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人生を変えた後輩の言葉「楽さんなら行ける!」 石川(NLB)の守護神・上田楽は自らの可能性を信じる

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
石川ミリオンスターズ・上田楽(登録名は楽)

■人生を変えた後輩の言葉

 「楽さんなら絶対プロに行けますよ!」―。この言葉がはじまりだった。

 上田楽投手(石川ミリオンスターズ・登録名は)の背中を強く押してくれたのは、関西学院大学の1つ後輩、池端航洋投手(現高知ファイティングドッグス)だ。「人生を変えるような出会いでした」と上田投手は振り返る。

 「池端は僕よりいいピッチングをするんですけど、そんなピッチャーがめっちゃ褒めてくれるんです。そのころ、あんまり調子よくなくて自信がなかったけど、その言葉で自信が持てました」。

 2人で一緒にひたすら練習した。真面目でストイック、練習熱心…と、お互いに似ていた。池端投手から呪文のようにかけられる言葉はやがて己の中の信念となり、プロを目指そうと考えるようになった。

 そもそも大学に入って硬式ではなく準硬式を選んだのは、「シンプルに実力がなかった。硬式野球部は200人くらい部員がいて、そこじゃ活躍できへんなと思って。試合に出たいから」という理由だった。

 しかし、そこでの出会いがその後の運命を変えたのだから、そのときの選択は正しかったと胸を張れる。

 関学だけあって、大学時代のチームメイトや友人たちはみな卒業後、“ええとこ”に就職した。楽投手もまったく考えないではなかったが、やはり夢を捨てきれず、自分の可能性を信じて懸けてみたいという思いが強かった。

 それも池端投手の言葉があったからこそである。

■クラブチームを経て日本海リーグに

 卒業後の進路には、NPBを目指すために独立リーグを選んだ。しかし、大学4年時に他リーグのトライアウトを受けたが、大学時代はやや小さく軽い準硬式のボールで投げていたため、4年ぶりの硬式のボールでは「重い球を投げているみたいな感じで、ストレートの球速が130キロくらいしか出なかった」と本来の球が投げられず、合格することはできなかった。

 その後、社会人野球のクラブチーム「OBC高島」が受け入れてくれ、夢を追う場所ができた。まずは硬式ボールを馴染ませることからだ。プライオボールなどを使いながら自身の感覚を研ぎ澄ませて投げ込み、ようやく自分の球が投げられるようになってきた。

 だが、硬式野球ができる環境はありがたかったが、「ここじゃプロにはなれない」と気づいた。スカウトに見てもらう機会があまりにも少なく、さらには周りの選手たちとの「プロになりたい」という情熱の温度差がありすぎた。

 そこで1年後の昨年秋、日本海リーグのトライアウトを受け、岡崎太一監督の目に留まった。幼いころから地元の球団である阪神タイガースの大ファンだった楽投手は、エントリー後に岡﨑監督就任のニュースを見て、「現役時代、テレビで見ていた人や」と飛び上がらんばかりに喜んだという。

 「ご縁があるかもと思い描いていたら、ほんまにそのとおりになった」と自身の強運を感じた。

■クローザーに落ち着いてきた

 「人生を変えるために来た」というミリオンスターズでは、クローザーを務めている。岡﨑監督いわく、「楽は丁寧なんですよね。僕が九回に投げさせたいピッチャーっていうのは、丁寧に慎重に投げるピッチャー。丁寧さにはバッターはなかなか対応できない」との理由での抜擢だ。

 「監督から直接『クローザーでいくよ』とは言われてないんですけど、開幕の2~3試合前のオープン戦くらいからそういう使われ方をして、九回で考えてくれてはるんやなと感じていました」。

 望んでいたことであり、起用を意気に感じた。大学時代もクローザーで、クラブチームでも先発もしつつ、後ろで投げていた。

 「でも、これまでとは試合の規模も違う。独立リーグの公式戦でのクローザーは責任が大きいというか、自分ひとりの戦いじゃないんで、重みは全然違います。いい経験になりますし、自分の成績だけじゃなくてチームの勝ちも背負っている。優勝してグランドチャンピオンシップに行けばまたアピールができる。チームのみんながそのアピールできる場所に行くためにも、自分のピッチングは必要だと思っています」。

