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稲垣謙一

「ねるちゃんのいない私たちを見てくれるの?」――アイデンティティーに思い悩んだ日向坂46の歩みと挑戦

2019/08/31(土) 08:21 配信

オリジナル

乃木坂46、欅坂46などの「坂道シリーズ」の新グループとして今年誕生した、日向坂(ひなたざか)46。欅坂46の下部組織「けやき坂46(ひらがなけやき)」としてスタートした彼女たちは、約3年の紆余曲折を経て「日向坂46」としてのデビューに至った。デビューシングルは発売初週で約48万枚を売り上げるなど快進撃が続くが、一期生でキャプテンの佐々木久美は「まだ明確な個性がない」と話す。グループの象徴だった長濱ねるの離脱など、「グループがなくなってしまう」と思いつめた時期もあったという。メンバーの佐々木久美、小坂菜緒、上村ひなのに話を聞いた。(取材・文:田口俊輔/撮影:稲垣謙一/Yahoo!ニュース 特集編集部)

まだ未熟な点ばかり

「正直まだ『日向坂46といえば、これ!』という明確な個性がありません」

一期生でキャプテンの佐々木久美(23)は、今の日向坂46を冷静に見ている。

「ありがたいことに乃木坂46さん、欅坂46さんがつくり上げてくださった『坂道シリーズ』というブランドを受け継がせていただき、その流れで応援してくださる方が多いんじゃないかなと思っています」

佐々木久美

10月リリースの新曲も含め、3作連続でシングル曲のセンターを務める、二期生の小坂菜緒(16)も言う。

「全然まだまだ。先輩方と比べると未熟な点ばかり」

小坂菜緒

とはいえ、CD売り上げだけを見ても、日向坂46は先輩である乃木坂46、欅坂46と同等かそれ以上の結果を残してきた。3月に発売されたデビューシングル『キュン』は発売初週に約48万枚という数字を記録。先輩・欅坂46が『サイレントマジョリティー』で樹立した、「女性アーティストのデビューシングル初週売り上げ記録」を塗り替えた。続くセカンドシングル『ドレミソラシド』も初週約45万枚を売り上げている。

上品な雰囲気の乃木坂46、シリアスな雰囲気の欅坂46に続く新グループとして追い風を受けながら、日向坂46の放つ明るい「ハッピーオーラ」は、「坂道シリーズ」に新風を吹き込み、若者から強い支持を得ている。2019年8月、お台場で開催されたアイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL」では、大勢のファンがステージに詰めかけたほか、舞台袖には多くの現役アイドルたちが集まり、日向坂46のステージに見入っていた。

もっと苦労しなきゃダメ

「新人」と考えれば間違いなく快進撃を続ける日向坂46だが、その活躍が増えるたびに、「恵まれた環境にいるからこその結果」「苦労知らず」といった揶揄も目立つようになってきた。

佐々木は言う。

「たとえ『楽をしている』と思われても、いつか『やっぱ日向坂、スゴイ!』と思ってもらえるぐらいの存在にならないと」

小坂も佐々木の答えにうなずく。

「そういう方は、そう言っていればいいよと思います。『いつか見返してやりますからね!』という気持ちはあります」

唯一の三期生・上村ひなの(15)は、控えめに語る。

「私は入って3カ月でデビューシングルに参加させてもらったりと、恵まれた環境にいます。先輩方に追いつくためにはもっと苦労しなきゃダメですね。試練がやってくることは、ありがたいことです」

上村ひなの

私たち、なくなっちゃうのかな?

佐々木の「まだ明確な個性がない」という言葉は謙虚さの表れという見方もできるが、グループ自体、アンデンティティーの確立に苦労してきた経緯も反映されているだろう。日向坂46は欅坂46の下部組織、けやき坂46での約3年間を経て誕生したからだ。

日向坂46/けやき坂46の旅路は、不思議な形から始まった。2015年11月30日、欅坂46の最終オーディションに残りながらも辞退せざるを得なかった長濱ねるが、本人の情熱と運営の後押しにより、「特例」で欅坂46の追加メンバーとして迎え入れられることが決まった。しかし特殊な事情ゆえ、反感を呼びかねないとの懸念から、長濱は欅坂46の中の“一チーム”――「けやき坂46」のメンバーとしてまずは活動を始めた。

同時に、冠番組『欅って、書けない?』(テレビ東京)内で、けやき坂46の一期生募集を告知、長濱とともに“けやき坂46として”活動する仲間探しが始まった。2016年5月に佐々木ら一期生11人が合格。けやき坂46は12人で始動した。同年8月、欅坂46のセカンドシングル『世界には愛しかない』のカップリングに、初の単独楽曲『ひらがなけやき』が収録され、10月には赤坂BLITZでイベント「ひらがなおもてなし会」を開催。だがその後、半年近く目立った活動がなくなった。

「最初はみんな『いつか欅坂46さんになりたい!』と思い加入したものの、自分たちと欅坂46さんは別物だ……と徐々に気づいて。正直、『私たちはどこへ向かっているの?』と、よくわからないまま、活動が続きました」(佐々木)

立ち位置に悩む彼女たちに、思わぬ吉報がもたらされたのは2017年2月のこと。3月21、22日の2日間、Zepp Tokyoでの単独公演開催が決定。ワンマンライブ最終日には、5月から初の単独全国ツアーを開催することも決まった。

「この頃には12人での結束が強まり、『欅坂46さんになる』という目標は、『けやき坂46としてもっと頑張りたい』という思いに変わっていました」(佐々木)

