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殿村誠士

メンバー全員が同じ考えを持って押しつけるのは違う――19歳・小林由依の考える、欅坂46が支持される理由

2019/03/15(金) 08:55 配信

オリジナル

2015年8月に産声を上げた欅坂46は、若者が抱える苦悩をストレートに描いた歌詞と、その世界を視覚化させる劇的なダンスパフォーマンスで多くの人々をとりこにした。今年2月に発売されたシングル『黒い羊』も各チャートで首位を獲得。その勢いはこの4月にデビュー3周年を迎えようとする今もとどまるところを知らない。

そんな周囲の喧騒を本人たちはどう捉えているのか。センターポジションを務めることもある主要メンバーのひとり、小林由依は「課題をひとつひとつクリアしてきただけ」と冷静に振り返る。欅坂46としての活動だけでなく、雑誌モデルや舞台女優への挑戦、そして初の単独写真集『感情の構図』が発売前に増刷となるなど、新たなステージへと向かう小林。慎重に言葉を選びながら、今の思いを熱く語った。(取材・文:田口俊輔/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース 特集編集部)

デビュー以来、振り返る時間もなかった

「あまりにも想像以上のことばかりが起こるので、いつも先のことを予測できません。ずっと目の前のことに集中し続けて、活動するたびに見つかる課題や壁をひとつひとつクリアしていたら……気づけばいつの間にか、ここまで来ていました」

欅坂46の小林由依(19)は、自分たちをとりまく現状について、落ち着いた表情で淡々と語る。

「乃木坂46新プロジェクト」として2015年8月に産声を上げた欅坂46は、翌2016年4月に発売したデビュー作『サイレントマジョリティー』で、世間に大きな衝撃を与えた。若者たちが抱く鬱屈とした想いや心の叫び、世の中のしがらみに抗う姿勢を歌った歌詞。マドンナも認めた世界的ダンサー・TAKAHIROの振り付けによる、コンテンポラリーダンスをベースにした演劇的なパフォーマンス。そして、鋭いまなざしで歌い踊る少女たち――。

『サイレントマジョリティー』は、女性アーティストのデビューシングルとしては初週推定売り上げ枚数歴代1位の記録を樹立。YouTubeでのMVの再生回数は1カ月半で1000万回を突破した(今年3月現在で約1億2000万回再生を突破)。欅坂46はデビューとともに、瞬く間に時代の寵児へと駆け上がった。

以来、今年2月27日に発売された8枚目のシングル『黒い羊』まで、デビューから8作連続で首位を獲得。これは女性アーティストとしては歴代2位の記録だ。2年連続となる「日本レコード大賞」優秀作品賞受賞、3年連続での「NHK紅白歌合戦」出場と、その勢いはとどまるところを知らない。

めまぐるしく展開し続ける現状について、小林は少し考えたあとでこう言った。

「みんな、ビックリする暇もないんですよ。例えばひとつ大きな出来事が起きても、そのこと自体を振り返る時間がありません」

私自身も欅坂46の歌に影響された

欅坂46が生み出す世界観に魅了される者は後を絶たない。SEKAI NO OWARIのFukase、indigo la End/ゲスの極み乙女。のフロントマン・川谷絵音、シンガー・ソングライターの大森靖子といった気鋭のミュージシャン、歌舞伎俳優の六代目中村勘九郎、『HUNTER×HUNTER』などで知られる漫画家の冨樫義博、そしてIZ*ONEで活躍する宮脇咲良をはじめとした多くのアイドルたちが、こぞって欅坂46への愛を語る。小林は「直接お話を伺える機会がほとんどないので、あまり実感はないのですが」と、はにかんで笑う。

「私自身も欅坂46の歌からはだいぶ影響を受けました。欅坂46で歌われるようなリアルな感情を描いた、ものすごく現実的な歌を私も聴いたことがなかったので、そうした歌の持つ強さが見る人、聴く人の心に残るのかもしれません。例えば『アンビバレント』という曲は、人の二面性を歌った曲なのですが、私も歌詞のように二面性がぶつかり合っている人間なので、聴いたときに言葉が気持ちにスッと溶けました」

