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宅間國博

毛嫌いされる芸人から一転、子供たちのヒーローへ――54歳、今も体を張る出川哲朗の継続する力

2019/01/25(金) 08:00 配信

オリジナル

リアクション芸人として、バラエティー番組で活躍する出川哲朗(54)。熱湯風呂に入ったり、クマやサメと闘ったり、1万メートルの高さからスカイダイビングをしたりと、30年にわたって体を張り続けてきた。近年、冠番組がスタートし、CM起用も増えるなど、活動の場が広がっている。昨年末は『NHK紅白歌合戦』で審査員も務めた。それでもリアクション芸は「10億積まれても、やめない」という。出川を駆り立てる原動力とは。(取材・文:てれびのスキマ/撮影:宅間國博/Yahoo!ニュース 特集編集部)

(文中敬称略)

成功しないとは、1ミリも思っていなかった

昨年末に放送された『NHK紅白歌合戦』では、総合司会を内村光良が務め、審査員の1人として出川哲朗が出演した。

「友人の出川哲朗くんです」と内村が照れくさそうに紹介すると出川は「正直『紅白』の審査員より、学生時代からの親友の、司会のチェンの応援に来ました。頑張れよ!」と返した。出川が「チェン」と呼ぶ内村とは、横浜放送映画専門学院(現・日本映画大学)時代からの親友同士だ。そんな2人がそれぞれの道で人気絶頂となり、『紅白』の司会と審査員として相まみえたのだ。

一昨年、チェンが『紅白』の司会に選ばれたのも「ちょっとすごいところまで行っちゃったなあ」って周りの芸人とも話したんですけど、ほんだら、今回も司会をやると。みんなから冗談半分に「内村さん司会だったら、出川さんも応援とかあるんじゃない?」とか言われてたんですけど、「いや、ムリムリ!」って。僕には『(ダウンタウンの)ガキの使い(やあらへんで!大晦日年越しスペシャル!)』という一大イベントがあるから。でも、調整していただいて『紅白』と『ガキ使』両方出られたっていうのは、やっぱ、もうリアルに超うれしかったですね。

老舗海苔問屋の"お坊ちゃん"として生まれた出川だが、父親が相場に手を出し莫大な借金を抱え、店が傾いてしまう。そんな一家の家計を支えようと、高校を卒業後、高級料亭で働くことを決意した。その料亭に入れてもらう条件だった尼寺での修行中、矢沢永吉の『成りあがり』を毎日のように読んで、「やっぱ、自分のやりたいことやってみよう」と思い直し、尼寺の庵主様に土下座して謝って、「こんなちんちくりんだけど役者になろう」と映画学校に入学。けれど、映画学校での授業で役に立ったことは「何にもありません」とキッパリ言う。

この世界に入った人は分かると思うんですけど、学校で教わることなんて、まったく何の役にも立たない。ただ、僕はその学校に入って、ウッチャンナンチャンや劇団SHA・LA・LAのメンバーたちと出会えたので。やっぱ、同世代の同じ夢を見ている人たちが周りにいたら、情報交換もできるし、落ち込んだ時とか「一緒に頑張ろうぜ」って励まし合える。今でも、学生の時からの友だちのままなんで、そこは全然変わらないですね。だから、あの学校に行って本当によかったなと思いますけど、学校で学んだことは何一つない(笑)。

当時は「とにかく売れてやる」っていう気持ちが、人一倍ありました。やっぱ、一回、尼寺行って逃げてきたっていう負い目がすごいあったんで。だから、今思うとホントに狂ってるんですけど、ヤザワのまねして上半身裸でジャケット1枚だけ着て、「おい、お前ら、行くぜ。ビッグになろうぜ!」とか、ギャグじゃなく本気で言ってたんで(笑)。

学校の卒業式で出川が同級生たちを前に「俺に5年の時間をくれ! 頭出したる。俺に10年の時間をくれ! 有名になったる。俺に20年の時間をくれ! 頂点取ったる。まあ見とけや!」とスピーチしたのはいまや"伝説"となっている。