 ここまで6試合に投げて失点は開幕戦での1点のみ。防御率は1.50だ。9つの三振を奪って、奪三振率も13.50と高い数字を残している。

 「クローザーっていうポジションに落ち着いてきたなっていうのはあります。いい意味で慣れてきたというか、いい緊張感をもった中で投げられている。落ち着きのある緊張感ができてきているなというのは、すごく感じますね」。

 投げるごとに手応えを深まっている。

■上田楽の調整法

 「僕は投げてコンディションを整えるので」と、試合の前日はブルペンに入る。投げる15~20球の内訳はこうだ。

 「最初の5~7球くらいは自分にベクトルが向いているというか、フォームのチェックであったり、投げる感覚のチェックであったりをして、そのあと5球くらいはバッターをイメージしながらカウントを想定して、三振を取りにいくフォークとか、カウントを取りにいく左バッターの外のまっすぐとかカットとかを投げます」。

 頭の中でシミュレーションするのだ。そして最後の2~3球はリミッターを解除する。

 「コントロールも気にせず、思いっきりストレートを投げます、真ん中高めに。出力を上げるために、バーンと投げます」。

 ただ投げるのではなく、ゲームを想定したピッチングである。

 試合での登板前は、5球ほどで肩を作るという。「八回にこっちのピッチャーが投げはじめたときにキャッチボールをしだして、攻撃のときに座らせて投げるけど、7球も放ったら、ちょっと多いくらいかも」と、少ない球数で作れるのはブルペン向きだ。

 得意球はフォークで、カットボール、スライダー、カーブを操る。ただ、ポジション的にカーブは「点差があるときや、相手にあると印象づけるために投げたり、フォームを確かめるために投げたり、ですね」と、かなり稀有な球種ではある。

■2段モーションがハマッた

 今季を迎える前、冬の間に大きな改革をした。フォームを2段モーションに変えたのだ。

 「プロに行くにはもう一段階、球速も上げないといけない。それにフォーカスした改善で、このほうが出力が上がるんです」。

 「パーツ理論」の第一人者の指導を仰ぎ、トレーニングも見直して取り組んだ。

 楽投手にとって、2段モーションは「タイミングが合いやすい」と言い、「一度ためて、2回目に足を上げたときに自分のピッチングが始まるという感覚。そこでスイッチを入れる感じ」と説明する。

 ボールの回転数も上がり、その冬の時点でのラプソードの計測では、2430回転をマークした。

 「オープン戦のころは投げている感覚的にもあまりよくなくて、なんかまだしっくりきてないなっていう中で開幕したんですけど、ここ最近は自分の中で感覚がハマッてきたなというのはある。ここから上げていける自信もあります」。

 フィジカル、フォーム、そしてメンタルもすべてが合致してきた。

■理想のクローザーは藤川球児氏

 楽投手が掲げるクローザー像とは「相手を圧倒すること」だという。「九回に楽が出てきたら、もう負けだな」と相手に思わせるような存在感を求めていると語るが、それはすなわち、自身が幼いころから応援してきたタイガースの守護神・藤川球児投手そのものだ。

 藤川投手が持つ三振を取れる力、状況に対する対応力の高さなどは、いずれも「ずば抜けている」と讃え、自身もそれらを磨いていく。

 「僕のウリはキレのあるストレートと三振の取れるフォーク。三振の数にはこだわっていますし、そこが自分の持ち味だと思います。でもクローザーというのは、すごい球を投げられるだけでは務まらない。丁寧に、粘り強く、1球1球にチームの勝利がかかっていると思って投げています」。

 NPBに入ってからも、いずれはクローザーをやりたいと青写真を描く。

 その日に向かって上田楽は、今季の1試合、1イニング、1球に、魂を込めて投げ抜く。

【上田楽*プロフィール】

2001年2月24日(23歳)

183cm・93kg/右投右打

関西学院高校―関西学院大学(準硬式)―OBC高島

兵庫県出身/背番号16

最速:146キロ

球種:ストレート、フォーク、カットボール、スライダー、カーブ

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(撮影はすべて筆者)

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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