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藤原江理奈

「海外で舞台に立ちたい」――三浦春馬が見つめる世界と日本

2018/09/21(金) 07:00 配信

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三浦春馬は、今年28歳。子役としてスタートし、10代のころから多くの作品に主演してきた。活躍の裏では、思い悩み、俳優とは別の仕事に携わった時期もあったという。ここ数年、海外の監督や俳優、演出家と関わる機会が増え、心境に変化があった。日本、そして自分自身を見つめ直して定まった、これからの人生の目標は。(撮影:藤原江理奈/Yahoo!ニュース 特集編集部)

(文中敬称略)

絶対にモノにしたかった役

昨年の暮れからイタリア、スペインを回り、年越しはニューヨーク。今年に入ってバンコク、台北、ホーチミンでドラマの撮影を行い、その後はフランス、スイス、イギリス、そして香港へ――。ここしばらくのうちに、10カ国ほどを旅したという。

寺院や教会に行くのが好きで、時間を見つけて、その土地のエンターテインメントにも足を運ぶ。Instagramでは日本語と英語で言葉をつづり、中国のSNS「Weibo」でも近況を発信する。

「『海外で板の上(舞台)に立ちたい』という目標はあります。渡辺謙さんや大沢たかおさんが新しい挑戦をされて、大舞台に立っている。いつになるか、どんな形になるかは分からないけど、そこを目指して努力することが、自分の人生においてすごく有意義なことだと思うんです」

渡辺謙はブロードウェイミュージカル『王様と私』に主演し、2015年、トニー賞の主演男優賞にノミネートされた。今夏のロンドン公演では大沢たかおが共演を果たしている。

2016年、三浦はブロードウェイミュージカル『Kinky Boots』の日本版に主演している。ドラァグクイーンのローラを演じ、ハイヒールで歌い踊った。全公演がソールドアウトとなり、来年には再演も決まっている。

「ブロードウェイで『Kinky Boots』を観て、『あ、これは』と。日本版を上演することがあったらぜひオーディションを受けたいし、この役を絶対モノにしたいとマネージャーに伝えました」

『キンキーブーツ』でローラを演じる三浦(中央)(写真提供:アミューズ)

音楽と作詞はシンディ・ローパー。ニューヨークでシンディのボイストレーナーに習い、ドラァグクイーンのパーティーにも参加して、準備期間は自宅でハイヒールを履いて過ごした。

「しっかり先生に習ってきたわけではない」と話すが、ダイナミックなダンスは折り紙付きだ。「昔は鏡で自分のポージングを見るのが恥ずかしくて、ダンスが嫌いだった」とは、とても思えない。

「『キンキーブーツ』では気負っていた部分がすごくあって、一緒に座長を務めた小池徹平君に『春馬、ちょっと頑張りすぎ』って言われました。それまでも地球ゴージャスや劇団☆新感線の公演に出させてもらっていたけど、舞台で座長というのは初めてだったので」

俳優とは別の仕事も経験して

三浦の芸歴は長い。4歳で児童劇団に所属し、7歳のとき、NHK連続テレビ小説『あぐり』(1997)で子役デビューする。10代のころから数多くの映像作品に主演し、脚光を浴びてきた。

「やめたいなと思ったことは何回もありました。よく覚えているのは、19歳と23歳のころ。19歳のときは主演を何本もやらせていただいて、環境の変化が目まぐるしくて。目の前の物事に必死になるなかで、自分が俳優としてこれからどう進んでいったらいいのか、わからなくなったんです。恵まれていたのに、今思うと完全に甘えですよね。23のときは仕事が忙しかったし、プライベートなこともいろいろ重なって」

そんなとき、「違う何かに触れる」ことで霧が晴れた。

「実はある時期、しばらく俳優とは全く違う現場で、力仕事に携わったんです。それまではアルバイトをしたこともなかった。ありがたいことに若いころからいろいろな現場に行かせてもらっていたので、『僕は芝居一本でやっていく』っていう驕(おご)りのようなものがあったと思います」

俳優以外の仕事を経験したことが、一歩前へ踏み出すきっかけになった。

「目を向ければいろんな仕事があって、頑張っている人がたくさんいる。世界は広いんだなと思ったし、以前よりもなんだか社交的になりました。昔は何考えているか分からない感じだったんじゃないかな……。取材でもこんなにしゃべれなかったし。スタッフさんとの距離も縮まったような気がします」

言葉の壁を乗り越えるために

旅に出たり海外に身を置いたりすることにも救われた、と振り返る。2013年の秋、日中合作映画『真夜中の五分前』(2014)で1カ月の上海ロケへ。撮影前の2カ月間は中国語を特訓した。

