竹井俊晴

宮藤官九郎「初の社会派ドラマ」への挑戦。『ゆとりですがなにか』の原点は“危機感”

2016/9/27(火) 10:52 配信

舞台仕込みのテンポやセリフの掛け合いで、独特の笑いを織り交ぜた物語が人気を集める脚本家、宮藤官九郎。その宮藤が自身初となる“社会派ドラマ”を書くらしいと話題になったのは2016年初めのころだった。

宮藤が選んだテーマは「ゆとり世代」。

焼き鳥店チェーン会社の社員(岡田将生)、小学校教師(松坂桃李)、浪人生(柳楽優弥)の3人の主人公たちに共通するのは1987年生まれであること。公立高校に週休2日制が導入された2003年に高校入試を受けたいわゆる「ゆとり第一世代」である。宮藤はなぜ「ゆとり」をテーマに選んだのか。(ライター宮本恵理子/Yahoo!ニュース編集部)

撮影:竹井俊晴

「これだから“ゆとり”は」――。その言外に含まれる数々のマイナスのニュアンスを背負いながら社会にもまれ、不器用にも奮闘する彼らの姿を、仕事や恋愛、家族関係での葛藤を交えながら描いた。7月末に発売となったシナリオブック『ゆとりですがなにか』(KADOKAWA/角川マガジンズ)では、演じ手の俳優たちが撮影現場を振り返りながら和やかに語り合う座談会も収録されている。

「『Mother』のような骨太な作品を出している演出家の水田伸生さんともう一度、連続ドラマを作りたいと思ったのが出発点です。テーマは何かと考えて、ゆとり世代を描きたいなというのはすぐ決まりました。ゆとり世代の部下を叱責したら次の日に自殺したというプロットを考えて『これだと連ドラにならないですよね?2時間ドラマでやりませんか』と水田さんに提案したら、『“世代”というのは極めて連ドラ的なテーマだから、じっくりと話をつくっていきましょう』という反応で。だったらと、自殺は人違いだったという展開に変えて、より多面的にゆとり世代を表現できるように人物も増やしていきました」

ゆとり世代は「わけがわからない。だから面白い」

「ゆとり世代」に着目した理由。それは、宮藤自身が感じていた違和感が発端となっている。1970年生まれの46歳の宮藤にとって「ゆとり世代」は一回り以上も違う「わけのわからない世代」だった。

「映画を撮っている時の助監督さんに、ちょっと面白い若者がいまして。通常、助監督は小道具とか撮影に必要なものを早めに集めておいて『監督、これでいかがでしょうか』とお伺いを立てるんですが、彼はいつまで待ってても何も言ってこないんですよ。しびれを切らして僕から『なんか聞くことないの?』ていうと『今日撮るシーンのアレですけど…、コレでいいですか』って。『全然よくないけど、今日だから変更しようにも間に合わないよ。いつからコレ持ち歩いてたのよ?』『3日前からです』『なんで来ないの』『いや、あの、タイミング図るのが、ちょっと…』みたいな(笑)。そういうのが何度か続いたとき、なんか面白いなって。僕らにしたら全然わけわからない行動だし当然叱られたりするんですけど、彼らもきっと何かを考えているんだろうなと。“ゆとりだから”だけで済ませちゃいけないのかもしれないなと思ったんです。不可解な相手を理解したいという個人的な思いが最大の動機でした」

30歳目前となったゆとり世代の俳優陣が主役を張るようになった今、宮藤自身の周辺にも変化を感じるようになった。

「学校教育では平等を重んじられ、社会に出て急に競争にさらされてきたからだと思うんですが、ものすごい危機感を持っていますよね。求められる役割を理解したら信じられない早さで適応しようとするし、貪欲な意志もハッキリ伝える。『宮藤さんの作品に出たいっす!』とか面と向かって言えちゃうんですよね。阿部(サダヲ)さんだっていまだに言ってこないのに…(笑)。怖いものないんだなって、こっちが怖くなるくらい。傷つくことをおそれずにアグレッシブだから、全然ゆとりじゃないなって思いました」

