EXILEや三代目J SOUL BROTHERSなどのアーティストが多数所属するLDH。いまや一大エンターテインメント企業として、アパレル、映画配給、飲食、スクール、そしてブライダルにまで多角的に事業を広げている。そのLDHを率いているのが、創業者のEXILE HIROだ。2003年にLDHを設立し、2013年にはEXILEのパフォーマーを勇退。現在はプロデューサーとして活躍しているHIROが語るLDHの躍進の秘密とは、世界を見据えながら「超アナログ」であることだという。(取材・文:西森路代/写真:伊藤圭/Yahoo!ニュース 特集編集部)
採算よりもファンの期待に応えたい
この2月11日、EXILEの3年ぶりのドームツアー「EXILE LIVE TOUR 2018-2019 “STAR OF WISH”」のステージに立ったメンバーを約4万6000人の大歓声が包んだ。京セラドーム大阪でのファイナル公演では会場中央に円形のステージが配され、ファンが全方位からライブを楽しむことができた。
華やかな光景だったが、これは幕が開くまでに幾度となくリハーサルを繰り返した結果、たどりついた完成形だった。
「ドームツアーのリハーサルは、いつも石川県や秋田県に場所を用意して、実際のステージと同じ大きさのセットを建てて実施しています。採算を考えるとやらないほうがいいですね(笑)。メンバー以上にスタッフも大変です。でも、あの規模のエンタメを表現するためには必要なことだし、『EXILEのライブに行けば必ず楽しめる』と思ってくれている人たちを裏切りたくないんです」
LDHが仕掛ける大胆なステージはEXILEだけではない。たとえば、LDHのアーティストが出演した2016年の映画『HiGH&LOW THE MOVIE』の公開にあわせて企画されたライブ「HiGH&LOW THE LIVE」では、ドームのアリーナすべてを「舞台」に変え、バイクや車のスタントを間近で見られるようにした。
「いつかやりたいと思っていました。さまざまな規制によってできる表現は限られていますが、アリーナにお客さんがいなければできることが広がる。これは『HiGH&LOW THE LIVE』でこそ生かせると思って実現させました。それこそスタッフは大変だったと思いますが、今後もまたああいうことはやってみたいんですよね」
一般的なライブでは、会場に観客を詰めこむことでチケットを一枚でも多く売り、利益を確保しようとする。逆に、アリーナに観客を入れないことで新たな演出をファンに提供するのが「HIRO流」だ。
「世界」という壁はない
EXILEは、2016年にボーカリストのATSUSHIがアメリカ留学のため活動を休止し、グループとして岐路に立ったこともある。
「ATSUSHIの不在は覚悟が必要でしたが、ほかのグループが、それぞれの活動に集中して取り組むことで、EXILEというものを繋いでくれた。ひとりが挑戦をしているときに全員で応援できる仕組みもできた。EXILEがさらに強くなって、TRIBEに進化した瞬間だったのかなと思います」
EXILE TRIBEとは、EXILEのメンバーによる派生ユニットであるEXILE THE SECOND、EXILEの前身ユニットの発展形である三代目J SOUL BROTHERS(以下、三代目JSB)、そして20代中心の若手によるGENERATIONS、THE RAMPAGE、FANTASTICS、BALLISTIK BOYZなどだ。LDHの層は厚い。
LDHの活動は、アジアやヨーロッパなどにも広がっている。ただ、LDHの海外展開の方法は、単に海外で音源をリリースしてデビューするというものではない。HIROは、海外のさまざまなコミュニティーに着目し、現地の人々とのコミュニケーションを重視する。その一例が、EXPG STUDIOというダンス、ボーカル、演技のスクールの仕組みだ。
「LDHの海外拠点はアメリカ、ヨーロッパ、アジアにあり、EXPG STUDIOはニューヨーク、ロサンゼルス 、台北にも開校しています」
LDH EUROPEのCEOは、オランダ出身の世界的DJで音楽プロデューサー、Afrojack。そこにもHIROの思想が表れている。
「日本から乗り込むという感覚もあるけれど、Afrojackのように、そこにいる人たちとの縁から広げていく海外展開だともいえるかもしれないですね。各地でアパレルと音楽をやっていますが、ファッションと音楽とカルチャーは融合して相乗効果がある。時間をかけてスターを育てて、アーティストでもブランドでも何か跳ねれば、確実にアメリカでもいけると思うんです。東京、ヨーロッパ、アメリカ、アジアと回っていると、どこのマーケットでどんなアーティストがどんな音楽でやればいいのかを選択しやすくなります。今の時代、マーケットを意識して作品をつくり戦略的にアプローチしていけば、『世界』という壁はないと感じます」
