19歳のふくれなは、メイク動画を中心に投稿するYouTuberだ。彼女は自らを「ブス」と言い切り、顔や体型全てにコンプレックスを持っていた。それにもかかわらず、投稿される動画はほかの美容系YouTuberと違って、カラコンなどを一切していない完全なすっぴんから始まる。中高生を中心にファンを集め、今やチャンネル登録者数118万人を誇る人気YouTuberの「呪い」はどのように解かれたのか? そのキーマンとなった、同じYouTuberのM君とは?
ふくれなはこう振り返る。「M君の一言で救われました」。
(取材・文:ヒガキユウカ/撮影:伊藤圭/Yahoo!ニュース 特集編集部)
軽い気持ちで始めて、気づけば「学校より続けたい好きなこと」に
もともと1人の視聴者でしかなかったYouTube。初めて動画を投稿したのは、16歳のころだった。「スマホ1つでできるんだったらやってみようかな」と軽い気持ちで始めたときには、こんなに有名になるなんて想像もしていなかったという。しかし、平穏だった学校生活は変わり始めた。
「当時はまだYouTuberという存在自体が全然知られていなかったので、ただの変な人扱いをされて、嫌ないじられ方したんですよね。『あいつYouTuberやってるらしいで』と聞こえるように言われて笑われたり、私が動画の冒頭で言う挨拶『こんにちわんわん』をわざと大きい声で言われたり……」
通っていた全日制高校での生活に「もう無理やな」と見切りをつけ、通信制高校に入り直した。当時高校2年生だった彼女は、自分のペースで勉強とアルバイトを両立させながら、YouTuberとして生きていくことを選んだ。「好きなことを続けたい気持ちのほうが大きかったし、私には勉強よりYouTubeが合ってたから」。文字通り“好きなことで生きていく”と決意した。ここからふくれなは動画投稿に本格的にのめり込んでいった。
中学時代にブスを自覚。顔も体形も全部が嫌だった
完全なすっぴんを公開しているふくれなだが、自分の顔を「ブス」と言ってはばからない。「顔だけじゃない。体形もコンプレックスで、全部が嫌だった。中学ではメイクもできなかったので、可愛い子を見ると『天然美人はずるい』なんて思ってました」
YouTubeで初めてすっぴんを公開したのは、高校生のとき。当初は心ないコメントに容赦なくさらされた。
「『裸眼ちっちゃすぎ』とか『気持ち悪い』とか。私が YouTubeで活動を始めたころはまだ、メイク動画でガチすっぴん(完全なすっぴん状態)を映す人はほとんどいませんでした。だから見た人たちには衝撃的だったみたいで……結構傷つくコメントはありました」
ただ一方で、そのスタイルを歓迎する声も多かった。
「『晒してくれたから親近感が湧いた』とか『私もメイク頑張ろうと思えました』と言ってくれる人も結構いて、それが励みになりましたね。あとは『ほくろが多いおかげでファンデーションのカバー力がわかりやすい』みたいな声もあったな(笑)」
やがて、すっぴんをさらけ出す姿は彼女の魅力の1つとなっていく。今ではルックスにコンプレックスを持つ中学生や高校生を楽しませ、勇気づけている。
M君がいなかったら、すっぴんは絶対出してない
そもそも、なぜすっぴんを晒そうと思ったのだろうか。そこには、同じくYouTuberであり、彼氏でもあるM君の存在が大きく影響していた。
「付き合ってからもすっぴんを見せるのが怖くて、M君が寝るまでカラコンや化粧を取れなくて。ずっとそうしていたら結膜炎になっちゃったんです。『そんなになるくらいなら、すっぴんになったら?』と言われて、泣く泣くカラコンも化粧も取ったら、M君が『大丈夫、そんなに変わらないじゃん』って言ってくれて。メイクで自信をつけてきたぶん、すっぴんを人に見せることには本当に抵抗があったので、M君にそう言われて救われました」
