山本倫子

「こんな時代だからこそ、言葉で戦いたい」石崎ひゅーいが放つ“自由な歌”の魅力

3/26(日) 7:40 配信

「尾崎豊の後継者」なんて大仰な評価を受けながらも、当の本人は「いやあ、自分は空っぽなので……」と恐縮する。かと思えば、突如映画に出演し、共演の蒼井優を唸らせる芝居を披露してみせる。石崎ひゅーい。どこかフワフワとして、とらえどころのない青年が、今、芸能人やクリエイターのあいだで、不思議な人気を得ている。

たとえば、俳優・菅田将暉。石崎が昨年リリースしたアルバム『花瓶の花』に、彼はこんなコメントを寄せている。「『花瓶の花』は僕がこの世で一番大好きなラブソングです。僕にとっては『花瓶の花』がCDになることがオリンピックより楽しみでした」。さらに、「聴けば聴くほど、ひゅーいワールドは抜け出せなくなります」と絶賛するのは、女優・歌手の剛力彩芽だ。

彼の存在は、幾多の男性シンガーソングライターたちのなかにあって、ひときわ異彩を放っている。ひと言でいうならば、「天衣無縫」。彼の歌は、いつだって彼のエモーションと直結した、自由な躍動に満ち満ちている。

2枚のフルアルバムをリリースする傍ら、映画に役者として出演するなど、2016年は飛躍の年でもあった。足跡を振り返りながら、思いを率直に語ってもらった。(ライター・麦倉正樹/Yahoo!ニュース編集部)

撮影:山本倫子

尾崎豊のプロデューサーの「秘蔵っ子」

メジャーデビューから、約2年半の月日が流れた。今に至るまでの活動の手応えについて、彼自身はどのように考えているのだろうか。

「手応えは……まあ、無いっすね(笑)。というか、僕のボスは、『売れたり有名になったりするようなことは考えるな』っていう感じの人なんです。『アーティストは、いい作品を作って、いいライブをすることにだけ集中していればいい』っていう。だから、僕がちょっとでも売れたそうにしていると、ボスに怒られるんですよね(笑)」

「僕のボス」とは、石崎の所属事務所社長でもあり、音楽プロデューサーでもある須藤晃のこと。かつて、尾崎豊を担当したことでも知られる。尾崎をはじめ、矢沢永吉、浜田省吾、玉置浩二など、これまで錚々たる男性ソロ・シンガーたちの作品を手掛けてきた。その彼が、自らプロデュースを買って出たのが、石崎だった。

撮影:山本倫子

子どもの頃から歌うことが大好きで、学校の合唱コンクールでは、いつもその中心にいるような少年。そんな彼の歌唱力を見越したのか、中学3年生のとき、彼は友だちからバンドのボーカルとしての誘いを受ける。そこから今に至るまで、彼は楽器を持たない「ピン・ボーカル」として、ずっとステージの中央に立ってきた。

自ら歌詞を書くようになったのは、歌い始めてからずっとあとのことだったという。最初は、メンバーの書いた曲を歌うだけで楽しかった。歌うことで「生きている」と感じた。けれども、あるとき彼は、こんなふうに思ったのだ。

「20歳くらいのときですかね。別に他人の曲を歌うのが嫌だったわけではないんですけど、自分で歌詞を書いて歌ったほうが、単純に歌の力が増すんじゃないかって思ったんです。だから、何か特別、歌いたいことがあったわけではないんですよね。ただ、自分のなかから出てきた言葉で歌ってみたかった」

撮影:山本倫子

亡き母への思いを「歌」に乗せて

彼が心の底から「歌いたいこと」を見つけたのは、24歳の頃のことだった。最愛の母を亡くしたのだ。「ひゅーい」という名前をつけたのも母だった。デヴィッド・ボウイの熱烈なファンだった母が、ボウイが息子に「ゾーイ」と名付けたことにちなんで命名した。母を亡くした悲しみを昇華させるために、「第三惑星交響曲」が生まれた。母のことを歌う石崎に須藤は、バンドではなくソロで歌うことを強く勧めた。

