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伊藤圭

水嶋ヒロはいま何をしてるのか?――表舞台から姿を「消した」理由、バッシング、家族を語る

2018/12/18(火) 09:05 配信

オリジナル

水嶋ヒロが表舞台から姿を消したのは、2010年。数々の主演作に恵まれながら、突如としてシンガーソングライター・絢香との結婚を公表、所属事務所から独立した。この9年間、実は水嶋は会社を2社立ち上げ、俳優以外のキャリアを模索していた。「当時はたくさんのバッシングもありました。僕のやろうとしてることはなかなか理解してもらえなかったんです」。2010年から極めて断片的に伝えられ続けている水嶋の動向。引退説、現在の仕事や家族のこと、聞きたいことをぶつけた。
水嶋が、周囲の反対を招いても守りたかったものとは――。
(ライター・大矢幸世/撮影・伊藤圭/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「自分のことを話すのは、苦手なんです。聞き手に回るほうがラクだし好き。俳優業を主軸にしていたときも、あまりこういった機会はなかったかもしれません」。こちらをまっすぐに見つめる。これまで出演作品にまつわる記事はあったが、パーソナルな部分に踏み込んだインタビューは「苦手だったからあまり受けませんでした」。そう言うと彼は穏やかに話しはじめた。

「頭おかしいんじゃないの」 そう言われたけど、自信があった

2005年に俳優デビューを果たした水嶋は、06年に『仮面ライダーカブト』の主演に抜擢。以降、『花ざかりの君たちへ〜イケメン♂パラダイス〜』『メイちゃんの執事』など立て続けにドラマに出演。“イケメン俳優”として一気にスターダムにのし上がった。

だが、主演映画『ドロップ』が公開された直後の09年4月にシンガーソングライター・絢香との結婚を公表。“イケメン俳優”のイメージで一気に地位を確立してきた水嶋が、そのタイミングで結婚という決断をすること自体、異例のことだった。女性ファンが離れる可能性、仕事の減少につながる可能性もある。あらゆる逆風のなかでの門出。「ただただ一生懸命でした」と、当時を振り返る。

「いろんなことを言われましたよ、『頭おかしいんじゃないの』とか『絶対に後悔するぞ』とか。近しい友人からも、今つかもうとしているポジションがいかに輝かしいものかを説得されました。そのとき、僕は24歳だったんですよ。まだまだ子どもでしたし、無謀で、一時の気の迷いだと思われても仕方なかった。でも、自信があったんです」

結婚の翌年、当時の所属事務所から独立し、妻・絢香の活動を支えるためにひとつ目の会社を稼働させる。表舞台からしばし距離を置き、経営に徹した。

「はじめは妻も持病の治療に専念していて、実際は復帰できる日が来るのかさえもわかりませんでした。言わば、その間はふたりとも“ほぼ無職”の状態。妻を不安にさせたまま休止期間を過ごすわけにもいかないので、まずは必死で資産運用にまつわるお金の勉強をしました。人生で一番勉強したのは、このときかもしれません。あとは、いざというときには就職できるようにも動いていました(笑)。幸い妻は2年間の休止を経て歌手活動を再開できましたが、当時は出口の見えない迷路を突き進むみたいなものでした」

引退説には歯がゆさ

独立した直後の2010年には小説がベストセラーとなった。「芸能界を引退して小説家に」との報道もあったが、「不本意だった」と漏らす。

「僕のなかでは、小説を書くのは当時やりたいと思っていたことのひとつにすぎなくて、別に小説家になりたいわけではないのに困ったな……とずっと思っていました。いつか“肩書”よりも“中身”を見てもらえると信じて、それを覆すよりも先に進むことを選択しましたが……いまだに言われますからね(笑)。今は以前よりも海外のように複数の肩書を持つことや、パラレルキャリアといった考え方が広がってきましたけど、あのころはひとつのことを追求することが良しとされていました。なかなか僕のような考え方は理解されなかったんです」

一方的に拡散されていく、自身の“引退説”に、歯がゆい思いを味わっていた。

「芸能人がSNSで発信して意見を言うことが今ほど一般的ではなかったし、世の中に出てしまった情報やイメージを上書きするのはほぼ不可能。なんだかオセロの四隅を取られたみたいな状況で……もどかしさを感じていました」

俳優復帰なのか、実業家として進んでいくのか

ここ数年の水嶋の動向は、極めて断片的に報じられてきた。

2014年に主演を務めた映画『黒執事』では共同プロデューサーを兼務し、2016年にはアメリカの放送局HBO制作のドラマ『Girls』シーズン5に出演。同年、自身2社目となる会社3rd i connectionsを立ち上げ、代表に就任するとともに、東証1部上場企業・株式会社じげんのCLO(Chief Lifestyle Officer)に就任することを発表。また、旅行代理店・マゼラン・リゾーツ・アンド・トラストのブランディングディレクターに就任した。

本格的に俳優復帰するのか、それとも実業家としての道を歩むのか。水嶋は、そのいずれでもないと話す。

「自分の理想とするライフスタイルから逆算してみたとき、その先の働き方が定まってきたんです。今は、家族との時間を最優先しながら仕事もこなすことがテーマ。自分のライフスタイルの延長線上に仕事を創ることを意識しています」

