岡本隆史

「人生には頑張り時があるから」女優・大竹しのぶの仕事と介護

8/26(日) 9:00 配信

毎年いくつもの舞台で主演し、映画やドラマ、バラエティー番組に出演、音楽活動にも力を入れている大竹しのぶ。私生活では2人の子どもと96歳の母と暮らし、母として娘として、忙しい日々を過ごしている。仕事と子どもとの生活、そして介護をどのように両立しているのだろうか。(取材・文:矢部万紀子/撮影:岡本隆史/Yahoo!ニュース 特集編集部)

(文中敬称略)

介護を経験するのも、面白い

大竹しのぶの7月、8月の休みは、ほんの数日だけだった。

芝居の稽古がある日は夜8時頃に家へ帰り、バラエティー番組の収録があればもっと遅くなる。それから食事をし、洗濯し、自分の時間は日付が変わる頃からだという。

「ニュースを見たりして、リラックスしてますね。すぐに眠ったほうがいいのですけど」

今年に入ってからの主演舞台を並べてみると、4月は『リトル・ナイト・ミュージック』、8月からは『出口なし』、11月に『ピアフ』が待っている。

この合間に、テレビドラマに出演し、レギュラー番組『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』の収録をこなす。さらにはレコーディング、コンサート出演など、音楽活動も行う。

忙しすぎる61歳。自身が若い頃イメージしていた「60歳になった自分」はもっと違っていたという。

「人間は優雅にゆったりと年を重ねていくものだと単純に思っていたけれど、全然違いますね。年を重ねたら重ねたで、問題は起き続けるんだっていうことがわかりました。問題が起きて、その都度悩んで。だから『楽になる』ってことは、もしかしたらないのかもしれない。『何もない時間』とか、そういうのはない人生を選んでるのかなと思います」

16歳の時にテレビドラマのオーディションに合格し、デビュー。映画『青春の門』での演技が評判となり、NHK連続テレビ小説『水色の時』のヒロインに選ばれた。以来、テレビドラマ、舞台、映画と出演を重ね、日本を代表する演技派女優に。その間、2度の結婚と出産をした。

「子どもが小さい時は、子どもとの時間が優先でしたが、大きくなってからのこの10年ぐらいは、またすごく忙しくて。仕事の分量を考えなくては、と思ってはいます。旅に出たり、家をきちんとお掃除したり、もっとそういう時間がほしい。『ずうっと同じこと言ってるよ』って人から言われるんですけど」

2005年、舞台『蛇よ!』に出演する大竹(左)と松尾スズキ(右)(撮影:青木司)

エディット・ピアフを演じる舞台『ピアフ』は、11月に4度目の再演が行われる(写真提供:東宝演劇部)

大竹は今、長男・二千翔(にちか)と長女・IMALU、そして大竹の母・江すてると4人で暮らす。服部晴治、明石家さんまと2度の結婚。その後、野田秀樹と共に暮らし、いろいろな経緯を経て別れを迎えたが、ずっと変わらないのは子どもと母と一緒にいること。

母は今年96歳。育児を手伝ってもらう立場から、介護をする立場になった。大竹はそのことを「面白いなって思う」と言う。介護は経験する人と、しない人がいる。

「私は経験する運命なんだなって。まあ、自分で選んでそうしてきたわけですけども。だから、面白いなって思いますね」

母親としても仕事でも、100点は取れない

仕事と育児、仕事と介護……。さまざまな「両立」に悩む人がいるなか、現状を「面白い」と表現する大竹に、両立の仕方を尋ねてみた。

「仕事はしなければいけないこと、生きるためにも。より良い仕事をしていこうと、努力するのは当たり前のこと。例えば台詞を覚えるというのは最低限のことで、より良くするのが稽古場です。そして、稽古場から帰ったらご飯を作る、洗濯をする、お風呂に入る、掃除もする。これも当たり前のこと」

秘訣を語ることなく、当たり前と繰り返す。

「稽古場にいても冷蔵庫の中が頭に浮かんで、『あれとあれがあるからこれが作れる』とか、『何を買って帰らなくちゃ』とか、考えていますね。あ、そんなふうに『今のうちにこれをやっとかなくちゃ』っていうのは、常にあるかもしれません」

家でも稽古場でも、気持ちは何一つ変わらないと言う。

「母親として100点は取れていないし、仕事でも100点はもちろん取れていない。それはそうですよね。でも、100点を目指して頑張るしかないわけで」

大竹が、仕事と母の介護のことをこんなふうに語り始めた。

「昨日かな、妹と『仕事がたまった』って話をしました。妹は母が心配で、私の家に来てくれているけど、彼女には仕事もある。時間は限られているから、当然仕事がたまりますよね。私もたまります。『何日までにこの音を聴いておかなくちゃ』『台本もきちんと読まなくちゃ』とか、やるべきことがある。それでも妹はうちに来る。私も母の部屋にいる。それは、そうしたいからですよね。心配だから、母に寄り添ってあげたいって思う気持ちがあるから。それで私は、母が寝た後に一気に洗濯したり、音を聴いたり。一日の終わる時間がちょっと遅くなります」