近年はEXILE AKIRAがマーティン・スコセッシ監督の映画『沈黙‐サイレンス‐』に出演し、EXILE/三代目JSBの小林直己はリドリー・スコット監督が製作総指揮を務めるNetflixの映画『アースクエイク・バード(原題)』に出演するなど、個々のメンバーの海外での活動も目立つようになってきた。また、EXILE/三代目JSBの岩田剛典はルイ・ヴィトンのアンバサダーを務め、GENERATIONSの片寄涼太は中国でファンミーティングを開催するなど国を超えて活躍している。こうした展開は、世界を国境線で分断して見ていないHIROの視点を象徴している。
「LDHのカルチャー、日本のカルチャーを世界に輸出したいですし、それと同時にインバウンド対策もいろいろ考えています。いま、LDH ASIAでは、中国中心にLDH AISAの拠点をつくるために、香港や上海で会社をつくっていこうという段階です。アジア人は世界中に移民コミュニティーがあって、世界中にアジア人がいるので、視野を広げていくとアジアのマーケットに対しての見方が変わりますね」
とはいえ、HIROは海外進出を第一には考えていない。
「基本的には日本というホームグラウンドのファンの方に喜んでもらえるように盛り上げていくのは変わらないし、あくまで自分達の本拠地は日本であり世界に対しても地に足がついた挑戦をしていきたいので、『世界でも面白いことをやっているよね』とファンの皆さんに喜んでもらえるようなことを常に発信し続けていきたい。やっぱり常に挑戦することでメンバーもワクワクできるし、メンバーが喜ぶ顔、笑顔を僕自身も見たいし、ファンの方もそれを見たいじゃないですか」
LDHの海外進出はビジネス目的だけではない。メンバーのスキルアップも目的にしている。
「海外での活動は投資でもあります。その成果が出るのは2年後かもしれないし、3年後かもしれませんが、海外でもさまざまなことに挑戦したいというメンバーたちが喜ぶビジネスモデルが実現できたら、日本での活動もさらに頑張れると思うんです」
そんな海外での取り組みのなか、ニューヨークで学んだ3人のメンバーのいるBALLISTIK BOYZが始動した。彼らのほかにも現在、LDHにはGENERATIONS、THE RAMPAGE 、FANTASTICSという20代を中心とした若い世代のグループが存在する。
「若いメンバー達の個性を常に僕の頭の中にインプットしていますが、スワッグ感というか、本人の内面からにじみ出る雰囲気やエネルギー、バランスやタイミングを見て、グループのカラーを決めています。グループのイメージをくれるのは、やっぱり『人』なんですよね。GENERATIONSは若いけどキャリアも長く、最近では同じ目線で話ができています。THE RAMPAGEより下の子たちは、彼らのいいところを見つけて、そこに僕がフルにパワーを注入して、コーディネートしていく感じで今はやっています」
ビビらずに、計算しすぎずに自社コンテンツを作る
HIROが所属アーティストやグループのことを語るときに常に口にするのは「ブランド価値」という言葉だ。そのために『HiGH&LOW』『PRINCE OF LEGEND』といった映像作品に若手を出演させ、テレビ、映画、音楽によるメディアミックスを展開する。
「売れることが目標というよりは、グループや個人のブランド価値をどう高めるかが大事なんです。たとえばTHE RAMPAGEの(川村)壱馬だったら、ボーカルですがラップも演技も好きで、さまざまなことに挑戦していきたいというビジョンを感じるので、そこを高めてあげたい。同じくTHE RAMPAGEの(吉野)北人はルックス的には王子キャラが似合うからそれを表現した後に、『HiGH&LOW』で違う面を見せる。そうやって幅を広げながら、将来的には彼らがどこにたどり着くのがいいかを考えていますし、その積み重ねで表現者として確立していくんだと思います」
3月に公開された映画『PRINCE OF LEGEND』では、その川村壱馬や吉野北人が王子役で奮闘。プリンスプロジェクトで彼らを見てTHE RAMPAGEに興味を持った人も多い。今年10月に公開予定の『HiGH&LOW THE WORST』でも、川村と吉野の二人はまた別のキャラクターとして活躍する。
「ブランド価値を上げるためには、個々のパワーを常に上げていかなければならない。彼ら二人の場合は『PRINCE OF LEGEND』で王子としてインパクトを与えて、その熱を『HiGH&LOW THE WORST』に繋げることで認知度を上げて、いろいろな可能性を発信していこうと考えていました。それはやっぱり、自社で映画のようなコンテンツをプロデュースすることで、よりファンの方に喜んでいただきながら人気を高める仕組みが作れるようになったということなのかなと思います」