身近なサンプルだけに基づく一方的な表現にならないよう、一般社会に暮らす若者を集めての取材も自ら提案して挑んだ。これまで自らの想像力で勝負してきた宮藤にとっては初の試みだったという。

撮影:竹井俊晴

ドラマにそのまま生かされた、50人以上の取材

「山田太一先生が『ふぞろいの林檎たち』を書く時にしつこく取材したというエピソードがずっと頭にあって、今回はやってみようと。実際に会って話を聞くと、取材って面白いなと思いました。彼らは社会に出る前から“ゆとり世代”と名付けられて、オトナに好き勝手言われてきた事実をどこか冷めた目で客観視しているし、『自分たちのことを“ゆとり”と言われてもピンと来ない』と言う。さらに下の世代に対して言いたいこともある、と。話を聞きながら、僕が若い頃に『最近の若いやつらは』って一括りにされた時の苛立ちや反発心を思い出しました」

直接取材した人数は延べ50人以上。気になった人物数人は複数回アポを取って聞き取りを重ねた。そのうちの一人は、会社を辞めて実家の酒蔵を継いだばかりの若者。「親のやり方は嫌ですよ。でもまだ半人前なんで」と他人事のように話していた彼の目は、半年後には社長のそれに変わっていた。

「酒蔵の二代目が、ゆとり世代のクリエイターが集まって造ったという新酒まで持参して来たり。人はこういうふうに変わっていくんだと、すごく感じるものがありました」。

会社を辞めて実家の酒蔵を継ぐ、という設定はドラマにそのまま活かされた。また、コンサルタントだという別の若者は、自らゆとり世代でありながら「タイプ別ゆとり世代対処法」を論じた。取材で得たインプットはそのままリアリティあふれるセリフとなり、1話放送の頃には8話まで書き終えるほど筆も進んだ。「世間の評判に振り回されたくない」という思いもあったという。

「一人一人じっくり話を聞いていくと、“個”が明確に見えてきた。すると、彼らがちょっとは怖くなくなりましたね。昔から俺らの周りにもいたやつばっかりじゃんって。最終的には“ゆとりだから”ではなくて、いつの時代にも普遍的なキャラクターを描いていたような気がします。そういうものだと思えたからです」

撮影:竹井俊晴

宮藤官九郎が抱く“危機感”

テーマ設定の出発点は「わからないものを理解したい」というシンプルな興味だった。この興味は突き詰めると、宮藤自身の“危機感”でもあったという。

「何に対しても思考停止になってはいけないと思っている自分がいるんですよね。自分が理解できない相手を『年寄りだから』『若い奴らだから』って遠ざけて、分かり合える相手ばかりと仕事していたら、ライターとして先がない。特に次世代は未来の主役なんだから、バッシングすればするほど自分の未来を狭めるだけだと思っていて。このドラマを書いてから、彼らにむやみに腹が立つこともなくなりましたね。…といっても、いまだにびっくりすることだらけですけどね。シナリオブックの座談会でも役者たちがストレートに演技論を語り合っているでしょ。僕は絶対できないです、恥ずかしくて。でも、そういう彼らを少しは理解できたかなとは思います」

ドラマの結末では続編を書くこともできる余白も残して筆を置いた。新たなテーマで“社会派ドラマ”を書くとしたら?と尋ねると、しばらく考え込んだ。

「言いたいことが言えない世の中になっている、というのは気になりますね。俺はこう思う、と単純に言いづらい社会になってきていることが」

自らの素直な感覚をそのまま映し出す鏡として、宮藤官九郎が再び“社会派”に挑む時を楽しみにしたい。

撮影:竹井俊晴

宮藤官九郎

脚本家・男優・作詞家・放送作家・映画監督・演出家。1970年7月19日生まれ、宮城県出身。O型。1991年から『大人計画』に参加。映画、テレビドラマ、芝居の脚本や出演、バラエティー番組の構成も手がけるマルチプレイヤー。シナリオブック『ゆとりですがなにか』を上梓

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