カラフルなスポブラファッションに奇抜なお団子ヘア。自撮り棒片手にテレビの世界ではしゃぎ倒すユーチューバー芸人のフワちゃん。YouTubeからテレビに進出した数少ない成功例でもある彼女は、大物タレント相手にも呼び捨て・タメ口で馴れ馴れしく絡む芸風や、事務所に所属しないフリーの身ならではの自由奔放な立ち振る舞いで話題を呼んでいる 。一見無礼とも思われる彼女の芸風は、なぜ成立するのか。その秘密をひもといた。(取材・文:ラリー遠田/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース 特集編集部)
「さんづけ」は、きしょい
「別に尊敬してないとかナメてるからタメ口っていうわけじゃなくて。あたしはついこの間まで素人だったから、テレビを見て『松ちゃん』とか『さんま』って言っていた。だからやっぱりそこは律義な感じで呼び捨てにしたい」
フワちゃんの代名詞と言えば、目上の相手にも敬語を使わず馴れ馴れしく絡んでいくことだ。一見リスキーに見えるタメ口スタイルを貫く背景には、自分がまだ芸能人ではないという意識がある。
「友達になりたいからフレンドリーに話しているというのももちろんあるし、もう一つ、まだあたしは芸能人を芸能人として見ているからっていうのもある。養成所生の時、周りのみんなが一丁前に“ダウンタウンさん“とか言っているのが業界ぶっててなんかきしょいなと思っていたの。ウチらはただ養成所に行ってるってだけでまだ何者でもないのに、まるで知り合いみたいにさん付けしちゃってさ!って。だからあたしが芸能人を呼び捨てにするのは、逆に芸能人として崇めている『尊敬』の意味合いなんかもあったりしちゃうのさ!」
最近の彼女の悩みは、普段の会話の中で芸能人にしかわからないような例えが出たり、答えがわかっているのにそれを誘導するためにとぼけて質問をしたり、ちょっとしたタレント病が出てしまうことだ。そんな、芸能人にかぶれている自分のことも「きしょい」と振り返る。
「自分がタレントだというプロ意識があってこそのタレント病だったら全然良いんだけれど、あたしはマジで素の部分が今までの自分と全く変わっていないのね。いまだにガッキー見たら超興奮するし。全然感性は駅前の大学生と同じなの。そういった根っこの部分は変わっていないくせに、表面的なところだけタレントに染まるのはかぶれていると思うから、そこは改めなきゃきしょくなっていっちゃう」
フワちゃんにとって芸能界は憧れの対象だった。いまだに自分がそこに属している意識はなく、中の様子を覗き見してそれを身近な友達に面白おかしく話す「見学者」の気分なのだという。
「まさに見学者って感じ。あたしサブチャン(YouTubeのサブチャンネル)でよくテレビの裏話をしてるんだけど、あれも渦中の人として『芸能界の裏側って〜』って話してるんじゃないんだ。みんなの友達が「ねぇ昨日しゃべくりの観覧行ってきたんだけどホリケンこんなこと言ってた!」って言ってるときのスタンス。芸能界のいろんな面白い話に野次馬みたいに首突っ込んで、家帰ってきたらみんなに全部教えてあげる!って感覚なの。私の類似タレント、天気予報で後ろに映り込んでいるバカ。ほんと、あれくらいの気持ち。だからみんなあたしがこれから先どんなにすごい舞台に立っても、いつまでも身近に感じていてほしいな」
武器は「愛想」
いまやテレビで見ない日はないほどの人気ぶり。遅刻癖があるという彼女は、多忙な日々で相当疲れているのではないか。
「ぜんぜん!バイトしてたときの方が忙しかった。今は毎日友達と遊んでるみたいでほんとに楽しいよ!物理的な疲れでいうと、あたし信じられないタイミングで寝られるからそこも平気。スタッフさんに話しかけられてるときでも、『えー!マジ!そんな話があったんですか!!先言ってくださいよー!あ!ちょっと私、寝ますね!』みたいなノリで寝られる。でも、それを嫌みなく言う工夫はしてる」
眠いのを無理に我慢するのではなく、「眠い」と言える環境づくりを心がけている。不機嫌な感じで言えば雰囲気も悪くなってしまう。明るくポップに本音を言えば、嫌われないし気まずくならない。
「割と『愛想』って信じてる派。言ってることがちゃんちゃらおかしくても、愛想さえよければ逃げ切れるときもあるんだよね。あたしって生意気だったり失礼な態度を取ったりすることもあるから、こいつだったら許せるなと思われる工夫は人一倍怠っちゃいけないと思う」
タメ口スタイルの奥に潜む気遣いの心。フワちゃんと絡む芸能人はそれを敏感に感じ取り、彼女に心を開いていく。
「芸能人ってみんなすごく優しくて、私が気をつけている『人となり』の部分とかにちゃんと気付いて、真摯(しんし)に向き合ってくれる。和田アキ子もやさしいんだよ。すごくかわいがってくれるし、ちゃんと中身を見てくれる人だなと思う。握力100あるって噂だから、めっちゃビビってたけど」
フワちゃんはテレビに出始めの頃、テーマに合わせて話すことを事前に準備していた。でも、バラエティーの現場では台本にない話が急に振られることもある。それに気づいてからは、その場で考えたことを返すようになった。