「発音にはめちゃくちゃ苦労しました。日本で習っていた先生が北京の方だったので、上海に行ったら発音が違ったんです。ようやく話せるようになっても、自分の中から生まれてこない言葉に感情を乗せ、演技するということは、想像以上に大変でした」

日本人キャストは自分だけ。共演者とは英語でコミュニケーションをとることになる。

「当時は英語もできなかったから、共演者の方々とうまく話せなくて悔しい思いをしました。言葉の壁はつらかった。海外の監督や演出家、スタッフの言葉を直に感じたいですし、語学はもっと学んでいきたいですね」

最新出演ドラマ『tourist』のロケではバンコク、台北、ホーチミンを訪れ、それぞれの場所で現地スタッフと撮影を行った。「(英語で)深い話はまだまだできない」と言うが、スタッフと積極的にコミュニケーションを取れるようになっている。

バンコクで(写真提供:TBS・テレビ東京・WOWOW 3局横断 Paraviオリジナルドラマ『tourist』)

ホーチミンで(写真提供:TBS・テレビ東京・WOWOW 3局横断 Paraviオリジナルドラマ『tourist』)

「日本とは違う環境での撮影も刺激的です。環境が分からないところに乗り込んでいく、その緊張感は表情にも出るはずだし。『この繁華街では1回しか撮れません』とかあるんですよ。絶対にNGは出せないし、撮り直せない。現場は『カメラから見切れたら殺すぞ』くらいに殺伐としていて(笑)。そんななか、スタッフみんなで意思疎通を図って撮影する。なかなか撮れない画に仕上がっていると思います」

日本らしさとは何なのか

海外に行く機会が増えることで、日本の伝統文化をもっと知りたいと思うようになった。以前から興味のあった日本舞踊にも熱心に取り組んでいる。

「前にも少しだけ習っていたけど、休日に時間を割いてまで稽古場に行くかというと、そうでもなかった。なんかこう、“なんちゃって”だったんですよね。今は日本舞踊も刀を振る殺陣(たて)もやっています。海外の作品で僕はやっぱり基本的に日本人役を演じるわけですし、『日本人でしょ? 刀振れるんでしょう?』って言われたりもする。そのとき、『この道具だとこういう動きになる』とか説明できるようにしておきたいんです。踊りも、例えばバレエと日本舞踊では、重心の位置一つとっても全然違う。日本代表として作品に関わるわけだから、日本の文化教養を身につけて、戦えるようにしておきたい」

では、日本のエンターテインメントについてはどう感じているのだろうか。出演作を引っさげて各国の映画祭などに参加することも多い。

「『もっと海外の作品のように』と憧れたり、『だから日本はダメなんだ』とネガティブになったりする部分が、どこかあるじゃないですか。でも、僕たちは僕たちなりに日本の作品を誇っていいと思うんです。『日本のアニメーションって素晴らしいよね』って言われたりしているわけですし、実写作品も受け入れられている。映画祭などに行くと、ファンの方の熱量は感じています。それに僕らは気付いていないけど、面白がられている“日本らしさ”もある気がして」

その“日本らしさ”というのは、どういうものを思い描いているのか。そう尋ねると、「話はずれてしまうけど」と語り出した。

「日本の“色”ってどういうイメージなのか考えると、例えば藍染めだとか、なんとなく青の印象があると思っていたんです。でもこないだイギリス人の演出家に聞いたら、『日本の色はピンクだよね』って。日本を表現するというと、青以外には、例えば鯉のような赤、白、黒のイメージが多かったりもしますが、ピンクというのは意外だったんですよ。なんでピンクだと感じたのかは分からないんだけど」

海外での活動を通して日本を見つめるようになった。すると同時に、俳優としてやりたいことも見えてきた。

「国内でも海外でも、『この先にどういう景色が見えるんだろう』って思える、刺激的なものに関わっていきたい。自分がどう変わることができるのか。『新しい自分に出会いたい』という気持ちはいつだってあって、そのための挑戦を常に欲しています」

三浦春馬(みうら・はるま)
1990年生まれ。茨城県出身。最近の出演作は、映画『銀魂2 掟は破るためにこそある』『SUNNY 強い気持ち・強い愛』。出演ドラマ『tourist』はTBS(9月28日/第1話バンコク篇)、テレビ東京(10月1日/第2話台北篇)、WOWOW(10月7日/第3話ホーチミン篇)の3局で放送された後、動画配信サービス「Paravi」で配信される。

スタイリング:岡井雄介
ヘアメイク:SHUTARO (vitamins)

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