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藤原江理奈

アイドルって、大人がつくったレールに乗ることじゃないですか――「永遠に中学生」、私立恵比寿中学の10年

2019/03/16(土) 08:44 配信

オリジナル

結成当時は「King of 学芸会」を名乗り、ときにつたなさを売りにするなど、一風変わったケレン味に満ちた活動をしてきたアイドルグループが私立恵比寿中学だ。所属事務所の先輩、ももいろクローバーZの妹分として見られることもある一方、メジャーデビューからわずか1年7カ月でさいたまスーパーアリーナでの単独公演を開催するなど、独自の道を開拓してきたグループでもある。2009年の結成時、メンバー全員が10代前半だった「エビ中」。自我がないまま加入したメンバーもいれば、なし崩し的に加入したメンバーもいた。いかにして、エビ中は大人が敷いたレールの上を勢いよく突き進んでこられたのか。結成10周年を迎えるエビ中の「強さ」の正体を、本人たちに探った。(取材・文:岡島紳士/撮影:藤原江理奈/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「コットンキャンディー」になるはずだった

「アイドルって、大人がつくったレールに乗ってどこまで進んでいけるかにかかってると思うんですよ」

そうあっけらかんと語ったのは、唯一、「エビ中」結成時から在籍するメンバー、真山りかだ。エビ中は、今年で活動10周年を迎える。“永遠に中学生”をコンセプトに掲げるが、メンバーの半数が既に20歳を超えている6人組だ。

なぜ彼女たちは、与えられたレールの上を走り続けることができるのだろうか。真山は言う。

「エビ中っていうことに縛りはあっても、人生においての縛りがエビ中はあんまりないなって思ってて。いつでも止まることもできるし、なんなら話し合って“レール”を2本用意してもらうことも可能なくらい自由だから。そういう自由な感じが続けられる理由なんだと思います」

真山りか

エビ中は、2009年8月に結成された。AKB48が2008年10月リリースの「大声ダイヤモンド」でブレークを果たし、それに続けとばかりに数多くのアイドルグループが誕生していた時期だ。

“ももクロ”こと、ももいろクローバー(現:ももいろクローバーZ)の妹分的存在としてデビューしたエビ中だが、当初は「キレのないダンスと不安定な歌唱力」をキャッチフレーズに、ライブを自ら「学芸会」と称するほど、その拙さを売りとしていた。全力のパフォーマンスを打ち出し、“アイドル戦国時代の雄”となっていたももクロとは対照的な存在だった。当時を真山が振り返る。

「グループ名の候補を考えてこいって言われて、当時のメンバー5人で『コットンキャンディー』にほぼほぼ決まりかけてたんです」

ところが、そんな可愛らしい名前ではなく「私立恵比寿中学」に決定。それが、名前も活動スタイルもケレン味に満ちたグループの船出となった。

後列左から真山りか、柏木ひなた、安本彩花、小林歌穂。前列左から中山莉子、星名美怜

期間限定のグループとして、メンバーのレッスンの一環という前提でゆるく始まったエビ中。そもそも活動を長く続ける予定もなかったが、結成から2カ月後には、新メンバーとして安本彩花が“転入”(エビ中ではメンバーの離脱を転校、加入を転入と呼ぶ)した。

「小学5年生で、まだ自我も芽生えていなくて(笑)。アイドルをやりたいとか、そういう意識もなかったんです。学校だったら絶対遊べないような、ちょっと年上のお姉ちゃんたちとなんか毎日会って踊ってる、くらいの感覚でしたね」(安本)

安本彩花

その7カ月後の2010年5月に星名美怜が、さらにその半年後の2010年11月には柏木ひなたがエビ中に転入する。

「事務所に入って数カ月後に、エビ中のライブ見学に呼ばれたんです。見に行ったら、そのままステージに上げられて、特典会にも参加することになって。イベントが終わった2時間後にマネージャーさんから『エビ中に入ってもらうことになりました』って連絡があって。そのときはエビ中がアイドルっていうことすら、よくわかってない状態でした」(星名)