自身の会社の経営基盤は、4つの柱から成り立っているという。1つ目は俳優やモデルなど、自身が表舞台に立つ仕事。2つ目は他企業とのプロジェクト発足やアドバイザリー業、3つ目は自社事業。自社ブランドやコンテンツの企画制作、EC・Webサイト運営などを行う。そして4つ目は投資事業だ。これまで2社を設立した水嶋は、経営者として設立から運営まですべて自己資金でまかなってきた。

子育てから会社のあり方を考えた

「僕が会社を立ち上げたときに決めていたのは、絶対に子育てにコミットするということ。娘の成長をつぶさに見ながら、きちんとケアしつつ働くために、会社のあり方を考えたんです」

水嶋の頭のなかにあったのは、幼少期に暮らしていたスイスで出会った老夫婦の姿だった。言葉も通じず、友だちもできず、ひとりで過ごす時間が長かったころのことだ。

「毎朝、家のベランダからそのご夫婦が通るのを眺めていたんですけど、いつもいとおしそうに支えあっていて、本気でお互いを大切にしているのが伝わるんです。当時僕は小学1年生でしたけど、『いつか絶対にこういうパートナーを見つけて、幸せな家庭を築くんだ』って、そのときからずっと心に決めていました」

最優先は「あたたかい家族」

現在は自社ブランドのプロダクト開発やECサイト開発を進めながら、じげん、マゼランリゾーツとの契約も3期目に突入。国内外のベンチャー企業への投資、他社との共同プロジェクトの計画なども進んでいる。そして日本では『東京DOGS』以来およそ9年ぶりとなるドラマ『東京BTH〜TOKYO BLOOD TYPE HOUSE〜』(Amazon Prime Video)にも出演した。

このまま活動領域を広げていくのかと思いきや、「あくまで今は、家族中心の生活」と言ってはばからない。

「経営者としては、事業をスケールさせることを目標に置くべきなのかもしれません。でも僕にとってそれは優先することではないんです。あくまで、家族のために生きることが最優先。必要に応じて外部パートナーや企業と協力したり、シェアオフィスをうまく活用することで、場所にも時間にもとらわれず働けるようになりました」

「映画や連続ドラマの出演は拘束時間も長く、長期間、スケジュールが押さえられてしまうので、どうしても家族や会社に負担をかけてしまう。拘束時間が短いものであればできなくもないですが……いまはできる範囲でしか難しいですね」

自分で裁量を持つ働き方を選んだからこそ、娘に最大限の機会と可能性を与えられたらと話す。

「娘をできるだけいろんな国へ連れていってあげたいんです。僕自身、海外生活で『世界は日本だけではない、いろんな価値観の人がいていいんだ』と感じられた経験が、自分の人生に大きな影響を与えている。その感覚を娘にも味わってもらえたらと思っているんです」

「今年ニュージーランドのプリスクールに娘を1カ月半ほど通わせていたんですけど、僕は娘がなじめるか心配で、前日も寝つけないほど緊張していたのに、娘は『じゃあねー、またねー!』って笑顔で教室に入っていってしまって……すごいですよね」と話しながら、水嶋の目は潤んでいた。我が子が親離れするときのことにまで、思いを馳せていたのだ。

なぜそれほどまで、献身的になれるのだろうか。

「俳優の仕事を通して、自分は誰かに喜んでもらうことが本当に好きなんだと実感したんです。そして、1つ目に設立した妻をサポートする会社の経営で、人が輝く姿を見ることも同じくらい好きなんだと気づきました。僕が何かアクションを起こしたりサポートしたりすることで喜んでくれる人がいる。誰かに求められるからこそ、その人のために責任を果たしたいと思えるし、120%で応えたいと思ってきたんです」

「もし人生が残り少ないとして、何を一番にしたいかを考えたら、答えは明確にある。あの老夫婦のようにあたたかい家庭を築いて、大好きな人が楽しそうに笑ったり喜んだりしている姿をずっと見ていたい。誰がなんと言おうと、それが、僕の最優先事項なんです」

水嶋ヒロ
1984年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。幼少期をスイスで過ごす。高校時代はスポーツにも力を注ぎ、全国高校サッカー選手権大会で3位。2005年から俳優として数々の話題作に出演し、第33回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。俳優として広く認知されるなか、2009年に株式会社A stAtionを設立。経営の傍ら、コンテンツのプランニングやディレクション及びプロデュース業をこなす。2016年4月、自らが代表を務める株式会社3rd i connectionsを設立。株式会社じげんのCLO(Chief Lifestyle Officer)に、マゼランリゾーツ株式会社のBranding Directorに就任。俳優としては、米国海外ドラマ『Girls』(HBO制作)や、最近では9年ぶりの国内ドラマとなるAmazon Prime Videoの『東京BTH』(2018年12月7日より配信)にゲスト出演。投資家としても国内外のベンチャーに投資するなど、活躍の場を広げている。

(ヘアメイク:亀田雅)
(制作協力:プレスラボ )


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