小林はいい加減な言葉を発しようとしない。再び熟考してから「個人的にですが」と前置きして、言葉をつむいだ。

「曲を届ける熱量の高さは、欅坂46の魅力なのかなと。素敵な曲なので、その曲の持つ力を伝えたいという想いがみんな強いと思います」

その想いの強さは最新シングル『黒い羊』でも同じだ。

「特に『黒い羊』は、答えがひとつではない歌です。メンバー全員が同じ考えを持って、『私たちはこう伝えています』と見ている方に押しつけるのは違うなと思います。『黒い羊』はそれぞれが考えたことを、そのまま表現しています。MVを見ていただけると、きっとそう感じていただけると思います。捉え方は自由ですので、思い思いの感じ方をしていただければいいなと思います」

どのポジションでも、パフォーマンスへの姿勢は変わらない

デビュー以来、快進撃が続く欅坂46。一見、順風満帆ともいえる時間を過ごしているように見えるが、2018年はいいことばかりではなかった。むしろ欅坂46にとっては、めまぐるしい変化の一年だった。

新年早々、1月31日と2月1日の2日間にわたり開催予定だった日本武道館での単独公演は中止に。センターポジションを務める平手友梨奈が怪我で万全の状態で臨めないと判断されたことをきっかけに、メンバーとスタッフが協議し下した苦渋の決断だった。公演中止の発表のあと、メンバーはそれぞれにブログで心境を吐露した。

その2カ月後の4月に開催されたのが「欅坂46 2nd YEAR ANNIVERSARY LIVE」。この3日間を小林は「私の中での欅坂46の分岐点」と語る。

「このとき全員がそろわず、19人でのライブでした。だからこそ、ひとりひとりが自分の持つ責任感や覚悟というものを改めて確認しあい、これからはより全員で頑張っていかなくちゃいけないと、強く思った大切な一日になりました」

ふだんセンターポジションを務める平手は、ほかの仕事の都合で不在。過去に平手が不在の際には、センターを「空白」にした状態で楽曲を披露することもあった。しかし、この記念すべき日では、小林をはじめ、9人のメンバーが楽曲ごとにセンターに立ち、欅坂46にかける想いをそれぞれの表現で形にした。

11月には、今泉佑唯に志田愛佳と、初のメンバー卒業を経験。ほぼ時を同じくして二期生が新たに加入し、21人で駆け抜けてきた小林ら一期生にとって初の後輩が誕生した。

「まだ一緒に仕事をする機会があまりないので、まだ先輩としての実感も、欅坂46が大きく変わった実感もないのが正直なところです。それでも年末の歌番組で二期生の子たちとステージをともにしたことで、『一期生、こんなものか』と思われないように、しっかりとした姿を見せないといけないという気持ちが強くなりました」

年末の日本レコード大賞、紅白歌合戦の二つで、怪我で出演がかなわない平手に代わり、小林はセンターを務めた。

「平手を中心に、今までみんなで作り上げてきた曲の世界観を、私が真ん中に立つことで壊してはいけないなと思いながら臨みました」

大きなプレッシャーとの戦いを経て、小林は大舞台で鬼気迫る圧巻のパフォーマンスを披露。欅坂46を牽引した。

「他では経験しえない気持ちを味わい、全く見たことがない景色を見ました」

この大きな出来事を通して、今後のセンターへの意欲は湧いたのだろうか。小林は少しだけ微笑んで言う。

「ポジションがどこであれ、パフォーマンスにかける想いや姿勢、気持ちは変わることはありません。与えていただいた場所で、いつも通りしっかりと、歌の世界観を届けることが一番だと思っています」

