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鶴田真実

サッカー少年から人気俳優へ――竹内涼真の決断とポジ思考

2017/12/10(日) 08:50 配信

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高い背丈にすらりと長い手足、きれいに筋肉のついた身体。彼はかつて、東京ヴェルディのユースチームに所属し、サッカー選手として生きていくと決めていた。そんな彼は今、TBS系ドラマ『陸王』で、物語のキーとなる陸上選手役を演じている。

俳優、竹内涼真24歳。2013年に女性向けファッション誌『mina』の男性モデル「minaカレ」オーディションでグランプリを獲得。以降、俳優として『仮面ライダードライブ』や日本テレビ系ドラマ『過保護のカホコ』、映画『帝一の國』など、数々の話題作に出演してきた。NHK連続テレビ小説『ひよっこ』で“島谷ロス”を引き起こしたヒロインの恋人、といえばピンとくる人も多いだろう。

誠実さと芯の強さが感じられるまっすぐな瞳に、クシャクシャになるほど笑う人懐っこい笑顔。不意に見せるアンニュイな表情は、まるで「彼女にしか見せない親密さ」を醸し出す。いつしかメディアやファンの間でこう呼ばれるようになった。 “国民の彼氏”と。(ライター・鈴木梢/撮影・鶴田真実/Yahoo!ニュース 特集編集部)

夢を諦めたのは「好きなものを嫌いになりたくなかったから」

竹内は5歳からサッカーを始め、10代のほとんどをサッカーに捧げてきた。高校時代にはJリーグ・東京ヴェルディのユースチームに所属し、「プロサッカー選手になる」という夢に向かって突き進んでいたものの、20歳のとき、足首に大ケガを負うアクシデントに襲われた。

結局そのケガをきっかけに、夢を諦めることとなった。そしてすぐに、次の夢を探しはじめた。

「ずっと『好きなことを仕事にしたい』と思っていたんです。プロになるためにサッカーを続けてきたけど、諦めきれずにダラダラ続けるのは、ちょっと違うかなと思って、きっぱりやめました。そこで無理をして、(サッカーを)嫌いになりたくなかったんです」

サッカーをやめた時点では普通に就職する道も残されていたはずだが、竹内は「まったく考えなかった」と振り返る。

「同世代でユースからトップチームに上がった選手は、もうプロとしてお金を稼ぎはじめている。そういう友だちがいる中で自分の将来を考えたとき、『マズい』って、焦ったんですよ」

「もう20歳を過ぎていて……自立して生きていかなきゃならないわけじゃないですか。でもやるからには、『好きなこと』を仕事にしたい。じゃあ、サッカー以外に自分が好きなことって何だろうと改めて考えてみたとき、テレビドラマや映画を見ることが好きだなと思って。その世界観や登場人物に影響されやすい自分に気づいて、『こんなふうになりたい』と見ている人に思ってもらえる存在になれたら楽しいかもしれない、と思ったんです」

サッカーに打ち込んだからこそ見えてきた“夢の叶え方”

サッカー選手の夢を諦め、新たに見つけた俳優への道筋。そこで竹内は、「ネガティブ思考な自分」とも見切りをつけた。

「いくら技術を持っていても、それを発揮できる気持ちとモチベーションがないとうまくいかないんですよ。実際、特に伸びていく選手って、気持ちの面でも一流なんです。でも、サッカーをしていた頃の自分はそのことに気づかなかった。周りの同世代の選手がどんどん活躍していくのを見ては、焦って落ち込んで……。ネガティブなことばっかり考えてました。それで結局、自分がサッカー選手になるのは無理だ、って思ってしまったんです」

もともと、人を観察したり分析したりすることは好きだという竹内。サッカーを諦め次の夢を目指すと決めたときに、周りで成功していた選手の発言や行動を振り返り、共通していたのは何かと考えた。

