約1年9か月ぶりに新曲を発売、新センターを据えて“新生NGT48”が始動する。昨年1月のメンバーへの暴行事件で、一度は止まったNGT48の歩み。「『辞めたい』と強く考えるぐらい絶望した瞬間もありました」と語るメンバーもいるなか、どのようにして彼女たちは再び集い、第一歩を踏み出したのか。グループ、メンバー、そして新潟県への思いを、荻野由佳、中井りか、本間日陽、小熊倫実、藤崎未夢、安藤千伽奈の6人に聞いた。(取材・文:田口俊輔/撮影:Yuichi Tagawa/Yahoo!ニュース 特集編集部)
厳しい意見、悲しい気持ちになる言葉がたくさん送られてきた
新型コロナウイルス感染拡大による自粛期間を経て、緊張しつつも笑顔で取材は始まった。“NGT48として“取材を受けるのは久々だという。
ニューシングル『シャーベットピンク』のカップリング曲は、『絶望の後で』『後悔ばっかり』『嫌いなのかもしれない』。そのタイトルについて、1期生最年少の小熊倫実(17)が口を開いた。
「タイトルを見た時は……『わあっ!』でした。全曲『シャーベットピンク』の可愛らしさとは正反対な感じなので、『どんな歌なんだろう?』という不安がありました」
カップリング曲に連なる重いトーンの言葉。なかでも『絶望の後で』の歌詞には信じられるものを見失った中、葛藤する姿が綴られる。
一呼吸置き、荻野由佳(21)が続いた。
「1年9カ月間の中で正直、絶望した瞬間はもちろんありました。歌詞のメッセージ性が強く、どうやってこの曲を私たちで表現できるのか? すごく悩みました。けれど不安の中にいても前向きな姿勢を歌うこの曲こそ、今の私たちの姿を最大限に発揮できると思います」
2015年夏、NGT48はAKB48グループの国内5番目のグループとして、新潟県で産声をあげた。2017年4月にリリースされたデビュー・シングル『青春時計』はオリコンウィークリーチャート初登場1位を獲得。その年の「AKB48選抜総選挙」では荻野を筆頭に多くのメンバーを壇上の高みに送り込んだ。2018年4月には県内最大級のコンベンション施設・朱鷺メッセでコンサートを開催、8000人のファンがその姿を見守った。グループは最良の時間を迎えようとしていた。
そのさなかの昨年1月、メンバーに対する暴行事件が発覚。当時の運営による被害メンバーに対する不透明な対応も手伝って、ファン、新潟県民は大きな不信感を覚えた。SNSでは流言飛語が飛び交い、世論は過熱。活動は一時ストップすることになった。
運営に向けられる怒りの声は強くなり、メンバー個人にも向いた。
「最初は厳しい意見に慣れていなかったので、戸惑いもありましたし怖かった」(荻野)
忌憚のない発言が注目されがちな中井りか(22)はこう語る。
「厳しい意見も、悲しい気持ちになる言葉もたくさん送られてきました。そんな中でも私たちの活動を待ってくれているファンの皆さんへの気持ちの方が大きくて。厳しい意見も受け止めつつ前に進まなきゃいけないと考えていました。それでも……」
そんな折、メンバーのSNSの取り扱いをめぐって問題が発生。同年5月21日に全メンバーのSNSの使用が禁じられる。劇場公演だけでなく発信すらできない状況に陥った。
「私、本当にNGT48に加入したのかな?」
一度入ったトンネルは長かった。藤崎未夢(19)が当時の苦悩を語る。
「研究生としてグループに加入してから、ファンの皆さんの前でパフォーマンスした時間より、ステージに立てなかった時間の方が長かったように感じていて。『私、本当にNGT48に加入したのかな?』と悩む日がありました」
同じく研究生の安藤千伽奈(19)は、何もできないことに対し自責の念を抱くほどだった。
「『自分がもっと努力していれば、もっとうまくいけたんじゃないのかな?』と考えることもありました」
危機的な状況なのは本人たちが一番わかっていた。結果的に、「事件」から現在までに11人がNGT48を去っている。そんな状況だったからこそ、メンバーは一つになろうと幾度となく話し合いの場を設けてきた。時には、「この活動を続けるかどうか?」の話題にも触れた。本間日陽(20)は、メンバーの意志を確認したひとりだ。
「『これからも頑張れますか? 頑張れると思った人は集まって話しましょう』と呼びかけたこともあります。結果、全員が集まりました。『厳しい意見に対してどう思っている?』という話もみんなでしました。自分たちがみなさんに迷惑をかけてしまった事実がある以上、そこはちゃんと受け止めて、みんなで頑張らないといけないねって」(本間)