8月には、小坂ら二期生9人が加入したが、一方でグループの存続を揺るがす「別れ」も訪れた。9月、グループの象徴・長濱が、多忙を理由にけやき坂46の兼任を解除、欅坂46の専任になると発表されたのだ。メンバーには大きな衝撃が走った。

「『ねるちゃんのいない私たちを果たして見てくれるの? このまま私たち、なくなっちゃうのかな?』と不安になりました」(佐々木)

しかし、彼女たちの覚悟はすでに固まっていた。

「どれだけ悩んでもその日は来ます。だったら、自分たちのできる全力のパフォーマンスを届けるしかないと思いました」(佐々木)

年末には全国ツアーの最終公演として幕張メッセ イベントホールでの追加ワンマンを実施。7000人の観衆を前に一期生、そして初ライブを飾った二期生が躍動。計20人のけやき坂46の姿は、このツアーを通して生まれた「ハッピーオーラ」という言葉の通り、見る人に笑顔をもたらした。

けやき坂46の終焉、日向坂46の始まり

2018年は、けやき坂46から日向坂46への大いなる助走となる一年となった。年明け早々、1月30日から2月1日の3日間にわたり「日本武道館3Days公演」を開催。4月には単独冠番組『ひらがな推し』(テレビ東京)が始まり、6月にリリースした初アルバム『走り出す瞬間』はオリコン週間アルバムランキングで1位を獲得した。同じく6月に始まった2度目の全国ツアーは、前年以上のキャパで開催された。

夏には、乃木坂46、欅坂46、けやき坂46の3グループ合同オーディションという初の試みを開催している。

「私はとても暗い性格なのですが、けやき坂46のハッピーな世界観を見ると、自然に笑顔になれるんです」(上村)

そう語る上村が唯一の三期生として選ばれたオーディションだ。当時14歳、自他ともに認める“変化球”な最年少メンバーは、けやき坂46に柔らかな風をもたらした。

年末には再び日本武道館で3日間コンサートを開催。全員の視線は、一つの大きな目標――けやき坂46として単独シングルデビューを果たすという夢に向かっていく。

そして2019年2月11日。3月のシングルデビューと「日向坂46」への改名がメンバーに告げられた。発表を聞いた佐々木、小坂たちは驚きとうれしさのあまり涙を流したほど。グループカラーは「空色」、名前には「空高く跳べるように」との意味も込められた。

そして3月の横浜アリーナでの「日向坂46 デビューカウントダウンライブ‼」が、日向坂46としてのシングルデビュー前の最後のステージとなった。けやき坂46に終止符を打った日と言ってもいい。

「新たなスタートが幕を開けるうれしさとともに、けやき坂46として『ひらがなけやき』を歌うのはこの日で最後なんだ……と思うと、複雑な気持ちになりました」(佐々木)

「ただ終わりゆく寂しさに引っ張られるだけじゃなく、日向坂46としての新しい一歩を、ちゃんと届けたいと思ってステージに立ちました」(小坂)

「私にとってこの日は卒業式であり、入学式になりました」(上村)

どんなにつらくても、ハッピーに過ごしていきたい

坂道グループといえば、メンバーの写真集の売れ行きも注目されている。日向坂46も8月に、初のグループ写真集『立ち漕ぎ』(新潮社)を発売した。

「私たちの旅行中にカメラマンさんがふと入り込んだような感じ」(小坂)

4泊5日にわたる沖縄での撮影は、終始リラックスした今の日向坂46全員の“素”の表情が写し出されている。

写真集『立ち漕ぎ』から(提供:新潮社)

初の水着撮影にも挑戦した。当の佐々木はこの話を聞いたとき、「不安はありました」と言う。

「聞いてすぐのときは……。ただ、『沖縄だよ? 楽しんだもの勝ちだよ!』の一言で、みんな楽しく撮影に臨めました。もっともっと早く沖縄へ行くと言ってもらえれば、もっと体形に気をつけていたんですけどね(笑)」(佐々木)

もちろんハッピーなことばかりではない。7月末をもって、全ての始まりとなった長濱ねるが活動に幕を下ろし、8月には『ひらがなけやき』などでセンターを務めた柿崎芽実が卒業、さらに濱岸ひよりが活動休止と試練が相次ぐ。

「とても寂しい。けど、日向坂46のメンバーになったからには、どんなにつらいことが起こってもハッピーに過ごしていきたい」(上村)

先輩たちの延長線上にあるグループとしてだけでなく、自分たちの「ハッピーオーラ」で新たなファンを開拓していけるかどうか――。笑顔の奥で情熱を燃やす日向坂46の挑戦は、まだ始まったばかりだ。


日向坂46(ひなたざか ふぉーてぃーしっくす)
2015年11月に、長濱ねるを軸に「けやき坂46」が発足。2016年5月に一期生が加入し本格的に活動を開始。2017年8月に二期生、2018年11月に三期生を加え、現在20人で活動中(影山優佳は休業中)。2019年2月11日に「日向坂46」に改名。3月27日に『キュン』でシングルデビューを果たす。9月26日にさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブ、10月2日にサードシングルの発売をひかえている。
佐々木 久美(ささき・くみ)
1996年1月22日生まれ。千葉県出身。一期生。
小坂 菜緒(こさか・なお)
2002年9月7日生まれ。大阪府出身。ニ期生。
上村 ひなの(かみむら・ひなの)
2004年4月12日生まれ。東京都出身。三期生。


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