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コロナで「笑い」は変わるのかーーリモート時代に「生き残る」エンタメとは

2020/05/17(日) 09:51 配信

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新型コロナウイルス感染拡大は、テレビ界にも大きな影響を及ぼしている。タレントがスタジオ内で間隔を空けて座っていたり、リモート出演したりすることも増えてきた。そんななかいち早く危機に対応し注目を集めたのがテレビ東京だ。所属する佐久間宣行プロデューサーはコロナ危機が「バラエティ番組の変化を加速させる」と語る。見据える未来とは。そしてテレ東が1年前に打っていたリモート体制の布石とは。(取材・文:ラリー遠田/Yahoo!ニュース 特集編集部)

『報道ステーション』(テレビ朝日系)のメインキャスター・富川悠太アナウンサーや制作スタッフに感染者が出たことが明らかになっており、どの局でも従来通りの番組づくりは難しくなっている。

タレントがスタジオ内で間隔を空けて座っていたり、モニター越しにリモート出演したりすることも増えてきた。コロナ時代のテレビ制作環境はどういう状況にあるのか。そして、収束後もその影響は続くのか。テレビ東京の佐久間宣行プロデューサーに現場の声を聞いてみた。

現状ではスタッフが顔を合わせて会議をすることも難しくなっているが、意外にも佐久間はその点に関して楽観的だ。

「リモート会議は全く問題ないんですよね。大人数の会議って、本当に全員が資料読んでるのかな、ってことがあるじゃないですか。リモートだったら資料を画面に映して強制的に見せながら説明ができるので、むしろ便利。会議はこれからもリモートでやろうと思っているぐらいです」

佐久間が手がける番組自体もコロナのあおりを受けている。『ゴッドタン』では収録素材のストックが尽き、5月3日から総集編が始まった。『青春高校3年C組』では生徒20人が自宅からリモートで出演する企画を導入。他局のバラエティー番組でも、総集編とリモート中継を取り入れた新企画が多くなっている。

「『ゴッドタン』でも、既存の企画の中でリモートで撮れるものがあるかどうか洗い出しをしています。今やろうと思っているのは星野源さんの『うちで踊ろう』のお笑い版で『うちでボケよう』っていう企画です。過去のVTRの中から面白いツッコミを抜き出して、それを使って芸人に自宅でボケのVTRをつくってもらいます」

MCがいるスタジオとタレントの自宅をつなぐ収録では、それぞれの実力が試される。リモート出演には向き不向きがあると佐久間は言う。

「やってみて思ったのは、絶対的なMCがいる場合はやりやすいんですよ。リモート収録って言葉がカブっちゃうから、クロストークには向いてない。だから『有吉の壁』(日本テレビ系)でやっていたみたいに、有吉(弘行)さんが個々の芸人に話を振って、振られた側がそこでイジられるっていうのはいけるんです。

リモート出演に向いているのは、短い尺でも何かできる人と、ある程度はスベっても大丈夫な人です。反応が返ってこないから、メンタルが強くないと厳しい。あと、ガヤ芸人は結構大変だと思いますね。普段は空気を温めたり隙間を埋めたりしてくれるんですけど、リモートだとカブっちゃうから、そういうのがあんまり要らないんですよね」

テレ東、リモートシフトが早かった理由

佐久間が所属するテレビ東京は、この未曽有のコロナ危機にいち早く対応したことで業界内でも話題になった。4月3日から「出社2割」を掲げ、報道部門を除く全社員の2割以下の出社で放送事業を継続する体制に入った。他局に先駆けてロケや多人数のスタジオ収録も中止した。

また、4月25日に放送された『出川・IKKO・みやぞんの割り込んでいいですか?』は、リモートで収録された特番として話題になった。もともと予定していたロケが中止になったため、急きょ企画を変更してリモート収録を行ったのだ。企画力とフットワークの軽さが売りのテレ東らしい内容だった。

「ウチはもともと人数が少ないから、各部署がコミュニケーションをとりやすいっていうのがあります。あと、(2016年に)社屋が移転して、編成と営業と制作が同じフロアになったんですよ。それまではクリエーティブセクションと行政セクションが別々のビルに分かれていたんです。それらが一緒になったことで、何かあったらそれぞれの部署の人たちがすぐに集まって話ができるようになったんですよね」

