プロ野球初!? 富山サンダーバーズの公式チアならぬ「公式よさこいチームみんと」が演舞で選手を鼓舞する
■プロ野球界初の公式よさこいチーム
プロ野球独立リーグの富山GRNサンダーバーズ(日本海リーグ)という球団はおもしろい。前回、“公式応援ロケンローラー”のキトキトロケンローラー寅さんを紹介した。素晴らしいエンターテイナーである寅さんが、サンダーバーズを盛り立てている。
(参照記事⇒「富山サンダーバーズ公式応援ロケンローラー、プロレス大好き寅さんが阪神タイガースを応援するわけとは」)
さらに“公式よさこいチーム”もあるという。野球とよさこい?これまで結びつかなかった両者がタッグを組んだ。
どういうチームなのか。はたまた、どのような経緯でそうなったのか。興味深い。
ここでも鍵を握っているのが、寅さんだ。寅さんはこう説明する。
「2018年にとあるイベントで、よさこいの大嶋さん親子と一緒になったんですよ。僕、よさこいって初めてだったんですけど、総踊りという出場チーム全員で1曲踊るのがあって、踊る前に曲に合わせて旗の紹介をする口上というのをしゃべるんですね。それを『やってもらえませんか』って言われて、即興でやったんです。そういうの得意なんで(笑)」。
まさに球場での選手飛び出しのコールのような感じ…つまりはリングアナウンサーばりのスタイルでやったら、非常に喜んでもらえた。
その後も「よさこいのイベントのときは、寅さんに旗の紹介をしてもらいたい」と頼まれ、2~3年ほど一緒にイベントをしていたが、コロナ禍で疎遠になっていた。
2021年から本格的にサンダーバーズでの活動を始めていた寅さんは、昨年ふと思いついた。
「球場でよさこいのイベントをやったらどうかな」と。
衣装も派手できらびやかだし、踊り手の数も多い。「スタジアムがにぎやかになるな」と考えたのだ。そこで、再び大嶋さん親子と連絡をとった。
まさにそのころ、娘の大嶋結衣さんは自身のチームを立ち上げようと逡巡しているところだった。
さらに、大嶋さん親子との雑談の中で、寅さんはひらめいた。
「よさこいチームをサンダーバーズの公式にしたら、めっちゃ新しいんじゃないか」。
折しも、公式チアリーディングチームのチアティーズが2019年12月末で活動を休止しており、そのポジションが空位となっていた。そこで球団の永森茂社長にもちかけると、「それはおもしろい」と乗ってくれた。
かくして今年、プロ野球界ではおそらく初だろうと思われる、球団の“公式よさこいチーム”が誕生した。その名を「みんと」という。
■よさこい20年選手が新チームを立ち上げた
よさこいとは、高知県のよさこい祭りから派生して全国に広がった踊りで、手に鳴子などを持って鳴らしながら舞うのだが、その踊りも曲もさまざまにアレンジされ、非常にダイナミックな演舞だ。さらに衣装も華麗で、見た目にも華やかなのが特徴である。
いまや全国各地で大小200以上のよさこい関連の祭りが開催されているという。
みんとの代表である大嶋さんとよさこいの出会いは20年も前に遡る。
「5~6歳のころ、母が地域の人に誘われてよさこいを始めて、わたしはついてっとるだけで何もわからず、いつの間にかやっていたって感じですね」。
そこから、大嶋さんの生活には常によさこいがあった。東京の専門学校に進み、そのまま就職しても、東京のよさこいチームで変らず活動していた。ところが世の中がコロナ禍に見舞われ、地元の富山に帰ることにしたのだが、故郷ではかつて所属していたチームがコロナの影響で解散してしまっていた。
そこで大嶋さんは一念発起した。「よさこいの次の時代を作っていかなきゃいけないのは、わたしだ」―。
そんな使命感を胸に、新たに自身でチームを立ち上げることを誓った。
とはいえ、先立つものが必要であるし、準備には時間を要する。立ち上げるまでは、他チームの祭りのスタッフとして経験を積んだ。
なかなか立ち上げが進捗しなかった中、昨年「サンダーバーズの試合をよさこいのイベントで盛り上げてほしい」と寅さんから依頼があり、試合前と試合中によさこいのイベントを2試合で実施し、大好評を博した。
このとき大嶋さん自身は踊る側ではなく運営スタッフとして参加し、実際の演舞は富山県内の何チームかにオファーを出した。だが、このイベントが決定打となり、大嶋さんの背中を押した。
チームを立ち上げるのは今だ、と決意し、いよいよ実行したのだった。
■全国での広報宣伝活動の役目も担う
昨年8月10日にチームを結成した大嶋さんは、「最初はほんと、不安でしたけど…」と言いながらも明るく笑う。メンバーも徐々に集まって、今では30人のチームに育ち、大きなよさこいの祭りにも参加している。
