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平岩享

「いつでも『のん』としての筋を通したい」――テレビの「外」で暴れまわる、のん26歳

2019/08/05(月) 08:02 配信

オリジナル

女優「のん」。ミュージシャン「のん」。アーティスト(自称・創作あーちすと)「のん」。この夏は、一連の芸能ニュースの中でその名を取り沙汰されたが、本人は周囲のあれこれを意に介さず、まっすぐに前を向いている。「かっこよくありたい」。透明感のある佇まいはそのままに、熱いイマジネーションの泉を抱え、自分はどうあるべきか、どう見せるべきかを問い続けてきた彼女の、今の想いとは。(取材・文:山野井春絵/撮影:平岩享/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「のんが演じる意味」を見せたい

「過密スケジュールが続いて、肉体的に疲労することもありますけど、毎日が楽しくて仕方ない。私にとっては、仕事が一番『生きてる!』と思える時間なんです。(会社が)一人になって、責任感も芽生えたことが、よりいっそうモチベーションになっているところもあります」

のん、26歳。見た目は年相応で、むしろもっと若く見える瞬間もある。しかし、彼女が放つオーラと風格は、特殊なものだ。童顔で、ほんわかしたムードを持ちながら、だまっていても内包するパワーが滲み出る。話し方はゆっくりで、朴訥としながらも、言葉の選びかた一つひとつに強い意思を感じさせる。

今、いくつかの芸能ニュースの影響により、芸能界の構図からメディアの在り方そのものまでが問われている。この問題についてのオピニオンには、テレビドラマから「消えている」のんへの言及も多く、今もって彼女の存在感の大きさを知らしめている。

個人事務所を立ち上げ、セルフプロデュースを始めたのが2016年。そこからは自分自身で仕事を吟味し、音楽とアート活動も精力的に行ってきた。

すべての仕事選びの基準は、「のんがやる意味」だという。

「どんな仕事も、自分がやることで面白いものになるかどうか。また、見ている人にどういう影響を与えることができるか、ということを考えます。のんが打ち出すものと、求められているものを、一番よいカタチで合致させたい。そこを大切にしながら、『のんがやる意味』をいつでも見いだせるようにしたいんです」

彼女が「のん」と言うとき、それは一人称ではなく、三人称だ。

女優、アーティストとしての「のん」をプロデュースする「私」。「私」はいつでも「のん」を客観視している。段取りやどうやって映っているかをきちんと把握しながらも、「一番輝く瞬間」を判断するためだという。

「演じる人がいい匂いを嗅いでいるのを画面越しに感じると、その匂いを想像しますよね。たとえば、ラーメンを食べるシーンとか。大好きな美味しいラーメンを目の前にしたら体がどういう状態になっているか? 自分の記憶の中の皮膚感を使って感情を動かして、役を作り込みます。そこに、2割の冷静な自分が、どう動いたらいいかを判断して発想する。『のんだから、こう演じる』ということ、そして『のんが演じる意味』を見せたいという気持ちが強いです」

朝ドラから5年、ずいぶん丸くなった

「自由に自己表現ができる自分でありたい」――。

10代の終わりに朝ドラのヒロインとしてブレイクし、早々に人気女優の礎を築いたのんは、その後の活動について、「どうあるべきか」を自らに問い続けていた。

「朝ドラのヒロイン役は、私の基盤をつくってくれた大きな仕事でした。ヒロインの性格も、わりと自分に近い部分があるかもしれません。多くの方に名前を知っていただいて、あの直後から、ああ、私はしっかりしなくちゃいけない、と思っていました。どんな自分を見てもらいたいのか、どんな自分で楽しませるのか、きちんと“自分で”考えておきたい、と。その時のことを思い返してみると、ものすごく気を張っていましたね、本当に、張りつめてました」

誰にも心を許さないような、厳しい気持ちを自身に課していたところもあったという。

「あれから5年ほど経ちましたが、ずいぶん丸くなったんじゃないですかね(笑)『いろんな人がいるんだな』と自分と違う考えを拒否はしても否定はしなくなりました。でも、そのときから持っていた気持ち、自分をどう見せるべきか、という考えは、今も変わりません」

彼女のモチベーションは、「のんをどう見せるか」。そして、自分の仕事をたくさんの人に褒めてもらうこと。芸能活動から遠ざかっていた時期も、そのスタンスは少しも変わらなかった。

「(芸能活動を)辞めるかですか? 一度も考えたことがないですね。そもそも、辞めるという発想を持ったことがないです。『私はここで表現していくべき!』とさえ思ってますよ(笑)。仕事をしているときが一番楽しいし、何か落ち込むことがあったとしても、仕事をして、褒められたら、すぐ立ち直ることができます。仕事で『自分、今輝いているな』と思えたら、それが最高のデトックスなんです。機会があれば、海外でも活動したいです。日本にない世界観のものに挑戦するのはわくわくしますよね。」

「負けず嫌い」とも違う。「根性がある」という言葉も、ニュアンスが異なる。のんは、自身で創り上げた絶対的な価値観を動力として、すべて意図的に表現を行ってきた。

忌野清志郎に教えてもらったこと

昨年は「創作あーちすと」として、個展にも初挑戦。絵画やインスタレーションで「のん」から溢れるイマジネーションを縦横無尽に表現し、新境地を拓いた。個展のタイトル「女の子は牙をむく」に、アーティストとしての矜持が顕われている。