星名美怜

「私も見学をした後に『エビ中やりたい?』って聞かれて曖昧な返事をしたら、たった1人の研究生としてステージに出ることになって、レッスンにも参加させてもらって、そのままいつのまにかグループに加入しました(笑)」(柏木)

柏木ひなた

ガチガチに固めすぎない自由さが「中学生」っぽい

2011年になると、エビ中はインディーズレーベルから次々にCDをリリース。花粉症をテーマにした「ザ・ティッシュ~とまらない青春~」や、白塗りのキョンシーメイクの「オーマイゴースト?~わたしが悪霊になっても~」など、王道のアイドル路線ではない、一風変わった方向性で“今、会えるサブドル(サブカルアイドル)”を標榜していた。

「ジャケットに自分たちの顔すらまともに載ってなかったけど、変わってるっていう認識がなかったんです。ももクロさんも王道的なアイドルじゃなかったし」(真山)

「ちっちゃいころから変なことをしすぎて感覚がおかしいのかも。逆に初めて王道的な曲調の『スーパーヒーロー』(2015年10月発売のシングル)をもらったとき、『こんな王道な曲を歌っていいんですか!』ってびっくりしたんです(笑)」(安本)

いまとなっては、「サブドル」の肩書は残っていない。設定すら変化していくゆるさも、エビ中らしさのひとつとなっている。

「ライブのことを学芸会って呼ぶコンセプトは今もまだ残ってますね。でも、今は歌もダンスも成長して、お金をもらってやる学芸会になってるから、学芸会のトップですよね(笑)」(真山)

「そういうふうにガチガチに固めすぎない自由さが、“中学生”という一言で表現できてるのかなって思います。ジャンルに縛られずに、いろんな曲や仕事に挑戦していることが、自由で好奇心いっぱいの中学生みたい、っていうところにリンクしているのかなって」(星名)

左から真山りか、中山莉子、安本彩花

2012年5月には、ソニー・ミュージックレーベルズから「仮契約のシンデレラ」でメジャーデビューする。そのデビューイベントは、曲名になぞらえて仮契約をかわす「調印式」で、「Mr.デフスター」なる謎の人物も登場した。

「私たちは本当に偉い人だと思ってたけど、実際は役者さんだし、『まだ本契約じゃない』って言われて。過剰に設定をつけるくだらなさはインディーズのころと変わらない感じだったよね」(星名)

「しかも、結局その伏線を回収せずに次のシングルを出したよね」(真山)

自我が芽生える前にさいたまスーパーアリーナへ

2013年12月には、メジャーデビューから1年7カ月にして、さいたまスーパーアリーナでの単独公演を開催。これは当時の日本人アーティスト史上、最速のスピードにあたる。

もはや活動はレッスンの一環とは言えないレベルになったが、そのころの彼女たちはアイドルとして突き進んでいくことに迷いはなかったのだろうか。

「私はそのころもまだ自我が芽生えてなかったです(笑)。さいたまスーパーアリーナを終えて、朝のニュース番組に出てる自分を見て、やっと事の重大さに気づいて(笑)」(安本)

2013年末からその翌年にかけて、エビ中に大きな変化が訪れる。約2年続いていた9人体制から3人のメンバーが転校し、2人の新メンバーを迎え入れることになった。転入したのは、小林歌穂と中山莉子だった。

「急に事務所から『エビ中から3人転校するんで新メンバーを入れます。どうですか』って聞かれて、めっちゃ軽い気持ちで『やった! 入ります!』って答えました。こんなチャンスは二度とないなって」(小林)

小林歌穂

「2カ月で一気に19曲の歌とダンスを覚えないといけなくなって、大変でしたね」(中山)

中山莉子

新体制となったエビ中はさらに勢いを増し、2015年2月には「ミュージックステーション」(テレビ朝日)に初出演を果たした。ちなみに同年1月には、「金八DANCE MUSIC」が収録されたセカンドアルバム『金八』をリリースしている。『金八』は「ミュージックステーション」の放送曜日と時間の「金曜8時」を意味しており、歌詞は同番組への出演を願う内容。いわば願いが叶った形だ。

