新津保建秀

「2回目の人生のようなもの」――病弱だった神木隆之介が天職に導かれて

2/5(火) 8:05 配信

生死をさまよった幼少期を経て、導かれるように俳優の道を歩んできた神木隆之介(25)。映画やドラマの他、大ヒット映画『君の名は。』をはじめ、アニメの声の出演でも才能を発揮している。「ただ演じることがすごく好き」。そう語る神木の、活躍し続ける理由を探った。(取材・文:Yahoo!ニュース 特集編集部/撮影:新津保建秀)

(文中敬称略)

「助かる確率はかなり低い」と言われたけれど

神木隆之介が芸能界デビューしたのは、おもちゃのCMだった。

「覚えてます、一瞬だけ。おもちゃをもらったので、覚えてるんだと思います。母も祖母もいましたね。最初の記憶です」

母が「生きている証しを残したい」とタレント事務所に応募したという。神木は生後間もないころ、4カ月にわたって危篤状態で、病院の集中治療室にいた。

「何の病気だったかは結局わからないんですけど、体重がどんどん減っていったそうで」

4カ月後に目覚めたとき、母は医師に「助かる確率はかなり低い。助かったとしても障害が残るでしょう」と告げられる。

病弱な幼少期を過ごし、少しでも体調が悪くなれば、母が病院へ連れていった。しかし、次第に回復していく。

「小学校に入ってから、だんだん普通になってきて。体育も小4までは苦手だったんですが、小5になったら、急に跳び箱が跳べるようになったんです。小6のとき、リレーで今まで抜かせなかった子を抜いていったことがあって。走ってるときに聞こえるんですよ。『あれ、神木、あいつ、速くねぇ?』って。自分でも『走れるじゃん』って。うれしかったですね」

小学6年生のころ、かつて母が書いた日記を読んだという。

「僕自身は覚えてないので、なんとも言えない気持ちだったんですが、大変だったんだなと。もしかしたら死んでいたかもしれなかった。2回目の人生のようなもの。だから、感謝したいなぁって思います、何事にも」

「常に何事にも感謝しなさい」は、神木家の「家訓」だという。家訓は他に、「性格のかわいい人でありなさい」「義理と人情がいちばん」「大切なのは人望」「いつも相手の立場になって考える」。

「性格のかわいい人」とはどんな人なのか。

「なんだろう、喜ぶときは喜ぶし、悲しいときは悲しむし。素直というか、『ありがとう』とか『ごめんなさい』を言える人間を指すので、『かわいい』って、ピカチュウみたいな感じじゃないんです(笑)。『なんかあの人、かわいらしい人だよね』っていう人ですね」

演技がすごく好き。それだけでいい

1999年にドラマデビューし、たちまち人気を集める。

「だんだんと『自分以外の人になれるのがすごく楽しい』『自分の中にあるものって、どのくらいまであるんだろう』って思うようになって、そこからずっと現場が楽しかった」

現場は厳しく、大人も子供も関係ない。母も息子に「現場に入ったらプロなんだから」、スタッフに「煮るなり焼くなりしてください」と言って、現場に預けた。

「スタッフさんたちがめちゃくちゃ怒られている姿を見ていますし、僕も同じくらい怒られてました。『何笑ってるんだよ』と怒られるんですけど、自分では笑っているつもりはなくて。よく考えたら、口角が上がってるから、笑ってるふうに見えちゃうんですよね」

活躍の一方で、小学校の行事にはあまり参加できなかった。

「卒業式のときに、みんなが一人一言ずつ『楽しかった修学旅行!』とか、言ったりしますよね。あれを聞いていて、『えっ? そんなところ行ってたの?』って。『楽しかったキャンプファイヤー!』『えっ? そんなことやってたの』(笑)。でも、別に気にならなかったです」

中学、高校時代は充実していたという。高校では立候補して学級委員長にもなった。そんな高校生活の終わり、取り組んだのが映画『桐島、部活やめるってよ』だ。神木が演じたのは、主人公の冴えない映画部員・前田。青春群像劇で、同世代の共演者たちと高知県で1カ月間撮影した。

「『桐島』の撮影に入る前、学校で二者面談があって。先生から『この先、どうするの?』と。ちょっと悩みましたね。同級生の山田(涼介)、知念(侑李)と話したり。事務所の方からは『留学もいいと思うよ』というアドバイスもありました。でも、(留学は)別にいいかなと思って、行きませんでした。海外に行くなら、日本で映画を撮って持っていって、『日本映画って、いいのあるじゃん』と思ってもらいたい」

「俳優一本」を選び、進学はしなかった。高校卒業後に公開された『桐島』は、日本アカデミー賞最優秀作品賞のほか、多数の賞を受賞。神木にとって、大人の俳優への一歩となった。

一作一作、着実に歩を進めているが、当の神木自身は「昔からずっと目標がない」という。

「毎年マネージャーさんに怒られているんですよ。『5年後、10年後どうなりたいとかないの?』『いや、ちょっと、全く……正直どうなってるか分かんないんで』って(笑)。なんで目標がないんだろうって考えたんですけど、演技がすごく好きだから、ただ何かを演じさせてもらっていれば満足で。それだけでいいんです」

役作りで苦しんだことはないかもしれない

神木は日常の中で、ごく自然に役作りをしている。新海誠監督の『秒速5センチメートル』を何十回も観ては、主人公の貴樹になりたいと、声のトーンや間の取り方をイメージして過ごす。映画『るろうに剣心』で演じた瀬田宗次郎は、自分が演じたいと熱望していたキャラクターで、役が決まる前から「勝手に役作りしていた」という。