「アートに目覚めたきっかけは、幼稚園のとき。節分の日に描いた鬼の絵が、展覧会で飾られたんです。みんな、赤や青、緑の鬼を描いていたんですが、私はとにかく『かっこいい鬼』を描きたくて。黒い絵の具だけを使って、真っ黒な鬼を描いた。それを評価されたことが嬉しくて、そして、自分自身がかっこよくなれた気がしました。女の子のパワーって、実はすごく強い。20代の今も、『牙をむいてなんぼ!』という気持ちが私のエネルギーで、暴れたいくらいの気持ちを絵にぶつけたいと思っています」

目指す「のん」像は、かっこいい人間。彼女のアイコンは、忌野清志郎だ。清志郎がステージで見せた姿は、のんに「一番自由で、一番生きている感」を強く印象づけた。清志郎がこの世を去った10年目の今年5月、日比谷音楽堂で開催されたファイナルトリビュートライブに、のんも出演している。

「清志郎さんに教えてもらったのは、やりたいことに突き進んでいるときが一番楽しい、ということ。そんな気持ちよさ、すがすがしさを持った人が『かっこいい人』だと思うんです。私も、表現しているとき一番自由でありたい。役者としても、音楽も、絵も、すべて……」

「すずさん」に学んだ毎日のご飯の美味しさ

のんがプライベートで、今ハマっているのは「ご飯をつくること」だ。

「最近、やっと気づいたんです。家で、自分で作って食べるご飯が一番おいしくて、健康的なんだな、ということに。今さら何を言ってるんだって思いますよね(笑)。それまでは、食にまったく興味がありませんでした。ポテチが世界で一番好きな食べ物で、外食でどんなものを口にしても、おいしいと思ったことがなかったくらい。でも、映画『この世界の片隅に』の『すずさん』を演じることで、毎日のご飯がおいしい、それだけで幸せになれるんだということを学んだんですよね。実家に住んでいるときは、ご飯当番をあてがわれて、しぶしぶキッチンに立ったりしていたんですけど、義務のように感じてしまって、料理自体が苦手になってしまったんです」

野菜や肉をさっと煮たり、カレーやシチューなどをたくさん作って何日もかけて食べる。自分で作るたのしさ、おいしさを発見した喜びは大きかった。

「母が作っていたカレーも、ひょっとしたらおいしかったのかもしれないな、って、今は思いますね。煮込みハンバーグが絶品で大好きなんですけど、カレーは微妙な記憶なんですよ。ついこの間まで、味わうということの楽しさがわからなかったので、母は少しカレー作りが下手なんだと思い込んでいたんですけど、今食べたら違うのかもと(笑)。まあ、表現することに夢中で色んなことに無頓着なんですよね」

デビューから13年。振り返ることなく前へ前へと突き進んできたのんが、今ようやく気づいた、ごく身近にある幸せ。それは、表現者としての奥行きを、もう一段階広げてくれるはずだ。

今夏は舞台女優へとステップアップ

この夏、のんは朝ドラで共演した渡辺えり主宰の劇団「オフィス3◯◯」の舞台『私の恋人』に出演する。登場するすべての役を小日向文世、のん、渡辺えりで演じるユニークな3人芝居だ。今はこの芝居のことで頭がいっぱいだという。

「小日向さんと、えりさんと3人だけのお芝居なんて、こんな願ってもないチャンスはもう来ないかも……絶対面白いに決まってる! って、オファーは即受けました。えりさんには、『歌うよ、踊るよ、できるよね』って言われて。初舞台で音楽劇なんて、プレッシャーがのしかかってきましたけど、好奇心には抗えず、という感じで」

のんは4年ほど前からバレエのレッスンを受け、身体づくりを続けてきた。舞台女優へ演技の幅を広げ、また一つスキルアップを遂げようとしている。

「私は、男性役も女の子役もおじいちゃん役もやります。えりさんの普通じゃ考えられない、とんでもない脚本や演出を小日向さんがリアリティをもたせて体現していく、そんな稽古を目の前で見ていて刺激しかないです」

吹きすさぶ激風の下、凛として咲き佇む花のように、ただひたすらに自らのタレントを信じて突き進むのん。舞台で、テレビで、スクリーンで、大人になったのんが、もっと自由に羽ばたく姿を見たい。そう切望している視聴者は、決して少なくはないはずだ。

「いつでも『のん』としての筋を通したいというか。仕事にぶつける気持ちは全部同じなんです。のんとして表現するなら、とにかくブレずにいたい。そこを糸口にして、新しいことに挑戦しよう。いつもそう考えています」

のん
1993年兵庫県生まれ。女優・創作あーちすと。2016年公開の劇場アニメ『この世界の片隅に』で主人公・すずに声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭「審査員特別賞を受賞。2017年、自ら代表を務める新レーベル『KAIWA(RE)CORD』を発足。「創作あーちすと」としてアートを展開するなど、活動は多岐に渡る。8月28日から9月8日まで、舞台『私の恋人』(本多劇場)に出演する(地方公演は8月7日から)。

ヘアメイク:菅野史絵(クララシステム)
スタイリスト:山口絵梨沙


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