桧山進次郎氏&波留敏夫氏が開催する京都の子どもたちへの野球教室は、虎戦士も参加して今年も大盛り上がり
■今年の参加アスリートは
いつごろからか、こんな表現をするようになった。「師走の京都の風物詩」と。
12月に京都市内のわかさスタジアム京都で開催している「アスリートワールド学童野球教室」だ。コロナ禍で中断はあったものの、昨年4年ぶりに再開し、回を重ねて今年で16回目を迎えた。京都の学童の間ですっかり定着している。
例年、20数名のアスリート(プロ野球OB&現役選手)たちが指導役として参加し、約400名の学童たちに野球を教える。技術もだが、野球の楽しさが伝わればと、アスリートたちもオフのトレーニングの合間を縫って来てくれている。
ランニング、キャッチボールのあとは、投手、捕手、内野手、外野手の各ポジションに分かれて教室が繰り広げられる。それとは別に低学年のコーナーも設けられ、ボールの握り方から基礎を教える。
守備、走塁、打撃と丁寧な指導が展開され、「ナイスボール!」「いいスイングや!」などの声とともに、ときおり歓声も上がる。今年も大盛況だった。
では、今年の参加アスリートを紹介しよう。
■ミニトークショー
野球教室のあと、昼食をはさんでメインイベントとなるのだが、今年は予定時間より早く進行できたため、昼食後に急遽、桧山進次郎氏の発案でスタンドでのミニトークショーが開催されることになった。
これには子どもたちも大喜びで、貪欲に次々と質問の手を挙げる。質問を浴びせられたアスリートたちは真摯に答え、熱い空間となった。また、親御さんや見学に来ていたファンも大喜びで写真を撮りまくるなど、イレギュラーなメニューにスタンドはヒートアップしていた。
「来年への課題やね。来年もやるのかどうか。もし、やるとしたら音響とかも考えないとあかんしね。まぁ、新しいことに挑戦していくのもいいんじゃないかな」。
そう話す桧山氏は、より満足してもらえる野球教室にするべく、熟考していく構えだ。
■メインイベント・その1
メインイベントは2本立てで、「プロのデモンストレーション」と「アスリートVS学童」の真剣勝負だ。
まずは今年初参加の東北楽天ゴールデンイーグルス・酒居知史投手と田中貴也捕手の仲よしバッテリーが、“プロの投球”を見せてくれた。オフ期間で、ましてや軟球なので公式戦のようにはいかないが、それでもキレキレの球を投げ込み、傍で見ていた子どもたちは「すげぇ~」「速っ!」「すごい曲がったー!」「落ちたー!」と興奮が止まらない。
続いてシートノックだ。セカンド・小深田大翔選手(イーグルス)、サード・野村大樹選手(埼玉西武ライオンズ)、ショート・京田陽太選手(横浜DeNAベイスターズ)に、本職はキャッチャーの石原彪選手(イーグルス)がファーストを務めた。
藤田一也コーチ(ベイスターズ)が打つノックに、各選手は華麗な身のこなしで捕って投げる。ゲッツーやバックトスなどリクエストにも応え、それを桧山氏が「うまいねぇ」「柔らかいね」「足の運びに注目して」などと解説していく。子どもたちも見惚れ、プロの美技を堪能していた。
■メインイベント・その2
次は対決だ。子どもたちはもちろん全力でぶつかってくるのだが、アスリートもみな負けず嫌いだから、子ども相手でも容赦はしない。“大人げなく”本気で戦う。
まず、アスリート側が投手、学童側が打者で対戦する。マウンドには川原陸投手(阪神タイガース)が上がって2人の学童に投げ、次に松原快投手(タイガースが)が登板し、やや力みつつも腕を振った。
そして、満を持して登場するのが京都出身の大野雄大投手(中日ドラゴンズ)だ。「絶対に打たせねぇ!」と高らかに宣言すると、本番さながらのオーラを出しながらピッチングし、なんと3者連続三振に斬った。
悔しがる学童たちを尻目に、勝ち誇ったような笑みを浮かべる大野投手。プロの凄まじさを味わった学童は、これを成長の糧とするだろう。
続いては学童のピッチャーに対して、アスリートが打席に入る。この野球教室出身の石原選手や松尾汐恩選手(ベイスターズ)、中川勇斗選手(タイガース)、野村選手ら若手が打席に立ち、いずれもホームランを打ってやろうと必死にバットを振った。
打ち取った学童はもちろんいい笑顔を見せていたが、打たれた学童も悔しがりながらもプロとの対決を楽しんでいた。
そして大トリは、参加学童からピッチャーを1人選出し、桧山氏と対決をする。かつて、この野球教室でホームランを2発ぶち込んでいる、やるときはやる男だ。
おなじみのルーティンをしたあと、左打席に入った桧山氏は1球ずつ自分で解説を入れながら、狙い球を絞った。しかし、追い込まれてから粘りは見せたもののファーストファウルフライに打ち取られ、「打ち損じた~」と今年は悔しい結果に終わった。
■白熱のじゃんけん大会
最後はじゃんけん大会だ。アスリートが持ってきてくれた野球道具やウェアなどを、じゃんけんで争奪する。ある意味、この時間が一番真剣で、一番盛り上がっているかもしれない。
じゃんけんの勝ち負けに一喜一憂する子どもたちにアスリートたちも大爆笑で、グラウンドには歓声がこだましていた。
今回、野球教室に参加できなかった虎戦士らも景品を提供してくれた。
そして学童代表がお礼の言葉を述べ、これまた恒例だが、その学童を胴上げする。軽いから高く上がり、彼は5回、宙を舞った。またもやグラウンドは笑いに包まれ、和やかなうちにすべてのメニューが終了した。
■野球への恩返しの気持ち
桧山氏は「16回も続いているのは、(アスリートワールド事務局の)山本剛久代表の人間性とスタッフの努力やね。山本代表の心意気というかね、そこに惚れてスポンサーさんも援助してくださっている。スタッフのみなさんも本当によくやってくれている」と讃える。
「OBも現役選手も自分たちがたどってきた道だから、ちょっとでも恩返ししようという気持ちがある。子どもたちに夢を与えるっていう部分でね。短いオフ期間やけど、多くの選手たちが来てくれたのは本当にありがたい」。
一日中、ずっとマイクを握り続けて子どもたちに気さくに話しかけていた桧山氏は、「やっぱり子どもたちがかわいいからね」と、目尻を下げる。子どもたちを見ていて「そのときの人気選手を真似ようというのが、いつの時代にも見られるね」と、今なら大谷翔平選手だという。
「あそこまで活躍してくれているからこそ、野球に興味をもってやってみたいという子どもが出てきていると思う。海外もだけど、日本でも活躍する選手がどんどん出て、『あんなふうになりたい』と野球を好きになる子が増えたら嬉しいよね。僕らはそのサポートをしていきたい」。
実際、子どもたちはアスリートを憧れの眼差しで見て、瞳をキラキラさせていた。
■次なるプロ野球選手は誰だ!?
