Yahoo!ニュース 特集編集部
足を引っ張り合う笑いは「マジもったいねえ」ーー“チャラ男“EXITのチャラくない主張
2020/05/15(金) 18:37 配信
オリジナル芸人らしくないし、吉本らしくもない。独自路線のチャラ男キャラで人気沸騰中のEXIT。2018年にブレークを果たして以来、現在までその勢いはとどまるところを知らない。競争の激しいお笑いの世界で、2人のチャラ男がここまで生き残ってきた理由は何なのか。(取材・文:ラリー遠田/Yahoo!ニュース 特集編集部)
「リモートでは、スベっています」
新型コロナウイルス感染症の流行により、芸人たちは大きな打撃を受けた。EXITも例外ではない。予定されていた収録やライブは軒並み中止に追い込まれ、仕事のスケジュールは一気に真っ白になった。4月に始まる予定だった冠番組も放送延期になってしまった。しかし、彼らは「自分たちはまだ助かってる方だと思う」と前向きに考えている。
「ほかの芸人はほぼ収入ゼロになっちゃってるし。居酒屋とか夜のお店の人たちはもっと大変ですよね。僕らは人に見られる立場だから、できる範囲でみんなにも自粛を呼びかけて、自分たちも気を付けるようにするのが最善策なのかなと思います」(りんたろー。)
「僕はこういう状況だからこそ、芸人のできることを考えていきたいんですよね。普段からつらい思いをしている人たちはめっちゃいて、そういう人たちのためにお笑いってあるものだと思うので。こういうときこそお笑いを知ってくれる人が増えるんじゃないかな、ってプラスに考えています」(兼近)
バラエティ番組ではタレントがモニター越しにリモート出演することも増えている。キャラが強い彼らはリモート収録もお手の物ではないかと思いきや、意外な答えが返ってきた。
「僕はリモートではずっとスベってますね。事前にあまり準備せず、現場の空気感で言うことを決めているタイプなので、それが全くできないのはきついです。リモートはマジ無理です。(明石家)さんまさんでも絶対スベると思いますよ」(兼近)
「いや、さんまさんは大丈夫だよ。めちゃくちゃ腕あるんだから」(りんたろー。)
2年前、『ゴッドタン』(テレビ東京)に出演した彼らは「チャラ男なのに実は真面目」ということを先輩芸人にいち早く見抜かれ、そのことでさんざんイジり倒された。チャラ男キャラを武器にしようと思っていた2人には予想外の展開だったが、先輩の引いたレールに全力で乗っかるしかなかった。
「あのイジりをされるのがちょっと早くないか、と言われたりもしたんですけど、俺らぐらいで早いとかそのスタイルはできませんとか言ってられないと思うんですよ。求められたものに柔軟に対応していくしかないですよね」(りんたろー。)
「俺たちは『国民のマリオネット』ですから。みんなが好きなように操ってくれればいいんです」(兼近)
報道番組に出演するチャラ男たち
この4月からは報道バラエティ番組『ABEMA Prime』(AbemaTV)にも出演する。ニュースや社会問題を扱う番組にチャラ男が出るのは場違いな気もするが、これが意外にしっくりきている。りんたろー。がその日のテーマについて入念な下調べをする一方、兼近大樹はほぼ準備ゼロで本番を迎える。見た目は似たようなチャラ男でも、番組に臨む姿勢は対照的だ。
「そこはもともとの性格ですよね。僕は東大生のLINEグループに入れてもらっているので、そこで事前にニュースの内容をどう思っているかを聞いて、それを参考にして本番で質問をしたりしています」(りんたろー。)
りんたろー。はコロナ禍による自粛を訴えるために「コロナ漫才」を作り、YouTube上で公開した。また、自粛の必要性を若者に訴えるために、長文をnoteに投稿し多くの反響を呼んだ。
今どきの若手芸人の大半は、テレビで活躍することを目標にしている。だが、EXITの2人はテレビに出まくるかたわらで、YouTubeチャンネルを1年ほど前から開始し、最近ではアパレルブランドを立ち上げるなど、活躍の幅を広げている。特に兼近はテレビに対して「呼ばれなくなったらそれはそれでいい」と割り切っている。
