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尾藤能暢

「嘘はついてない、四捨五入すればゼロだから」——悪行三昧のモンスター芸人・クロちゃんの本懐

2019/02/21(木) 09:01 配信

オリジナル

『水曜日のダウンタウン』(TBS系)をきっかけに大ブレーク中のクロちゃん。女性と2人で食事をした際には、相手が席を外している間にグラスに間接キス。「モンスターハウス」では掟破りの二股恋愛など、想定外の行動で視聴者を凍りつかせている。

そんな悪行三昧をどんなに批判されても、悪びれる様子は全くなし。なぜクロちゃんは批判を恐れずに堂々と生きていられるのだろうか…。本人に聞くと、「僕にはアンチはいない」「悪口書く人はファンか、サイコパス」「僕は国民のおもちゃ」と予想外の返答が。(取材・文:ラリー遠田/撮影:尾藤能暢/Yahoo!ニュース 特集編集部)

嘘はついてない、四捨五入すればゼロだから

SNSでは「家まで歩いて帰る」と書いていたのに、実際はちゃっかりタクシーを利用していたことに始まり、日々の食事メニューの写真も嘘まみれだった。

「(タクシーに乗ったのは)100回のうちの1〜2回ですよ。あとの98〜99回は全部歩いてますから。そんなの四捨五入したらなくなっちゃいますから。ゼロなんです、ゼロ。僕、四捨五入派なんで」

彼のツイッターはいまや年中無休の炎上状態。何か一言つぶやくたびに容赦ない罵詈雑言が浴びせられる。

「普通、炎上する人って、他人の悪口を書いたり政治的なことを書いたりするじゃないですか。でも、僕はそういうのは一切書いてないですから。自分の日常を書いているだけなのに、よくそんなに文句言ってくるよな、と思います。『今ウォーキングしてます』っていうツイートに『嘘つけ、タクシー乗ってるだろ』って書かれるのはまだ分かるんですけど、『時間ないからタクシー乗ってます』って書いたら『嘘つけ、歩いてるだろ』って書かれたりして、もう意味分かんない!」

クロちゃんが監視されているのはウェブ上だけではない。希代の嘘つき芸人として有名になってしまった彼は、街なかでも常に好奇の目にさらされている。

「見てもらえるのはありがたいんですけど、探偵みたいな人が多いですね。アイスを食べながら歩いていたら、『今アイス食べてますよね?』って書き込んでくる人がいる。テレビのスタッフに見られるのは百歩譲って分かるんですけど、一般の人たちも追っかけてきて、あら探し。僕、別に保護観察中とかじゃないし! 食べたものを逐一全部報告しないといけないわけじゃないですから」

悪口書かれても「どうすればひっくり返せるだろう」と考える

SNSで書き込まれるのは悪口ばかり。それでも、その全てに目を通して、前向きなつぶやきを続けるクロちゃんは「メンタルが強い」と称賛されることもある。だが、本人にはその自覚はないようだ。

「メンタル強いのかな? 悲しいことがあったら家で泣いたりもするし、わりと喜怒哀楽はっきりしてますよ。僕が悪口書かれても平気なのは『どうすればひっくり返せるだろう』と考えるからじゃないですかね。そういうのって表裏一体なので、いま裏を向いているなら表にひっくり返してやろう、って。『絶対、得してやろう』って思ってますから。僕のツイートを見て文句言ってるってことは、僕に興味を持ってるってことなんで。実際、僕にはアンチっていないと思いますよ。ツイッターで文句言ってる人がイベントに差し入れ持ってきてくれることもあるし。悪口書く人はファンか、サイコパスだと思っています」

どうしても得をしたい――。そんな彼の思いがよく表れていたのが、昨年、話題を呼んだ『水曜日のダウンタウン』の企画「モンスターハウス」である。20代の若い男女がおしゃれな一軒家で共同生活を送る『テラスハウス』のパロディー企画。そこに1人だけ40代のクロちゃんが加わっていた。

