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伊藤圭

「夫が私を人間にしてくれた」2度の結婚、出産が女優・安達祐実に与えたもの

2018/02/25(日) 10:40 配信

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2歳から子役を務め、芸歴34年を迎える女優・安達祐実。ドラマ「家なき子」という話題作により幼くして日本を代表する役者となったが、20代の頃は過去の作品のイメージに引っ張られたり、顔と年齢のギャップに悩まされたりすることもあったという。

2016年にインターネット上に開設されたオフィシャルフォトギャラリーでは、現在の夫でありカメラマンである桑島智輝が全て撮影をおこない、プライベート感のある「飾らない姿」を捉えた。サイトは一時ダウンしたほど、大きな話題を集めた。安達はそんな、飾らずにいられるようになった自分について、「夫による影響が大きい」と話す。

現在、36歳。2度の結婚を経験した安達は、新たな魅力と気概に満ちている。(ライター・カツセマサヒコ/写真・伊藤圭/Yahoo!ニュース 特集編集部)

今の安達祐実はもう「金をくれ!」なんて言ってない

2016年、インターネット上に公開されたオフィシャルフォトギャラリーが大きな話題を呼んだのは、これまでの「安達祐実」とは違った表情を見せる新しい彼女の姿があったからだ。事務所の協力を得て夫・桑島とふたりで始めたフォトギャラリーには、「今の安達祐実を知ってもらう」狙いがあった。

「所属事務所のウェブサイトにある私のページは、一枚の顔写真と簡単なプロフィールが載っているだけ。それって、あまり意味のないものだと感じたんです。多くの世代がすでに知っている情報が書いてあっても、あんまり意味ないだろうなって。最新の安達祐実は、もう『(同情するなら)金をくれ!』なんて言ってないよ!って感じで(笑)」

「安達祐実にはこうあってほしい」と言わなかった人

2歳から女優業をスタートし、「家なき子」の爆発的なブレークから順風満帆なキャリアを歩み始めたのは世間の知る通り。

「すごく小さなころから『ここに立って、こういうポーズをとって、笑って』と指示をされ、言われたとおりに動けば相手が喜んでくれる。そういった、ある種の成功体験を得ていたんです。当時の私にはそれが当たり前だったし、そうすることに自分の存在意義があると思っていました」

しかし20代に入ると、俳優として、年齢と容姿が合わない問題が重くのしかかった。本来は母親役を務められる年齢になっていても、幼い顔立ちのせいで母親というイメージが合わず、かといって高校生の役をするには年齢的に厳しかった。そして、徐々に仕事が減り始めた。

「転機となったのは、20代後半に経験した離婚でした。急に結婚したときからそうだったんですけど、世の中的にも事務所の方々からも、『もうこの子は我々の手に負えない』と思われてしまったようです(笑)」

そうして周囲の評価が大きく変わったことで「ここから女優としてもうひと踏ん張りするためには、誰かの指示を待つのではなく自分の意志で動かなければならない」と考えるようになった。

「自らマネージャーさんはもちろんスタッフの方々を集めて、『なぜ仕事が来ないのか、正直に言って』と問いただしたこともありました。そのうえで自分の売り方を改めて考えて、じゃあちょっと、変わった役をたくさんやってみようかと」

そうして掴み取った役が映画「花宵道中」での朝霧という役だ。吉原で働く遊女で、恋仲になった男と悲恋に終わる難しい役柄を演じ切った。

現在の夫・桑島との出会いで、安達の考え方は吹っ切れた。安達祐実写真集「私生活」の撮影で初めて一緒に仕事をしたとき、桑島は、「安達祐実にはこうあってほしい」といったオーダーを一切しなかった。そのままの自分をただ淡々と撮る桑島を見て、「どんな自分でもいいんだ」と初めて感じられた。

「人から受ける評価によって喜んだり、落ち込んだりすることもある。でも、だからといって自分の生きる方向性を他人の意見によって変える必要もない。そのことに気づいてからは、何者でもない自分をさらけ出したほうがいいと思って、見せ方もどんどん変わっていったように感じます」