サンダーバーズの公式チームとなったのを機に、当初考えていた名前をやめて「みんと」と名づけた。サンダーバーズのチームカラーである緑に、選手の爽やかさを取り入れたという。
「よさこいの本場の高知県では、ほとんどが企業のスポンサーチームで、銀行とかスーパーとか企業名をそのままチーム名にしていたりします。でも、プロ野球の球団の公式チームは、ほかには聞いたことないですね。ウチだけです」。
日本初、世界中でオンリーワンだと胸を張る大嶋さんの、その瞳は誇りに輝いている。
みんとの球場での活動は、よさこいを踊って盛り上げることが第一だが、それだけではない。グッズショップに立って選手グッズを並べて販売を行ったり、抽選会のアシスタントをしたりなど、球団のボランティアとしてもさまざまな働きをしている。
さらにもう一つ、「外向けの発信もしたい」と力を込める。全国各地のイベントに出演しているみんとは、球場外のさまざまなところで「富山GRNサンダーバーズ」を喧伝しているのだ。
「ロゴを見て、『これ、なあに?』っていう会話になるんです。そこで説明をして…。富山だけでなく、全国の人たちにサンダーバーズを知ってもらいたいなと思っています」。
みんとをきっかけにサンダーバーズを知り、試合を見に富山を訪れる人もこれから増えてくるに違いない。
■よさこいの魅力は「つながり」
20年もの長きにわたってよさこいを続けてきた大嶋さんは、その魅力を「つながり、ですかね」と話す。
「ウチのチームも4歳のおちびちゃんから60代のお母さんまでいるんですよ。親子でやっとる人、職場仲間でやっとる人、いろいろで…。けど、上下関係はないんです。60代のお母さんに『もう~何やっとるんけ~』って気軽に言えるし、逆に4歳の子をみんなで面倒を見たり」。
30人のメンバーみな仲がよく、和気あいあいとしているのが伝わる。
さらに、ほかのチームとの「つながり」もあるという。
「夏に東京の原宿ですごく大きいよさこいのお祭りがあったんですけど、全国からいろんなチームが集まりました。そういうところで再会するお友だちが全国にいるんです」。
会えるのは年に数度でも、それが何年も続いている。そこで交流することがまた、明日への活力になっていると大嶋さんは微笑む。
よさこいは、踊る人も見る人も楽しめる。それはきっと、「内」と「外」それぞれのつながりが彼らを輝かせているからだろう。
■推しの雷鳥戦士は?
サンダーバーズを応援するみんとだが、メンバー各々に推しの選手がいるという。ちなみに大嶋さんは「加賀美さんです」と加賀美祐太選手の名前を挙げる。
神奈川県出身の加賀美選手は、武相高校から入団して3年目を終えた捕手だ。球場にはいつも一番乗りし、練習用のボールや用具をせっせと運ぶなど、いつも一生懸命だ。
「そう!そうなんです!その健気さがいいんです!」と、大嶋さんは我が意を得たりとばかりに声を弾ませる。
「勝手に『かがみん』って呼んでいるんです(笑)。あ、けど恥ずかしすぎて、まだ一回もしゃべったことはないんですけど(笑)」。
頬を染め、“推し”について熱弁する。
さらに続ける。
「かがみんは、試合後にお見送りするときも早く出てきて、一番最後までいるんです。お客さんへの気配りとかすごいなって見ているので、そのひたむきさをずっと忘れないでほしいなと思っています」。
“推し”への熱い思いは、語り出すと止まらない。
今季の加賀美選手はキャリアハイとなる15試合に出場した。先発マスクは12試合、そのうち8試合はフルで任され、少しずつ存在感を増してきているところだ。
「試合を見て、出ていたら『出てるぅーーーっ!』ってなります(笑)」と、大嶋さんのテンションも上がる。「来年はもっともっと試合でたくさん見たいです」と活躍を願っている。
ほかのメンバーもそれぞれ“推しメン”を強力応援しているが、チームとしてはサンダーバーズの優勝を力強く後押しする。
来季に向けて、「どんどんいきますよ!」と力を込める大嶋さん。これからもみんとはワンチームとなり、よさこいの演舞で選手たちを鼓舞していく。
【富山GRNサンダーバーズ*関連記事】
*富山サンダーバーズ公式応援ロケンローラー、プロレス大好き寅さんが阪神タイガースを応援するわけとは
*それぞれの道へ進む独立リーガーたち。富山GRNサンダーバーズ(日本海リーグ)の場合
*さらば、雷鳥戦士たち! “雷鳥魂”を胸に今季限りで巣立つ富山GRNサンダーバーズの選手から惜別の言葉