「Mステに出たいっていう曲を作ったら本当に出られるんだなって。こんなアタックの方法があるんだなって思いました」(星名)

世間的にも大きく知名度を上げたエビ中。順調に活動を続けていたものの、2017年2月にはメンバーの1人、松野莉奈が致死性不整脈で急逝する悲劇が起きる。

「今は頭ではちゃんと理解してるけど、まだ気持ちが追いついてないところが正直あります」(小林)

「彼女がいてくれたことと、彼女との別れは、私たちにいろんなものを与えてくれたし、きっとこれからも与えてくれるんだろうなって思います」(真山)

エビ中だからこそやれることがある

2018年1月には、廣田あいかが日本武道館公演をもって転校し、エビ中は現在の6人体制となった。

そして今年3月、同体制となって初めてのアルバム『MUSiC』が発売された。初のももいろクローバーZとの単独コラボ曲「COLOR feat.ももいろクローバーZ」も収録されている。

「今回のアルバムを象徴してるのは『曇天』かなって思います。今までは恋愛ソングでも少女の恋愛について歌ってたんですけど、この曲はかなり大人な恋愛を歌ってて。こういう歌が歌える年齢になったんだなって感慨深いです。大人の女性の皆さんにこの曲の歌詞をテーマにガールズトークしてもらいたいです」(安本)

「ももクロさんと一緒の曲ができて、10年やって良かったなって思いました。方向性は全然違うけど、やっぱりずっと背中を見てきたから。ライブで一緒にやりたい、っていう思いが強いですね」(星名)

左から星名美怜、柏木ひなた、小林歌穂

この日の取材は、メンバーの笑い声が絶えないものだった。スタジオの2階で1人ずつ撮影していると、階下からは他の5人の大きな笑い声が響いてくる。さまざまな経緯でエビ中に加わり、アイドルとなった6人。

「さっきも撮影しながらうるさかったと思うんです。人前でお話ししているときよりも、楽屋やみんなでご飯を食べに行ったときのほうが面白いんじゃないかってぐらい、メンバーと一緒にいると笑いが絶えなかったり。雰囲気がいいところが、すごくモチベーションにつながってます」(星名)

「アイドルだからこそやれることがたくさんあると思うし、エビ中だからこそやれることもたくさんあると思うんです。『MUSiC』もエビ中だから出せたんだろうなって。それを感じられることがモチベーションですね」(柏木)

「エビ中が好きだから」と口をそろえ、自らを肯定して語る彼女たちは、とても強い。アイドルは自ら“レール”を敷かない。しかし、「誰かが敷いたレールの上を走る」という決断ができることこそ、アイドルが持つ最大の強さなのではないだろうか。

私立恵比寿中学(しりつえびすちゅうがく)
2009年8月結成、現役中学生が1人もいない「永遠に中学生」6人組グループ。通称「エビ中」、自称「King of 学芸会」。2012年5月5日、「仮契約のシンデレラ」でメジャーデビュー以降、全シングルがオリコントップ10入り。翌年12月、初のアリーナ単独公演をさいたまスーパーアリーナで開催。日本人アーティスト史上、デビュー最速記録を打ち立てる。2016年11月16日、オリジナルアルバム3枚から選りすぐった2枚のベストアルバム『中卒』『中辛』を同時発売。アリーナクラスのコンサートから夏の単独野外フェス、バラエティー、映画、舞台、モデルなど縦横無尽に活躍中。2017年5月31日には4枚目のフルアルバム『エビクラシー』を発売、初めてオリコンウィークリーチャート1位を獲得。2018年6月6日、6人体制となり初のシングル「でかどんでん」をリリース。2019年3月13日には5th full Album「MUSiC」をリリース。春からは全国ライブハウスツアーも開催。詳しくは公式サイトへ。


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