自分は受け入れてもらえるだろうか――そんな不安を抱えながら新たな世界に踏み出そうとしている2人がいる。欅坂46の新メンバーとなる二期生の関有美子と松田里奈だ。松田は銀行員をやめて欅坂46に加入する決心をした。関はもともとは熱心な欅坂46のファンだ。
2016年のデビュー曲『サイレントマジョリティー』以来、シングル7作連続で1位を獲得し、昨年末も『日本レコード大賞』優秀作品賞受賞や『NHK紅白歌合戦』出場と大活躍した欅坂46。2月にはニューシングル『黒い羊』もリリースし、シリアスな歌詞や演劇性の強いパフォーマンスが大きな話題を呼んでいる。
ふつうの女の子が、ある日突然そんなトップアイドルになるのはどんな気持ちなのだろうか? 関と松田の笑顔の奥に迫った。(取材・文:左藤豊/撮影:藤原江理奈/Yahoo!ニュース 特集編集部)
受け入れてもらえるか心配はある
「『欅坂46と言えば“21人”』と言われていたことは私も知っています。一期生さんがつくり上げたグループの中へ急に私たち二期生が入ることに対して、ファンの方に受け入れていただけるのかという心配はあります」
二期生として加入する以前から、欅坂46の熱心なファンだった関有美子(20)。彼女も、欅坂46は結成以来、絆で結ばれた一期生メンバーが21人全員でのパフォーマンスにこだわり続けてきたことを知っている。自分たち二期生の中途加入は、“絆”の変容を意味する。それだけに、二期生にのしかかるプレッシャーは大きい。
「乃木坂46の新プロジェクト」として2015年に結成。デビュー曲にして初登場1位を獲得した2016年の『サイレントマジョリティー』以降も、シングル7作連続で1位を記録し、昨年末も『日本レコード大賞』優秀作品賞受賞や『NHK紅白歌合戦』出場と大活躍した欅坂46。従来のアイドル像とは一線を画す、若者の主張を代弁する歌詞の世界や、コンテンポラリーダンスをベースにしたダイナミックなパフォーマンスで、現在も支持を拡大している。
そんな欅坂46に、二期生9人が加入したのは昨年11月のこと。関たち二期生は、この日を境にトップアイドルグループの一員となったのだ。
銀行員という安定した職を捨ててアイドルに
「オーディションの告知サイトに書かれていた『この夏で、あなたの人生が変わります。』という言葉がすごく印象に残っているんですけど、合格して本当に人生が変わったと思います。私はそれまで地元の宮崎で銀行員として働いていたんですが、まさかオーディションに受かるとは思っていなかったし、銀行を辞めるなんて考えてもいなかったんですよね」
そう語るのは二期生のひとり、松田里奈(19)。アイドル界では異色の「元・銀行員」という経歴を持つ。
昨年夏、乃木坂46、欅坂46、さらにその姉妹グループであるけやき坂46(現・日向坂46)の3グループ合同で開催された「坂道合同新規メンバー募集オーディション」。オーディション参加者12万9182人、倍率約3400倍という限りなく狭き門を突破した松田だが、応募動機は拍子抜けするほど軽いものだった。
「姉に『受けてみたら?』と勧められたのがオーディションを受けたきっかけです。私は最初断ったんですよ。でも、アイドルへの憧れも捨てきれなかったので、『私、どこまで進めるんだろう?』という気持ちで応募しました」
思いも寄らぬ合格通知に、松田は葛藤する。高校卒業後に就職した銀行をわずか半年で退職することに、後ろめたさもあった。
「銀行では先輩も優しい方ばかりで人間関係で悩むことは一切ありませんでした。業務は難しくて大変でしたけど、『辞めたい』と思うことはなくて。安定した職種ですし、地元なのでお金もたまりますから(笑)。でも、やっぱり『アイドルをやってみたい』という気持ちもあったので、退職という決断をしました。後ろめたい気持ちもありましたが、銀行の方も私の決断を応援してくださったので、『これからアイドルとして頑張らないといけない』という気持ちがあります」
ただ、アイドルには憧れていたものの、欅坂46の大ファンだったわけではない。欅坂46の魅力に心を奪われたのはオーディションに合格してからだと松田は語る。
「『サイレントマジョリティー』や『不協和音』などの楽曲は以前からかっこいいと思って聴いていました。ただ、自分がこのグループの中に入ってみて先輩方の姿を見たときに、皆さんとても『欅坂46のために』『メンバーのために』という思いが強いことに気づいたんです。メンバー同士が強い絆で結ばれていて、それがあるからこそ欅坂46は素晴らしいパフォーマンスが生み出せるんだな、って」
私には夢がなかった
「昨日、菅井さんと握手してもらいました!」
関は、欅坂46の先輩メンバー・菅井友香と握手したことを興奮気味に話す。松田とは違い、結成当初から欅坂46の大ファンで、握手会イベントにも通い詰めるほどだった。