「お母さんの死という個人的なことを、バンドで歌うのはおかしいって言われたんですよね。もちろん、最初はこっちもバンドでやりたいという思いがあったので、正直悩んだんですけど……なんかあるとき、自分がソロで歌っているのが、すごい想像できたんです。広がりが見えたというか。自分の歌の可能性みたいなものを、どこかで信じていたのかもしれないですね」

撮影:山本倫子

ソロとしての活動をスタートさせた石崎は、その歌が放つ熱量の高さから、尾崎豊と比較して語られることも多い。しかし、石崎の歌はどこまでも伸びやかで、聴く者の心に「不自由さ」よりも、むしろ「自由」を感じさせる。彼の音楽に惜しみない賛辞を寄せる人々もまた、異口同音に、けっして型にはまることのない石崎の歌の自由さを指摘する。「第三惑星交響曲」にはじまり、「ファンタジックレディオ」、「夜間飛行」、「おっぱい」、「ピノとアメリ」……楽曲タイトルも、実にバラエティに富んでいる。

「自由だねっていうのは、確かによく言われますね。自分としては、何も考えてないだけのような気がするんですけど(笑)。尾崎さんって、反社会的なメッセージがある人っていうふうに捉えられがちですけど、僕はやっぱり、ものすごい歌のパワーが強い人っていうイメージがあるんですよね。言葉をちゃんと届ける人というか。そういうところが僕自身、とても好きだし、僕が似てると言われる要因は、もしかしたらそこなのかなって思います」

撮影:山本倫子

こんな時代だからこそ、あえて言葉で戦ってみたい

昨年12月に、アルバム『アタラズモトオカラズ』をリリースした。サウンド・プロデュースのみならず、作詞作曲に至るまで、プロデューサーの須藤とがっぷり四つに組んで生み出されたこのアルバムは、言葉の洪水と言ってもよいほどの膨大な数の言葉に溢れた、かなり異色のものとなった。亡き母や「君」への思いだけではなく、世の中に対する苛立ちや不安、ときには激しい怒りさえも、すべてむき出しの言葉で綴りながら、まるで吟遊詩人のようにメロディを紡ぎあげていく。それは石崎自身にとっても、かなり挑戦的な試みとなったようだ。さらに、役者として出演した映画『アズミ・ハルコは行方不明』(監督・松居大悟、主演・蒼井優、高畑光希)が公開されるなど、彼のドラスティックな挑戦は続く。

「役者はたくさんの人と共同作業でものを作り上げていくけれども、音楽の場合、最初にメロディを生み出すのは、たったひとりの作業なんです。役者の仕事はすごく楽しくて、この経験から新しい歌が生まれていくような気がしている。今って言葉がものすごい足りてない時代というか、もしかしたら言葉をあまりみんなが必要としていない時代だと思うんですよね。ただ、こんな時代だからこそ、あえて言葉で戦いたい。そう思って作ったアルバムなんです」

撮影:山本倫子

表題曲となった「アタラズモトオカラズ」のなかで、彼はこんなふうに歌っている。

「人生のマトなんてマボロシ/でも生きてりゃお前の投げた球は/当たらずも遠からず/当たらずも遠からず」

役者という新しい表現にトライしながら、その一方で、自身の言葉をますます先鋭的なものへと変化させていった石崎ひゅーい。シンガーソングライターとしての彼の新章は、いよいよここから始まろうとしているのかもしれない。

撮影:山本倫子

石崎ひゅーい

1984年、茨城県出身。シンガーソングライター。石崎ひゅーいは本名。2012年7月25日、ミニアルバム『第三惑星交響曲』でデビュー。16年に2ndアルバム『花瓶の花』3rdアルバム『アタラズモトオカラズ』を立て続けにリリース。同年、映画『アズミ・ハルコは行方不明』に出演。蒼井優の恋人役を演じた。17年12月ソロツアー「鬼退治」開催決定。詳細はHPにて。

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