旗振り役となって大規模な再開発が行われ、「高原文化都市」へと生まれ変わったと宣伝されている。そんな三池淵で凶悪な殺人事件が起き、人々を震え上がらせている。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
事件が起きたのは先月23日のことだ。市内に住む60代女性とその10代の孫娘が、近隣住民により自宅で遺体となって発見された。それぞれ首と胸に5〜6か所の刺し傷があり、家の中に何も残っていなかったことから、三池淵市安全部(警察署)は金銭目当ての強盗殺人と見て捜査に乗り出した。
女性は、タバコやキャンディを売って、娘から預けられた孫娘を育てていた。
容疑者は、品物や現金を盗もうと女性宅に忍び込んだものの、女性に見つかってしまい、持っていた凶器で殺害したものと見られていると、情報筋は説明した。
盗まれたものを金額に換算しても、中国人民元で1000元(約2万1700円)にも満たない。三池淵市民は「この程度のはした金のせいで2人の命が奪われた」「安心して暮らせない」と嘆いている。
また、情報筋は、強盗殺人が相次いている背景について説明した。
「2人の死には、最近続いている経済難が大きく影響している。生活苦のために強盗が増えている。以前なら空き巣に入っても、家人に見つかれば逃走したものだが、今では暴力を振るったり殺害したりしてでも、金目のものを奪う事件が頻繁に発生している」
上述の通り、三池淵は「白頭血統」(金氏一家)を象徴する場所であるが、情報筋は「いかに意味のあるところであっても、食べ物やお金がなければ、人々は飢え死にを免れるために強盗をやる」と述べた。
北朝鮮では、コロナ明け後も食糧難が解消せず、飢えに苦しむ人が少なくない。市場を抑制し、穀物の事実上の専売制度を復活させようとする国の試みがうまく行っているとは言えず、そのあおりで人々の生活はギリギリの状態だ。
社会安全省(警察庁)は今月初旬、全国の安全部に次のような指示を下した。
「社会の恐怖と不安を煽る殺人犯は直ちに銃殺せよ。ただし、外部(外国)に情報が流出しないように非公開で行い、銃殺後に住民に知らしめよ」
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
公開銃殺が相次いで行われれば、国際社会からの批判が高まる。一方で、銃殺にしなければ住民の不安が高まると当局は考えているのだ。そこで、非公開銃殺、後日発表という形にしたようだ。
しかし、「経済的困難という根本的な問題を解決しない限り、いくら厳罰に処しても今回のような事件はなくならないだろう」という点で、情報筋も市民も見方は一致している。