「テレビのスタッフさんから『今度あなたたちの番組が始まるからがんばってください』って言われると、いやいや、俺らだけじゃなくて一緒にがんばるんでしょ、って思うんですよ。僕はそういうスタンスだから全くプレッシャーがないんですよね。自分がテレビをやっているというより、テレビに呼ばれて、やらせてもらっているという感覚です」(兼近)
「あと、僕らはずっとネタをやってきているので、最悪テレビに出られなくなっても劇場があるじゃん、って思えるんですよね」(りんたろー。)
昨今のお笑い界では「お笑い第七世代」と呼ばれる平成生まれを中心にした若い芸人たちの活躍が目立っていた。EXITもその中の1組として扱われていたのだが、そのことを本人たちはどう思っていたのか。
「マジありがたいっすね。そこに入れて良かったです」(りんたろー。)
「霜降り明星とか四千頭身とかゆりやん(レトリィバァ)さんとかに比べると、俺らはテレビに出始めたのが遅かったんですよ。だから滑り込みでそこに入れたのはラッキーでしたね。まあ、(昭和生まれの)りんたろー。さんは第七世代じゃないんですけど(笑)」(兼近)
「いや、第七世代だから! 一番後ろからみんなのこぼれ球を拾っていこうと思ってます」(りんたろー。)
ライブDVD、1000円の理由
お笑い界では「第七世代は上の世代の芸人とは価値観や考え方が違う」としばしば言われる。第七世代の芸人はお互いに対するライバル意識が薄く、横並びでテレビに出ても和気あいあいとしている。一昔前の芸人の感覚では考えられないことだった。
「今までそうやって芸人同士がバチバチしていたからお笑いが廃れてきたんじゃないですか。ミュージシャンとかほかの世界だったらみんな仲良くしているのに、芸人だけが足の引っ張り合いをずっとしていたと思うんですよ。そうやってお笑いが閉鎖的なものになっていって、好きな人しか見ないものになっていくのはマジもったいねえな、って。僕は年齢とか性別とか関係なくみんなに楽しんでもらいたいです」(兼近)
「ライブでお客さんに向かって手を振るとか、芸人らしくないことをやると『サムい』という風潮があったんですけど、俺らはあえていろんなことに手を出していったんです。俺らを入口としてお笑いに興味持ってくれる人が増えればいいな、と思ったんですよね」(りんたろー。)
そんな信念を持つEXITは「ファンの目線に立つ」ことを徹底している。お笑いのDVDは通常なら3000円台だが、彼らは自分たちのライブDVDを税込1000円という驚異的な低価格で販売した。儲けを少なくしてでも、多くの人に気軽に買ってもらいたいと考えたからだ。
国民のマリオネットが作る、巨大な渦
2019年にはパシフィコ横浜で観客5000人を集めて単独ライブを行った。宙づりで登場したり、舞台上から派手に炎が上がったり、お笑いライブの常識を超えた演出の数々で観客を魅了した。
こうした型にはまらない活動が評判を呼び、彼らのファンは順調に増え続けている。ジャニーズ、LDH、2.5次元といったほかのジャンルのファンが流れてくるケースも多い。さまざまな文化圏から来たファンがEXITという巨大な渦に巻き込まれている。
「お笑い好きの人たちは、新しい界隈から来た人たちに優しくしてほしいなって思います。その人たちが種としていろんな芸人さんのところに飛んでいって、花を咲かせてくれると思うんですよね」(兼近)
「僕は盛り上がっていた頃の『ヨシモト∞ホール』(吉本興業が運営する渋谷の若手芸人向けの劇場)も見ていましたからね。あのムーブメントを取り戻すためには、僕らが起爆剤になるしかないと思うんですよ」(りんたろー。)
「俺らだけが盛り上がればいいんだったら、もっと違うやり方もできたんです。結局、芸人界隈のためにやっていることが俺らにも返ってくると思うんですよね」(兼近)
表向きの服装や活動内容だけを見ると「芸人らしくない」と言われることもあるが、EXITの2人は誰よりもお笑い界の未来のことを考えている。大好きなお笑いを盛り上げるために、彼らは自由に領域を横断しながら戦う。ときにはチャラ男として、ときには正統派漫才師として。EXITは「国民のマリオネット」として大衆の期待に応えながら、芸人の定義をアップデートし続けている。