富山サンダーバーズ公式応援ロケンローラー、プロレス大好き寅さんが阪神タイガースを応援するわけとは
■キトキトロケンローラー寅さんって誰?
♪飛び立て~我らの~サンダーバーズ~
♪勝利へ~羽ばたけ~サンダーバーズ~
ゴー!ゴー!サンダーバーズ
ゴー!ゴー!サンダーバーズ
フレー!フレー!サンダーバーズ
スタジアムに響く伸びやかな歌声。その声の主、名前をキトキトロケンローラー寅さんという。富山GRNサンダーバーズ(日本海リーグ)の公式応援ソング「GO!GO!サンダーバーズ」を歌う“公式応援ロケンローラー”だ。
富山県を中心にミュージシャンとして、MCとして、パーソナリティとして、幅広いタレント活動をしており、名前に冠する「キトキト」とは、富山弁で「新鮮」や「活きがいい」という意味だとか。
テレビで、ラジオで、イベント会場で、はたまたライブハウスで、もちろん球場でも、富山県内あちらこちらでマルチに活躍している人気者である。
試合開催日の寅さんは忙しい。球場に到着すると、場外にスピーカーなど音響機材を設営する。そしてファンが来場しだすと、そこは“寅さんオンステージ”になる。訪れたファンは心地よい歌声に惹かれ、試合開始前のひとときを寅さんの歌とおしゃべりで楽しむ。
プレーボール直前になると、寅さんの姿はグラウンドのベンチ前にある。選手が飛び出すときのコールを務めるのだ。そのコールはさながらプロレスのリングアナウンサーのようで、寅さんの声によって選手は戦いに向けての士気を上げ、スタンドのファンは胸を高鳴らせる。
五回裏終わりのインターバルでは抽選会のMCを務め、七回裏の攻撃前には威勢よく歌い、ゲーム終盤に向けて球場のボルテージをさらに上げていく。そして勝利すると、ヒーローインタビューでも“にぎやかし”として花を添える。
また、表でしゃべっているとき以外は、試合中継のYouTube配信にて放送席に座り、解説も務めている。かたときも休むヒマはない。
選手は口々に「寅さんの声を聞くとテンションが上がる」と言い、スタンドのファンは「寅さんが盛り上げてくれるので、より楽しめる」と笑顔を見せる。
そんな、サンダーバーズにいなくてはならない寅さんに話を聞いた。
■過去には球場で歌えなかったことも・・・!?
寅さんがサンダーバーズに関わるようになったのは、2017年に公式応援ソングができたことがきっかけだ。知人から歌う人を探していると聞き、「やりたいです!」と二つ返事で引き受けた。そして翌年、正式に始動した。
「でも、当時は今みたいに毎試合、球場に来てはいないんです。夏のイベントとかファン感で歌うくらいで…」。
そう言って、思い出し笑いをする。球場まで来たものの、歌えなかった思い出があるという。
「砺波球場で歌ってくださいって言われて行ったとき、七回表の2アウトで降雨コールドになって…。僕、七回裏の前に歌うんですよ(笑)。初めての球場での歌唱がそういうことになった思い出があります」。
あと1つのアウトが…。雨が恨めしかった。
また、ボールパーク高岡の開幕戦で初めて歌うことになったときも、反響が大きすぎる球場内はとても歌える環境になかった。その後、音響設備を整えたが、その矢先にコロナ禍に突入して球場に足を運ぶことができなくなってしまった。
「もし仮に僕がウイルスを持っていて、1試合1試合が勝負の選手にうつしてしまったらと思うと、全然近寄れなくて…」。
選手のことを考えると、用心せざるを得なかった。
そして晴れて球場で歌える体制が整ったのが2021年で、以来、毎試合ホームスタジアムで美声を響かせ続けて4年になる。昨年からは選手とも、気軽に会話ができるようになった。
■人力車をリリーフカーにしたい
実は寅さん、サンダーバーズでは「歌う」「しゃべる」以外に重要な任務を担っている。球場イベントの企画、運営だ。
昨年から開催している「選手と行く!球場外周 人力車デート」というイベントは寅さんの持ち込み企画で、なんと寅さん自身が車夫として健脚を披露しているのだ。
人力車を曳きながら持ち前のトーク力を発揮し、選手とファンの会話がスムーズに運ぶようリードする。こんな盛り上げ方ができるのも、寅さんならではである。
昨年初めて開催したところ、大好評で「今年もありますか?」という問い合わせが少なくなかった。そこでボールパーク高岡2連戦でやろうと、今年は6月15日と16日に実施し、人気を博した。
聞けば寅さん、富山県高岡市の生まれだが、京都の平安高校(現龍谷大学付属平安高校)に進学し、高校から京都で一人暮らしをしていたという。
「平安っていうと『野球部ですか?』って言われるんですけど、剣道部なんですよね(笑)。しかもスポーツ特待とかではなく一般入試で。なんか二重三重の裏切りみたいで(笑)」。
京都在住時、清水寺周辺で車夫の仕事に就いていたことがあったそうだ。「ちゃんと(車夫の)研修を終えているので、しっかり曳けますよ」と、“プロの車夫”の矜持を見せる。
京の町で客を乗せて観光案内をしながら駆けてきた経験が、まさか故郷で活きることになろうとは。
実は、国の重要伝統的建造物群保存地区である高岡市山町筋(土蔵造りの町並み)ではイベント用に人力車を所有しており、普段は勝興寺に飾ってあるのだが、「僕、好きに使っていいと言われているんです」と、その人力車の使用権を与えられたことが、球場イベントを後押しすることになったのだ。寅さんの人脈だ。