桑島と暮らすうちに、自分を表現することについての固定観念が変わっていった。

「本当に、夫が私を人間にしてくれたと思うんです。シングルマザーのときはとにかく、『子供をちゃんと育てなきゃいけない、稼がなきゃいけない!』って思いも強かったので、焦って頭が固くなっていたとも思うんですけど、今はそれもないし。『まあ、なんとかなるでしょ』と思えるので、程よく気を緩められているんだと思います」

下の子が生まれて、4人が「家族」になった

桑島と結婚しようと思った理由は、すでに子供がいる安達にとって、その子を受け入れてくれる存在であったことが、大きなポイントだった。

「前の夫との間に子供がいたので、そんな私をもらってくれるなんて、それだけでなかなか奇特な人だなと。うれしいというより、ありがたく思いました。ただ、一度離婚経験があるので、絶対に私を大事にしてくれる、子供を愛してくれる、その確信が持てる人でないと結婚できないとは思っていたから、その責任を持てるかどうかについては結婚前に何度も話し合いました」

結果、無事に2度目の結婚をし、桑島との間に新しい命も誕生した。4人家族になった。

「『一生愛せるかは分からないとか、子供のことを可愛がれるか分からないとか、ちょっとでも不安な気持ちがあるなら、結婚してくれなくて結構です!』って、ハッキリ言っていましたから。今でも、ちょっとないがしろにされているな……と思ったら、『あのとき言ったよね?』って、冗談交じりに詰めてます(笑)」

日常の幸せを噛み締める一方で、一度はうまくいかなかった家庭を持つことについても、深く考えることがある。

「結婚ってやっぱり大変なことなんですよね。当たり前だけど意見の違いはいろいろ出るし、自分だけのペースでは生きられなくなるから。だけど、そういうことを上回る幸せとか、得られるものもたくさんある。一緒に年老いていけるって、すごく素敵なことだなと今は思っています」

そう思えるのは、桑島だけでなく、2016年に生まれた子供の存在も大きい。

「いくら家族だと言っても、夫と娘は血のつながっていない他人。どれだけお互いに歩み寄っても、それを無意識に気遣い合って生活していた点もあったと思うんです。でも下の子が生まれたことによって、4人での血のつながりみたいなものをなんとなく感じられるようになり、家族の絆がより強固なものになったと思います」

一見、順風満帆な家族生活を過ごす安達だが、夫婦円満の秘訣を尋ねると、思いのほかシビアでストイックな回答があった。

「相手にとって自分が唯一無二の存在であることが大事だと思います。『この人じゃなきゃダメだ!』とお互いに思えていることが、うちの夫婦は強いんじゃないかと。そして私たちは、経済的にも精神的にも、いざとなればひとりでも生きていけるという事実があるのは大きいですね。お互いが自立している上で結婚しているから、例えば『自分がいなくなってもこの人は生きていけるな』と思えるのが、なんとなくヒリヒリさせるというか、お互いに油断できなくなるんだと思います。彼からしても、究極のことを言えば、被写体が私じゃなくても生きていける。だからこそ、そこはなんとか、私が彼にとって一番の被写体でありたいと思っています」

芝居は私にとって不可欠な、自分以外の世界で生きる体験

20代前半に差し掛かると、「若さ」を失うことが怖かった。しかし、今は歳を重ねることにある種の魅力を覚えている。

「例えば歳を重ねれば高校生のお母さん役だってできるようになるし、そういう自分って、きっと新鮮だと思うんです。これから歳を取っていって、『でも安達祐実と仕事したいんだよね』と言ってくれる監督やプロデューサーがどれだけいるか想像しながら仕事をするのが、今の楽しみです。あと、将来はすごく派手なおばあちゃんになりたい。今はまだ派手さに自分の人生歴が勝てないと思うんですけど、50歳、60歳になったら、派手な色使いもきっと似合ってくるだろうなって。それも楽しみです」

人生を女優業に捧げてきた安達にとって、「演じること」はどのような意味を持つのだろうか。

「お芝居をすること自体がすごく好きかと聞かれると、そこまでではないと思うんです。でも、私の人生は良くも悪くも、ドラマのように波瀾万丈。結婚して落ち着いたことで、波がなくなった生活を送れるのは穏やかで安心だけど、きっと物足りなさも感じてしまう。だから、自分以外の世界で生きられる『お芝居』という体験が好きだし、私にとって必要不可欠なものなんじゃないかと思っているんです」

編集協力:プレスラボ

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