テレビ東京はコロナ以前の2019年8月から在宅勤務制度を導入しており、その準備段階から社員に向けて数回にわたって説明会を行って周知をしていた。実際にリモートワークが社内で実践され始めていたため、コロナウイルスの感染拡大を受けて、導入していたシステムの拡充を進めることによって、非常事態にいち早く対応できた。

瀕死のエンタメに何を思う

新型コロナウイルスは収束の兆しが見えない。このままの状況が続くならば、テレビの制作体制にも抜本的な改革が求められるのだろうか。そして、コロナ収束後にも何らかの形でその影響は残るのだろうか。

「いわゆるバラエティー番組の面白さみたいなものがコロナ収束後に完全に変わっちゃうかというと、そうじゃないと思いますけどね。それよりも『垂れ流しではなく作品性のあるバラエティー番組を評価するべきじゃないか』という流れはその前から始まっていました。コロナで何かが変わるというより、コロナの影響でもともとあったそういう変化が加速する気はしますね」

佐久間はテレビだけでなく、映画、音楽、演劇など、幅広い分野のエンターテインメントに精通していることでも知られている。そんな彼は、ライブや公演が軒並み中止になり、窮地に追い込まれているエンタメ業界の現状に胸を痛めている。

「劇団やバンドが食っていけなくなってみんなが普通に就職しちゃったら、それから簡単には復活はできないじゃないですか。エンターテインメントの活動って、一度壊れるとそれを取り戻すのはすごく大変なんですよね。個人の創作とはそこがちょっと違う。

だから、今は苦しいかもしれないですけど、何とか壊れないようにセーフティーネットを組んだり、応援したりするっていうのはできる限りやっていきたいなと思いますね」

チープな笑いへの危機感

一方で、エンタメ業界の体質に問題があったのかもしれないとも指摘する。

「演劇の世界はみんな独立独歩でやりすぎていて、寄り合いがなかったっていうのがここへきて響いているっていうのはありますよね。俳優の労働組合もないじゃないですか。やっぱり日本ってエンターテインメントに優しいようで厳しくて、『好きでやってるんでしょ』っていう考え方が根底にある。『ダメだったら最期は野垂れ死ぬのが芸人だろ』っていうロマンがあるのもわかるんですけど、それは今の時代とは合わなくなってきていると思います」

お笑いの世界では、芸人がYouTubeなどで動画配信する動きも活発になっている。コロナの影響でテレビやライブや営業の仕事もほとんどなくなり、暇を持て余した芸人の自主的な発信にますます拍車がかかっている。

「(千原)ジュニアさん、小籔(千豊)さん、フット(ボールアワー)のYouTubeチャンネル(ジュニア小籔フットのYouTube)とかはすごいですよね。ああいうのは収益化されるまではノーギャラでやることになるだろうから、僕らが企画しても実現できないんですよね。

今みたいにいろいろ見てもらえるメディアがあって、そこに合わせていろんなものをつくれるっていうのは面白いし悪くないと思います。ただ、現状では日本のメディアのリソースが分散していて、チープなものがたくさん生まれる状態になっている。それは文化としてあんまり良くないんじゃないかとも思います。それだとキラーコンテンツが生まれる状況にならないし、世界にキャッチアップできなくなりますよ」

大物芸人のYouTubeへの進出はコロナ禍によって、生まれた思わぬ変化の一例に過ぎない。チープなエンタメが多く生まれてきた現状はコロナ禍の影響でガラリと変わるかもしれない。佐久間は最後にこんな風に語る。

「このたとえが正しいかどうかわからないですけど、スマホのソシャゲ(ソーシャルゲーム)しかこの世にない状態になったらちょっと寂しいじゃないですか。しっかり予算をかけたPS4の大作ゲームみたいなものも同時並行で存在していてほしいんですよね」

自分が愛するエンタメ業界の明るい未来のために、佐久間は今日も戦い続ける。コロナと人類の戦いはいまだに決着していないが、佐久間の「エンタメドリーム」に終わりはない。

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