与えられた場所で咲く、それが欅坂46の小林由依として大切ということだ。そうした姿勢は、乃木坂46と比較されるときにも変わらない。

「よく対比されることもあるのですが、先輩たちですから。AKB48さん、IZ*ONEさん、いろんな方々と共演させていただいていますが、ほかのグループをライバル視するより、自分たちの曲をどうやって届けるかのほうが大事だなと思います」

欅坂46で学んだ「気持ちの届け方」

欅坂46が大きく変わり始めるなか、小林も個人活動の活発化により新たな一歩を進み始めた。昨秋、『with』(講談社)の専属モデルに就任。講談社の女性ファッション誌が現役アイドルグループメンバーを専属モデルとして起用するのは初の試みだという。異例の抜擢だ。

「モデルは夢のひとつでした。ただ、『モデルとして自分が目立ちたい!』と思うことはありません。『with』読者の方のことを常に考えて、読者の方に求めていただいたことをしっかりと私は発信するだけですので。歌詞やイメージを形にする、欅坂46の活動が意外と生きていると思います」

昨年11月には舞台『ザンビ』に出演し、かねてブログなどで語っていた憧れの舞台女優デビューの夢を叶えた。『ザンビ』での経験は、欅坂46の活動に大いにつながっているという。

「『ザンビ』で劇中歌を披露する場面があったのですが、歌詞をハッキリと歌うことで、より観客の方に気持ちが届くんだと学びました。『ザンビ』の終演の直後に『黒い羊』のレコーディングがあったので、この経験を思い出し、言葉をより届けようと今まで以上に歌い方を意識して臨めました」

ひとつひとつの経験を通し、成長を遂げていく小林の初のソロ写真集『感情の構図』(KADOKAWA)が、この3月に発売された。ソロ写真集の発売は、欅坂46メンバーとして5人目となる。

今作のカメラマンを務めたのは、欅坂46の初の写真集『21人の未完成』(集英社)で、小林のソロパートを撮影した鈴木心。気心の知れた鈴木による撮影とイギリスという異国の地は、「撮影はいつも緊張する」と語る小林にとても落ち着いた空間を与えたようだ。

「日本ですと街中での撮影は周囲の目が気になってしまうのですが、ロンドンで人の目を気にせず撮れたのは大きかったです。『いつの間に撮っていたんですか?』と気づかないぐらい、カメラを意識せず撮られた写真が多いですね。なので、これまで出ていない“素”の表情が出ています。私の新たな一面を見ていただける作品になったと思います。個人的には……カメラを意識していない写真が気に入っています(笑)」

小林由依1st写真集「感情の構図」より(提供:KADOKAWA)

『感情の構図』では素の表情以外に、水着やランジェリーショットも披露。撮影中に19歳の誕生日を迎えたこともあり、“大人の一面”も大きくクローズアップされている。初の挑戦に戸惑いはなかったのだろうか。

「写真集と言えば、こうしたものはあるものだと思っていました(笑)。どんな反応をしていただけるんでしょうね? 楽しみです」

小林由依1st写真集「感情の構図」より(提供:KADOKAWA)

4月4日からは、3日間にわたり「欅坂46 3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」を大阪・フェスティバルホールで開催する。過去にブログで「4年目を迎える時、自分が少しでもいい方向に変わっていたらいいなぁ」と記していた小林は、これからどう羽ばたいていこうとしているのだろうか。またしても熟考した後に、照れくさそうに笑った。

「グループをもっと引っ張っていけるような存在になりたいと常に思っています。もっと大人に……なりたいですね(笑)。今より成長していれば、それが一番ですね」

小林由依(こばやし・ゆい)
1999年10月23日生まれ。埼玉県出身。2015年、欅坂46の一期生として活動開始。『渋谷川』『ボブディランは返さない』などの楽曲では、特技であるギターの弾き語りで魅了する。2018年秋から女性ファッション誌『with』(講談社)の専属モデルとしての活動も開始。


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