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伊藤圭

着飾るよりも自分だけの“何か”を見つけたい――乃木坂46のベストセラー作家・高山一実が生まれるまで

2019/04/19(金) 08:32 配信

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乃木坂46には、一見アイドルとは縁遠いように思える「ベストセラー作家」がいる。高山一実(25)だ。昨年11月に発売したデビュー小説『トラペジウム』は、発行部数20万部を超えた。

アイドルに憧れ続け、初期メンバーとしての乃木坂46への加入を「嫁いだ」とまで表現する。一方で、「アイドルは長く続けられる仕事ではない」と言い切る彼女に、いつの日か訪れる乃木坂46からの卒業も含めて、いまの思いを率直に語ってもらった。(取材・文:田口俊輔/撮影:伊藤圭/Yahoo!ニュース 特集編集部)

ティッシュ配りからスタートしたアイドル活動

結成8年目を迎えた乃木坂46。モデル、舞台女優、ドラマ出演と、数多くのメンバーがひのき舞台で活躍を繰り広げている。その中でも、多数のバラエティー番組に出演し、さらに小説『トラペジウム』がベストセラーになるなど、独自の路線を歩んでいるのが高山一実だ。今年4月現在、『トラペジウム』は20万部を突破。出版不況が叫ばれるなか、驚異的な記録だ。

そんな彼女は乃木坂46へ加入したことを「嫁いだ」と表現する。

「これからの人生で、(乃木坂46)合格以上の嬉しさはないと思っているぐらい。それは女の子が一度は想像する“結婚して幸せになる”と同じレベルなので、私としては乃木坂46に“嫁いだ”気分なんです(笑)。もはや『乃木坂46の高山一実』までが名前だと思っています」

中学生のころ、歌番組で見た山口百恵に魅了され、両親から教えられた中森明菜にしびれた高山は、いつしかアイドルになることを夢見るようになった。高校に入ると、好きなモーニング娘。のライブに通いつめるようになる。アイドルへの憧れは日増しに強くなっていった。

高校3年になった高山は、最後のチャンスと乃木坂46第1期メンバーオーディションを受け合格。夢を自ら手繰り寄せた。

もっとも、夢の世界の現実は、そう甘いものではなかった。

「『ぐるぐるカーテン』(2012年)発売のころ、ティッシュを配って宣伝活動をしていました。『乃木坂46です!』と言っても見向きもされず、『AKB48さんの公式ライバルです!』と言えばやっと受け取ってもらえるというつらい現実。入る前は、もっと華やかな世界だと思っていたんです。『毎日がパーティー!』って、ピンヒールを履いて会場に向かって、シャンパンで乾杯して、最後はバルーンをもらって帰るみたいな(笑)」

アイドルの在り方の変化も、高山を悩ませた。

「昭和のアイドルさんは事務所がだいぶ細かくキャラ設定をして、デビューさせていたと母から聞いていて。私もアイドルになって、キャラを演じることに少し憧れていたんですよ。ただ今は、常にメイキングカメラが回っていて、裏の面までさらされてしまう。昔は『キャラを守ろう』、今は『キャラを暴こう』の時代。その違いを考えながら、試行錯誤する日々です」

私にしかできない“何か”、が小説だった

乃木坂46の中で高山を特異な存在にしているのは、小説家としての一面だ。2016年1月に『ダ・ヴィンチ』(KADOKAWA)ウェブ版で、初の小説となる短編『キャリーオーバー』を公開。同年4月には『ダ・ヴィンチ』本誌で長編『トラペジウム』の連載を開始。アイドルを目指す少女・東ゆうを軸に、4人の少女たちが夢へと向かう姿を、瑞々しく、ときにシニカルな視点を交えて描いた。2年半近くにわたった連載は一冊の本にまとめられ、18年11月に出版された。初の「著書」は、飛ぶように売れていった。

しかし当の本人は、この現状を冷静に見ている。

「一回きりの人生において、本を一冊書き終えて、そしてそれが書店に並ぶというだけで奇跡だと思っていて。何より、最後の修正が終わった瞬間に、達成感が生まれたので、部数が伸びていくことや、たくさんの反響をいただいている状況には……全く現実感がありません」

2011年に始まった乃木坂46の冠番組『乃木坂って、どこ?』(テレビ愛知/テレビ東京、現『乃木坂工事中』)内の「乃木坂POP女王決定戦!」など、数々の企画を通じて高山の本への愛情はたびたびフィーチャーされてきた。彼女の熱意が実を結んだのは2015年3月。『ダ・ヴィンチ』誌上で「乃木坂活字部!」の連載を開始。敬愛する作家の作品の読書会、トークショーなどの活動を通じて本の魅力を届け続けてきた。

「いくちゃん(生田絵梨花)はミュージカル女優、白石麻衣ちゃんはモデルと、いろんな分野で活躍する、たくさんの個性豊かなメンバーを間近で見ているので、私は彼女たちと同じ土俵で戦える自信がなくて。私にしかできない“何か”を見つけたい……。そう常に思いながら活動し続けて、その先で出会ったのが小説でした」

「乃木坂活字部!」連載の一環で挑んだ短編『キャリーオーバー』が評判を呼び、初の長編執筆へとつながる。かくして現役アイドルの小説家が誕生した。高山があまたある題材の中から選んだのは、自身の活躍の場である「アイドル」であり、自身の経験を踏まえた「夢が叶うこと」だった。