「メイクで自分を理想の顔に変えられることを伝えたい」。そんな思いをM君に打ち明けた。そして、自分のすっぴんを一番に受け入れてくれたM君に相談をした。
突如、彼女から「すっぴんをさらけ出す」ことを相談されたM君は、まったく抵抗なく受け入れた。
「『確かにそのほうがメイクの過程を全部教えられるね。視聴者のみんなにも参考になると思うよ』と伝えました」。自身もYouTuberとして活動するM君だからこその答えだろう。
「本当に、M君にはすごく助けられたんですよ。すっぴんを受け入れてくれたこともそうですけど、動画の中での私の発言に対して、『そういう言い方は傷つく人もいるかもしれないよ』とか、アドバイスをくれるんです。そのおかげで視聴者さんが増えているなと感じているので。すっぴんも、M君と付き合ってなかったら今も絶対出してないです」
それぞれ一人で活動していたふくれなとM君は、気づけばお互い、パートナーとしてもYouTuber同士としても、なくてはならない存在になっていた。
カップル動画への批判も「言うとけ言うとけ」ぐらいの気持ちだった
今では「YouTuberカップル」として、東京で同棲生活を送るM君とふくれな。2017年には、二人で一緒に動画投稿をするカップルチャンネル(えむれなチャンネル)を立ち上げた。互いにドッキリを仕掛けあったり、人気スポットでデートをしたりと様々な切り口でカップルの様子が投稿される。飾らない2人のやりとりも相まって、えむれなチャンネルも144万人以上が登録する有名チャンネルになった。
だが、YouTuber同士、付き合っていることを公言するのには、葛藤もあった。
「YouTuberの中には、パートナーの存在や誰かと付き合っていることを隠す人もいます。街中で見かけたとか、私もたまにTwitterとかに書かれることあるんですけど、それが怖い時期もありましたし。でも隠し続けるのもしんどいし、私はせっかくM君といるなら一緒に活動したいとも思ったので、付き合っていることを公表しました」
視聴者の一部からは、「絶対すぐに別れる」「黒歴史わろた」といった、すぐに破局することを期待したコメントが投げかけられた。だが、ふくれなは冷静だった。「言うとけ言うとけ」、内心でそう思っていた。
「そんなこと言われるくらいで別れるなら最初から付き合うなって自分でも思いますよ。それに、単純に一人より二人のほうが楽しい。趣味も同じで、仕事も同じで、話すことはほとんどYouTubeのことばかりです」
同棲を始めて2年、ファンには「憧れのカップル」「理想の2人」と受け入れられている。
いまや2人はYouTubeという枠を飛び出し、活動の幅を広げている。人気ブランド「WEGO」が発行するフリーペーパー「WEGOマンスリーガイド」に起用された。そして今年、YouTuberとしては唯一、同ブランドの25周年記念事業に登場する予定だ。
あっという間に有名YouTuberに駆け上がり、いまやファッションアイコンにもなりつつある2人だが、現在の生活は意外にも「YouTubeの投稿を始める前と全然変わらないですよ」と口をそろえる。
「こうなるまでが本当にあっという間だったので、正直あまり実感はないんです。明日普通の生活に戻っていても気づかないと思う。今でも毎日、コンビニのご飯とかファストフードとかばっかり食べてるし(笑)」とM君は照れくさそうに笑う。
YouTuber同士のカップルはどこへ向かうのか。まだ見ぬ世界を目指し、2人はこれからも自分たちの道を歩む。
えむれな
10代~20代女性から最も憧れられている、カップルYouTuber。メイク系YouTuberのふくれなと、彼氏のM君とのカップルチャンネルとして「えむれなちゃんねる」を開設し、2人のやり取りを動画で投稿。親しみやすく面白いキャラクターや真似したくなるファッションが話題。えむれな SPECIAL FANBOOK 憧れカップルのすべてが発売中。
編集協力:プレスラボ