懐かしいJ-POPを盛り込んだミックスCDが売れている。累計24作、合計売り上げ130万枚を超えるCDを手がけているのがDJ和(かず)である。盛り込まれている楽曲は1980年代から2000年代前半まで、思わず「懐かしい!」と言いたくなるようなチョイスがずらりと並ぶ。DJ和がリリースしたCDは楽曲をつないだシンプルなものだ。CDが売れない時代になぜ“つないだだけ”のミックスCDが売れるのか。DJ和に聞いた。(ライター・森朋之、写真・伊藤圭/Yahoo!ニュース 特集編集部)
カウントダウンジャパン、トップバッターがかけた1曲は?
国内最大級の冬フェス「COUNTDOWN JAPAN 17/18」の初日。DJ和は、その最初の出演者としてステージに立っていた。最初にかけた曲は「ラジオ体操第一」。大型フェスなどでオープニングDJを担当する場合は1日の始まりとしてこの曲をかけている。そこからジブリ映画『となりのトトロ』の「さんぽ」へとつなぎ、意表を突く選曲で観客を笑顔にさせた後は、J−POP、アイドルソング、ロック、アニメソング(アニソン)などをバランスよくセレクトし、午前中から会場に足を運んだオーディエンスを盛り上げる。この日はロックバンドだけではなく、アイドルやアニソン系シンガーのLiSAなども出演していたため、客層も多種多様。すべての観客を気持ち良く踊らせ、歌わせるプレイは、「分かる人だけ分かるというDJはしたくない。その場にいる人を全員楽しませたい」というDJ和の真骨頂だった。
J-POPのヒット曲を集めた「J-ポッパー伝説」シリーズ、アニソンをテーマにした「J-アニソン神曲祭り」シリーズから最新作「ラブとポップ ~好きだった人を思い出す歌がある~」まで、人気曲を短くつないだミックスCDで知られるDJ和。その数は実に24作にのぼる。トータルセールスは130万枚。Apple Music、Spotifyなどのストリーミング配信サービスが主流となり、CD販売が下がり続けているなか、DJ和のミックスCDは幅広い層に支持され、売れ続けているのだ。
デビュー作「J-ポッパー伝説[DJ和 in No.1J−POP MIX]」をリリースしたのは2008年。きっかけは、主催していたJ-POPのDJパーティーが人気を集めたことだった。
「僕はもともとヒップホップのDJだったんですが、“クラブ=洋楽”というイメージを取っ払って、心から楽しめるイベントをやりたくて。2005年頃に実際にJ-POPオンリーのイベントをやったら、お客さんが一緒に歌ったり、踊ったりしてすごい盛り上がった」
J-POPとクラブイベントの相性の良さについて「J-POPにはダンスミュージック、ロック、バラードまであらゆる音楽の要素が揃っていて、盛り上がりやすいんですよ。“瞬発力”があるんですよね」と語る。
「僕は1986年生まれなんですけど、“どんな音楽を聴いてるの?”と聞かれて“J-POP”と答えても恥ずかしくない最初の世代だと思うんです。その前はおしゃれな洋楽を聴いてると言わないとバカにされるような風潮もあったんですけど、2005年くらいからは本当に好きなものを堂々と言えるようになってきた。僕のミックスCDが受け入れてもらえたのも、J-POPのイメージの変化が大きいと思います」
いわゆるCDバブルは1990年代後半。当時小学生だったDJ和も当然、J-POPを聴きながら育ち、いまなお大きな影響を受けているという。
「TRF、globeなど小室哲哉さんプロデュースの楽曲がバカ売れしている時代が、ちょうど小学校低学年でした。ミリオンを超えるような曲は学校でも全員が知っていたし、歌えた。そういう曲はいま聴いても懐かしいし、口ずさめるんですよね。そのときの感覚はずっと自分の根底にある」
CDの「実演販売」。海老名サービスエリアで売れるミックスCD
DJ和のCDのセールスの特徴は、CDショップ以外の場所で売れていることだ。そのシンボルとも言えるのが、東名高速道路・海老名サービスエリアの下り線だ。都心から名古屋方面に向かう車にとって大きな休憩スポットである海老名は、彼の手掛けるミックスCDがもっとも求められる場所のひとつだ。実際にサービスエリアでDJイベントを開き、直接CDを手売りしたこともある。DJ和はこの取り組みを「CDの実演販売」と表現する。東京からのドライブの道中 “車内で聴ける音楽が欲しい”という欲求にぴったりとハマるのがミックスCDの販売だったというわけだ。多いときには1回のイベントで200枚を売り上げることもあった。
