Yahoo!ニュース

尾藤能暢

そのフェイクニュース書いて、何個ハーゲンダッツ買えるの?――宇垣美里のエゴサーチしない生き方

2019/08/09(金) 09:40 配信

オリジナル

今年4月、宇垣美里は5年間在籍したTBSから独立した。フリー転身は悩まなかったという彼女に対し、世の印象は実にさまざまだ。ミスキャンパス、女子アナ、かわいい、あざとい、毒舌、オタク、闇キャラ......。宇垣にまつわるキーワードを挙げると、陰陽さまざまな語句が並ぶ。いったい、何が本当の姿なのか。テレビやネットニュースだけでは伝わらない宇垣の頭の中とは――。(取材・文:岡野誠/撮影:尾藤能暢/Yahoo!ニュース 特集編集部)

自分にまつわる「フェイクニュース」を笑い飛ばす

宇垣美里の評価は、その時々によって大きく変化する。理不尽な叱られ方をしたときにサンリオの人気キャラクター『マイメロディ』になりきってその場をやり過ごすという『マイメロ論』が共感を集めたかと思えば、「私には私の地獄がある」という発言から『闇キャラ』という呼称がついて回るようになったりする。〈『あさチャン!』の降板を告げられたとき、コーヒーカップを壁に投げつけた〉という噂がひとり歩きして「性格悪い」と非難されることもあった。

「ヒドいこと書くなあって(笑)。もちろん、事実ではないこともたくさんありますし、記事を信用しちゃう人がいるのも知っています。ミスキャンになったときも、『男の子の取り巻きを連れて校内を歩いている』などのあらぬ噂を立てられました。あのころから規模は大きくなったけど、中身は同じだなって。中には、夢小説のような記事もあって本当に面白いですよ。"怒りのフルヌード"がいちばん好き(笑)」

本人が指摘するのは、『週刊実話』の〈宇垣美里 TBS大先輩ダメ出しに怒りのフルヌード?〉(2019年1月3日号)。その後も、同誌は似たような内容の記事をネットニュースで配信し続けた。 

「どういう顔で書いているのかな? と想像しながら読んでいます。怒って退社して、TBSに復讐するためにフルヌード写真集を出すって、どんな状況なのかなと思って(笑)。怒って脱ぐ? どういう意味? What do you mean?」

「偏見」と戦ってきた

2018年から、宇垣を取り巻く環境は大きく変わり始めた。

TBS入社1年目から担当していた朝の帯番組『あさチャン!』を3月限りで離れ、リポーターとして『サンデー・ジャポン』に出演。機転の利いた対応やセーラームーンのコスプレなどで番組を盛り上げ、「私には私の地獄がある」という発言も話題になり、『闇キャラ』という呼称がついて回るようになった。

そして、今年4月には5年間在籍したTBSから独立。高収入と恒常的な仕事が保証されるテレビ局員の座を捨て、フリーに転身することに「別に悩まなかった。1日以上考え込んで、よかったためしがないんです」とあっけらかんと言ってのける。

退社後の大学院受験や留学も頭に浮かんだという。

「英語をしゃべれるようになりたいし、大学の時に学んだ国際政治学、大好きな日本文学をもっと勉強したい。ただ、なかなか現実的ではなく、仕事を続けようと決めました」

宇垣の執筆するコラムを読むと、見識の広さや引き出しの多さに驚かされる。『週刊プレイボーイ』の連載では、本から印象に残った言葉を頻繁に引用。特定の作家に偏らず、満遍なく読書をしている姿が窺える。

「物事は知れば知るほど、すごく面白いんですよ。例えば、新幹線も『先頭部が流線形をしているから、時速200キロを出せる』とわかると、見える世界が変わっていく。中学のときに、脚力はどんなに頑張ってもこれ以上は伸びないと限界を感じたけど、勉強はやればやるほど頭に入ってくるのでいいなと思いました」

生徒会長も務めた中学校でオール5の成績を取り、兵庫県有数の進学校である県立長田高校へ。同志社大学では『ミス同志社2011』に選ばれ、2014年にアナウンサーとしてTBSに入社。はたから見れば絵に描いたようなサクセスストーリーを歩んできた。一方で、それは宇垣なりに偏見と闘ってきた歴史でもある。

「もう慣れましたけど、よく"ミスキャン"や"女子アナ"という属性から性格を決めつけられます。人を型にはめて、パターン化して考えると楽なんでしょう。でも、それは理解から程遠い行為です」

夏目三久に学んだ「らしさ」

そんな宇垣も、入社当初は"女子アナらしさ"に寄っていた時期もあった。

「自分で自分を勝手にカテゴライズしていました。2年目くらいまでは私服も女子アナっぽい格好をしなきゃと思い込み、フリルのワンピースを着ていました。好きな服装ではなかったので、全然テンションが上がらない。先輩に『服はどこで買えばいいんですか?』と聞いていたくらいで」と振り返る。

