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伊藤圭

「腐り芸人」「実は真面目なチャラ男」を見出した、テレ東・佐久間Pの人材発掘法

2019/07/25(木) 09:08 配信

オリジナル

熱心なファンの多い深夜のお笑い番組『ゴッドタン』を手がけているテレビ東京の佐久間宣行プロデューサー(43)。同番組からはこれまでに数多くの人気芸人が輩出されている。ハライチの岩井勇気やインパルスの板倉俊之など「腐り芸人」に「実は真面目なチャラ男」ことEXIT……。「芸人発掘工場」ばりの活躍を見せる彼はどうやって人の才能を見極めて、次々に新しい人材を発掘しているのだろうか。(取材・文:ラリー遠田/写真:伊藤圭/Yahoo!ニュース 特集編集部)

嘘のないもののほうが支持される

佐久間の発掘の基本はじかに会うことだ。企画に合わせてオーディションを行い、そこで話してみていけそうだと思ったら起用する。審査基準としては「見せたくない部分があること」が特に重要だという。

「『ゴッドタン』の場合は、全部は見せていない人をチョイスすることが多いです。ひっくり返してもまだ残っているキャラクターがあるかどうか。MCのおぎやはぎや劇団ひとりは愛のある意地悪が得意なんです。本人たちが『これが自分たちの売りです』って言ってくるものだけじゃなくて、こっちだと決めた方向に容赦ないイジリをしていく。そういう部分がある人のほうが盛り上がりますね」

佐久間があえて意地悪な目線にこだわるのは、単にMCとの相性だけではなく、それが視聴者のニーズにも合っていると思うからだ。

「今のテレビって、番組側が『これ、面白いでしょ?』って提示するようなものよりも、そこからこぼれ出てくる本当っぽいもの、嘘のないもののほうが支持を受ける。だから、出演者が自分の売りだと言っているもの以外のことを取り上げたほうが、視聴者からも共感を得られそうだなって思うんです」

その典型例がEXITだ。『ゴッドタン』の若手芸人発掘企画で、パリピ風のファッションでチャラいノリの漫才を披露した彼らは、おぎやはぎと劇団ひとりによって「実は真面目」という素顔を一瞬にして暴かれてしまった。

「彼らはチャラ芸人としてキャラクターを作っていたんですけど、どう見てもいいやつだから、我慢できなくてそこを早々にイジっちゃったんですよね。ちょっと悪いことしたかな、とも思いましたけど、この売れ方を見るとあれで良かったんじゃないかな、と」

EXITは「実は真面目なチャラ男」として、この番組をきっかけに一気にブレークした。

どんな人もコントのキャラだと思えば許せてしまう

『ゴッドタン』で若手芸人の取り扱い説明書が作られて、それがほかの番組でも使い回される、というケースはこれまでにも何度もあった。

ハライチの岩井勇気やインパルスの板倉俊之などの“やさぐれている”芸人を集めた「腐り芸人セラピー」、ネゴシックスやいかちゃんなど演技の下手さに定評のある人たちが争う「芝居ヤバイ芸人NO.1決定戦」……。『ゴッドタン』の企画の多くに共通するのは、人間のネガティブな要素を笑いに変えている点だ。佐久間は人の欠点や弱点も積極的に面白がってしまう。

「僕はよっぽどのことがない限り、どんな人でも『こういうとこ面白いな』と思えるタイプなんです。だから嫌いな人間があんまりいない。すげえ性格の悪いやつでも『こいつ、性格悪いな〜!(笑)』と思えちゃうんです。どんな人も、そういうコントのキャラクターだと考えたら、だいたいのことは許せますからね。芸人で嫌なこと言うやつがいると『しめしめ』って思っちゃいます。そのまま育ってウチの番組に来てくれよ、みたいな(笑)」

スタジオ収録では事前に仕込んだゲストの面白さを引き出すために全力を尽くす。場当たり(段取りの確認)の際にもゲストと会話をして、新たな面白い一面が見つかったらMCに伝えておく。

「MCが『こっちのほうが面白いかも』ってアクセルを踏み始めたときに、『だったらこの要素も足してください』っていうカンペを出したりはします。悪口ばっかりになっちゃいそうなときには『こっちの情報も入れてバランス取ってください』とか。あと、想定していたネタがその場でハマらなかったら、この子を面白がれる方法は何かないのかな、ってずっと考え続けてカンペを出していると思います。収録中はそのことしか考えてないですね」