「トイレを済ませて、飲み物でも買おうかなと思ったら、なぜかCDが売ってるという(笑)。しかも収録曲のサビの部分だけをつなげて流すので、ブースを通り過ぎる間に3曲くらい聴いてもらえるんですよ。そうすると“懐かしい!”“そのCD、何?”という反応が返ってきて、CDを手に取ってもらえる。買ってくれた方はもちろん、すぐに車内で聴けますからね」
海老名SAと並んでDJ和のミックスCDが売れる場所がある。それが「イオン」や「イトーヨーカドー」内のCDショップや雑貨店「ヴィレッジヴァンガード」だ。特徴はいずれも都心ではなく北関東などの郊外店である点だ。「普段の生活のなかに、CDを売っている場所はほとんどないんですよ。だったらこちらから行ったほうがいいのかなと。それに新作の『ラブとポップ ~好きだった人を思い出す歌がある~』は日本人なら誰でも知ってる広末涼子さんがジャケット。日常的に音楽にアンテナを張っていない人ほど『なんだこれ』って感じで僕のCDを手にとってくれる」のだという。
CDを買ってもらえるのを待つのではなく、潜在的なニーズがある場所に出向き、その良さを伝えることで、地道に購入につなげる。CDを売るのに都心ではなくあえて郊外を狙う「脱都心」の販売スタイルと相まって、DJ和のミックスCDが売れ続けている。
「ヒット不在の時代」の新たな売れ筋 アニソンの可能性
この20年ほどの間に、音楽ソフトの売り上げは下がり続け、2016年は2457億円。ピークの1998年の売り上げ6075億円から約4割にまで落ち込んだ。さらに音楽ジャンルの細分化が進み、ストリーミング配信サービスが普及したことで、“みんなが知っているヒット曲”は生まれにくい状況が続いている。
「構造的にヒット曲が出にくいのは事実だし、いまのチャート上位に入っている曲を見ても、おそらく口ずさめない人も多いと思うんですよ。ミックスCDを作るたびに大変さが増してる気がしますけど(笑)、ジャケット写真やブックレットを含めて、CDという形にこだわった作品を作っていきたいですね」
ヒット曲がない時代にDJ和の新たな“売れ筋”になっているのが、2012年からはじまった「J−アニソン神曲祭り」シリーズだ。現在の音楽市場においてアニソンは、アイドルと並ぶ巨大マーケットとなっている。今や中国や台湾、タイなどの音楽イベントにも招待され、アニソンを爆音で鳴らしフロアを沸かす。
「J-POPに比べると少しマニアックではありますが、これだけ市場が大きくなっている以上、DJがプレイするジャンルとしてもアニソンはすごく大事だと思います。アイドルの場合は“本人が目の前で歌って、それを見る”ということがもっとも重要ですが、アニソンはもともとアニメ作品を介した楽曲なので、DJがプレイしても“あのアニメの曲だ”と想像で補いながら楽しめるんです。実際、どの現場でもアニソンをかけるとめちゃくちゃ盛り上がる」
音楽の聴かれ方、届き方は予想を超えたスピードで変わり続けている。“自分の好きな曲を一人で聴く”というスタイルはこれからさらに普及するだろうが、DJ和のミックスCDのセールス状況、DJプレイの盛り上がりを見ると“その場にいる全員が一緒に楽しめる音楽”がいまも必要とされていることがわかる。
DJ和にインタビューしたのはカウントダウンジャパンの直前。彼の口からはこんな言葉が。「僕11時からの出演でトップバッターなんですけど、欅坂46が12時から始まって、モロかぶりなんですよね。みんな(12時になると)一気にいなくなっちゃうんだろうな……でも僕、アンセムかけるんで、聴いててください!」
当日、11時から始まったDJ和のステージ。欅坂46のステージが始まる12時きっかりに彼がかけたのは『おジャ魔女どれみ』の「おジャ魔女カーニバル!! 」から『とっとこハム太郎』の「ハム太郎とっとこうた」の定番アニソンの2曲。サビでは会場中が歌って踊って叫び倒す。さらに終盤には映画『君の名は。』の主題歌「前前前世」で一体感を演出してみせた。「半袖短パンで汗びっしょりになってみんなが楽しめるイベントにしたいんですよ。わかりやすく言うと“ものすごい大規模なカラオケ”みたいな、ね」
DJ和
1986年生まれ。その場にいる人を笑顔に変える抜群のスキルと斬新な選曲。2008年「J-ポッパー伝説」のリリース以降一貫してJ-POPにこだわり続け、今までにリリースしたCDの累計が130万枚を突破。
国内はRock In Japan Fes、ANIMAX MUSIX等々、海外ではアメリカ、イタリア、ドイツ、インドネシア、シンガポール、タイ、台湾、ベトナム、フィリピン、中国での大型フェスイベントにも出演。
J-POP DJの第1人者。代表作は、「J-ポッパー伝説」、「A GIRL↑↑」、「J-アニソン神曲祭り」「俺の応援歌」があり、多くのアーティストのMIX CDも手掛けている。