「ギャグ」や「キャラ」がきっかけで人気に火がつく芸人も多い昨今、「ネタ」の面白さだけでここまで来たジャルジャルは、お笑い界の王道を行く正統派芸人である。
ネタ作りに何の苦労も感じないという2人は、何気ない会話の中から魔法のようにコントを量産していく。単独ライブのたびに約100本ものネタを作り、その中から厳選した約10本をライブでは演じている。そうやって積み重なった持ちネタの本数は、8,000本はあるという。その独創的なコントは業界内でも高く評価され、数々の賞レースを総なめにした。
2017年の『M-1グランプリ』では、2人がゲームのような言葉の掛け合いを超高速で進めていく斬新な設定の漫才で見る者の度肝を抜いた。機械のように正確無比なネタ作りとパフォーマンスは唯一無二のもので、他の追随を許さない。
だが、そんな2人に唯一欠けているのが「人間味」である。涼しい顔でテレビに出る様子を見ていても、彼らの素のキャラクターがなかなか浮かび上がってこない。それどころか、「斜に構えている」「とがっている」などと批判の対象になることも多い。ジャルジャルと世間のあいだにあるこの「ねじれ」を、本人たちはどう捉えているのだろうか。(取材・文:ラリー遠田/撮影:伊藤圭/Yahoo!ニュース 特集編集部)
「僕らはシュールというよりはシンプルなのかも」
ジャルジャルのコントはしばしば「シュール」と形容される。冒頭で1つの設定やフレーズが提示され、それだけでそのまま最後まで押し切るようなタイプのネタが目立つことから、そういうイメージが定着しているのかもしれない。
後藤「自分たちではシュールなことをやろうという意識は全然なくて、純粋な気持ちで笑いに向き合っていたと思うんですけど、それが『とがってる』と言われるんやったら、まあ、とがってんのかな、と思いますね」
福徳「でも、ほんまにネタをよく見てほしいんですけど、実は僕らの方がベタやと思うんですよ。ほかの芸人の方が断然シュールなことやってるのに、こっちがシュールと言われるのは不思議ですね」
お笑いにおいて何がシュールで何がベタなのかというのは、考え始めると難しい話だ。「僕らはシュールというよりシンプルなのかもしれないですね」と後藤は言った。
福徳「ほかの皆さんはいい食材をいっぱい集めて1つの料理にして出してるんですけど、僕らは1個のいい食材が入ったから、それだけでいろいろな料理をしている感じなんです」
後藤「むしろ、『調理しない方がおいしいやん』って思って、素材だけで塊でドンと出すときもありますし」
彼らが「とがっている」と言われる要因の1つにもなっていたのが、「インタビュー取材で平気でウソをつく」という評判だ。「けん玉はプロ級の腕前」「動物をたくさん飼っている」といった虚実不明のウソを連発して、その場で訂正もしなかった。
福徳「あれはもうインタビュアーさんを楽しませてあげたいっていう気持ちだけだったんですよ。ウソをついたり大げさなことを言うと『えっ、マジですか!?』って食いついてくれるから。僕らはほんまに普通の人間で、過去の人生が壮絶なわけでもないから、真面目に答えても面白くないと思ってウソをつき出したんです」
後藤「それが結局自分たちの首絞め出すんです。女の子にけん玉を教えるっていう企画で番組に呼ばれたりして。一切やったことないんですけどね」
ウソがめぐりめぐって自分たちの活動の足を引っ張ることに気付いてからは、ウソをつくのはやめた。「若かりし頃のイタズラです」と後藤は笑って振り返った。
「何が面白くて何が面白くないのか、よく分かってない」
そして、ジャルジャルがとがっていると思われている最大の理由。「人間味がない」「何を考えているのか分からない」と言われることについて。
後藤「表に出てないだけで、本当はめちゃめちゃテンパってるんですけどね。テレビの収録中にスベってテンパりすぎて歯の麻酔が切れたこともありますからね。スベった瞬間に歯に激痛走って。あとからオンエア見たら表情は崩れてなかったんで、『痛っ!』とか言うたら良かったな、って思いました。まあ、そういうところが下手なんですね」
福徳「2人ともほんまに芸人向きの人間じゃないから、何が面白くて何が面白くないのか、よく分かってないんです。初めてのロケのとき、2人でスーツ着てたんですけど、後藤の肩に鳩のフンが落ちたんですよ。こんなに芸人としておいしいことないのに、後藤はそれをカメラにも見せずに小声で『最悪や……』って。僕も『あーあ、新しいスーツ着てきたのに、かわいそうに』って思っただけでした。これ、あとから考えたら、芸人として異常やなあと。おいしいことをおいしいと思えないんです。でも、これが本性なんですよね。根っこにこれがあるから、どうしてもバラエティ向きじゃないんでしょうね」
後藤「みんな、そういうのを少しずつ身につけていくんやと思うんですけど、なかなか習得できてない。『人間味ない』ってほんまによう言われますね。ケンコバ(ケンドーコバヤシ)さんにご飯連れてってもらったときにも『コンビ揃ってこんなに無機質なヤツらも珍しい。後藤なんか、この目の前にある器より人間味ないで』って言われました」
最近、そんな彼らの「人間味」が垣間見えたことがあった。『M-1グランプリ2017』の決勝で得点が発表された場面。想像以上に低い点数が表示されたのを目の当たりにして、福徳は感情をむき出しにして頭を抱え、涙を浮かべていた。「ジャルジャルにも感情があったのか!」と日本中が驚いた。
福徳「『すごい人間味が出ていた』ってよう言われましたけど、あっ、これなんや、って感じでしたね。自分ではほんまに悔しいというか、悲しかっただけですから。本当に自信があって、褒められると思ってたんで。昔、1歳上の兄が小2の頃に、父の誕生日に牛乳パックで工作をして、パッと開けたら『誕生日なんだって?』って書いてあるものを作ったんです。それを兄が父に見せたら『セロテープ使いすぎや』って言われて。そのときに何か僕の方が悲しかったんです。そこは褒めてやれよ、って思って。そんな気分でした」
自分たちで作ったネタで、自分たちを超えていく
ようやく感情を見せ始めた彼らは「JARU JARU TOWER」という新企画をスタートさせた。オフィシャルサイトで1日1本のペースで、2人の中で『ネタのタネ』と呼んでいるショートコント動画を公開する。そこではネタの1つ1つがタワーとして縦に長く積み上がっていく。8,000本ものネタという自分たちの財産を惜しげもなく一般公開することにした。
後藤「結局、15年やってきて手応えを感じたときって、だいたいネタをやっているときなんですよね。やっぱりネタっていうのが好きやし、それを有効に使って売れたいなっていうのはありますね。先輩芸人の中には『早くネタをやる段階を終わって、次のステップに行かなあかん』って言ってくださる方もいるんですけど、こんな楽しいのになんでやめなあかんのかな、って思いますね」
福徳「ネタ作りはハッピーですね。楽しくてしゃあない。単独ライブの2カ月前ぐらいから準備するとして、『2カ月後に俺らはどんなネタしてるんやろ』っていうワクワク感はエグいですね。たまに、自分らで作っておきながら自分らを超えたな、っていうのがちょいちょい出てくる。それがまた楽しいんです」
コント動画を積み重ねて天にも届く「バベルの塔」の建設に着手したジャルジャルは、コントの力で人間を超えようとしているのかもしれない。
制作協力:プレスラボ