輝かしい時代のテレビがカルチャーを教えてくれたから

そんな佐久間は、博覧強記のサブカルオタクでもある。多忙な日々の中でも演劇、音楽、ドラマ、映画、漫画などの気になる作品は片っ端からチェックしている。その場で見せてくれたスケジュール帳には、映画館や劇場に行く予定が先々までびっしり詰め込まれていた。番組で起用する人材を探すために見ているのかと尋ねると、「そうではない」と笑って答えた。

「これは完全な趣味です。趣味じゃなかったら、仕事が終わってから徹夜の状態で王子の小劇場とか行かないですよね」

とはいえ、その趣味が番組作りに生かされることももちろんある。マイナーな役者やアイドルでも、光るものがあればすぐに番組で起用する。佐久間が新しい才能の発掘にこだわるのは、テレビがカルチャーを牽引していた輝かしい時代のことを覚えているからだ。

「僕が生まれ育ったのは福島県のいわき市。田舎ってほどじゃないけど劇場とかミニシアターもなかったから、中学の頃に夢の遊眠社とか第三舞台とか(名前を)聞いたことはあるけど見たことがなくて、都会に住んでいる人がどうにもうらやましくてしょうがなかったんです。でも、地上波のテレビと深夜ラジオでは、東京のカルチャーがリアルタイムで味わえた。それが嬉しくて、僕がテレビを目指すきっかけになったんです。特にフジテレビ深夜枠のカルチャーを教えてくれる『あの空気』は、僕の番組に入れたいっていう気持ちがちょっとあるんですよね」

作り手の顔が見えないほうがいい時代はもう終わった

現在、佐久間は『ゴッドタン』の演出とプロデューサーを兼務する。番組を作るだけではなく、それをどうやって世の中に届けるかということも考える。『ゴッドタン』では映画を作ったり、大規模なライブを定期的に行ったりもする。

「マネタイズに関して言うと、『ゴッドタン』はレギュラー番組なので、全体の予算管理さえしていれば大丈夫なんです。でも、この世の中でインパクトを残すんだったら地上波だけじゃ足りないな、っていうのが確実にあるんですよね。地上波だけだと新規の人にはなかなか届かないっていうのは間違いないです。

だから、僕のやっている番組はほぼ全部『TVer』(民放公式の見逃し配信サービス)でも解禁しているし、積極的に配信もしている。『Netflix』と組んでいた時期もあるし、『dTV』用に新作をおろしていたときもあります。次また新しい番組をやるときにもそこは考えると思いますね」

佐久間の目線は地上波テレビにとどまらず、外側にも向けられている。その戦いの最前線とも言えるのが『佐久間宣行のオールナイトニッポン0』。なんと、テレビ東京の社員である佐久間がニッポン放送でラジオDJを務めているのだ。深夜ラジオに携わることは彼の長年の夢だった。自らの番組を「ドリームエンタメラジオ」と名乗り、テレビの裏話などを熱く語っている。

「もともとラジオが好きだからDJをやるのが夢だったっていうのと、こういう変わったおじさんがテレビの話をすることで、テレビが面白がってもらえないかな、って。作り手の顔が見えないほうがいい時代はもう終わったと思うんですよね。今は海外のセレブもみんなインスタとかツイッターをやっていて、自分のプライベートを出しているじゃないですか。作り手も顔が見えたほうが興味を持ってもらえるはずなんです」

テレビの未来は明るくないとしても、悲観はしない

芸人やテレビマンをゲストに迎えて、テレビについて話す佐久間は、とにかくテンションが高くて楽しそう。若者に見放されつつあるテレビの未来は明るくはないのかもしれないが、決して悲観はしていない。テレビという枠にこだわらなければ、できることはたくさんある――これからやりたいことについて語るとき、佐久間の目はいっそう輝く。

「昔よりもイベントに足を運ぶお客さんの熱があるので、それも番組に生かしたいと思っていて。イベント前提の番組の企画書も書いているんですけど、まだ企画が通っていないんです。半年後に横浜アリーナだけ押さえている番組、っていう(笑)。それで何をやるかを決めていく番組をやりたいんです。その企画書を書いているんですけど、なかなか伝わらなくて。『何言ってんだ?』『何やるか書いてないじゃないか』って言われます。『ある程度分かるでしょう、何とかなりますよ』って思うんですけど、今のテレビはそういうのでは企画が通らないんですよね」

令和時代の最前線に立つテレビマンは、あらゆるカルチャーを貪欲に吸収しつつ、テレビの外側と内側を自由に行き来して戦い続ける。


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