いや、子どもたちだけではない。初参加の酒居投手も田中捕手も、少年のようなはにかんだ笑顔で桧山氏と写真撮影をしていた。田中捕手は「だって小さいときから大ファンで、桧山さんの応援歌だけは今でも歌えますもん(笑)」と、少年時代にタイムスリップしたかのような表情をしていた。
こういうアスリート同士の交流も、この野球教室の醍醐味である。
「嬉しいよね。大野も最初、そういうことを言って参加してくれたし、ありがたい。自分もプロ野球界で一生懸命にやってきた甲斐があるなと思うし、今度は今の選手がそうなってほしいよね。石原くんなんてこの野球教室のプロ第1号で、松尾くんもプロ入りした。こうしてプロになって戻ってきて子どもたちを指導して、ね。子どもたちからしたら、身近にそういう経験者がいるって勇気もわく。彼らを見て育った選手がまた、プロに入ってきてほしいね」(桧山氏)。
小学生時代の石原選手は、この野球教室で“ナマ桧山選手”を見て感激し、同じく松尾選手は藤田選手からかけられた「キミはプロ野球選手になれるよ」という一言が、いつまでも心にあったという。
この連鎖がずっと続いてほしいと、桧山氏も願っている。
■若虎4人衆
今年はタイガースから若虎が4人、参加した。大先輩ばかりの中で、少々気後れしたかもしれないが、それでも子どもたちに笑顔で話しかけ、精いっぱい教えていた。
◆松原快
「京都の子どもたちの野球センスがすごく感じられました。うまいですね。関西の子どもたちはレベルが高いなと思いますね。
大先輩たちとご一緒させていただけて、どんな教え方をされているのか聞けて、僕も勉強になりました。今後の野球教室とかで活かしていきたいなと思います。
あと1カ月半くらいでキャンプなので、しっかり野球に向き合って2月を迎えたい」
◆川原陸
「京都の子どもたちが元気よかったんで、楽しくさせてもらいました。
僕も子どものときに城島(健司)さんの野球教室に行ったことあるんで、なんかこういうの、懐かしいなと思いました(笑)。
(対決は)楽しかったです。いいスイングしていましたよね。
来年は1軍で活躍しないといけない立場なんで、頑張ります」
◆中川勇斗
「すごく楽しかったです。(京都国際高校時代に縁のある)わかさでできたのがよかったなと思います。
(対決でのセンターオーバーのヒットは)いいボールを投げていました。初球から狙っていきました(笑)。
来年は1軍で1年間いられるように、このオフシーズンを大事にしていきたいです」
◆茨木秀俊
「子どもたちが喜んでくれたのがよかったです。あっちからは来づらいと思うので、自分から積極的にいったほうがいいかなと思って、どんどん話しかけました。
(トークショーではスタンドでもみくちゃに)質問とかいっぱいしてくれたので、いいコミュニケーションがとれたと思います。
来季は絶対に1軍で投げて、初勝利を挙げられるようにしたい」
桧山氏も「若い選手とはなかなか会って話す機会がないけど、こうして一緒にやったことで、これからあの4人に対する見方が変るよね。どの選手より注目して見てしまうし、頑張ってほしいって気持ちが入るもん」と、古巣の4人の後輩への“応援宣言”をしていた。
また、「(野球教室に来られないからと)サイン入りグッズを提供してくれたのも、ありがたいね」と、虎戦士たちの心遣いにも感謝していた。
■京都の子どもたちのために「第20回」に向かって・・・
波留敏夫氏(オリックス・バファローズ2軍監督)も「あと4回で20回ですね」と感慨深げだ。「僕も還暦に近づいているけど、なんとしても20回まではやりたいな」と意気込む。
20回も続いているのは「波留の力も非常に大きい」と桧山氏も頭を下げ、「今後も波留と山本代表と話し合いながら、僕もちょっとでも力になれたら」と、まだまだ元気に続けていきたいと意欲を見せる。
関わってくれるアスリートも増え、「アスリートワールドファミリー」はどんどん巨大化している。そして、念願のプロ野球選手も5人誕生した。
今後も京都の子どもたちのためにアスリートたちはひと肌脱いで、京都の野球を盛り立てていく。
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(表記のない写真の撮影は筆者)