「私が活動をするうえで感じた『どんなアイドルが一番成功するのか?』『世の中で愛されるためにはどんな要素が必要か?』といった、ちょっとした試練も交えつつ(笑)。中学生のころ、ずっと通知表に『興味があることに対して真っすぐ進めますね。ただ、もう少し視野を広げましょう』と書かれていたのを思い出し、執筆期間中は常に客観視を心がけていました」

多忙を極める乃木坂46としての活動と並行しながらも、隔月1万字前後の執筆は一度も滞らなかった。どうしてもつらいときには、自らボイスレコーダーに吹きこんだ「私は書き終えます!」という決意表明を聴き返し、ファンへの感謝、そしてある気持ちをモチベーションにした。

「メンバーの存在が大きかった。どんなに忙しくても努力を怠らず、常に謙虚でいる子がたくさん周りにいるから、私ももっと頑張らなきゃと思えて」

「すべてが本音と捉えられてしまう」怖さ

乃木坂46において、高山は一つひとつの発言にもこだわりを見せる。

「例えばライブMCは、個人的な話ではなく、メンバーとのエピソードを語ろうと心がけています。ライブを見に来てくださる方は、乃木坂46が好きでいらっしゃっています。私のファンの方はその中の何十分の一。そこで私が我を出しすぎたら、多くの方が喜ばないじゃないですか。他のメンバーとのエピソードを話せば、そのメンバーのファンの方も喜んでくれるので、相対的に喜ぶ方の数が増えるんじゃないかなって。そんなことも考えながら話そうと努めています」

こうした姿勢は、周囲からの評価となって表れている。乃木坂46の“公式お兄ちゃん”であるバナナマンの二人(設楽統、日村勇紀)、『しくじり先生』(テレビ朝日)で共演するオードリーの若林正恭、高山がアシスタントを務める『オールスター後夜祭』(TBS)の司会・有吉弘行、番組プロデューサーの藤井健太郎など、そうそうたるメンバーが彼女のバラエティー能力の高さを認めている。

高山は言う。

「決してバラエティーをメインにしたいわけではないのですが……。私のバラエティー出演が乃木坂46の入り口になるなら、喜んで『乃木坂46の高山一実』として頑張りたい」

一方で、数多くのメディアで受け入れられているからこそ、思いを発することの難しさも同時に感じているという。

「テレビ番組では、話を振られる順番があって。例えば事前に『こんなことを言おう』と思っても、前の方が同じことを言ったら、私は違った答えを用意しないといけない。流れを考えて発言をすることもあるので、私の言葉が本音ではないこともしばしばあります。ただ、発言してしまうと、すべてが本音だと捉えられてしまう。その怖さが生まれているのは事実です」

伝えることについて試行錯誤する。この冷静な視点もまた、彼女がメディアで輝く要因なのだろう。

自分を着飾り続けることは続かない

自身がアイドルになってなお、「アイドル愛」を貫く高山。

「私はハロプロさんが好きで、特に高橋愛ちゃん、鈴木愛理ちゃん、亀井絵里ちゃんのような、『これぞアイドル!』なパフォーマンスをするアイドルさんが好き」

好きが高じて、自ら理想とするアイドルのように輝こうと、試行錯誤した時期もあった。

「その場その場で良い顔を見せたいとか、かわいいと思われたいとか、そんなことばかり考えていた時期もありました。今日は“クールなお姉さん”な立ち居振る舞いをしようと、表情もスンとして、姿勢を正しておしとやかな空気を出そうと心がけたりもして。そんな人でいれば、人気になると思っていたんですよ」

ところがある日、その心がけが、はかないものだと気づいてしまったという。

「自分を“着飾り続ける”ことが、全然続かなかった。確かに努力することはすべて大切。ただ、私の“着飾る”ような無駄な努力を無駄に続けるより、ロングスパンで頑張れて頑張った先に正解があるものを目指したほうがきっと成果が出て、目に見えて誰にでも魅力として伝わり刺さると思うようになりました」

最高の状態で卒業したい

その先に見つけたひとつの答えが小説であり、努力はベストセラーという成果として実を結んだ。思い描いたアイドル像とは違った道を歩んだが、それでも彼女は乃木坂46という場所で、高山一実にしか成し遂げられなかった場所を築いた。

「常に最高の状態でいたい、そして最高の状態で卒業したい。私はアイドルが好きですが、長く続けられる仕事、一生続けられる仕事ではないと思っていますし、タイムリミット自体は刻一刻と迫っています。今年2月末に発売された『独白』(徳間書店)というソロ写真集が、これ以上何も思い残すことがないぐらい最高の作品に仕上がったんです。この満足感を乃木坂46のステージでも感じた瞬間が、卒業するタイミングだと思っています。今は自分の実力の何が足りないのかを見つめ直し、その足りないものすべてをできるようにしたい。そのための時間がこれからの私には必要なのかなと思っています」

高山一実(たかやま・かずみ)
1994年2月8日生まれ、千葉県南房総市出身。2011年8月、乃木坂46第1期メンバーオーディションに合格。2016年4月より雑誌『ダ・ヴィンチ』にて小説『トラペジウム』の連載を開始。同年9月、ファースト写真集『高山一実写真集 恋かもしれない』を刊行。2018年11月、単行本『トラペジウム』を刊行。2019年2月には写真集『独白』を刊行、5月発売の乃木坂46のニューシングルではフロントメンバーを務める。

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