そしてこう続けた。

「本当に頑張らなくちゃいけない時って、人生に何回かある感じがして。頑張らなくていい時には頑張らなくていい。きっとここが頑張り時って、自分でわかるはずだと思うから。そうやって生きてきたかなあと思いますね」

それから、「大した話じゃないんですけど……」と息子の話に。

「夜中の2時くらいだったんですけど、私の部屋に来て『パジャマがないんだけど』って。 見たら、母のパジャマを着てて(笑)」

「ちょっと変わったヤツで」と、大竹は楽しそうに笑う。

「日常のなかでも本当に楽しいことって、必ずあるなと思いますね」

長男・二千翔(中央)の誕生日会で。右は長女・IMALU(写真提供:大竹)

記録的な猛暑となったこの夏。大竹の母も、食欲が落ちたという。

「じゃあなんだったら食べてもらえるのか考えて、いろんなスープを作ったり、おいしい出汁をとったり。そうして『ああ、おいしい』って言われて、それが一口二口であったりしても、作った者として『あ、出汁成功!』みたいな、喜びはすごくありますね」

「ただ……」と、言葉を加える。

「母は恵まれていると思います。経済的にもそうですし、家族がいる。私たち家族にも、手伝ってくれる人がいる。24時間ずっと介護する人たちは、喜びを見いだせるだろうか。そんなことを思いますね。一つの出来事が、喜びにも苦しみにもなることを知ります。母は本当に幸せですが、この暑いなか、(豪雨による被害で)避難所にいる高齢者の方々はどうしているのだろう。いろんなことを、同時に考えます」

別れても、縁を大切に

週に一度、大竹は朝日新聞にコラムを書く。「まあいいか」という題名の連載には、日常に楽しみを見つける大竹の暮らしが綴られている。テレビのロケ後に一緒に写真を撮った小学生の男の子が「なんでも上手くいくお守り」を送ってくれた話、免許証を失くして行った免許センターで「芸能人ですか?」と語り掛けてきた18歳の青年と、2時間以上語らった話……。人との縁を楽しんでいる。

昨年開かれた大竹の還暦を祝うパーティーには、200人近くが参加し、話題を呼んだ。明石家さんまも野田秀樹も壇上で祝福のスピーチをした。過去に、「今までお付き合いした人で、後から会えない人はいない」と発言したこともあった。

還暦パーティーの様子(写真提供:大竹)

「さんまさんも野田さんも、今している仕事をお互いに尊敬しているのが大きいかもしれないですね。でも仕事とか関係なく、誰でも普通に会えます(笑)。会えないということは、過去の自分さえも否定しちゃうことですし。きっと向こうも、嫌な部分を忘れてくれているんだと思うんです。傷付いたり、傷付けたりっていうのがあったから別れたわけだけど、いいことも絶対にあって。そのいいことだけが残っているから、会ってくれるんでしょうね」

舞台は、演出家や共演者と共に作り上げる。特に若い人にアドバイスをして、相手が「そうしなければ」と思うのは絶対良くない。そう意識している。

「それぞれの役者に培ってきたものがあります。共演者とは自由でいられる関係を作りたいですね」

大竹が今まさに取り組んでいる舞台は『出口なし』。脚本はジャン=ポール・サルトル。共演の段田安則、多部未華子との息詰まるような台詞の応酬が続く。

「稽古中、多部ちゃんと『なんだよ、サルトル』とか『サルトル、もっとシンプルでいこう』とか言い合ってます(笑)」

『出口なし』の稽古場で。左は多部未華子(撮影:加藤孝)

多部未華子(左)、段田安則(右)と。25日に公演初日を迎えた(撮影:宮川舞子)

最近、力を入れているのが音楽だ。

「お芝居と違って歌は一人なので、相手役が『楽器』という感じ。もっと密着感があるというか、愛し合っちゃう感じがします。『もっと来てよ!』『ドラムス!』みたいな(笑)。お芝居はやはり演出家がいるし、ルールがありますけど、音楽の人(演奏者)とは『こういう感じ、どう?』『ああ、いいね』って、言葉が単純になります。シンプル。それが楽しいです」

母の世話をしながら、たくさんの舞台をこなし、歌をうたう。大竹の言っていた「頑張らなくちゃいけない時」。今がまさに、その時なのだろう。

「大変なことが起こった時、『ここはちょっと、やってやるか〜』っていう感じで乗り越える。それが人生かなって思うんですよね。そうして頑張ると、楽しいことは見えてきますよね」


大竹しのぶ(おおたけ・しのぶ)
1957年生まれ。東京都出身。1975年、映画『青春の門』で本格的にデビュー。映画、舞台、ドラマ、音楽など幅広く活躍。主演舞台『出口なし』は、9月24日まで東京・新国立劇場 小劇場、27~30日に大阪・サンケイホールブリーゼで上演。CDアルバム『SHINOBU avec PIAF』が10月10日発売。アルバム内の1曲「群衆」が先行配信中。


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