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リモートでガヤはできない、でもやるしかない――コロナ禍でピンチ? FUJIWARA・藤本敏史の「新しいガヤ様式」

2020/06/14(日) 10:06 配信

オリジナル

芸人がひしめくひな壇の片隅から声を張り続ける「Mr.ガヤ芸人」ことFUJIWARAの藤本敏史。要所要所で挟まれる威勢のいいガヤが収録を盛り上げ、出演者や視聴者を笑顔にする。

そんな彼もコロナ禍の影響を受けた一人だ。リモート収録が多くなり、スタジオ収録が再開した今も、出演者の人数減のあおりを受けている。コロナ禍で大きな変化を迎えたテレビ収録。テレビスタッフの間で「ガヤ芸人不要論」までささやかれるこの時代に「Mr.ガヤ芸人」はどう立ち向かうのか。(文・ラリー遠田/Yahoo!ニュース 特集編集部)

私生活では昨年末に離婚を経験。そんな彼は、相方・原西孝幸とYouTubeチャンネルを立ち上げ、自分の興味のある女性とオンラインデートを行った。早くも新しい出会いを求めているのかと思いきや、本人はそこまで乗り気というわけではないようだ。

「仕事と子育てでいっぱいいっぱいなので、今すぐに結婚とかを考えているわけではないです。ただ、僕は本当におしゃべりが好きなので、オンラインデートで人とじっくりしゃべるっていうことに幸せを感じました。オンラインから恋愛に発展することもなくはないんじゃないですか。ただ、こういうご時世だから仕方ないけど、やっぱり会って話してみたくなりますね」

自粛期間に自分の芸風を忘れた

コロナ禍はお笑い界にも大きな影響を与えた。藤本も営業やテレビ出演の仕事が激減した。自粛要請期間中、おしゃべりの藤本にとって何よりつらかったのは、ひとりの家では誰とも話せなかったことだ。

「家では、見ていなかったドラマとか、録画したバラエティーとかを見たりしていますけどね。ただ、これだけ時間があるとそれも見尽くしてしまうんですよ。とにかく人と会ってしゃべりたいっていうのがありますね。ふと気づくと独り言で何かしゃべってたりします」

芸人は、しゃべりが本業である。ガヤ芸人の藤本は特にその比重が大きい。自粛期間中に腕が衰えたら死活問題になる。

「この前、久しぶりにオンラインで仕事をしたら後輩芸人から『藤本さん、そんな感じでしたっけ?』って言われたんですよね。自分がどんな芸風だったかを忘れているんですよ。正しい声の張り具合とかがわからなくなるんです」

リモート収録ではやり取りにタイムラグがあるし、音声がうまく聞き取れないこともある。VTRが流れているときやほかの人が何か言ったときにすかさず差し挟む「ガヤ」は、音声が不安定なリモート収録には向いていない。

「ガヤって10個言って2個伝わったらええかな、っていう感じのものなんですけど、リモートではしゃべったことが全部伝わってしまうじゃないですか。だから自分の良さは出せないですね。リモートでガヤはできないです。でも、やるしかないですもんね。何とかこの状況に順応するしかないと思います」

藤本がガヤ芸人の代表格と言われるようになったのは最近のことだ。ただ、その芸風は昔から変わっていない。ライブでも収録でも余分なことを言いまくって場を盛り上げていた。

「ガヤっていう言葉が浸透していないころは、共演する人にも『うるさいなあ』ってよく言われてましたよ。ガヤ芸人という言葉が出始めてから権利を得たというか、一つのポジションとして見てもらえるようになった感じがします」

藤本がガヤを発するときには、その場で見たものに対し細かい補足情報を付け足すことが多い。「言われてみればそんなのあったな」「よくそんなこと覚えてるな」などと思われることにやりがいを感じる。

「テレビに育てられたと言ってもいいぐらいのテレビっ子だったので、いろいろなことが自然にインプットされているんですよね。どうでもいいマイナーなことをよく覚えているんです。兵藤ゆきさんが昔アスパラのベーコン巻きを食べておなかを壊した、とか(笑)。でも、売れてる芸人はみんなそういうとこあると思いますよ。有吉(弘行)とかケンコバ(ケンドーコバヤシ)もすごいですから」

再びガヤれる日が来ることを信じて

ほかの芸人のギャグを堂々とパクることでも有名な藤本。『アメトーーク!』(テレビ朝日系)では「パクリたい-1グランプリ」という企画にも呼ばれている。ここで彼が喜々として演じるのは、島田夫妻の「カンツォーネ」やゴー☆ジャスの「君のハートにレボリューション」など、ちょっとマイナー路線のものが多い。

「これ絶対やらされてるやろ、みたいなのが好きなんですよね。『エンタの神様』に出ていた生徒会長金子とか、KICK☆とか。僕は『エンタ』を見るときも、普通のちゃんとしたコントは飛ばして見てますから。最近の『エンタ』もいいんですけど、そういう芸人が出てきてないのがちょっと寂しいです」

藤本のマイナー志向は筋金入りだ。映画を見ていても主人公ではなく、それをサポートするサブキャラのほうに感情移入してしまう。テレビの中でもガヤ芸人はメインにはなれない。映画の中の脇役をそんな自分と重ねて見てしまう。

「若手のころはメインになりたいと思ってましたけど、無理だって気づいたんですよね。ガヤ芸人っていう今のポジションも楽しいから、俺はそういうスタンスでいくしかないのかな、って」

藤本は「Mr.ガヤ芸人」としての地位を確立。芸人が大勢出るようなバラエティー番組では欠かせないキーパーソンとなった。そんな彼がテレビに出続けられてきた理由も「ガヤ」にある。

「僕、カメラ回ってないところでもずっとガヤ飛ばしてるんですよ。収録の雰囲気が悪くならないように、勝手に使命感に駆られているんです。縁の下の力持ちって言ったらかっこつけすぎかもしれないけど、もしかしたらスタッフさんがそういうところを見てくれているんじゃないのかな、と思います」

劇場の楽屋では年の離れた見知らぬ後輩芸人にも気さくに声をかける。回り回ってそんな後輩芸人とテレビで共演したりすることもあり、そのときには話していた経験が役に立つ。

思っていることを声に出し、話しかけることで人とつながる。ガヤは収録時間の隙間を埋めるものであり、人と人の間をつなぐものでもある。ソーシャルディスタンスが求められ、人と人が物理的につながれなくなっている時代に、藤本のような芸人が苦戦を強いられるのも無理はない。

「『リモート収録でガヤ芸人は淘汰される』っていうネットの記事を見て、吐きそうになりましたよ。コロナが早く収まってほしいっていうのは、芸人の中で僕が一番切実に思ってるんちゃうかな」

新型コロナウイルスはガヤ芸人を殺すのか? 最も切実にコロナ収束を願う芸人がここにいる。ガヤで笑える世界を取り戻すにはもう少し時間がかかりそうだ。

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