志田未来、武井咲、能年玲奈、有村架純、吉岡里帆……1993年生まれは女優の当たり年になっている。同い年で2004年に事務所に入った新木優子(26)は、それまで彼女たちの活躍を傍目で見ながら、芸能人生を歩んできた。現在インスタグラムのフォロワー数は413万人を超え日本10位、最近4年で地上波連続ドラマ10本出演、現在放送中のWOWOW「連続ドラマW セイレーンの懺悔」でも主演を務めるなど、輝かしい実績を誇っている。彼女は仕事や自分の感情とどのように向き合っているのか。(取材・文:岡野誠/撮影:佐々木康太/Yahoo!ニュース 特集編集部)
進学を決めた瞬間、芸能界で生きると決めた
「『悔しい気持ち=悪』だと思っていました。同世代の活躍は自分の原動力にもなっていましたけど、もちろんうらやましさもありました」
新木優子がドラマのオーディションでなかなか合格できていなかったころ、1993年生まれの女優は続々とブレークを果たしていた。2006年に志田未来が『14才の母』(日本テレビ系)に主演し、最高視聴率22.4%(ビデオリサーチ調べ/関東地区。)を獲得。武井咲は2012年にNHK大河ドラマ『平清盛』に出演し、2013年には『タレントCM起用社数ランキング』(ニホンモニター調べ)で女性部門1位に輝いた。能年玲奈(現・のん)や有村架純出演のNHK朝ドラ『あまちゃん』が国民的な人気を得たのも、同年である。
仕事を続けられるのか。それとも――。このころ、20歳を目前に控えた女子大生は岐路に立っていた。
新木優子の芸能人生は、決して平坦ではなかった。まだ個性を出せなかった中学時代、デビュー前の『ももいろクローバーZ』のメンバーと一緒にレッスンを受け、事務所主催のイベントにも出演した。その時、自分を強く押し出せないことに気づいた。
「自分以外のファンの方と接すると、明らかに私に興味がないとわかって、悲しくなりました。そんな状況でも、アイドルを目指す子は『私のことも応援してください!』と前に出ていける。私にはそれが出来ませんでした」
仕事に奔走しない分、中学校では吹奏楽部の部長を務めた。高校ではハンドボール部のマネジャーとして部員を支えた。
高校2年の秋、進路に悩んだ。大学受験をするのか、タレント一本に絞るのか。学業も仕事も続けようと決めた彼女は、大学在学中の4年間で結果を出せなければ、芸能界から身を引こうと思っていた。
「進学を決めた瞬間、この仕事で生きていきたいと思ったんです。両立という選択には、責任が伴う。どちらも中途半端にしてはいけない。信念を持って頑張ろうと決心しました」
新木を変えた大杉漣のひと言
意識の変革は、行動にも影響を及ぼす。内面を変えようと、幾多の本や映画に触れた。将来を見据えて、英語の習得に励んだ。日本語アカウントが開設される前の2013年からインスタグラムを始め、地道に投稿を続けた。
すると、徐々に結果が出始める。大学3年生の2014年にファッション誌『non-no』の専属モデルとなり、2015年には『ゼクシィ』の8代目CMガールに選ばれた。厳しい競争を勝ち抜き、不合格が続いた日々との決別を果たした。
「悔しい気持ちに対する考え方も変わっていきました。ジェラシーを感じられる相手がいるって、すごく素敵だなって。この仕事への情熱を再確認できるし、どうすれば理想の自分になれるか研究する動機にもなる。逆に、競争相手がいなかったら、どうなるのだろうと怖くなります」
嫉妬を感じない人間など存在しない。その感情を他人への攻撃に回して一時的な優越感を得るのか、自分への肥やしにして成長の糧にするかで人生は変わる。新木優子は明らかに後者だった。
2016年1月公開の映画『風のたより』では、初めて主演の座を射止める。しかし、意気込めば意気込むほど、緊張感は増していく。「間違えてはいけない」という思いが新木の中で芽生えていた。そんな中で新木は撮影中にNGを出してしまい、何度も何度も『ごめんなさい。ごめんなさい』と頭を下げた。祖父役の大杉漣は、新木の生真面目な性格を見抜いたのか、『いいんだよ。人は間違えるものだから』と穏やかに声をかけた。
