俳優の杉浦太陽さんと結婚し、4人の子どもを育てている辻希美さん。辻さんのブログやインスタグラムは、ごく普通の家庭の日常を伝えている。彼女を突き動かしているものは――。(取材・文:木下拓海、撮影:葛西亜理沙/Yahoo!ニュース 特集編集部)
子育て一色だった20代
辻さんはこう言う。「もともと、引っ込み思案な性格だったんです。モーニング娘。の頃を振り返ると、前に出たいタイプではなかったですし」。それがなぜ、いま積極的に発信をするようになったのか。
「20代は子育て一色でした。どこかで自分を抑えていた面があったんだと思います。それがいま、少しだけ余裕が出てきました。そのぶん、バンッと爆発しているのかもしれません」
辻さんが長女の希空(のあ)さんを産んだのは、20歳のときだった。1人目はすべてが初めてということもあって、とにかく余裕がなかったと振り返る。
「精神的に未熟だったなぁと思います。初めての子育て。周りの同世代で、子どもがいる人はとても少なかった。相談できる人は多くなかったから、いつもどこかで気を張っていて、自分でなんとかしないといけない、と身構えていましたね。余裕がなかった。同世代の友だちが遊びに行った話だとかを聞くのがつらい……そんなふうに感じることもありましたね」
長女の出産から10年あまりが経つと、子どもたちが「助けてくれる」場面が増えてきたという。
「夫も私も、家で仕事をするときがあります。特に長女は、下の子の面倒を見てくれることが増えてきました。私たちの気が回らないときも、自分たちで食べものを分けたりできるようになってきた。下の子どもたちがケンカを始めると、長女が間に入ってくれる。そういう場面を見ていると、きょうだいがたくさんいるのは楽しいなぁと感じます」
もし、当時のモーニング娘。を“再結成”したら
30代を迎えたいま、子どもたちは少しだけ手がかからないようになった。前と比べたら、自分の時間をつくれている。だから「前に出たい」と思うようになったし、そこにブログやインスタグラムというメディアがあった。辻さんはこんな願望を話してくれた。
「今、モーニング娘。を『再結成します』って言われたら、絶対センター行きたいですもん(笑)」
「でもあれなんですよ、(子どもの)保護者会とかでは本当にしゃべれない。声が震えちゃうんです。台に1段上がってマイクをくれればしゃべれる。たぶん、スイッチが入るんでしょうね」
ブログやインスタグラムに続いて、この5月、YouTubeで「辻ちゃんネル」も開設。メイクや料理動画を投稿する。始めたきっかけは、長男と次男の2人からの「ママもやって」という一言。番組づくりで大きな存在感を発揮しているのは、長女だという。
「(長女は)ずーっと見てて、ダメ出ししてくるんです。マネージャーかっていうくらい言ってきます。ここはこうしたほうがいいんじゃないとか、しゃべるのをもっと短くとか、話題が飛びすぎだとか、今これやると(閲覧者数が)伸びるよとか、めっちゃ教えてくれるんです。“旬”にうるさいんですよね。今じゃなきゃダメだみたいな。それが1カ月経つと『もうそれは終わりだ』みたいに言うんですよ。厳しいです」
YouTubeを始めて、困ったことがひとつあるという。「辻ちゃんネル」を見ると、関連動画にモーニング娘。時代の映像がどんどん出てきてしまうのだ。辻さんはこれまで、子どもたちに昔の映像を見せてこなかった。
「子どもたちにYouTubeで、昔のレギュラー番組の動画を見つけられたんです。私が『ふたすじ』っていう役でコントをやってるやつで、まあひどいんですけど、本当に面白いんです。ゲラゲラ笑いながら大画面で見るのがわが家のブームです。ネットでパッてやったら、バーッて全部出てきますからね。子どもたちにはもう隠しようもない(笑)」
長女は、辻さんのインスタグラムを毎日チェックしているそうだ。インスタグラムに投稿される写真には、長女が登場することもある。
「翌日、学校の友だちから声をかけられるようですね。本人の反応を見ると、まんざらでもなさそうです。それに、わたしの仕事にも関心を持ってくれているようです。過去の動画とか絶対見せてこなかったので、子どもたちは私がアイドルをしていたっていうことにどこか半信半疑だったんですよ。それがこのあいだの3月に、あいぼん(加護亜依さん)とW(ダブルユー)を再結成した『ひなフェス』に子どもたちが来ました。そこで初めて『本当にそうだったんだ!』と思ってくれたようなんです。家では本当に普通のお母さんですからね。決してそうとは言ってこないですけど、すごく娘に憧れられているかもって感じます(笑)」
お母さん同士で共感できることが増えた
自前のコンテンツでどんどん前に出る辻さんとは対照的に、モーニング娘。の元メンバーには「落ち着いてきた」人も多いという。
「特にお母さんになって、落ち着いた人が多いですね。お仕事をしている人もたくさんいますが、家庭があるからこその仕事。家庭と仕事を切り分けない人が増えてきました。昔は違っていて、仕事とプライベートを分けている人が多かったんですよ」
モーニング娘。の元メンバーには、辻さんと同じように母となった人が多い。市井紗耶香さんは4児、石黒彩さんは3児の母だ。辻さんとW(ダブルユー)を再結成した加護亜依さんにも子どもが2人いる。
「あいぼんとは、子どもの写真を送りあって『大きくなったねー』とか話したりしています。アイドルをやっていたときと大きく違うのは、ほかのみんなと母親としてお互いに共感できることが増えたことですね。お互いに苦労していること、悩んでいることは違っても、『わかる。大変だよね』って声をかけられるようになった。コミュニケーションだって、もっと自然体になりました。たとえば、中澤(裕子)さんですよね。モーニング娘。をやっていたときは厳しい方で、そんな印象も強かった。いまでは、いつも優しいお母さんという印象に変わりました」
20代よりも余裕が出た。写真や動画では、楽しい場面をたくさん出している。けれども一日が終わったら、疲れ過ぎて寝られないこともあるという。
「最近、『大変さがあるからこその幸せ』だと本当に思うんですよね。大変なことがなかったら幸せと感じない。子育てをしている人の誰しも、大変な思いを抱えながら生活を送っているはず。幸せって、そんな大変さの合間に顔をのぞかせるもの、なのかもしれないなって思うんです」
辻希美(つじ・のぞみ)
2000年、モーニング娘。の第4期メンバーとして選ばれ、デビュー。2004年に同グループを卒業してからも、数多くのバラエティー番組に出演。2007年に結婚し、出産・育児のため、休業後、現在は4児の母親として育児の傍ら、テレビやイベントにも出演。Amebaオフィシャルブログ「のんピース」に加え、オフィシャルインスタグラム(@tsujinozomi_official)やYouTubeでは「辻ちゃんネル」も運営している。
木下拓海(きのした・たくみ)
フリー編集者・ライター。選挙事務所勤務を経て、雑誌「TV Bros.」などで雑誌編集。守備範囲はサブカルチャーから子育て、防衛技術まで。現代の田舎をテーマにした川柳本『イナカ川柳』(文藝春秋)、きゃりーぱみゅぱみゅ著『あたしアイドルじゃねぇし!!!』(東京ニュース通信社)などの企画も手がける。