1ミリも自分が成功しないと思ってなかったんですよ。(明石家)さんまさんみたいな天才的なトーク力もないし、松本(人志)さんみたいな、奇抜な発想で笑わせるとか、そんなこともできない。何もできないのに、「じゃあ、なんでそんな自信あるんですか?」って言われちゃうと、本当困っちゃうんですけど、「もう絶対成功するんだ」としか思ってなかったんで。僕に限らず、どんな業界でも、本当にそう思ってる人が成功してるような気がしますね。

最初はウッチャンナンチャンたちが僕のキャラクターを面白がってバラエティー番組で使ってくれたから「テレビ出て、名前売っちゃえば、役者の仕事が来るんじゃないか」っていう失礼な気持ちで出てたんです。早い段階で「そんなつもりでやってたら、とてもじゃないけど、仕事なんて続かないな」と思ったし、芸人さんを目の当たりにして、「いつもお笑いのこと考えてて、なんてかっこよくて、なんて素敵な仕事だろう」って。それまでは「俺は役者だ」みたいなクソみたいなプライドがあったんですけど、「それ一回なくして、なんでもかんでも頑張ってみよう」って思ったら、なんかいいふうに転んでいきましたね。

「好感度急上昇」の理由は?

「頂点取ったる」と宣言した20年後、出川は本当に頂点に立った。ただそれは、雑誌『an・an』での「抱かれたくない男」ランキングだった。近年、この種の企画には批判も多い。当時その対象となった出川は、どんな気持ちでいたのだろうか。

最初はめちゃ嬉しかったですね。「やった! ついにこういうアンケートで1位になるくらい有名になったんだ!」って。でもそれがあまりにも続いていくと、芸人としては正解なんだろうけど、1人の人間としては「これでいいのかな?」って。でもまたスタジオ行って、それでイジられて笑いが起きたりしたら「ああ、良かった」と。毎日のように気持ちが揺れ動いてましたね。だって、「抱かれたくない」「気持ち悪い」とかなんとか言われてる人にも彼女はいるわけだから(笑)。それでも、それを続けられたのは、みんなに笑ってもらいたいって、それだけですね。

その当時のインタビューでも僕は言ったんですよ。「この容姿で前に出てギャーギャー言うと、ウザがられて、体を張って汚いお尻を出せば気持ち悪がられたりして、ゲストとして出ていっただけでブーイングを浴びたり、そんな思いを散々してきたけど、もうこのままの芸風で、笑ってもらえばいいと思ってるから。それを続けているうちに、最初は毛嫌いしていたけど、10年、20年経った時に、みなさんが『こいつ、まだこんなくだらねえことやってる、バカだなあ、体張って頑張ってるなあ』って最終的に思ってもらえれば全然いい」って。まさか本当にそういう状況になるなんて夢にも思ってなかったですけど、思い返すと「俺、かっこいいな」って(笑)。

出川がそう語るとおり、近年、芸風は変わらないまま好感度が急上昇した。今では小学生の「尊敬する人」に挙げられたり、女子高生たちが彼と会って、うれしくて号泣したりするほど。出川自身がその変化を実感し始めたのは7年くらい前からだという。

あるロケに行った時に子供たちがワーッとなったんですよ。一緒にいた貴理ちゃん(磯野貴理子)に「出川くん、すごいね。子供たちが出川くんをヒーローを見る目で見てる」って言われたのをすごい覚えてる。それと同じくらいの時に「一番つまんない芸人」を決めるっていうクソみたいな企画があって(笑)、山ちゃん(現・月亭方正)と対決したんです。子供たちにインタビューしたら、一人の子が「今、クラスは出川ブームだもん」って。そんなの当時の状況だと絶対、放送作家が考えられないリアルな台詞。だからその時、「ちょっと変わってきてる」って感じましたね。

好感度急上昇の原動力になったのは『世界の果てまでイッテQ!』での活躍だろう。だが、その前段階があると出川は言う。『内村プロデュース』や『アメトーーク!』などの、ただひげを剃るだけだとか、シャワーを浴びるだけ、ゴルフをするだけといった「素の出川」を面白がるコーナーによって、リアクション芸とは違う、自分が意図しないところでみんなが笑うという新たな部分を引き出してくれたことが大きかった、と。