「芸能界をちょっとだけ見学してわかったことは、自分が面白くなることと同じくらい、味方を作るのって大事。YouTuberってなかなかアウェーになることも多いけど、こうしてテレビに出れるようになったのは完全に周りに味方がいたから。自分の技だけを磨くんじゃなくて、周りに興味と愛を持つのは結局全員WIN-WINになる戦い方かもね!」
芸能人に対しても、好きだと思った人には好きだと伝えるのがフワちゃん流。どういう人が好きか尋ねると、親友の「さっしー(指原莉乃)」を筆頭に何十人もの名前がズラッと挙がった。
「あたし、全ての特性の中で「優しい」がいちばんすごいと思うな。優しい人って大好き!今フワちゃんがつるんでる友達は、漏れなく全員優しい人。優しい人って不思議だよね。ありきたりなようで純粋に優しいってなかなかレアじゃない??あたし、みんなから貰った優しさは忘れないの。なにがあったって力になるのさ!」
お団子スポブラ「ハズかった」
フワちゃんがブレークしたきっかけの一つは、現在の「お団子ヘア&スポブラ」という外見にたどり着いたことだ。インターネット番組の台湾ロケ企画で、台湾出身のビビアン・スーの「ブラックビスケッツ」時代の髪形を真似たところ、これがしっくりきた。見た目が変わったことで一気にキャラクターが伝わりやすくなった。
「その時点ですでに芸歴6年ぐらいあったから、お団子ヘアになるときは結構勇気がいるというか、ハズいっていう感覚があったんだよね。『うっわーこいつ売れようとしてるやん!』みたいなのが露骨に出てる感じ。でもあたしの場合、台湾ロケにちなんでビビアン・スーの真似してるっていう『理由』があったから例のお団子ヘアにイメチェンできたんです。なかなか人の目が気になって変われない人は、そうやって何か言い訳が言える環境があると恥ずかしくなくなるから超おすすめ」
自由奔放に見えるフワちゃんの正体は、セルフプロデュースの鬼。自分がどう見られるかということには徹底的にこだわっている。安易に「おバカタレント」扱いする出演依頼は断っているし、最近よくある「実は賢い」「実は真面目」といういじり方に対しても慎重な姿勢を見せる。
「本当のこと言うと別にとりわけ賢くはないんだけど、実際にバカではないから『実は賢い』って言われるのはギリOK。でも、『実は真面目』に関しては、余裕でウソになるから無理。実は真面目なヤツは15回もバイトクビにならないしね。むしろあたしはそういう真面目に出来ないダメなヤツでも、自分にぴったりの生き方を見つければスーパー輝けるっていうのを証明したい派だから、全くもって真逆のスタンス。手っ取り早く真面目なフリして楽屋挨拶かますときはあるけどね!」
2020年、芸能界もコロナ禍に見舞われた。芸能人の多くが慣れない手つきで機材を使って自宅からリモート撮影をしていたが、ユーチューバー芸人のフワちゃんにとっては、リモート撮影はお手のもの。むしろその時期にテレビ出演の機会をどんどん増やしていった。
「あたし、『コロナの申し子』って言われたの。最悪なキャッチコピーじゃない?」
実は3月に1カ月休みを取ってオーストラリアへの語学留学を予定していたが、コロナの影響で中止に。スケジュールは白紙になってしまったが、焦りはなかった。
「あたしが落ち込まない理由は2つあるの。まず、最悪な状況でも目先の小さな幸せを喜べるめでためな脳の作りをしてること。今がどんなにピンチでも、『信号がちょうど青になった!』とか『昨日も今日も超晴れた!』とか、そういう小さな幸せに目が行くめでたい思考回路なんだよね。だからこそ、今思えば不遇の下積み時代でも毎日楽しかったんだなぁ!って思う。これって能天気なようだけど意外と万能な考え方だからみんなも試してみてほしー。あと二つ目は、切り替えが早いこと。留学が無理!?信じらんない!サイアクすぎ!マジ不幸!悲劇!とかひとしきり騒ぐんだけど、そのあと必ず「じゃあ次こうしよう」までセットで考えられる。切り替えが早いとか言うとなんだか聖人みたいだけど、要するにただの効率厨。せっかちだから早く次の手を決めたいだけなの。根本はエレベーターで閉まるのボタンガチャガチャやってる人とほぼ同じだけど、この考え方は落ち込まなくていいよ」
「Fuwachan」世界共通言語を夢見て
いまや日本のテレビを席巻しているフワちゃん。だが、帰国子女で英語が話せる彼女の目は海外にも向いている。
「海外で爆売れしたいの。やっぱりフワちゃんって、めちゃくちゃサイコーだし、明るいし楽しいし元気だし、ファッションもラブリーで、英語が話せて、超JAPANESE KAWII!絶対世界で売れるキャラクターだと思う。今まで海外で、ちゃんと英語を使って自分の言葉で売れたっていうパターンはあんまりないから、それが野望。あたしの人生に世界中を巻き込みたいな!」
世界に進出して、Netflixで番組をやりたい。そんな彼女の語る壮大な夢を一足先に実現しているのが、片づけコンサルタントの「こんまり」こと近藤麻理恵。英語圏では「Kondo」が「片づける」という意味の動詞として使われることもあるという。
「こんまりみたいに世界から必要とされる存在って最高だよね!『Fuwachan』はどんな意味の言葉になるのかな!『笑いすぎてオシッコ漏らす』とかかな!」
人生がときめくフワちゃんの魔法。「Fuwachan」が世界の共通語になる日は来るのか。