そこで気づいたのが、「彼らは常に物事を前向きに捉えていた」こと。そしてその気づきは、次の夢に向かって突き進む彼にとって強力な武器となる。

「まず『今までは自分がネガティブだったから失敗した』と気づけたことで、物事を前向きに捉えてひとつひとつ取り組めたんだと思います。たとえばオーディションを受けるときに、『失敗したらどうしよう』と思って受けるのと、『絶対この役を自分がやる』と思って受けるのとでは、全然モチベーションが違いますよね。『失敗するかも』なんて気持ちを持たずに、成功することに対して100パーセントの気持ちを向ければ夢は叶うんじゃないか、と思ったんです」

その仮説は、結果的に正しかった。2013年に女性向けファッション誌『mina』の男性専属モデル「minaカレ」オーディションでグランプリを獲得してから1年後、『仮面ライダードライブ』のオーディションでチャンスをつかんだ。芸能界に入ってすぐ大きなチャンスである。

「成功することに一番気力を使いたいのに、ネガティブなことを考えた瞬間、そこに何パーセントか気持ちをもっていかれるわけじゃないですか。物事を前向きに捉えてひとつひとつ取り組んでいったら、うまくいきはじめたんですよ。そうやって、『自分にはポジティブ思考が合ってたんだ』と思えるようになったんです」

自分の性格なんて、そう簡単には変わらないもの。それでもネガティブな思考回路を変えられたのは、「徹底的にクセづけしたから」と話す。

「本当、ささいなことからポジティブに考えるクセをつけたんです。何か失敗したとき、『怒られた』『注意された』じゃなくて、『次の機会で成功するために指導をしてもらえた』って。そうするとだんだん自然とポジティブに考えられるようになってきて、ときどきネガティブなところが出てきたとしても、すぐに気づいて、ポジティブに持っていくこともできる。実際自分でも、性格が変わってきたなと思います」

竹内の口調は淡々としているが、その姿勢はストイックなアスリートそのものだ。こうして彼は、俳優・竹内涼真という夢を現実のものとした。

「自分が憧れてきた存在に、自分もなりたい」

「オタクと言えるくらい好き」と竹内が話すのは、「マーベル作品」だ。マーベル・コミックが生み出すキャラクターとストーリー、そしてその実写映画作品は多くの人々を魅了してきた。『スパイダーマン』や『アイアンマン』など数々の有名作の中でも、彼は特に『キャプテン・アメリカ』を好む。「見終わったあとに、夢を見られる作品が好き」と竹内は語る。

「海外のヒーロー作品って、大人から子供まで楽しめて、男性だけでなく女性も見ているんですよね。人間ドラマなんですよ。戦うばかりのヒーローじゃなくて、主人公をはじめ登場人物たちの心情や葛藤を丁寧に描いているから、見る人の拠り所になっているんです。現実じゃないとしても、夢があって、みんなが盛り上がる。そういうのっていいなと思うんです」

目前の夢はやはり「マーベル作品に出演すること」だと語る竹内だが、最終的な夢はもっともっと先にある。

「僕は具体的にどうなりたいというより、“固執しない”人間でいたいんです。どこへ行っても対応できるようになりたい。仕事って、自分ひとりでやっているわけではないじゃないですか。大勢のスタッフさんや出演者の方々など、いろんなチームや企画があって。常にいろんなことにマッチしていかなくちゃならない。自分の個の部分を出すのも大事だとは思うんですけど、入り口は自分で決めつけないで、何でも入っていきたいんです」

事実、竹内は雑誌やテレビドラマ、映画、CMなど、デビューから4年経った今、活動の幅を広げている。「時代の変化や流行によって変わる人々の生き方などを敏感に察知しながら、自分を形成していきたい」と語る。

自身の描く何者かになるのではなく、世の中に求められる像に沿って成長していく。それは竹内の夢が「自分がサッカー選手やマーベル作品を見て『この仕事をしたい』と思ったように、自分もそう思ってもらえる存在になりたい」というものだからだ。

サッカー選手を夢見た少年は、「竹内涼真」という国民のヒーローになるべく、日々めまぐるしい成長を続けている。

編集協力:プレスラボ

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