そして『イッテQ』での「出川イングリッシュ」が決定打となった。英語をほとんどしゃべれない出川が外国人に質問をしながらミッションを遂行していくという企画。言葉はめちゃくちゃなのに、なぜか相手に伝わり、次々にクリアしていってしまうのだ。

「伝えたい気持ちさえあれば、絶対伝わる」んですよ。文法なんて関係ないし、「恥ずかしい」なんて1ミリも思わない。逆に考えたら分かるじゃないですか。日本で外国の人が片言の日本語で一生懸命「オマエ、シンジュク、ドコ? オシエロ、シンジュク、シンジュク」って言われてもカチンと来ないでしょ。海外の人だって同じで、怒る人なんて一人もいないですからね。人は優しいんですよ!

それが分かったのも『(進め!)電波少年』のおかげですね。いきなり海外に一人で行かされて、最初は僕も恥ずかしくて話し掛けれなかったけど、しゃべれないなんて言ってられないんですよ。こっちが誠意持って行けば、ちゃんと止まってくれる。今、僕の『イッテQ』のVTRを英語の授業で流している学校があるらしいんだけれども、本当にそっちのほうが大切だと思う。恥ずかしがらないで、まずしゃべる気持ち!

10億積まれても、リアクション芸はやめない

思えば、出川は一貫して、周りにどう思われようが自分を信じ、それがいずれ伝わるんだという姿勢で生きてきた。それが、好感度という形で花開いたのだ。CM出演は10本を超え、『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』のような自身の冠番組も抱えて仕事の幅も広がった。そうした状況は、"リアクション芸人・出川"の足かせになってはいないのだろうか。

あー、イモト(アヤコ)が、出てたドラマなんだっけ? 『ロケットボーイズ』......じゃないや、『下町ロケット』だ(笑)。この間、危険なロケの前にイモトが「けがしちゃったら『下町ロケット』が......」って言ってスタジオで「女優ぶってんじゃねえ!」ってツッコまれてたんですけど、正直、心の中で「わかるわー」って思ったんですよ。あんまり言っちゃいけないんだけど......、やっぱ、『充電~』みたいな自分の番組持ってると、けがしちゃったら、バイク乗れなくなるんで、それは正直考えるようになっちゃいましたねえ。それまでは、僕一人でけがを早く治せば良かったけど、今はもうみんなに迷惑かけちゃうから。

でも、CMもいっぱいやらせてもらってるんですけど、もし「裸になっちゃダメ」とか自分のスタンスに制限がつくCMだったら、いくらお金を積まれようが断ってくださいって言ってます。何百万だろうが何千万だろうが、1億だろうが......、まあ、1億だったらちょっと考えてもいいか(笑)。いや、それは冗談で、本当のことを言うと、ガチで10億積まれても断ります! 「ウソつけ」って思われるかもしれないですけど、そこだけはハッキリしています。

今では体を張る仕事は断れる立場になっているにもかかわらず、内村から「無理しないでね」と心配されても「俺はやります!」と体を張った。そうまでして自分の芸風にこだわり、リアクション芸に駆り立てる原動力は何なのだろうか。

それはもう「好きだから」だけですね。いつも言ってますけど、体を張って、泥だらけになった後でみんなでシャワーを浴びる瞬間がやっぱ僕は一番好きなんで。だからまあ実際、前ほど体はもう動かないんですけど、動く限りは、やり続けたいですね。

出川哲朗(でがわ・てつろう)
1964年、神奈川県生まれ。劇団SHA・LA・LAの座長を務める。現在、『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』(テレビ東京)、『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)、『アッコにおまかせ!』(TBS)ほか、バラエティー番組を中心に多数出演。

スタイリング:武部綾子
ヘアメイク:野口美礼(アートメイク・トキ)

最終更新:2019/1/25(金) 15:29

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