「あの言葉は、今も鮮明に思い出せるくらい印象に残っています。すごくうれしくて、緊張もほぐれました。それ以来、ミスが怖くなくなりました。誰にでも間違いはある。失敗したくないなら、練習や工夫をすればいいと思えるようになったんです」
翌年には大学時代に原作を読んでいた『悪と仮面のルール』の映画化でヒロインに抜擢され、『CRISIS 公安機動捜査隊特捜班』(フジテレビ系)ではベテラン勢の男性メンバーの中で紅一点の元ハッカーを演じた。2018年には人気シリーズ『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命 THE THIRD SEASON-』(フジテレビ系)に出演。フライトドクター候補生役として脚光を浴び、知名度が一気に上昇した。
モデルや女優として進化する新木は、10代や20代を中心に絶大な支持を得ていく。新木のフォロワー数は現在413万人を超え、渡辺直美や嵐、世界的な企業である日産やホンダらとともに日本のベストテンに名を連ねている。その人気の秘訣はどこにあるのだろうか。
「インスタグラムがはやる前からやっていたので、日々の積み重ねなんでしょうか。常に、自分が何を発信したら喜んでもらえるか、意識しながら投稿しています。
ファンの方が楽しめて、私自身もリアルな声を聞いて頑張れる。そんな関係が築ける場であればいいなと思います」
ネット上のコミュニケーションは困難を極める。誰もがフラットに書き込めることのマイナス点もある。
「99%良く書かれていても、たった1%の悲しいコメントに目がいってしまう。それが人間だと思うんです。でも、(誹謗中傷を受けるような)つらい経験をすると、人に対して優しくなれる。起こった出来事を、どうプラスに変えていくか考えますね」
「成功」の基準
タレントに限らず、人は数字で『成功』『失敗』と評価される。しかし、早急に結論づけられない面もある。新木に、成功と失敗の基準をどこに置いているのか問うと、俯いて数秒間熟考した後、こう話し始めた。
「自分にちゃんと自信を持てたら、成功かなって思います。いつも全力で作品に挑んでいますし、何となくこなした役はありません。主演なら、自分の軸をブレないようにしないと、他の出演者も生きなくなってしまう。とにかく、がむしゃらに一生懸命頑張る。そういう意識を持ち続けることが自信につながるのかなって、私の中では思います」
自分に自信を持てたら成功――。己と常に向き合い研究しながら、さらなる飛躍を見せる新木の目指す姿とは。
「どんな役を演じても、何らかの感情を抱かれる人でありたい。人の気持ちを動かし続けていきたいです。特に今回の『連続ドラマW セイレーンの懺悔』は、気持ちの揺れ動きがある作品だと思います」
新木が主演を務める現在放送中のWOWOW『連続ドラマW セイレーンの懺悔』(毎週日曜よる10時〜)は、『正義感』が一つのテーマになっている。新木にとって正義感とはどういうものなのか。
「今回私が演じている報道番組の新人記者・多香美は、正義感を持って取材に向き合うのですが、ある時その正義感がマイナスになる瞬間があって。正義感を自分の世界観の中だけで決めて振りかざしてしまうことによって、周囲と亀裂が生じてしまう。正義感はプラスにもマイナスにもなり得る怖さがあるのだと、この作品を通して感じました。」
秀麗な外見から放たれた“情熱”“ブレない”“挑む”という単語の選択は、この世界で生き抜く決意を感じさせた。遅咲きだからこその精神的な強さ。新木優子は、さらなる大輪の花を咲かせるはずだ。
新木優子(あらき・ゆうこ)
1993年12月15日生まれ、東京都出身。2004年、原宿でスカウトされ、芸能活動を開始。2014年からファッション誌『non・no』の専属モデルを務めている。現在放送中のWOWOW『連続ドラマW セイレーンの懺悔』に主演(毎週日曜よる10時〜)。誘拐殺人事件の謎を追う報道記者を演じている。