「握手をしてもらったことがあるのは、渡辺梨加さん、守屋茜さん、土生瑞穂さん、齋藤冬優花さん……。あと、菅井さんの握手会にも参加する予定だったんですけど、オーディションに合格してメンバーになってしまったので行けなくなりました(笑)。欅坂46の握手会に行くと、すごく幸せな気持ちになれるんですよ。嫌なことなんか全部忘れさせてくれる。だから何度も握手会に通っていました」
関はもともと地元・福岡で大学に通う、ごく一般的な学生だった。ただ、将来に対して漠然とした不安を抱えていた。
「私、夢がなかったんです。このまま大学を卒業して地元で就職して……それで本当にいいのかなと友人と話していたとき、『欅坂のオーディションってないの? もしあったら受けてみたら?』と言われて。すると、その翌日に新メンバー募集のオーディション開催が発表されたんですよ。すぐに応募しました」
運命に導かれるようにオーディションを受験した関は、合格を果たし憧れの欅坂46の一員に。グループの内側に入ったことで、ますます欅坂46への思いが強まっているという。
「多くの方は欅坂46に対して『サイレントマジョリティー』のようなかっこいいイメージを持たれていると思います。でも、素顔はものすごくかわいいんですよ! 先輩方は皆さん仲がいいし、いつもワイワイ楽しそうで。シングルのカップリング曲にはかわいい雰囲気のものもありますし、かっこよさとかわいさを兼ね備えているのが欅坂46の魅力だと改めて感じています」
握手をする側から、される側に
関・松田ら欅坂46の二期生は、昨年12月10日に日本武道館で開催されたイベント「欅坂46 二期生/けやき坂46 三期生『お見立て会』」で初めてステージを踏んだ。それまでごく普通の学生や社会人だった関や松田にとって、約1万人の前で歌やダンスを披露し、歓声を浴びるなど想像もつかないような出来事だった。
「でも、楽しみな気持ちのほうが強くて緊張はしませんでした。ステージに立ったときは、たくさんの方が集まってくださったことと皆さんが振ってくださるサイリウムの美しさにとても感動して。早くまたステージに立ってあの景色が見たいと思いました」(松田)
「私は特技のアルトサックスを披露したんですけど、プレッシャーがとても大きかったです。サックスが成功した後はほっとして、緊張も解けてイベントを楽しめました」(関)
そしてこのイベントの最後には、二期生初の握手会も開催。かつて足繁く握手会に通っていた関はこの日、初めて「逆」の立場を経験することになった。
「握手会に通っていたころから『私も握手会を開いてみたいな』と想像していたことがあったので、とてもワクワクしましたね。実際にやってみると、『応援しているよ』や『これから頑張ってね!』と優しい言葉をたくさんかけていただいて、すごくうれしい気持ちになりました。私は欅坂46の握手会に通って幸せをもらっていたけど、握手会をする側も元気をもらえるんだなって実感しました」
必要なら虫も食べます
アイドルとしての一歩を踏み出した二期生たち。2月からは欅坂46の冠バラエティー番組『欅って、書けない?』(テレビ東京)にも出演している。松田は、バラエティーで活躍できるアイドルになりたいと目を輝かせた。
「欅坂46にはかわいいメンバーが多く、勝てないと思っているので(笑)、バラエティーで爪痕を残せるようなアイドルを目指します! トーク力も身につけたいですし、アイドル番組でよくあるバンジージャンプや虫を食べるような“ムチャぶり”でも体を張って『この子はすごい!』と思ってもらえるような人になりたいです」
一方の関は、憧れの先輩メンバー・渡辺梨加(雑誌『LARME』のレギュラーモデル、雑誌『Ray』の専属モデルも務める)のように自分もいつかモデルとしての活動ができたらと語る。
「私は大学時代、所作の美しい女性になりたいと思ってモデルスクールに通い、ウォーキングのレッスンを受けていました。身長も高い(167cm)ので、それを生かしたお仕事ができたらいいなと思っています」
これから待ち受けるアイドル人生に期待を膨らませる2人。もっとも、決して将来を楽観視しているわけではない。
「すでにでき上がっているグループの中に今までの苦労を経験していない私たちが入るのは、やっぱり不安もあります。でも、先輩方のように『欅坂46のために』一生懸命頑張れば、いつかは認めていただけるようになると思っています」(松田)
「今はまだ何の自信もないのですが、いつか『欅坂46に貢献したい』と大きな声で言えるようになりたい。そのためにまずはパフォーマンスのスキルを磨いていきたいと思っています」(関)
関有美子(せき・ゆみこ)
1998年6月29日生まれ。福岡県出身。
松田里奈(まつだ・りな)
1999年10月13日生まれ。宮崎県出身。