「本当は人力車をリリーフカーにしたかったんですよ(笑)。マウンドまでは無理だけど、ファウルラインのところまで(救援投手を)乗せていったら、めっちゃおもしろいですよね(笑)」。
たしかにおもしろい。いや、前代未聞だ。全世界から注目されるだろう。
昨年だったら松原快投手(現阪神タイガース)や大谷輝龍投手(現千葉ロッテマリーンズ)、山川晃司投手(現ロキテクノ富山)らヘビー級のリリーバー揃いだったから、さぞや大変だったに違いないが…。
しかし残念ながら球場の許可が出ず、企画は霧消した。今後、なんとか実現してもらいたいものである。
■プロレスが大好き
そのほか趣味のプロレスが高じて、昨年の開幕戦には全日本プロレスの安齊勇馬選手を招き、試合前にトークショーを行った。
野球に縁のなかった安齊ファンやプロレスファンが球場に大勢訪れ、逆に野球ファンはプロレスに興味を持ち、2つのスポーツの化学反応が大ウケだった。
最終戦では昨年も今年もマットプロレスを開催し、これもちびっこから大人まで老若男女を楽しませることができた。
現在、FMとやまのラジオ番組「ヨリミチトソラ」内のコーナー「月刊リングサイド」に出演して“プロレス愛”を語っているくらい、寅さんとプロレスは切っても切り離せない関係なのだ。
先述した選手の飛び出し時のリングアナ風のコールも、もちろんプロレス好きであるがゆえだ。2021年の開幕戦、歌いに来たらコールもやってほしいと頼まれ、「じゃあプロレスっぽくやりますね」と、寅さんのオリジナルスタイルでコールしたのがはじまりだ。
「順番も変えているんですよ。これまでだと名前を言ったあとにポジション、出身地っていう順番だったんですけど、それだと盛り上がりどころが最初に来てしまうんです。なので僕はポジション、出身地、背番号、名前でやりますと。そうしたら名前が立つんで」。
尻上がりに盛り上がっていく形で、たしかにファンにとっても最後の名前のところでワーッとを声を上げやすい。また、その盛り上がった歓声によって、選手の士気もさらに高まるというわけだ。
■一番好きだったのは大豊選手
では、寅さんと野球の関わりはどうなのだろう。
「僕、野球経験はゼロなんですよ。(先述のとおり)剣道部でしたし。見た目は柔道とかアメフトって言われるんですけど…(笑)。でも、野球は大好きなんです、とくに90年代野球。それこそイチロー選手や松井(秀喜)選手が日本でやっていたころですね。中日とダイエーが大好きで、一番好きだったのは大豊(泰昭)選手だったんです、一本足の」。
シブいところ、くるなぁ~。
「90年代のダイエーといえば秋山(幸二)選手がいたり村松(有人)選手が盗塁王を獲ったりとか。小久保(裕紀)選手、城島(健司)選手、吉永(幸一郎)選手とか、2番・浜名(千広)選手とかね。パワフルプロ野球がすごく好きで、だから今、解説はパワプロの知識のみでやっています(笑)」。
そして高校時代、桧山進次郎先輩が母校に講演に来てくれたことで桧山ファンになり、虎党に宗旨替えした。
■松原快投手のドラフト指名に感激
近年、サンダーバーズはタイガースとの縁が深まっている。2018年に湯浅京己投手がドラフト6位指名されたのにはじまり、昨年は松原投手が同育成1位で、今年は佐野大陽選手が同5位でそれぞれタイガースに入団した。
昨年からドラフト当日、候補選手と同室で一緒に指名を待つようになった寅さんにとって、松原投手への思い入れはひとしおだという。
「球場でよくしゃべっていたし、ウチの娘(当時3歳)が来たときにお茶をくれたんです。今も娘は『快選手、お茶くれたの』って覚えていて(笑)。去年のグラチャン(独立リーグ日本一決定戦)も家族で見に行ったし、そういうのもあって快選手が指名されたときは涙が出るくらい嬉しかった」。
指名がなかった前年の悔しさを払拭し、夢をかなえた松原投手の喜びの涙は、寅さんの胸を熱くした。
以来、“虎熱”はさらに上昇し、「今年は2軍の試合の結果ばっか見ていました」と、松原投手の支配下昇格をせつに願っている。
■エンターテイナー・寅さん
シーズンが終わり、ファン感祭でも寅さんは躍動した。マイクを握ってMCを務め、絶妙に選手をいじりながら会場を盛り上げた。さらに本業?のミュージシャンとしても、ギターを演奏しながら高らかに歌い上げた。
“手作り”のファン感謝祭のイベントだが、しっかりとしたエンターテインメントとして成立していたのは、寅さんが携わっていたからこそだろう。
そのファン感謝祭の中で、選手たちはサンダーバーズの“公式よさこいチーム・みんと”と一緒によさこいに興じた。みんとをお手本にして見よう見まねで踊る選手たちの姿に、ファンは大いにわいた。
野球の球団を応援をする「公式よさこいチーム」とは聞き慣れないが、どういうものなのか。また、なぜそうなったのか。ここでも寅さんが深く関わっている。
次回はみんとについて、ご紹介しよう。(みんとの記事⇒「プロ野球初!? 富山サンダーバーズの公式チアならぬ「公式よさこいチームみんと」が演舞で選手を鼓舞する」)
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