迷う宇垣に「らしさ」を示したのが同じ『あさチャン!』で共演した夏目三久だった。

「一時期、あまり前に出過ぎるのはよくないと思っていました。あるとき(MCの)夏目さんが『宇垣ちゃんはちょっと変なところがいいんだよ。新聞記事への感想も面白いから、もっとしゃべっていいんだよ』と励ましてくださった。そんな積み重ねから徐々に変わっていきました」

宇垣が「唯一師匠らしい師匠」と語るアナウンス部の上司だった小林豊も、彼女の性格を熟知していた。『サンジャポ』への出演依頼が来たとき、宇垣は逡巡した。生放送で、MCは百戦錬磨の爆笑問題が務める。従来の報道とはまったく毛色の違う情報バラエティー番組を前に悩んでいた。

「『サンジャポ』のリポートは出たとこ勝負で、とても不安でした。でも豊さんが『大丈夫。これは、あなたがやったほうがいい』と背中を押してくれました。初めて出演したとき、日曜の朝だから見なくてもいいのに、放送終了後すぐに『とてもよかったですね』と連絡をくれた。辞めるときに、豊さんから離れることに不安を感じたほどです」

宇垣が"女子アナ幻想"の呪縛から解き放たれ、自分自身の考え方や番組に求められるキャラクターを発信していくと、世間は勝手に作り上げた清廉潔白なイメージとのギャップを良くも悪くも面白がった。

「(メディアの)光の当て方によって、視聴者や読者の感じ方は違ってきますし、100人いたら100人の見方がある。自分の仕事に対する頑張り以外のところで、いろいろ物語が進んでいくなあとは思いますけど」

ネットの書き込みは「便所の落書き」としか思わない

ネットでの記事や評判を目にしない芸能人もいる。宇垣はどうして見るのか。

「SNSのエゴサーチはしません。知らない人が無料で何か書いていても、『便所の落書き』としか思わないんですよ。でも、ネットニュースは仕事で、お金が発生しているわけですよね。『この原稿料でハーゲンダッツ何個か買えるんだろうな〜』と意地悪な目線で読むと楽しいんです(笑)」

ネットにはマイナス面がある一方で、活用すればプラスにも転じる。テレビに映る芸能人が"雲の上の存在"で、ミステリアスでベールに包まれていた昭和のころと異なり、現代では有名人自らがSNSで私生活を発信。人気を得る1つのツールとして積極的に活用されているが、宇垣は一切、手をつけていない。

「単純にSNSをしたいという欲がない。自撮りも超下手ですし、別に自分の食べたものや訪れた場所を伝えたいと思わないんですね。もちろん、SNSで人となりを知ってもらうのも1つのアピールの仕方です。でも、私はどういう人かわからないほうが面白いと思う。(私生活が)チラッと見えるからいいのであって、いっぱい出すのはどうかなって」

インスタグラムやツイッターといった「ライトでクイック」なものが流行る時代だからこそ、宇垣はあえて、雑誌や書籍といった「スロー」なものを好む。

「SNSで情報をたくさん出すよりは、コラムを通して知って頂くのが1番かなって。しゃべる言葉は言い過ぎてしまったり、場の空気で出てしまったりすることもある。でも、自分で書くコラムは、何度も推敲しているので、めったなことでは裏切らないと思っています」

人気は移ろいゆくもの

無理に世の中の流れに合わせず、自分に正直に生きる姿勢が共感を呼んでいるのか、昨年12月発表の『好きな女性アナウンサーランキング2018』(オリコン調べ)では9位に。初のベストテン入りを果たした。

「『アンケートに答えた人が知っている名前を挙げただけじゃない?』と思っちゃう。自分のことより、いつも応援してくれる人や一緒に頑張ってくれるスタッフに結果を伝えられて嬉しい。優れた人がランクインするわけでもないし、自分の努力とも思わない。ただ襟を正して、周りの人に感謝するだけです」

芸能界やテレビ界で生きるならば、今後も"人気"という見えない空気が付きまとう。

「人気は移ろいゆくものですし、頑張ったから出るものでもない。仕事量が多くて売れっ子になっても、毎日疲弊したり、心が寂しかったりするなら意味がない。もちろん、顔を出す仕事を選んでしまったので、それはまっとうしなきゃいけない。だからといって、売れなきゃいけないという執着はありません。そもそも、人から羨ましいと思われたい気持ちがない。いかに自分が楽しさややりがいを感じられるか。あくまでも、人生の主体は自分にあるわけですから」

宇垣美里がどんな人物かを端的に言い表すのは不可能である。人によって見え方は千差万別であり、時と場合によって現れる性格も違う。偶然、目にした一面から勝手に決めつけてはいけない。いや、宇垣のことに限らず、人間誰しも他人のことを理解したつもりでいて、本当は何もわかっていないのかもしれない。


仕事DeepDive 記事一覧(138)