どのように人物を作っていくのだろうか。

「ときどき役と同じ考え方をして過ごしてみるんです。役をいただいたら、台本を読んだ第一印象と、監督とお話ししたときの印象を混ぜて、生活に入れていきます。そうして土台を作っておいて、あとは現場で臨機応変にできればいいかなと。今だったら(NHK大河ドラマ『いだてん』で)落語をやったり、そういう技術面で大変なことはありますけど、役作りで苦しんだことはないかもしれません。作っていくうちに、役にすごく愛着が湧いていきますね」

最新主演作『フォルトゥナの瞳』のメガホンを取った三木孝浩監督は、神木についてこう言う。

「神木くんは、息をするのと同じくらい、芝居をするのが普通なんだと思います。神木くんにしかない芝居のスイッチを持っている。俳優さんはたいてい、ヘアメイクを済ませて現場に入れば、カメラが回っていなくても、キャラクターをまとっているんです。でも神木くんは、本番に入るまで遊んでいたりして、落ち着きのない小学生くらいの緩さで(笑)。『はい、本番!』となると、全く違う表情に変わる」

『フォルトゥナの瞳』は神木にとって初めての本格的なラブストーリーだ。演じているのは、死を迎える人が透けて見えるという不思議な能力を持つ青年。ある日、愛する人が透け始めてしまう。恋人役は女優・有村架純だ。

©2019「フォルトゥナの瞳」製作委員会

初めての恋愛ものは不安だったと神木は言う。

「緊張しましたね。でも有村さんはたくさんラブストーリーに出ていますから、『先輩だから頼っちゃえ』と。監督からは『姉弟のじゃれ合いに見えないようにね』って言われました。同い年なんですけど」

監督の三木は「気負いは感じなかった。むしろ助けられていた」と振り返る。三木はこう言う。

「僕は声のトーンに細かくこだわるほうで、もっとボリュームを大きくとか、語尾のテンションを変えてとか言いがちなんですけど、神木くんには伝える必要がなかった。求めているキャラクター像にフォーカスがぴったり合っているんです。間だったり、ちょっとした震えだったり、繊細な芝居の表現がすごくうまい」

声といえば、神木は『ハウルの動く城』『サマーウォーズ』『借りぐらしのアリエッティ』『君の名は。』『メアリと魔女の花』など、多くのアニメ映画で声の出演をしてきた。三木によると、「めちゃくちゃ耳がいい」。神木自身、昔から「音」が好きだという。

「鉄道が好きで、小さいころ親に連れていってもらって、電車のガタンガタンっていう音をずっと聞いていたんです。そこから音がすごく好きになって。音楽も好きですし、何年か前からはイヤホンやヘッドホンにこだわり始めて、売り場で2時間くらい試聴したりしています」

「ドラマは日常の中で観るものだけど、映画は映画館という箱の中で、音も大きい。少しの息遣いや声のかすれ、震えで印象が変わるので、細かく演じていますね」

漫画のコマ割りはカメラアングル

三木は神木の「身体感覚」にも驚かされた。

「神木くんは全力で走った直後でも、聞かせる台詞をちゃんと聞かせる。芝居が崩れない。アクションシーンで、思いきり激しく動いてもらいながらも、カメラはここまでしか行けないから、ここで止まってしゃべってほしいとか、こちらの要望があるんですね。それをすぐ理解して、何回でも同じように繰り返せる」

役に合わせて、「運動神経」が変化する。映画『るろうに剣心』では見事な殺陣を披露したが、auのCM「意識高すぎ!高杉くん」で演じる高杉くんは見るからに運動音痴で、バスケ姿はぎこちない。

走り方も役によってさまざまだ。神木によると、『桐島』の前田は「なよなよしているんだけど、速い」、ドラマ『刑事ゆがみ』で演じた羽生刑事は「人を追いかけることに特化して、きれいなフォームで」、そして『フォルトゥナの瞳』では「男っぽい感じで、ひたすら前に走ろう」としたという。

役に熱中しながらも、演じる自分を俯瞰する冷静さは失わない。神木はこう言う。

「頭の中に映像があって、そこに自分が映っていて。カメラがこの角度にあると、こう映るだろうなとか、いくつかパターンを想像しておきます。現場でカメラマンさんの様子を見ながら、いつどう振り向いたら緊迫感が出るかとか、考えながらやっている感じです」

「漫画のコマ割りはカメラアングル」だと話す。数々の漫画原作作品に出演し、無類の漫画好きでもある。

「漫画はキャラクターの外見全部が映っているので、本当にありがたいんです。キャラクターがそれぞれの属性に合った立ち姿をしていて。例えば弟っぽい子だと、リュックを背負っているときに持ち手をつかんでいたり、逆に大人っぽい子なら、ポケットに手を突っ込んで、壁に寄りかかっていたり。役作りの参考資料としてすごい」

役について語りだすと、描写が細かく、人物の姿が目に浮かんでくる。

演じながら育って、25歳になった。息をするように役を作り、今を生きている。

神木隆之介(かみき・りゅうのすけ)
1993年生まれ。埼玉県出身。近年の主な出演作品に、映画『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』『3月のライオン 前編/後編』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』、劇場アニメ『君の名は。』『メアリと魔女の花』(声の出演)など。NHK大河ドラマ『いだてん』に出演中。映画『フォルトゥナの瞳』は2月15日から全国東宝系で公開。

ヘアメイク:MIZUHO
スタイリング:百瀬豪


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