そんななか、一つの転機が訪れる。2019年8月、国内最大級のアイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)」の2日目に“前座”という異例の形で出演が決まったのだ。
安藤が、開演直前の様子を振り返る。
「始まる前にメンバー全員で円陣を組んで声出ししたんですよ。その時に『ああ、私ここにいるんだ』っていう、すごく嬉しい感覚が湧きあがってきました」
全メンバーが壇上にあがると、中央に立った荻野が開口一番、今の思いを述べた。NGT48全員が再びステージに立ちたい思いを持っていること、その場をTIFが用意してくれたこと。何よりこの日集まった観客とこれまでNGT48を応援し支えたファン、新潟県民に向けて誠心誠意これから歩んでいくと。
「あの瞬間、すごいバッシングをん受けるんじゃないかと怖くて仕方なかった」(荻野)
全5曲を披露し終えると、拍手と歓声が彼女たちを包みこんだ。かつて受けていたものと比べれば決して大きくはない。それでも応援の声がNGT48に戻ってきた。彼女たちの止まっていた時計の針はゆっくりと、静かに動き出した。
『シャーベットピンク』は“サイカイの喜び”を歌う
今年4月に運営会社が変わり新体制を迎えた。再出発作『シャーベットピンク』で、センターを務めるのは2018年2月に加入したばかりの研究生・藤崎。これまで選抜経験のない藤崎が「新生NGT48」を背負うことになった。
「私がセンターに立つということで、『周りの方がどう思うのかな?』と決まった時は不安がありました。私は先頭に立って引っ張れるタイプではないので、先輩にも同期にもすごくたくさん支えていただいています」(藤崎)
「私や荻野、本間のセンター経験者は『一人でもどこにでも行けるぜ!』と自分で舵を取れてしまうタイプ。みゆみゆ(藤崎)はシッカリ者なんですけど、いまどきの言葉で言うと“バブみ”が強いところもあって(笑)。そういうところがあって支えたくなるんですよね」(中井)
新曲では「再会の喜び」を歌う。
「メンバーやファンの方との“再会”というテーマが軸なんですけれども、それ以外にもファンのみんなと私たちがまた一緒に再会して劇場が“再開”できるようにという、様々な“サイカイ”の願いもかけているんですよ」(中井)
逆風が吹いている、それでも前を向く
今なおNGT48の話題があがれば、ネット上には心ない言葉が投稿される。
「逆風が吹いている、というのはわかっています。その風が強すぎて怖いと思ったことはたくさんありましたし、『この先、どうなるんだろう?』という漠然とした不安もありました。けどメンバーの存在がすごく大きかった。メンバーがいなかったらたぶん今ここにいないだろう、みたいな瞬間が何回もありました。NGT48をもう一度よみがえらせようという意識を一人残らず全員持っているんですよ」(中井)
「『辞めたい』と強く考えるぐらい絶望した瞬間もありました。けどメンバーが心を一つにして頑張ろうとする、その輪の中に入りたい気持ちの方が強くて。その絶望の一瞬を越えてからは、つらいことを考えるのはやめよう、ずっと前だけを見ていようって」(荻野)
今なにをすべきか?という問いには「新潟県のために何かしたい」と、全員が口をそろえた。
「これまで新潟でたくさん活動してきたのですが、全ての町を回ったことがまだないんです。私たちは本当に新潟県が大好き。心から感謝していますという思いを行動でちゃんと示していきたい」(荻野)
長い絶望の後で、NGT48は自ら再び歩きだすことを選択した。それが正しいのかはまだわからない。発足して5年。「心身ともに今が最良の瞬間?」という問いに、全員が首を縦に振った。
「今がベストではあるけれど、もっといけると思います」(本間)
NGT48(えぬじーてぃー・ふぉーてぃーえいと)
AKB48グループ国内5番目のグループとして2015年7月に結成。グループ名のNGTは、劇場所在地である新潟市および新潟県の新潟に由来。2017年4月にシングル『青春時計』でメジャーデビュー。各ヒットチャート1位を記録。2020年にユニバーサルミュージックへと移籍し7月22日に約1年9ヶ月ぶりとなるシングル『シャーベットピンク』をリリース。現在1期生13名、研究生17名の総勢30名で活動中。