彼は欲望のおもむくままに莉音と蘭という2人の女性を同時に口説き落とそうとする掟破りの二股恋愛を敢行。最終的には二股がバレて両方に振られてしまった。

「ガチで彼女を見つけようと思って、モテるためのテクニックを駆使して落とそうとしていたんです。でも、二股かけてるのをオンエアでバラされてしまった。それがなければ付き合ってたと思いますよ。僕は基本、ヨーロピアンスタイルで、イタリア人気質なので、レディーファースト的な感じで口説いたりとか、『かわいいですね』と言ったりする。それで付き合えなかったのは不本意ですよぉ」

「与えられてないものは要らない」彼が信頼される理由

テレビの中のクロちゃんは、一見ハチャメチャに欲望のままに行動しているように見える。だが、一方では、意外なほどのプロ意識の高さが垣間見えることもある。

例えば、『水曜日のダウンタウン』の企画では、目隠しをしたままどこかに連れていかれたり、何か仕掛けられたりする演出が多用される。その際、クロちゃんはアイマスクの下でもずっと目を閉じていて、外の様子が絶対に見えないようにしているという。

「目隠しされたときに、ちょっとでも何か見えたりするのが嫌なんです。与えられてないものは要らないと思うから。それによって何もできなかったら怖い。全部あっちがやってきたことで失敗したらスタッフさんのせいにできるけど、途中で何かに気づいて自分で勘ぐって変なことをしちゃったら、僕のせいになるじゃないですか。言う通りにしていれば、最悪、僕がスベっても『企画が悪かったんじゃないですか』って言えるし」

よく言えばスタッフを頼りにしている。悪く言えば他力本願。ただ、クロちゃんのこういうところがバラエティーのスタッフから信頼されているというのも紛れもない事実である。

そう、クロちゃんは意外と真面目だ。学生時代には学級委員や生徒会長を務める正義感の強い少年だった。

「駅の自転車置き場で自転車が倒れているのを見たら、20〜30台あっても全部直したりしていました。妹はそれを見て『逆に恥ずかしいからやめて』って言ってくるんです。でも僕は、間違ったことはしてないから問題ないと思ってました。横断歩道で赤信号だったら車が来ていなくても毎回止まってましたし。気に入らないやつがいたら先生にチクったりもしていました。学級委員だから排除しないといけないと思って」

一度決めたら譲らない、たとえ周囲に違和感を与えても

ただ、この男は一筋縄ではいかない。今の芸風に通じるような、頑固でこだわりの強い生き様の片鱗を感じさせるエピソードもある。

「自分が1回こうだと思ったら絶対やる人なんです。中学校にちっちゃい池があって、冬場に表面が凍るんですよね。体のちっちゃい友達がそこに乗っても割れなかったから、僕も乗ってみたらパリンと割れて、ビショビショになっちゃったんです。それでも、今日こそはできるはずだと思って、氷が張るたびにそこに飛び込んでました。あと、足を鍛えたいと思って、靴を履かずに裸足で学校に行ってました。でも、『お金持ってなくて靴が買えないのかな?』って思われたら嫌だから、靴を手に持っていました」

たとえ周囲の人に違和感を与えるとしても、一度決めたら譲らない。それが「モンスター」の異名を取るクロちゃんの生き方だ。

社会的な生き物である人間は、普通なら多かれ少なかれ他人の目を意識してしまうものだ。だが、クロちゃんは他人にどう見られるかという回路を遮断して、欲望のままに突っ走ることができる。

それを「才能」と呼ぶべきか、「業」と呼ぶべきか。「モンスターハウス」で振られてしまった2人との恋愛すら、まだ完全にあきらめてはいない。

「企画は終わりましたけど、連絡先は交換しているので、ここからどうなるかは分かんないです。会ってない時期を経てこれからのほうが気持ちは盛り上がるはずだから、たぶん付き合えると思います。もうカメラが入ってないからバラされることもないし、なんとでもなりますからね。指輪もまだ残ってるし。指輪も悲しがってますからね」

「いい加減にしろ」――。口をついて出そうになるそんな言葉も彼には決して届かないだろう。馬の耳に念仏、クロちゃんに正論。七転び八起きの懲りない男は、炎上をものともせずにこれからも道なき道を突き進む。


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