女性の自宅に押しかけて浮気調査をする「ガサ入れ」、美女を装ったメールで一般男性や男性芸能人の下心を試す「ブラックメール(マジックメール)」など、人の心を揺さぶる底意地の悪いバラエティ企画で輝く男、田村淳。地上波テレビの世界で第一線を走っていた彼が、最近は別の場所で暴れ始めた。
2016年からBSスカパー!で放送されている『田村淳の地上波ではダメ! 絶対!』は、そのタイトルの通り、地上波では実現不可能な企画に挑戦する番組。
覚醒剤(シャブ)を使用した経験のあるタレントとしゃぶしゃぶを食べながら覚醒剤の恐ろしさについて語り合ったり、体を張ったエロい芸の達人を集めたり、ホームレスをゲストに呼んで、彼らの生活の実態などを聞いたり、一貫して攻めの姿勢を貫いている。
この番組が作られた背景には、閉塞感が強まっている今の地上波テレビに対する淳の複雑な思いがあるようだ。(取材・文=ラリー遠田/Yahoo!ニュース 特集編集部)
テレビ番組は求める人がいて成り立つもの
「地上波テレビの仕事をしていて、だんだん息苦しさを感じるようになってきたんです。明確なきっかけがあったわけじゃないんですけど、『低温やけど』みたいな感じでじわじわきていて、『痛いな』って思ったときには結構悪化している状況で。『あれ、何がいけなかったんだろう?』みたいな感じで、自分でもちゃんと分析できてないんですよね」
「『ロンドンハーツ』で昔やっていた企画が今の地上波では放送できなくて、たとえばそれをAbemaTVでやるとすごい反響がある」と語る淳。地上波の表現の幅は確実に狭まってきていると感じていた。
「テレビ番組っていうのは求める人がいて成り立つものじゃないですか。この『田村淳の地上波ではダメ! 絶対!』を見る人がもっと増えていけば、地上波でもこういうバカっぽいことやくだらないことが堂々とできるようになるかもしれない。そう思って続けている感じはあります。だから、もうちょっといろいろな人に見てもらいたいですね」
自分が納得できない企画は極力やらない
淳は決して地上波を見限ったわけではない。地上波を面白くするためにも、別の場所でのびのびとやっていくことを選んだのだ。また、その道を選んだ背景には、自分自身のタレントとしてのあり方に自覚的になった、というもうひとつの変化もあった。
「家族みんなで見られて楽しい番組も世の中にはあるけど、田村淳っていう人間はそういう場所に顔を出しちゃいけない人間なんだな、っていうのをこの20年間かけてようやく気づいたんです。俺だって、より多くの人に好かれたいし、より多くの人に求められたい。そう思ってそういう方向に行こうとしていた時期があるんですけど、『知りたがり!』(フジテレビ系)っていう番組が終わったときに、『あっ、違うな』って気づいたんです。自由にしゃべれない場所に俺が行っても何にも生きないし、仕事ができないんだったら死んでるも同然だな、と」
自分が言いたいことを言える状況をつくり、自分が納得できない企画は極力やらないようにする。それを徹底したことで、淳はかつてない手応えと満足感を得た。
「地上波(東京キー局)に比べて見ている人数は少ないかもしれないけど、『淳がまたこんなことやらかしてるよ』とか言われるような場所に身を置いた方が、自分も表現者として楽しいし、見ている人も本来の持ち味を発揮している田村淳を見直してくれるかな、って思ったんです。結果、今めちゃめちゃ充実してますね。なんか、すっきりしてます。何も背負っていなくて、楽しいと思っていることをありのままに表現して家に帰れるんで。そういう日って、家に帰ってもお酒を飲みたくならないんですよね(笑)」
「今、ユーチューバーの人と気が合うんです」
90年代半ば、テレビの世界に颯爽と現れたロンドンブーツ1号2号は衝撃的だった。赤毛の淳と金髪の田村亮。見た目もキャラもスマートで、これまでのお笑いの歴史にはいなかったタイプの芸人。近所の悪ガキがそのままテレビで暴れているような独特の存在感があった。
「僕は芸人じゃないんですよ。舞台に出ていないし、面白いことを言っているっていう自覚もないし。ユーチューバーみたいなものだと思うんです。だから今、ユーチューバーの人と気が合うんですよ。彼らに話を聞いていると、ああ、そうそう、俺もこういうことやりたかったんだよ、ってすごいうらやましくなるんです。たぶん、昔は地上波の深夜番組でそういうことができていたんでしょうね」
僕は「立候補」はしないです
『田村淳の訊きたい放題!』(TOKYO MX)、『田村淳のNewsCLUB』(文化放送)など、社会派の番組も数多く手がけ、SNSなどでも積極的に自分の意見を発信している淳には、以前から出馬の噂も絶えない。本人は一貫して否定しているが、政治に対する関心はある。
「叩けばほこりが出る人生なので、政治家になるメリットがないですよね。税金でメシ食うようになったら言いたいことも言えなくなるし、何かあったら税金を払っている人たちにも迷惑をかけてしまうし。だから今のところ、出馬する気は全くないです。でも、政治には興味があって。『過疎地の行政をどうやったら牛耳れるかな?』とかはよく考えたりしてます(笑)。俺は立候補しないですよ。裏で動いてこういうふうにやったらいいんじゃないかな、っていうのを企ててはいるんですけどね」
選挙を経て政治家になるかどうかというよりも、初めから彼の頭には「政治」しかない。どうやったら世の中を驚かすことができるのか? どうすれば楽しいことができるのか? 大衆の心をつかむために、好奇心の赴くままに遊び続ける彼は、生まれながらの「政治家」であり、「芸人」でもあるのだ。
田村淳(たむら・あつし)
1973年、山口県生まれ。1993年、田村亮とお笑いコンビ・ロンドンブーツ1号2号を結成。コンビとしてお笑いライブやテレビバラエティで活躍する一方、個人でもテレビ、ラジオの番組MCを多数務める。「田村淳の地上波ではダメ!絶対!」は毎週木曜日午後10時からBSスカパー!でレギュラー放送中
編集協力:プレスラボ