「『HiGH&LOW』も、ビビらずに、計算しすぎずに、自分たちの会社で映像を作れば、メンバーの良さがもっといかせるというところからスタートしたんです。でも、予想を大きく超えていました。(映画を入り口にした)新しいファンが増えて勉強になったし、ヒントをもらえたと思います」
「損して得取れ」ではないけれど、それは間違ってなかった
HIROが、採算よりもブランド価値の向上を目指すのは、映画製作でも同じだ。
「『HiGH&LOW』の1作目ではハーレー・ダビッドソンのカスタム車をいっぱい出したりしました。とにかく、インパクトとブランド価値を上げたかった。当初は闘いと音楽だけのドラマなんて頭おかしいんじゃないかって言われたけど、見たことのない映像を作りました。でも、クオリティーが高い映像を作れば、映画の回想シーンでもなんでも、何回こすってもかっこいいままなんです。それは間違ってなかったなと思います」
ブランド価値を上げるために新しいアイデアを出し続けるHIROが、次に見据えるのは、「Jr.EXILE世代」による「BATTLE OF TOKYO」というプロジェクトだ。そこには、GENERATIONSがMAD JESTERS、THE RAMPAGEがROWDY SHOGUN、FANTASTICSがASTRO9、BALLISTIK BOYZがJIGGY BOYSというアバターのグループでも登場する。7月にはJr.EXILEで楽曲をリリースし、MVも公開。「BATTLE OF TOKYO」のライブも開催する。
「もともとGENERATIONSのツアーでMAD JESTERSというキャラクターの出る映像を3年にわたって作っていました。そのMAD JESTERSを中心に、ROWDY SHOGUN、ASTRO9、JIGGY BOYSというチームが架空の世界の中で戦うというプロジェクトです」
どんなイケメンでもおじいちゃんになる
LDHは、色黒、マッチョ、レモンサワーというかつてのイメージを覆し、2次元のキャラクター世界も包括させながら各メンバーの魅力を伝える段階に来ている。LDHの面々が2次元キャラクターとしても生きることを、ほんの数年前まで誰が予想していただろうか。
「やっぱりそこは『HiGH&LOW』の存在が大きいですね。自然とキャラクターが育っていった。もともとは脚本のノリ(平沼紀久)と『こういうキャラクターだったらメンバーの良さが際立つよね』って話していたところから始まって。自分も昔からゲームの『三国志』が大好きで、相関図からストーリーを考えることには興味があったんですよ」
さまざまな人から刺激を受け、そしてそれを繋げていくことがLDH躍進の秘訣にも思えてくる。
「素直に人の話を聞いて、人と人を繋げるのが僕の特技なんです。その原点は子どものころの異種格闘技戦。空手対プロレスみたいに、人が想像しなかったもの同士をどうかけ合わせるのかを考えるのがワクワクするし楽しいんです。何かと何かを繋げるときには必ず新しいストーリーが生まれるはずで、それが線になって輪になるという世界観が大好きなんです」
LDHを率いる身として、メンバーの人生についても考えている。
「自分も若い頃からアーティストとしての活動を経験して、20代、30代、40代とその都度、岐路に立ってきたので、食べていくために浮足立ってはいけないんです。今みたいなスケールで、表現者としてだけで食べていくのも本当に大変で。自分も途中で裏方的立場に専念したように、それがリアルにわかっているからこそ、売れているときから、いろんな選択肢があるのがLDHなんです」
自身のキャリアを振り返って後進の指導をするHIROの視線は、人間くさくも温かい。
「人と人との繋がりは、超アナログかもしれないですね。どんなイケメンでもおじいちゃんになるわけで、そこに気づいているんです。だから、ビジョンも夢物語じゃなくて、ファンタジーとリアルをどう繋げるかに行きついているのかもしれないですね。根本は絶対に生身の人間の感覚だし、そこを大切にしているのがLDHだと思いますね」
EXILE HIRO
神奈川県出身。1990年にZOOのメンバーとしてデビュー。1999年J Soul Brothersを結成し、2001年EXILEと改名して再始動。パフォーマー兼リーダーとして、EXILEを国民的グループに押し上げる。2013年パフォーマーを勇退。2015年12月には芸術文化活動などで優れた功績を挙げた人に贈られる、文化庁長官表彰を、ダンスパフォーマンスとボーカルを巧みに組み合わせ活動のほか、プロデューサーとしての活躍も評価され、日本の芸術文化の振興に貢献しているとして表彰を受ける。2017年からLDH新体制においてLDH WORLDのチーフ・クリエイティブ・オフィサーとしてクリエイティブを統括し、世界の拠点と連携し世界基準でのエンタテインメント創造に心血を注いでいる。
制作協力:プレスラボ