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伊藤圭

海パン一丁の一発屋から子供たちのヒーローに。小島よしおの逆転劇

2017/04/16(日) 07:44 配信

オリジナル

海パン一枚を身にまとい、全身をリズミカルに動かして「そんなの関係ねえ!」「おっぱっぴー」などと叫ぶ破天荒な芸でかつて一世を風靡した小島よしお。

一時は「すぐ消えそうな芸人」のレッテルを貼られていた彼は、大ブレークから10年経った今もしぶとく生き残っている。

最近は子供向けのライブに力を入れていて、その本数はなんと年間100本以上。キッズコーディネーショントレーナーの資格も取得し、子供を楽しませることにかけてはお笑い界でも右に出る者がいないと言われるまでになった。

撮影:伊藤圭

新著『キッズのココロわしづかみ術』では、小島がライブの現場で学んだ子供と触れ合うための極意が語られている。

海パン一枚の一発屋は、一体どのようにして子供達のヒーローに変身したのだろうか。(ラリー遠田/Yahoo!ニュース 特集編集部)

自分が何もできずに終わることに焦りを感じた

小島が子供向けのお笑いライブを始めたのは2011年。東日本大震災の影響で日本中に「自粛ムード」が広がり、テレビでもライブでもお笑いをやることが難しくなっていたその時代に、「小島、子供向けにやってみたら?」と先輩芸人から勧められたのがきっかけだ。

撮影:伊藤圭

「当時は先行きが不安でした。『クイズ! ヘキサゴンⅡ』に出ていたんですけど、あの番組はしゃべりが面白い人、野次を飛ばすのがうまい人、イジられるのが得意な人とか、いろいろな分野のスペシャリストの方がいて。自分が何もできずに終わってしまうことに焦りを感じていたんです。僕はひな壇でうまくしゃべれるわけでもないし、スベった後に自分で処理して笑いに変えられるわけでもない。自分も何か秀でたものを探さなきゃいけない、って思うようになったんですよね」

そこで「小島よしお的おゆうぎ会」という子供をターゲットにした単独ライブを始めた。しかし、最初のうちは何もかもが手探りで失敗続きとなる。開催日時を決める段階ですら、致命的なミスを犯していた。

撮影:伊藤圭

「夏休みだったら子供が来るだろうと思って8月末に開催したんですけど、都内の学校は8月の最終週から学校が始まっていて。あと、お笑いライブって普通は夜7時ぐらいに始まるんですけど、子供にはそれだと遅すぎるみたいで。とにかく人がなかなか集まらなかったですね」

「子供をナメてはいけない」と打ちのめされた初ライブ

先輩芸人や関係者に子供を連れてきてもらったり、知り合いの子供が通う幼稚園に行ってビラをまいたり、人集めには苦労させられた。それでも続けていくうちに少しずつ人が増えてきた。

また、ライブの内容にも工夫が必要だった。最初は「しょせん子供向けだから」と高をくくっていたが、そんなに生易しいものではなかった。

撮影:伊藤圭

「子供にウケるだろうなと思ってオナラのネタをやったんです。『ドレミの歌』の替え歌で、『ドはドイツ人の屁、プー、レはレディの屁、プー』っていう歌に合わせてポールダンスをするっていう。いざやってみたら、一発目の屁しかウケないんです。二発目以降は誰ひとりクスリとも笑わなくて、地獄でしたね(笑)」

この「オナラ事件」から小島が学んだのは「子供をナメてはいけない」ということ。安易に子供ウケを狙っても見透かされてしまう。本気で取り組まなければ子供たちの心は動かせない。毎年、試行錯誤しながらライブの内容を改良していき、少しずつ評価されるようになってきた。

実体験で学んだことはいくつもある。例えば、子供が無条件で好きなのはオナラよりも「風船」。目の前に風船があるだけで子供たちのテンションが上がる。

地方のイベントに参加の様子(本人ブログより)

「ライブの演出で大量の風船を天井から降らせたら、一瞬にして子供たちの興味が風船に移ってしまって、僕が舞台上でほったらかしにされたこともありました(笑)。あと、こっちが一方的にネタをやるだけじゃなくて、参加型のほうがいいんです。ヒーローショーみたいな設定で、『もうパワーがなくなっちゃったから、エネルギーボールをここのカゴに入れてくれ!』って言って、そのボールを投げさせるとか。とにかく恥を捨てて全力でやることが大事ですね。子供は敏感に人の感情を捉えるので、こちらが恥ずかしがっていると子供も参加しづらくなってしまうんです」

海パン一丁の一発屋から子供たちのヒーローに

いつしか小島は子供たちのヒーローになっていた。実地で学んだことをテレビの収録などで実践すると、スタッフに驚かれる。

「扱い方がうまいですね、すごいですね、って褒められるんです。そう言っていただけるようになったのはライブを続けてきたおかげですね」

そんな小島の次なる目標は、なんと海外進出。子供にウケる芸人は海外に行っても通用する、というのが彼の持論だ。

撮影:伊藤圭

「笑いのツボって大人になると変わるけど、子供のときってあんまり変わらない世界共通のものがあると思うんですよ。そこから文化とか習慣の違いで枝分かれしていく。だから、その幹の部分にあたるものを探したいなって思いますね。そしたら海外でも通用するんじゃないかなって」

実は、小島には勝算がある。これまでにも、海外ロケで何度も現地の子供たちを笑わせてきた経験があるからだ。たとえ言葉が通じなくても、ハダカ芸やリズムネタは世界中の子供たちを楽しませることができる。

「ヨガなどを取り入れた面白いポーズができるように、今は柔軟運動をよくしています。あと、海外でも子供たちと一緒に全力で走ったり動いたりすると盛り上がったので、もっと速く走りたいなって思いました。今はネタ作りよりも体作りに力を入れていますよ(笑)」

「PPAP」の次に世界中の子供たちを虜にするのは「OPP(おっぱっぴー)」なのか?小島の挑戦は続く。

撮影:伊藤圭

小島よしお

お笑い芸人。サンミュージック所属。早稲田大学在学中にお笑いサークル「WAGE」に出会い、お笑いの道へ進む。卒業後ピン芸人として活動を開始し、海パン一丁でのネタ「そんなの関係ねえ!」が大ブレイク。その年の流行語大賞にノミネートされる。近年、キッズコーディネーショントレーナーの資格を取り、子どもとのコミュニケーションをメインにした、子ども向けお笑いライブを年間100本以上行う。著書に「キッズのココロわしづかみ術」

編集協力:プレスラボ

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